▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『年越し湯煙紀行 』
ぺんぎん・文太2769

 12月31日、大晦日。冷え込みの厳しい朝だった。
 ぐるりと丸めて寝ていた首をめぐらすように伸ばして、ぺんぎん文太は冷たい大気に顔をさらした。かすかに開けたくちばしの隙間から、漏れる息が白い。南極近くに住むと言う文太とおんなじような姿の生物たちも、息を吐いたら白く凍るのだろうかとふと思う。
 こんな寒い日は、温泉に浸かるのが一番だ。その時点では、今日が一年の終わりかどうかは、文太にはあまり関係のないことだった。
 とりあえずよいこらせと起き上がり、傍らに置いてあった手桶を取って、文太はえっちらおっちら歩き始めた。

 表通りまで出たところで、文太は見知った顔と偶然にも行き会った。このあたりの人だったかな、と太い首をひねりつつ、桶を持っていない片手……いや片羽を挙げる。
「まあ、文太さん」
 それに、朗らかに天樹燐は答えた。
「大晦日に、どちらかへお出かけですか?」
 今日の燐は、気持ちの穏やかな日のようだ。
 そこで燐に言われて、文太は今日が大晦日だと気がついた。
 今日が大晦日なら、明日は正月。めでたい日の準備に追われているせいか、この通りも、いつもより人通りが賑やかだ。人混みも時には悪くないが、文太はのんびりのほうが好きだ。走っているより温泉に漬かっているほうがいい。
 年越しならばなおのこと、少し遠出をしても良いもしれない。そんな気もした。歩いて行くなら、今から行ける距離は限られようが……
「どうしました? 文太さん」
 ぼんやりと考え込んだせいか、燐は文太を覗き込むようにかがみ込んだ。文太を見下ろす燐の顔を見上げ、文太は更に思う。
 一人も良いが、こののほほんとした戦さ場の精霊姫の友人と過ごすのも良いかもしれない。
 文太は両手で、持っていた手桶を精一杯高く掲げた。
「あら、今日も温泉に行かれるんです?」
 文太と友達付き合いしているのも伊達ではないか、その身振りから、そこまではすぐに読み取れたようだ。後は……
 文太は手を下ろし、燐の袖を引いた。くいっ、くいっ、と引っ張る。
「あ、あら?」
 まだ引っ張る。
「文太さん?」
 まだまだ引っ張る。
「……もしかして、私も一緒に?」
 燐はわずかに首を傾げながらも、そう言って……
 そこで文太は頷いた。
「あらあら、まあまあ、そんな急に」
 燐はそう困ったような声で言いながらも、顔は嬉しそうだ。
「でも、良いですね……年越しを温泉でなんて」
 それには、文太も少し自信を持って頷いた。顔には出なかったかもしれないが。年越しを温泉でなんて、それは素敵なことに違いない。
「もう行き先は決まっているんですか?」
 文太は無表情に首を振った。なにしろ先ほど思いついたばかりのことだ、何も決まっているはずはない。
「じゃあ、これからお宿を取らないといけませんね。私、ちょっとお店に戻って探してきます。行き先は……私が探したものでかまいません?」
 文太は鷹揚に頷いた。もちろんだ、と言うように見えただろうか。
「では、見つかったら文太さんを、お呼びしますから」
 燐は小走りに、細い小路に入っていった。

 燐が戻ってくるまで時間が開いたので、それまでと思って、文太はぶらぶらと通りを歩き始めた。道行く者は年の瀬で皆忙しいのか、文太を振り返る者は多くない。背が低くて視界に入りにくいのかもしれない。気づいて驚いても、かまっている時間まではないのかもしれなかった。
 しばらく行くと右手に寺社の参道が見え、そのままふらりと文太はそこに足を踏み入れた。
 何か目的があったわけではなかったが……参道に入って程なく、黒猫を追うようにして横合いの茂みから出てきた青年と行き会った。文太が茂みからぬっと現れて、参道を歩いていた者を驚かすような……逆はあるが、こういう鉢合わせは珍しい。
 青年がこの寺の者ではないだろうとは、文太にも察せられた。寺男にしては綺麗過ぎて、人の気配がしない。多分、人ではないものだと……
 それをもし、青年……岸頭紫暁が聞いたなら、複雑な思いに駆られたかもしれなかったが。今は確かに人とは言い辛くなったかもしれないが、生まれは確かに人だった。
 それはさておき、黒猫が文太の前で足を止めたので、文太も足を止めた。まだ名も知らぬ通りすがりの紫暁もまた、文太の前で足を止めた。
 実際により驚いたのは、紫暁のほうだっただろうか。紫暁は顔には出さなかったが……いや、なぜこんなところにペンギンが、という顔は、見せた。
 文太は黒猫を見て、紫暁を見て。
 見つめあう、視線。
 そのまま、時計の秒針が一回りするほどの時が流れて。
 文太は黒猫に向かって、手桶を差し出した。
 出会った者の礼儀というわけではなかったが……
 短い時間に文太が思っていたことは、年越しの温泉は大勢のほうが楽しいだろうということだった。だが、友人知人を誘いに回るには思い立つのが急過ぎた。大晦日の今日という日に、どこにいるかもわからない。ならば……と。
 まさに行きずりの、しかも黒猫を誘うというのは、なかなか突拍子もないことだったかもしれないが。
 黒猫にその意図は通じたのか、にゃあ、と鳴いて、手桶に入った。
 いや、猫は狭いところが好きなのである。けして大きくはない手桶に、みっちりと収まっている。
「…………」
 紫暁は鳥獣たちの様子に、なんと言っていいか困っていたが……
 今度は文太は、手桶を持たない片羽を挙げた。黒猫の主である紫暁も一緒にどうかという意味だった。
「え?」
 だが、燐と違って、出会ったばかりの紫暁にそれで察せよというのは酷というものだ。
 そして見知らぬペンギンが何を求めているのか、紫暁が考え込んでいる間に。
「文太さん、こんなところにまで来てましたか。お宿取れましたよ。ちょうどキャンセルが出て、二部屋空いているんですって……あら」
 燐も参道をやってきた。
 それに向かっても、文太は片羽を挙げて振る。
「素敵な方、文太さんのお友達ですか? 文太さん、こちらの方も、温泉にご一緒するんでしょうか?」
 文太は燐の問いに頷いて答える。
 もちろん、素敵な黒猫は、もう温泉に一緒に行くことが文太の中では決まっていたのだ。
「まあ、よろしくお願いします。私、天樹燐と申します」
「私は、岸頭紫暁と……これから、温泉へ?」
「ええ。素敵な方とご一緒できて、うれしいわ」
 ほう、と微笑む燐の様子から、なんとはなしにどうやら自分も同行すると思われているようだと、紫暁もそこまでは理解した。だが。
「よろしくお願いしますね。あ、いけない……宿の予約、もう一部屋、押さえてきますね!」
 名乗りあって、紫暁がきちんと状況を確認する間もなく、燐は来た道を駆け戻っていく。若い女性と普段馴染み深いわけでもないので、引き止め損ねて紫暁は燐の背中を見送った。それから、足元を見下ろして。
「……ご一緒致すかな」
 どうやら温泉旅行の主催者らしいペンギンに、紫暁は確認してみる。
 文太は片羽を上げて、うなずいた。

 さて、そこは海の近くの温泉だった。一行が着いた時刻は、それなりに遅く、すぐに夕飯の時刻だった。宿帳を書いている燐と紫暁は、風呂はその後にしようかと話していたが、文太はそんなことは知らぬまま、その足で露天に向かっていた。
 そのまま脱衣所を抜けて湯煙けむる露天風呂に踏み込むと、先客が一人いる。
 赤い髪が夕暮れに映える、青年だ。少年かもしれない。見た目は若く見えたが……岩風呂の縁に座って、煙草に火を点けようとしているところだった。煙草を吸うなら、きっと青年だろうと文太は思う。
 そして文太はそれを見ると、すぐさまUターンして脱衣所に戻った。脱衣所の喫煙場から灰皿を一個拝借してくる。
「お、すまないな……」
 灰が落ちる前に、灰皿は間に合った。
 差し出された灰皿に、赤い髪の青年は灰を落として礼を言い。そして、奇妙な顔をした。
 この顔の意味は、文太はよく知っている。『どうしてこんなところにペンギンがいるんだ』だ。
 初対面でこの顔に出会うのは、しょっちゅうのことなので、もう慣れっこである。
「……吸うか?」
 何を思ったのか、青年は文太に煙草を勧めてきた。初対面の挨拶代わりなのかもしれない。だが煙草を吸う習慣はないので文太は首を振り、そのまま温泉に滑り込む。
 タオルを頭に載せて、ふう、とくちばしから息を吐いた。
「温泉に入りに来たのか」
 青年の問いに文太はうなずいた。
 青年は返事をするペンギンに楽しくなってきたのか、にやりと頬で笑いながら、その頭からタオルを取り上げる。
 文太は羽を伸ばして取り返そうとしたが、届かない。
 そのとき、脱衣所のほうから声がした。
「文太」
 紫暁だ。
「文太、ここか……燐の言った通りだったな」
 飯だよ、と、湯煙の向こうから呼んでいる。紫暁は服を着たまま、岩風呂の縁まで来て、青年に気がついた。
「おや、すまない」
「謝るこたぁない」
 邪魔をしたと謝る紫暁に、青年は笑った。
「呼ばれてるぜ、行きなよ。ほら、タオルも返してやる。よかったらまた後で、ここに来いよ」
 そして文太の頭にタオルを戻した。
「そっちの人も、後で一緒にどうだい」
 それは文太をからかいついでに、勢いあまっての台詞だったが。
「ああ、良い露天だ。食事が終わったら是非」
「そうかい、もう飯の時間か。俺もいったんあがるかな。俺は黒月。黒月焔だ。これも何かの縁だな、そっちはなんて言うんだ?」
「俺は岸頭紫暁と。こちらは文太だそうだ」
 温泉から上がって足元まで来た文太を示して、紫暁はそう言う。紫暁自身もちゃんと文太の名前を聞いたのは、行きの途中で燐からだったが。
 じゃあまたな、という焔の声を背中に聞きながら、紫暁と文太はいったん部屋に戻る。
 まだあまり浸かれなかったので、文太はこの露天風呂に名残惜しかったが……食事が終わったら、またここに来ようと文太の心は決まっていた。
 竹垣のひやりとした空気と、湯煙が心地よい、良い露天風呂だ……と思っていた。


 一人のほうが身軽だからか、再度その露天風呂に戻ってきたのは焔が一番早かった。
 それでも時刻はそろそろ、大晦日の国民的番組も佳境にさしかかろうかという頃合だ。
 誘ったペンギン連れの奇妙な宿泊客も、やはりこの時間はテレビでも見ているだろうかと思いながら、焔は湯に足を浸した。そのまますとんと白濁した湯に身を沈めて、星空を見上げる。
 このまま静かに一人で湯に浸かっているのも悪くないと焔が思い始めたころ、からりと脱衣所の戸の開く音がした。紫暁と文太が来たのかと思って、そちらへ目をやると、脱衣所は脱衣所でも隣の女性用の脱衣所の扉が開いたようだと気がついた。
 確かにこの露天風呂は混浴だったが、焔は女性が入ってくるとは思っていなかった。実際先程入っていたときにも、老境の男性客と居合わせただけだった。おかげで露天風呂独り占め感を満喫できていたわけだが。
 まだ女性用の脱衣所から出てきた者は竹垣の向こうだが……さて、おばちゃんな年齢ならば今頃はテレビの前でフィーバーしている時刻じゃないか、と、思いつつ、焔は目を逸らすべきかどうか迷う。気にするわけじゃないが、じろじろ見て、面倒が起こるのは御免だった。
 だが、その次の瞬間、思わず「おっ」と焔の口から短いながら感嘆の声が漏れた。竹垣の向こうから現れたのは、若く美しい女性だったからだ。手に盆を持って、そこには杯が乗っている。
 混浴とわかってて入ってきたのか、焔は内心首をかしげた。
 その間にも、美女は湯船に近づいてきて……焔は、どうも奇妙な感覚にとらわれた。
 彼女はきっちりバスタオルで体を包んでいるが、それ以上に体が見えないような気がする。見えるのは顔と肩と、足首くらいか。湯煙のせいにしても、見えにくいような、そんな気がして。
 美女は焔のことは気にせず、湯船に入った。
 そこでどちらにしろ見えないようになったので、焔は美女に声をかけるかどうかを考える。黙っているのが不自然か、程度のものだったが。しかし焔が口を開くよりも前に、今度は男性側の脱衣所から声がした。
「もういいか?」
 こちらの声には聞き憶えがある。先程文太と一緒にいた、紫暁だ。
「大丈夫ですよ」
 朗らかに美女は答える。
 そうして、男性側の脱衣所から紫暁と文太が現れた。紫暁は手に、酒瓶を二本持っている。一本は持参の日本酒で、もう一本は美女……燐の持ってきた焼酎だ。温泉旅行のメンバーに合わせたものか、その銘は『百年の孤独』。
 その足元を、とととっと走り抜けて黒猫がひらりと岩縁に乗る。そしてそこで寝そべった。猫は湯には入らないらしい。
「あまり気になさらなくても、よろしかったですのに」
「いや、そういうわけには」
 と、紫暁は困ったように目を逸らしながら、湯船に入った。文太は気にせず、ひょこひょこと先に湯に入っている。
 もちろん部屋から露天風呂の前まできたときには、二人と一羽と一匹は一緒だった。燐は文太と手を繋いで、るんるんとそこまできて。そこで、紫暁が改めてこの露天風呂が混浴であることに気づいてしまって、しばし立ち往生となっていた。まあ、そこまで来た時刻は、実は焔とそう変わりなかったのである。
 とりあえず、先に入って燐が湯船に入った後に入ろうと、ちょっと古い倫理観の元に紫暁が提案し……燐も、やたらと裸を見せたかったわけではないので了承した、という次第だった。まあ一緒に入ったところで、燐はそうそう自分の裸を見せる気などはなかったので、焔が見たようなことになるだけだったが。
 一緒の場所から湯に入ると、文太と紫暁は横に並ぶような形になった。自然と文太の毛が手に触れて、紫暁はふとその感触を再度確かめたくなる。文太がもののけなのはもうわかっていたが、さて、その手触りは確認したことがない。
 道中燐がよく触っていたな、と思いながら、つん、とつついてみる。
 思ったよりも、やわらかかった。むにっとしている。
「よう、こっちのお嬢さんはお連れさんかい」
 さて、一方。見知った紫暁なら遠慮は要らぬだろうと、焔はそちらに寄って声をかけた。ついでに文太の頭に手をのせる。
「あら、お知り合いなんですか?」
 それに燐のほうも反応して、少し紫暁ににじり寄る。いや、文太のより近くにいるのが紫暁だからだ。
「いや、先程、文太を探しているときにな……飲むかね、そちらも」
 焔と燐に両側から寄られて、紫暁は義務感に駆られて日本酒の一升瓶を取った。
「まあ、そうなんですか。……いただきます。そちらのかたも杯をどうぞ」
「悪ぃな。でも、ありがたくもらっとこう」
 互いに軽く自己紹介をしながら、燐が持ち込んだ杯を配って、それぞれの手に渡ると、そこに紫暁が酒を注いだ。
「てめぇは飲まないのか?」
 焔は注がれた酒を一気にあおってから、文太の手にもある杯に視線を投げる。
「……飲むのか?」
 紫暁も注ぐか注ぐまいか迷って、瓶を持ち上げたまま止まっていた。
「温泉に入るくらいなら、飲めるだろ」
 いや、むしろ飲め、と焔は置かれていた焼酎のほうを取って、文太の杯に注いだ。
 文太も注がれたなら飲まないわけにはいかないというように、杯をあおった。くちばしの中に器用に注ぎ込んで、ぷは、と息を吐く。
「うわ、面白ぇ。もっと飲めよ」
 自分も杯を空けながら、焔は文太に酒を飲ませていく。
 その様子を見ていて……ちょっと燐の独占欲に火がついた。
「文太さん、お背中流してあげましょうか」
 自分の持ってきた酒で盛り上がっているのはともかく、そこに自分が入れてないのはちょっと寂しい。自分も文太と話がしたい……と。
 文太は、ほろ酔い気分で縁岩に上がった。それに合わせて、燐も上がる。
 焔の中では見えるはずのものが見えない疑念が再燃したが……
 そんなことは気にせずに、燐は文太の体を洗い始める。
「気持ちいいですか?」
 丁寧に文太の毛を洗いながら、燐は文太に話しかける。返事はないけれど、それに不満はない。
「私、今、恋をしているんです。文太さんより年上の方で……」
 言われた文太は自分より年上というところで、ちょっと首をかしげる。それはまた、ずいぶんと老体……かと思ったが、それでも実際には燐より年下ではあるのかもしれない。長く生きる同士ならば、先立つ心配がないだけ常命の恋人を持つより平和的だ。
 文太は良いことだと思い直して、うなずいた。そのおおらかな祝福に、燐もにこりとする。
 さて綺麗に洗って、お湯で石鹸を流したら毛並みはつやつやだ。それをぎゅっと抱きしめて、燐は満足した。
 それで一人と一羽、湯船に戻る。
 その間に少し茹だりかけていた焔と紫暁が、上がって縁岩に腰を下ろしている。
 焔は持ってきた煙草をくわえ、ライターを探して岩の陰を探っているところに、文太は湯船を横断して近づいた。その腕をつんつんとつついて、焔が振り返ったところに湯に浮かべた桶からマッチと灰皿を出す。
「お、サンキュー」
 自分の煙草に火をつけた後、焔は訊いた。
「てめぇも吸うのか?」
 文太はうなずいて、手桶の中から煙管を出した。
「ほら、貸しな。点けてやる」
 焔は文太の煙管の葉にも火をつけて、そのままくちばしに無造作に挿した。
「いかがかな」
 その間に、紫暁は盆に載せて湯に浮かべてあった杯を指して、燐に酒を勧める……
 紫暁は若い女性と一緒になるという経験は、かなり長く生きてはきたが多いと言えないほどだったので、ある意味困惑気味なのだ。黙って見ているわけにも、目を逸らすわけにもいかない気がして、やることに困って酒を勧めるという行動に出ている。紫暁は実際の燐の歳は知らなかったので、余計だろうか。いや見た目と気質で十分で、実際の歳などは関係ないかもしれなかったが。
「いただきますね」
 そんな紫暁の困惑をよそに、すっかり良い気分で燐は杯を差し出した。
 それぞれに煙草を吹かし、杯を傾けて。最初の勢いが去ると、ゆるゆる時は流れていった。
 いつしか遠く鐘の音が聞こえてくる。
「除夜の鐘だ」
 紫暁が空を見上げた。
「歳の神が行くな」
「……ですね。もうじきお酉様がいらっしゃるわ」
 燐は文太を見て微笑む。
「文太さんの眷属の歳の神ですね」
 いらっしゃるわ、と。
 ゆるゆると。
 百八回目の鐘が鳴り。
 そうして、誰ともなく言った。
「あけましておめでとうございます」


 陽が昇る時刻、宿の近くの山の上にある神社のところまで三人と二匹で初詣に向かった。ご来光を浴びて、身を清めて。
 それから宿に戻ったら一眠りしようと、ぐうたらなことを言って笑いあった。
 東京に帰れば、てんでばらばらになる半ば行きずりの旅の道連れだが。
「お土産です。手を出してくださいな」
 そこで、はい、と燐は売店で買った土鈴のお守りをそれぞれの手に握らせた。神に縋るような顔ぶれではないけれど。
 ゆるゆると、旅の思い出に。
 それがいつか土に還るころまでは、きっとこんな正月をすごしたことも憶えているように……と。


  ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
┃┗┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┳┛┃
┗━┛  ★あけましておめでとうPCパーティノベル★  ┗━┛

【2769/ぺんぎん・文太(―・ぶんた)/男/333歳/放浪ぺんぎん】
【0599/黒月・焔(くろつき・ほむら)/男/27歳/バーマスター】
【1530/岸頭・紫暁(きしず・しぎょう)/男/431歳/墓守】
【1957/天樹・燐(あまぎ・りん)/女/999歳/何でも屋さん】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■               ライター通信              ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 発注ありがとうございました〜。
 こういう企画もののノベルはタイトルに窮することが判明……どうにも捻りのないタイトルですみません……(汗)
 えーと、文太さんと燐さん以外は初対面で書かせていただきました。どっかで先にご縁があったら、ごめんなさいです。
 中身の方は、値上げしてた分くらいはと気だけは張って書きました。途中で納品形態を間違えていたことに気づいて慌てて直したりもしましたが(苦笑)。お土産もつけてみましたので、ちゃんと配布されているかどうか、ステータスも確認してみてください〜。
あけましておめでとうパーティノベル・2005 -
黒金かるかん クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年01月31日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.