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『守崎家の書き初め会+α 』
守崎・啓斗0554

 一月三日、守崎家。

 守崎啓斗(もりさき・けいと)は、書き初めの支度をしていた。
 真っ白な半紙を広げ、墨と硯と筆を用意する。
 本来なら二日のうちにやってしまいたかったのだが、出来なかったものは、今さらどうこういっても仕方がない。
 
 キッチンでは、弟の守崎北斗(もりさき・ほくと)がカレーライスを作っている。
 こちらは予定より一日早く、二日のうちにおせち料理を食べきってしまっていたのだ。
 もちろん、その最大の原因が北斗であることは言うまでもない。

「北斗、一段落ついたらこっちへ来い。先に書き初めを済ませるぞ」
「わぁった、今行く」
 その気のない返事とは裏腹に、北斗はすぐに姿を現す。
「では、始めるか」
 啓斗がまさに墨をすり始めようとした時、玄関の呼び鈴が鳴った。





 呼び鈴を鳴らしたのは、年始回りに来たシュライン・エマだった。
 彼女の来訪は元々予定にあったことであるから、特に驚くにはあたらない。

 誤算だったのは、その後のわずか十分足らずの間に、予期せぬ来客が立て続けに訪れたことである。

 まずは、「カレーの香りに誘われてきた」というシオン・レ・ハイ。
 その数分後に「守崎って書いてあったから、あんちゃん達の家だと思った」という伍西耕大(いつにし・こーた)が顔を出すと、「親戚の兄からの使いで来た」という久良木・アゲハ(くらき・あげは)に、はては「初詣の帰りにたまたま近くを通りかかったので」という笠原和之・利明兄弟まで現れ、来客の数は六名にまでふくれあがっていた。

 この様子を見て、啓斗はこう提案してみた。
「せっかくだから、皆で書き初めをする、というのはどうだろう」
 それを聞いて、シオンが不思議そうな顔をする。
「カキゾメ、とは一体なんでしょうか? 食べられるものですか?」
「書き初めというのは、年の初めに、筆と墨を使って、今年の抱負などを書くことだ」
 啓斗はそう説明してから、半紙の前に座ってこう続けた。
「あとは、説明を聞くより、見た方が早いだろう。
 言い出した手前もあるし、俺が最初に書くからよく見ててくれ」
 
 十分に墨をすり、精神を統一して、静かに筆を走らせる。
「乾坤一擲」の文字が、真っ白な半紙の上に力強く、かつ繊細に描かれた。

「……とまぁ、こんなところだ」
 啓斗の言葉に、シオンが納得したように何度も頷く。
 と、北斗が不意にこんな事を言い出した。
「なんつーか、いろんな意味で兄貴らしい書き初めだよな。字の感じといい、内容といい」
「そうか?」
 そう言われて、改めて自分の書いたものを見てみる。
 自分では特に何も感じないが、字には性格が出るという話は啓斗も聞いたこともある。
(まあ、自分にとっては自分の字が普通だからな)
 そんなことを考えつつ、啓斗はいったん後ろに下がった。

 次に筆をとったのは、シュラインだった。
「じゃ、次は私が書くわね」
 流れるような筆致で「今年も事務所が潰れないよう頑張ります」と書く。
 それを見て、北斗がぽつりとこう呟いた。
「抱負としちゃ間違ってないけど……なんか、こう、重いんだよなぁ。変にリアルでさ」
 確かに、非常に具体的な抱負であるが、それ故に少々現実的に過ぎ、また若干ネガティブな感じも受ける。
「『繁盛するように』っていうのもちょっと違和感があるからこうしてみたんだけど……言われてみればそうかもね」
 苦笑するシュラインの様子を見る限りでは、本人もうすうす気づいてはいたようだ。

 と、その時。
「できました」
 いつのまにか隣でなにやら書いていたシオンが、不意に口を開いた。
 見ると、半紙いっぱいに大きな字で「ちょきん」と書かれている。
「『ちょきん』? ……ああ、『貯金』かぁ」
 こちらは具体的な目標金額などはなく、ただ漠然と「貯金」である。
「なかなか面白いですね。もう少しいろいろ書いてみていいですか?」
 すっかり書き初めが気に入った様子のシオンに、啓斗は笑いながらこう答えた。
「どうぞ」 

 続いて、四番目に筆をとったのは、アゲハだった。
「ようやく、何を書くか決まりました」
 そう言って、彼女が書き上げたのは「櫓」という文字だった。
「やぐら……だよな?」
 その意味をはかりかねて、北斗がアゲハに質問する。
 すると、こんな答えが返ってきた。
「私の家の基本の文字の一つだと母から聞いていますので」
 だが、その説明で多少なりともピンときたのはこの中では啓斗と北斗だけだったらしく、残りの面々は皆わかったようなわからないような微妙な表情を浮かべていたのであった。

 五番手に名乗りを上げたのは耕大である。
「あ、次、オイラが書いていいだか?」
 そう言うと、耕大は子供らしくのびのびとした字で一気に書き上げた。
「なきむしをなおす」……と、本人は書きたかったのだろう。
 だが、よく見ると、「む」の結びの部分がなぜか左側ではなく右側に来てしまっている。
「耕大、それ字間違ってるぞ」
 北斗が間髪を入れずに指摘すると、耕大は大慌てで半紙を丸めた。
「あああ、見、見なかった事にしてけれ〜」
 その様子を見て、啓斗は小さくため息をついた。
「見なかったことにしてもいいが、書き直す前に一回手を洗ってこいよ」
 書き上げたばかりの半紙を思い切り丸めたせいで、耕大の手は墨で真っ黒になっていた。

 耕大が書き直しを終えたあとで、今度は利明が書き初めを行った。
 彼が書いたのは「心技体」の三文字である。
「なんか、普通だなぁ」
 北斗がそう正直な感想を口にすると、利明は楽しそうに笑った。
「普通の方が、かえって目立つこともあるんですよ」
 なるほど、周囲が「普通でない」ものばかりであれば、「普通である」ことは立派に一つの個性として通用する。
 普段から「普通でない」人々に囲まれている彼らしい発想だ、と啓斗は思った。
 そこへ、その「普通でない」人々の代表格と言っても過言ではない男が進み出てくる。
「それでは、私もひとつ書いてみましょうか」
 そう言いながら筆を手にしたのは、もちろん利明の兄・和之である。
 それを見て、シュラインが小声でこんなことを言った。
「ところで、和之くんに筆を持たせて大丈夫なの?」
「……言われてみれば……!!」
 希代の天災アーティストである彼に筆を持たせるのは、切り裂き魔に刀を与えるのに等しい。
「お、おい、ちょっと待てぇっ!!」
 慌てて止めようとする北斗。
 だが、それを利明が手で制した。
「大丈夫ですよ。さすがに、文字だけでおかしなことになったりはしませんから」

 結局、和之が書き上げたのは「創意工夫」の四文字だった。
 その四文字の形状がすでに「創意工夫」されているような気もしたが、この程度で済んだのならよしとすべきだろう。
「和之がこれ以上創意工夫すると、本気で取り返しのつかないことになりそうな気もするんだよなぁ」
 北斗のそのツッコミも、もっともと言えば、もっともであったが。

 ……と、そこまで考えて、啓斗はあることに気がついた。
「そう言えば、北斗はもう書いたのか?」
 さっきから他の面々の書いたものにいろいろ言ってはいるが、よくよく見ると、すでに何も書いていないのは北斗だけとなっている。
「あ、あと俺だけ? じゃ、真打ち登場と行きますか」
 北斗は少しわざとらしくそんなことを言うと、おもむろに筆をとって、ゆっくりと書き始めた。

「ま、こんなもんかな」
 満足そうに、北斗が筆を置く。
 その様子を、一同は笑いをかみ殺しながら見守っていた。

 無理もない。
 北斗が書いたのは、なんと「暖衣飽食」の四文字だったのだから。

「……それの、どこが抱負だ?」
 あきれ果てて、啓斗は深いため息をついた。
「北斗くんらしいわ」
 苦笑しながら、シュラインがそう続ける。
 ことここに至って、北斗は改めて自分の書いたものに目をやり……。
「……いや、こういう生活がしたいってことなんだけど……使い方間違ってるか?」
 そのピントのずれたコメントに、今度こそ全員が吹き出したのであった。

 そんな中で、一人だけ黙々と何かを書き続けていたシオンが、再び口を開いた。
「あのー」
 彼の周りを見ると、「招き猫」や「福沢諭吉」、「バナナ」、「お菓子」などの言葉や、兎の絵が描かれた半紙が大量に広げられている。
 しかし、これだけ書いても、シオンはなお満足していなかった。 
「だんだん調子が出てきたのですが、これにも書いてよいのでしょうか?」
 そう言いながらシオンが指さしたのは、なんと半紙ではなく襖であった。
「いや、それはやめてくれ」
 啓斗がそれを止めている間に、今度は耕大がおかしな声を出す。
「な、ななな、なんか出ただぁ〜」
 振り向いてみると、なんと首の取れた落武者の霊が筆を握っていた。
「あぁ、なんだ、宗十郎か」
 なんでもないことのように言う北斗に、きょとんとした顔でアゲハが尋ねる。
「……お知り合いですか?」
「そこの利明さんの守護霊だそうだ」
 そう答える啓斗と、一同が見つめる中で、鎧武者は「御家再興」の文字を豪快に書き上げると、現れた時と同様、何事もなかったかのように消えていったのであった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 ともあれ。
 いくらかドタバタしたものの、書き初め会も無事に(?)終わり、あとはみんなでカレーを食べるだけとなった。

 盛りつけのためにキッチンへ向かった啓斗たちのあとを、なぜか耕大がついてくる。
「どうかしたのか?」
 北斗が尋ねると、耕大は逆にこう質問してきた。
「北斗あんちゃん、オイラあんまり辛いカレー食えねんだども、甘口あるだか?」
 その問いに、北斗が困った顔をする。
「ん〜……まさか耕大が来るとは思わなかったからなぁ」
 確かに、北斗のカレーは辛い。
 が、少なくとも、今日に関してはそう心配することはなかった。
「このくらいなら多分大丈夫だと思うが、念のために味見してみるか?」
 そう言って、啓斗は小皿に少しカレーをとって耕大に渡した。
 耕大はそれをおそるおそるといった様子でなめると、嬉しそうに笑った。
「これくらいなら、オイラでも大丈夫だぁ」
 それを聞いて、北斗は怪訝そうに首をひねると、自分でも一度味見をして、不思議そうに呟いた。
「え? ……俺、こんなに甘く作ったっけ?」
 もちろん、北斗が甘く作ったわけではない。
 北斗が追加の硯や筆を用意している間に、こっそり啓斗が手直ししておいたのだ。
「まあ、結果オーライだろう。そんなことより、早く盛りつけてしまうぞ」
 北斗がそのことに気づく暇を与えぬように、啓斗はそう言って北斗を急かした。

 盛りつけが終わり、全員が席に着くのを待って、静かに食前の挨拶をする。
「おいしいですね」
「北斗さんの意外な一面を見た気がします」
 みんなカレーの味には満足してくれているようで、啓斗としては一安心である。
 が、やはり北斗は納得がいかないらしく、賞賛の声が自分に向けられていても――あるいは、自分に向けられているからこそ――不思議そうに首をひねるばかりであった。

 と、唐突にシオンがこんなことを言い出した。
「啓斗さん、北斗さん、後で何か手品見せて下さい!」
 しかし、さっきの出来事もあって微妙に機嫌の悪い北斗はそれを拒絶する。
「忍術のことだったら、残念だけどダメだね。
 忍術なんて、必要もないのにほいほい見せるようなもんじゃないからな」
 確かに北斗のいうことにも一理あるのだが、別に使ったからといって減るものでもないし、そこまで冷たく突っぱねる必要はないだろう。
「とはいえ、せっかくの正月だしな。
 あまり大がかりでないものなら、あとでいくつかやってみよう」
 啓斗がそう言うと、北斗はふくれっ面でこう反論する。
「なんだよ、いつもは止めるくせに」

 そこへ、微妙に空気がおかしくなりかかっていることを悟ったのか、それとも単なる天然か――まぁ、後者だとは思うが――和之が、突然話に入ってきた。
「手品といえば、私も似たようなことならできますよ。
 例えば絵の中から物が出てきたりとか……」
『それだけは絶対禁止!』
 当然、言い終わりを待たずに啓斗と北斗、そして利明が三方向からサラウンドで止める。

 が、その理由が、和之を知らない面々にはわからなかったらしい。
「でも、絵の中から物が出てくる手品なんて、なかなか面白そうじゃないですか」
「んだ。オイラも見てみてぇだ」
 呑気にそんなことを言うアゲハと耕大に、シュラインが苦笑しながらこう説明した。
「和之さんには申し訳ないんだけど、あれは手品というより災害だから」
 言い得て妙、というよりそのままの説明なのだが、やはり彼を知らない二人には通じなかったらしく、二人は不思議そうに首をかしげるばかりだった。





 食事のあと。
「食後のデザート……というには、ちょっと無理があるかもしれないけど、よかったらどうぞ」
 そう言いながらシュラインが取り出したのは、小さめのおまんじゅうだった。
「フォーチュンクッキーにしようかと思ったんだけど、啓斗洋菓子苦手でしょ?
 だから、籤饅頭にしたの。中におみくじっぽいものを入れてあるから」

 そして。
「オイラ、大吉だっただ〜」
 見事大吉を引き当て、喜びの声を上げる耕大。
 その一方で、愕然としているのは北斗である。
「……俺の、凶が入ってたんだけど……?」
「一応おみくじだし、一個だけ凶も入れておいたのよ」
 困ったように笑うシュラインに、北斗は一度大きなため息をついた。
「あぁ、もうなんか今年は新年早々さんざんだな」
 そう言うなり、少しふてくされた様子で縁側へ行き、そこでふて寝を始めてしまった。
 こうなると、もはや処置なし……かと思いきや。
「そんなにふくれないで。お年玉あげるから」
 シュラインのその一言で、北斗はあっという間に戻ってきた。

「啓斗さん、啓斗さん」
 向こうの方で、シオンが呼んでいる。
 北斗もだいぶ機嫌が直ったようだし、手伝わせても問題ないだろう。
「お前も手伝え」
「わかってるって」
 それだけ言葉を交わすと、二人は書き初め会とカレーパーティーに続く第三部・ミニ忍術ショーの準備に入ったのであった……。

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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★あけましておめでとうPCパーティノベル★┗━┛゜

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 0554 /  守崎・啓斗   / 男性 /  17 / 高校生(忍)
 0086 / シュライン・エマ / 女性 /  26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
 0568 /  守崎・北斗   / 男性 /  17 / 高校生(忍)
 3356 / シオン・レ・ハイ / 男性 /  42 / びんぼーにん(食住)+α
 3357 /  伍西・耕大   / 男性 / 457 / ガキ
 3806 / 久良木・アゲハ  / 女性 /  16 / 高校生

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武です。
 まずは、ノベルの方大変遅くなってしまい、誠に申し訳ございませんでした。
 
 さて、書き初めと言うことでしたが、こんな感じでいかがでしたでしょうか?
 私が初めて書かせていただいたシオンさん、耕大さん、アゲハさんの描写など、若干不安なところはあるのですが、もし何かありましたらご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。

 それから、冒頭の日付の方ですが、書き初めは一月二日、それに対して年始回りは基本的に三が日は避けるもの、ということで、両方を考慮した結果、間をとって三日ということにさせていただきましたのでご了承下さいませ。
あけましておめでとうパーティノベル・2005 -
西東慶三 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年01月28日

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