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『迷子の迷子の…… 』
藍原・和馬1533

 ――― 道一本。変えたのは其処だけの筈だった。

「……あ?」

 ふと足を止め、藍原・和馬(あいはら・かずま)は辺りを見渡した。
 道一本。
 気分で変えてみただけの道の筈だった。
 いつも慣れ親しんでいる道を変えてみようとした、それだけの。
 だが、どう言う訳か見慣れない風景にぶち当たり、更にはいつもなら解っている筈の神社への道筋さえ解らなくなってしまっている。
 これは……もしかすると凄いピンチなのかも知れない。
 何せ、方向が解らないと言うことは元に戻る道さえ解らないと言う事だ。
 つまり、帰り道さえ解らない……このまま進んでもひたすらにひたすらに迷子になりそうな気がする――さて、どうしたものだろう?
 しかも、奇妙に人が多い道だと言うのに真ん中に立ち尽くしていたら、物凄く不審だ……と言うより力一杯、怪しい。
 ただでさえ物騒な世の中、新年くらいは問題なく過ごしたいと警察の方々も思うことだろう。
 和馬にしても新年早々、警察のお世話になる気も毛頭ない。
 漸くバイト先から休みをもぎ取れたのだ、流石に最初がそれでは笑うにも笑えないし………

(……安全に神社へ行けて帰れる方法がないもんかね……?)

 と、話し掛けるように鈍色のマフラーに触れる。
 ああ、そうだ。
 このマフラーを贈ってくれた持ち主が自分の事を見つけてくれたら良い。
 そうしたら。

(―― 一緒に初詣へ行ける訳で俺にとっては『デート』になるんだが……)

 そんな上手い事、行く訳ないし。
 自らにツッコミを入れ、和馬はコートのポケットへ勢い良く手を入れ、

「あーあ。ったく……」

 どうにもならない事を持て余すように、溜息だけが重なっていく。

 仕方がない、歩く事にしよう――と、歩き出そうとした、その時。

「あの……すいません」
「は?」
「貴方――迷子、ですよね……?」
 黒の髪に、整った容姿だから一層浮いて見えるのか――奇妙な形のサングラスをしたスーツ姿の少年が、和馬の目の前に立っていた。
 猫のように。音もなく、ただ鮮やかに。




 マリオン・バーガンディが、和馬に話し掛けたのには無論、理由があった。
 実は、彼も迷子だったのだ。
 が、生来の性格が災いしてか、「誰かに教えて貰うとか、本能のままに進むって云うのは流石に駄目かなぁ」等と考えてしまい。
 運良く、なのか何なのか……同類は匂いで解ると言うように迷子の和馬を見つけてしまった訳なのだ。

 だが和馬にしてみたら「何をいきなり!? と言うか見て解るほどに俺は迷子か!?」……変わらぬ表情の下で自問自答してしまう訳で。

 ざわざわとした人の賑わう声さえ聞こえなくなるほど、お互い、目の前に居る人物を見つめる。

 どうしようか――……迷子だと言って良いものか。
 ただ、此処で差し伸べられた手を振り払って、道を解らぬまま流離い歩くのも嫌だ。

 そうして、マリオンも。

 何で答えてくれないのかなあ……
 迷子さんだって思いっきり解るのに……寒いから一緒にお茶なんて如何ですかー?とも聞けないような雰囲気だなあ……なんて事を考えても居て。

 ――どうする?

 ――どう、しようか?

 進むのか、止まるのか。
 答えを出さないのも悪いもので。
 迷子です、迷子なんです――神社への行き道、知りませんか?

(と、聞けるものならば……ッ!)

 和馬は、軽く腕を組むと、唸るような声を出した。その何処か狼を思い出すような声にマリオンはぎょっとするも、直ぐにその声が止むと、再び、相手をじっと見。
 ゆっくりと組まれていた腕が離れ、マリオンを見据えた。

「……確かに、迷子は迷子なんだが……」
 ぼそぼそ、ぼそぼそ。
 キレの悪い言葉ながらも漸く答えた和馬に、マリオンは漸く安心し「ああ、良かった!!」と叫んだ。

「――は?」
「いえ実は私も迷子なんですよ〜。でね、一人でうろうろ迷うのって厭じゃないですか」
「まあ……そうかもしれない、けど」
「はい!! で、此処で提案があるんですが」
 聞いて頂けますか?
 満面の笑みで、問い掛けるマリオン。
 にこにこと笑う音さえ聞こえてきそうで、和馬は歯切れの悪い返事を言うよりも早く「ああ」と頷いていた。
「本当に良かった。何、簡単な提案です。今はとても寒いので喫茶店でお茶など如何ですか?」
「茶……?」
「ええ、まあ、歩いて喫茶店を探さなくてはなりませんが…立ち止まるよりは良いですよね?」
「確かに。とは言え俺も行きたいところがあるんだ。その後でも良いか?」
「構いませんよ。で、何処に行かれるんです?」
「――神社に」
 初詣へ。
 此処まで来たのだから、何が何でも行く。そう、是が非でも。




「行ってきまーす♪」
 家人に、出かける挨拶を言うと、ぱたぱた勢い良く駆ける少女が一人。
 風に気持ち良さそうにたなびく長い黒髪、穏やかな、本当に穏やかな顔立ちは本人の性質をあらわしている様でもある。

 木々から木々へ飛び立つものも少女に向かい、問う様に囀り始めた。
 何処へ行くの? とても楽しそう――囀りは即座に鳥野・春歌(とりの・はるか)に届き、言葉となる。

「えっとね……初詣へ行くの」
 神社へお参りしに行くの。
 何でか知らないけれど、今の時期にお参りしに行くと屋台が出るでしょう?
 綿飴、林檎飴、じゃがバターにお好み焼き、広島焼き……チョコバナナもあるかな?
 あとは、あんまりお店で見れない品物とかもあるよね。
 不思議だけれど、何処か楽しくて……お御籤とか、そう言うのも見てくるの。

 ね、楽しそうでしょ?

 本当に――更に合唱となる鳥の言葉に春歌はにっこり微笑む。
 沢山の声が楽しそうと言ってくれた事が凄く嬉しいのだ。

「甘くて美味しいもの、沢山あると良いな♪」
 そうして、再び春歌は駆け出していく。
 迷わないように、道を間違えないように、気をつけながら。




 男二人で、道を歩くのは何処か、侘しい。
 この侘しさは、喩えて言うのであれば女友達に片っ端から誘いをかけてみたものの、断られ、断られまくって、最後に残ったのが親友(しかも男)だったのに良く似てる――、と思う。

 何故、こうも侘しい思いをしているのか。
 答えは決まっている。
 ――自分が道を一本変えよう、等と考えたからだ。
 が!!

(何故こんな事になるんだか……)

 遠い目をしつつ、楽しそうに喋るマリオンに相槌を打つ。
 その時、見慣れた後姿があるような気がして、今、見ていた場所をもう一度、見た。
 髪を結い上げてはいるけれど、着物姿ではあるけれど、見間違える筈のない後姿。
 何処へ行こうとしてるかさえも解らないが――

「葛?」

 行動よりも早く、声が、出た。

「――え?」
 呼び止められ、藤井・葛(ふじい・かずら)は振り返ると、見慣れた顔と、そうして襟元に巻かれている鈍色のマフラーを見て微笑を浮かべる。
 印象的な翠の瞳が微笑む事により、和やかな色合いに変わっていく。
 が、言う言葉は少しばかり、違う。
 何故、此処に居るのだろうと、二人は声を揃えたかのように、
「「こんなところでどうしたんだ?」」
 と、お互いへと聞きあった。
 近くに居たマリオンの表情がきょとんとしたものに変わる。
(こ、この息のぴったりさは、まるで、私の先輩とご主人様を見ているようです……!!)
 余程長い付き合いなのだろうなあ。
 でなければここまでにならないし……うんうん、と頷きながらマリオンは葛へと話し掛けようとし、また、和馬も葛も何故此処にいるのかを互いに言おうとしたところに、思いがけない事が、起きた。

 それは、マリオンの背後から勢い良くやってきて、そうして。

 どーーーん!!

 思いっきり、良い衝突音を響かせ、
「神社……何処〜〜!?」そう、涙ながらに聞いてきた。
 小さな、女の子だ。
 年の頃が14くらいなのか、12くらいなのか……微妙な歳は良く解らないが涙ながらに聞く姿に、和馬も、葛も、今、互いに言うべきだったことも忘れ、その少女をじっと見つめると口を開いた。

「神社かあ……俺も探してるんだ、神社」
「そうなの?」
「ええ、私もご一緒に藍原さんと探しているのですー」
「……なんだ、和馬、神社探してたのか?」
 なら、直ぐじゃないか。
 ぼそりと呟く葛の言葉に「はっ!?」と和馬は叫んだ。
 葛は、それに構わずに言葉を続ける。
「此処で逢うから変だと思ったんだ。道、変えなかったか?」
「……一本だけな」
「やっぱり。こっちは裏通りなんだ。一本変えると丁度裏通りに出る道がある。で、風景が違うから迷う」
「……なるほど」
 頷くと、くいくいとコートを引っ張られ、視線を下に落とすときょとん、とした少女の表情にぶつかる。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも何のお話をしてるの?」
「いや……此処は違う道なんだと」
 目線を合わせるように和馬は少しだけ腰を屈めながら話す。
 納得したのか、少女は「ふうん」と呟いたかと思うと、にこっと笑い
「じゃあ、一緒に行ってもいい? 春歌も神社に行きたいの」
「勿論。葛も付き合ってくれるよな?」
「俺か? ……そうだな、和馬が何か奢ってくれるなら」
「私にも無論奢ってくれますよね、ね? 喫茶店のお約束もまだですよ!」
「わあ、お兄ちゃん、何か食べさせてくれるの? 春歌ねえ、綿飴が良い♪」
「な、な……」
 次から次に言われる言葉に、ぐうの音も出ないまま、和馬は同じ音だけをただ繰り返す。
 何故こうも、皆が皆「奢る」と言う言葉に反応するのだ!!

 が、最初に「奢ってくれるなら」と言った葛にも、無論、言い分がある。
 一人で初詣に行こうとしていた(と言うより迷子にならなければ確実に一人で行っていた)、その行動が許せないと言うか……むかつくのだ。
 着物を着て居るのに何の一言もないし……別に、一言も無くてもいいのだがいつもなら、言ってくれてるだろう言葉の筈で。

(怒る筋合いでもないんだろうけど……でも、何かが)

 むかつくし、腹が立つ。
 でも、そんな事、絶対言ってやらない。

「さ、どうする? 別に俺は良いんだ。道は解るけど金が勿体無いって和馬が言うなら」
「勿体無いの? お兄ちゃん、お金ないの?」
「それ程貧乏には見えませんが……人は見かけによりませんねぇ」
 葛の言葉に反応する春歌とマリオンの言葉に首を懸命に振る。
 此処まで来ると「奢らない」等と言おうものなら更なる言葉地獄が待っているのだろう。
 新年早々、そう言うのは、御免だ。

「――……解ったよ、奢る。奢らせて頂きます」
「そう来なくっちゃな」
 にっと微笑う葛に「じゃあ、ご案内お願いできますか?」と腕を差し出すものの「そう言う事は案内料に入ってない」と言われてしまい、そのまま着物とは思えぬほどの速さで神社へと歩き出して行って。
 慌てて、和馬も春歌もマリオンも葛の後を追っていく。

「お姉ちゃん、足、速いの……」
「おい、葛! 春歌ちゃんが涙目になってるぞ」
「子供を置いていっては行けないのです〜」
「……和馬と、其処にいる黒髪青年はさて置き。ほら、春歌、おいで。手を繋ごう」
 和馬とマリオンの言葉に足を止めると葛は春歌へとおいでおいでと手招きをした。
 呼ばれているのだと気付いた春歌は小走りに近寄ると葛の手を両の手で掴む。
「わーい♪ お姉ちゃんとお手々繋ぐ〜♪春歌ね、お姉ちゃんの着物の色好き」
「そうか。それは嬉しいな」
 再び歩き出す二人に「な、な……」と声がないのは男性二人だ。
 さて置かれてしまったのもあるが、マリオンに対しては「黒髪青年」扱い……ちょっとこれは哀しい。
「わ、私には、マリオン・バーガンディと言う立派な名前があるのです!!」
「さて置く事は無いだろう、葛! そんなにさっきの手が駄目だったのか!?」
「あー、煩い、煩い。春歌は大人しくて良い子だな」
「うん、春歌良い子にしてるの。あ、お姉ちゃん、屋台が見えてきたよ!!」
「本当だ。綿飴以外に何が良い?」
「えっとね……林檎飴もあるだろうけど、苺飴もあったら食べたい」
「じゃあ、それを買おうな」
「うん♪」
「「……………………」」
 煩いとまで言われ、仲良くしている二人に何とも言えない気分を味わい、和馬もマリオンも互いを見合った。
 こうなると大人しくしているくらいしか道は無いかもしれない。
 色々奢るのも、覚悟の上。
 もしかするとお菓子のほかに御神籤代やお守りまで代金を払わされるかもしれないが……
「こう言うのも悪くないのかもな」
「ゑゑゑ!? 私は厭です〜!! ただでさえ名前を覚えてもらえないのは辛いのです!」
「…その代り、俺が覚えたから問題無いだろ」
「……どう、コメントすればいいのですか私」
「取り敢えずは何も言うな……まあ、そう言う事で」
 大鳥居をくぐり、屋台を見てまわっている葛と春歌を見ながら和馬は頷く。
 何に対しての頷きなのか、和馬自身、もう解っては居ないけれど。

(こんなのも良い……んだよな、多分)

 もう一度自分に言い聞かせるように和馬は心に問い掛ける。
 ざわつくような奇妙な感覚は無い。
 ……だから、きっと良いのだろう。

 この屋台が続く道が切れたら、じきに、参拝所へ辿り着く。
 その時には、今年と言う年がこのまま穏やかな年になるようお願いするとしよう。
 更に付け足しても良いのであれば僅かでも仲良く過ごすことができるように。

 そうして、和馬がそのような事を考えていた時、葛や春歌も願い事について考えていた。

 どうか、この穏やかな時がいつまでも続くように。
 どうか、自分の大切な人達が今年も幸せで楽しく暮らせますように。

 願いが、どうか叶う様にと。



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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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【1533 / 藍原・和馬(あいはら・かずま) / 男性 / 920 / フリーター(何でも屋)】
【1312 / 藤井・葛(ふじい・かずら) / 女性 / 22 / 学生】
【4164 / マリオン・バーガンディ / 男性 / 275 / 元キュレーター・研究者・研究所所長】
【4594 / 鳥野・春歌(とりの・はるか) / 女性 / 60 / 居候兼家事手伝い】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、WRの秋月 奏です。
今回はご発注、本当に本当に有難うございました!!
パーティノベルはどの様な方が集まるのか、それを知るのだけでも
わくわくするものですね(^^)

>藍原さん
このように発注して頂くのは初めてですね。
以前は学園のパーティノベルの方でお世話になりました♪
こちらのパーティノベルでも書く事が出来まして本当に嬉しくて。
色々、苦労もさせてしまいましたが、今回本当に有難うございましたv

>藤井さん
昨年は本当にお世話になりました…!!
今年も藤井さんを書く事が出来て嬉しく、幸せでした(^^)
藍原さんとの掛け合いも私自身、楽しく書かせて頂きました。
本年もどうか宜しくお願いいたしますv

>マリオンさん
連続で色々書かせて頂いて本当に良いのだろうか、嬉しいなあ……と
奇妙な呟きをしております(ぉ
今回もまた楽しいプレイングを有難うございました!!
私自身、物凄く遊んでしまいましたが、大丈夫だと良いなあと思いつつ(汗)

>鳥野さん
初めまして(^^)
ほんわか可愛らしい雰囲気のお嬢さんに私自身、物凄くくらくらと来ています…!!
頂いたプレイングも本当に素敵で……鳥野さんの雰囲気を壊してなければ良いのですが(><)

それでは、今回はこの辺にて失礼させて頂きますね。
また何処かでお逢い出来る事を祈りつつ……。
あけましておめでとうパーティノベル・2005 -
秋月 奏 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年01月28日

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