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『サンタの家のお留守番 』
アイラス・サーリアス1649
〜聖誕祭の夢

 ――気がつけば、三人揃って、不思議な場所にいた。
 淡い光は、蝋燭の光。こぢんまりとした家に、暖炉のぬくもりが暖かい。
 その家の真ん中には、大きなテーブルが一つある。三人と一人は、各々椅子の上に腰掛けていた。
 サンタクロースの恰好をした老人から右に、ユリウス・アレッサンドロ、サルバーレ・ヴァレンティーノ、フォルトゥナーティ・アルベリオーネ。三人の共通点といえば、そういえば三人とも、神父であるわけなのだが。
「最近、サンタの世界も物騒なのじゃよ。丁度一年前のこの時期は、隣のサンタの家が放火の被害に遭ってのう。その前の年は、わしの知り合いが空き巣に遭っておる。わしも流石に、そろそろ何か起こるんじゃあないかと、心配なわけでな。そういうわけで、お前達には、わしが子ども達にプレゼントを配るために家を留守にしている間、留守番してもらいたいわけじゃ」
 いつからこの老人の話を聞いていたのか、三人にはわからない。しかし、短い説明に、しかし神父は三人揃って、
「どうして僕達なわけ……?」
「さあ、どうしてでしょうねえ……私、実はもうそろそろ、寝る時間なんですよねえ」
「私は……こういう知らないところに来るのはちょっと……」
「なんてやる気の無い神父達なんじゃ!」
 こんなのを神父として置いておいていいのかっ! 人助けはお前等の義務じゃあないかっ!
 言わんばかりに、サンタらしきおじいさんは、自分の座っているテーブルをぶっ叩いた。
「クリスマスは、お前等にとっても大切な日じゃろうて! だったら、その日が無事に終るように、手伝うのがお前達の仕事だろうっ!」
「お言葉ですがねぇ……。あなたの服装を見ていますと、それだけで信用できないんですよ」
 欠伸を噛殺しながら告げたのは、ユリウスであった。
「ご存知ですか? 白い髭に赤い服、大きなプレゼント袋を持つサンタクロース像というものは、アメリカの某社が商用に企画したものに過ぎませんよ。元々、サンタクロースの記念日もイメージも、国によって様々で統一性なんて無いものなんですよ。ですから、本当のサンタはこういうものだ、って、説明しろと言われれば無理なわけですが、少なくとも、あなたを簡単に信じることは、できませんねぇ」
「煩いわいっ! これだから頭でっかちは困る……!」
 ろくにユリウスの言葉を否定もせずに、老人は溜息を吐いて見せた。
「いいか、最近は下界もこっちも物騒なのは変わらないわけじゃ。下界の連中はな、わしらがこういう恰好をしていないと、すぐにひゃくじゅーきゅーばんとやらをするんじゃて!」
「それをおっしゃるのなら百十番ですよ。救急車を呼んでも、どうにもなりませんからね」
「でも、何だかそう聞いたら、そういえばそうかも、って気は……するよね。でもサンタの世界も物騒だって……世も末、ってやつなのかなぁ……」
 フォルがぽつり、と呟いた。
 その一方で、
「……ところで、私達はいつ帰れるんです……?」
 相変わらず不安で不安でたまらないのか、サルバーレがおずおずと口を開いた。
 老人はコイツは……! と、あからさまに呆れながらも、
「わしが帰ってきたら帰してやる。それまでとにかく、留守番していればいーのじゃ」
「いえだって……、」
「クリスマス・ミサまでになら、帰れるじゃて。――それに、寂しいんじゃったら、安心せい」
 老人は、すっと窓の外を指差すと、
「他にも客は呼んである。皆で楽しく、パーティでもしていればいい」
 そこには、雪の中を、こちらに向かって歩いてくる人達の姿があった。


【Capitolo primo】

 間も無くして、家の戸が小さな音をたてて開いていた。
「あの……お邪魔しても、宜しかった……ですか……?」
 ちょこん、と戸から半分体を覗かせたままで問うてきたのは、茶の髪の毛に銀色の瞳の小柄な少年、柊 秋杜(ひいらぎ あきと)であった。
 サンタは秋杜の問いかけに、それそれおうおうと頷くと、
「おお、入れ入れ。待っておったぞ。寒いから、早く戸は閉めてこっちに来て座るがいい」
「それでは、お邪魔致します」
 秋杜の後ろに続き、丁寧な挨拶で対応したのは、セレスティ・カーニンガムであった。
 セレスは長い銀髪をふわりとかき上げると、予めとっておいた手袋はポケットの中に、コートを右肩から脱いでゆく。最後に、抱えていたマフラーをコートの片袖の中にはめ込むと、サンタがそっちじゃ、と、コートをかけるハンガーを指差した。
 やがて、準備が終り、ようやく全員が挨拶の後、サンタに促された通りに席に着く。
「悪いがの、忙しいから自己紹介みたいなのは省略させてもらおうかの。とにかく、とりあえず留守番をしておいておくれ。最近は物騒だからの、変なヤツ等が来たら追い返してくれるとありがたくてな。まあ、呼ばれたのも何かの縁じゃろと思うてな」
「正直、迷惑な話ではありますね」
 やわらかな微笑を浮かべてずばりと指摘したのは、足首ほどまで届こうかというほどの黒髪が美しい、そこはかとなく東の国の香りを身に纏った女性、シェアラ、こと、シェアラウィーセ・オーキッドであった。
「なぜこのようなことになっているのか、説明くらいはしていただきたいものですが」
「お姉さん、呼ばれたことについては、なぜと聞かれても、わしにもわからなくてのお……不可抗力じゃ。申し訳無いとは思っておるが、頑張ってくれ」
「まあ、私は構いませんけれどもね」
 不意に口を挟んだのは、長い黒髪を白いリボンで一つに纏めた青年、田中 裕介(たなか ゆうすけ)であった。
 隣にいる、ユリウスの教会のシスターでもある星月 麗花(ほしづく れいか)には気付かれないように、彼女との距離をさり気なく埋めながら、
「何せ、こうして、麗花さんの傍にいられるわけですから……――!」
「田中さんは黙ってて!」
 しかし、本気の言葉は真っ赤になった麗花の一撃によって、最後まで続けられることはなかった。
「まあ、とにかく、パーティでもして暇でも潰していておくれ。留守番が必要だったんじゃって」
「パーティですか……それはまた、唐突ですね」
 周囲の様子が落ち着いた頃を見計らって言ったのは、全体的に青、という表現の似つかわしい青年、アイラス・サーリアスであった。
「暇なのは嫌いじゃろ? まあ、この家の中の物は、好きに使ってもらって構わんのでな」
「でもまあ、サンタさんが危機を感じるのも、わからなくもないですね」
 アイラスは不意に、眼鏡の奥からサルバーレの姿を見据えると、
「神父さんがいらっしゃるところには、必ず何かが起こりますから」
「ちょっとっ! そんな誤解を招くような……!」
「事実ではないか」
「シェアラさんまでっ!」
 シェアラの冷たい一言に、サルバーレはテーブルの上に伏してよよよ……と泣き始める。
「でもサンタクロースさんは、これからプレゼントを配りにお出かけに行ってしまわれるのですよね?」
「ああ、当然じゃ」
 しかし、時を同じくして始まっていたセレスとサンタとの会話のせいで、誰もがサルバーレを気には留めていなかった。
 セレスは、そっとテーブルの上に手を組むと、
「サンタクロースさん方には、お子様はいらっしゃらないのですか? もしいらっしゃるのでしたら、プレゼントはどうなっているのでしょう……と思いまして」
「何と! お兄さんは優しいのぅ。しかし、その必要なら皆無じゃ! わしらは大体、独身じゃて。実は普段も、色々と世界を駆け巡る仕事をしているものだからなぁ……家庭持ちで移動の自由のきかない者は、書類選考の時点で落とされるのじゃよ」
「書類選考、ですか……?」
「わしも求人広告を見て、この仕事を選んだんじゃ!」
 豪快に笑うサンタに、流石のセレスも微苦笑を浮かべてしまう。
「ああ、しかしあれだ、地方によっては世襲制のところもあるらしいからの。まあ、場所によりけりということじゃ」
「なるほど、そうだったのですね」
 そのようなことは、初めて聞きましたよ。
 妙にすんなりと納得したセレスに、
「どうじゃ、お兄さん、サンタクロースにはなってみないかね? 最近人手不足で、困っているのじゃよ。お兄さんみたく心の優しいサンタであれば、大歓迎じゃ」
「お誘いいただけて、光栄ですよ。でも私には、おいてはおけない大切な人が、いるものですから」
「うーん、それは残念じゃ」
 セレスの顔に浮かび上がった自然な暖かな笑顔に、サンタは笑顔を深くする。
 ――と、一瞬の後、窓の外をふと見やると、そろそろ急がなくては……と、サンタは勢いよく立ち上がった。
「ああっと、そろそろわしは出発するがね。外に出て準備をせねば。ところで、そういえば人手が足りんのじゃ。そうだ、来い、そこの緑ッ毛の神父」
「……僕?」
 まさか、と小首を傾げたフォルに、サンタはずかずかと歩み寄ると、
「他に誰がいる! さあ、出かけるぞ! ソリに乗って、一緒にプレゼントを配ってもらうんじゃ」
「ええっ! ちょっと、ヤダってば! 僕高い所キライだって……あっ、ちょっと、誰か助けて……!」
 しかし。
 ばたんっ、と外に出るなり家の戸を閉めたサンタにフォルが攫われたことに、その時は誰もが意識を移すことができなかった。
 その頃には、全く別の問題が、辺りの意識を惹き付けている。
「ところで、誰の子どもだ?」
 丁度フォルがサンタによって声をかけられた頃、不意に皆に向けて問うていたのは、シェアラであった。
 いつの間にか立ち上がり、暖炉から少し距離をおいた場所に置かれた、飼い葉桶らしきものの中身を覗きながら、
「寂しそうにして。今にもほら――泣き出しそうだ」
 さっきまで、ここには子どもなんか、いなかったはずだと思ったが。
「どうした……、ん、ですか?」
 シェアラの言葉に駆け寄った秋杜が、次の瞬間、わぁ、と驚きの声を上げる。
 シェアラの腕の中には、布にくるまれた、小さな赤子の姿があった。
「赤ちゃん……!」
 顔に笑顔を輝かせた秋杜が、屈んだシェアラから、黒い瞳に茶毛の愛らしい赤子を――月見里 煌(やまなし きら)を受取った。
 布の隙間からは、ネコミミフードの愛らしい赤ちゃん服が覗いている。ぱっと見では、煌が男なのか、女なのかも、皆にはわからなかった。
「いつの間に……、ここにいた、んですか……?」
 聞きながら、秋杜はぷ〜っと頬を膨らませている煌を、皆が集まっている所へと運ぶ。
「……まあ!」
 最初に反応を返したのは、麗花であった。
 暖かい煌を、秋杜からそっと受取ると、
「やだもう可愛い……っ!」
 ぎゅぅっと抱きしめる。
「麗花さん、首絞まってますから、首っ!」
「ねえ、田中さんも可愛いと思いますよねっ?」
「それは当然っ、って麗花さんっ、死んじゃいますからっ、赤ちゃん!」
「ふむ、しっかしこんな所に、赤ちゃんですか……」
 感動の余りの行動を裕介に止められる麗花の一方で、少しだけ頭を抱えたいような気分で、ユリウスが息を吐く。
「あー……パパやママもここにはいらっしゃらないようですし、秋杜君、麗花さん、ついでに裕介君、しっかりとあやして差し上げてくださいね」
 どうも正直なところ、小さい子どもは決して嫌いではないが、苦手でならなかった。何を考えているのかわからない上に、
 ――行動の予測すらつかないんですもの……。
「んわ……あぅ〜ぱぁぱ」
 ほら、始まりましたよ。……今度は一体何をなさって、
「ぱぁぱぁ」
 何を――、
『パパっ?!』
「……はい?」
 なにやら色々と考えていたユリウスであったが、全員の声に、反射的に返事をしてしまった。
「おや、ユリウスさんが、お父さんでいらっしゃったのですね」
「――まさかそんなはずありませんでしょう、セレスティさん」
 ちょっと意外です。
 言わんばかりにかけられたセレスからの声に、ユリウスははたはたと笑顔で否定する。
 しかしセレスは納得することなく、
「でも今ユリウスさんは、確かに、はい、と仰りましたよね?」
 微笑したままのセレスの言葉に、麗花の動きがすっかりと凍りついた。
 無言のままに煌を傍にいた裕介へと渡すと、ユリウスの前に歩み寄る。
 そうして、
「不潔よ不潔ぅうううううううううっ! 絶対裏で何かやっていらっしゃるとは思っていましたけれど、こっ、……子どもを……!」
「誤解ですって麗花さんっ! 私がそんな面倒な、もとい、麗花さんならご存知でしょう! 聖職者の妻帯は認められていないわけで……!」
「信じられないっ! それでっ、どっ、どこの何方とのお子さんなんですっ?! 一体いつの間にっ?! ってゆーかもう破門よ破門っ!」
「ちょっと待ってくださいよ! 私は潔白ですってば!……って痛いですって! 放してくださ――!」
「許すものですかっ! さあ、全部洗いざらい言って頂きましょうか! 何時何分地球が何回回ったときにそういうことをなさったんです?!」
 ユリウスを殴り蹴り、ついでにその首も絞めながら、麗花は力の限りに叫び続ける。
 その様子を、裕介はなぜか、どこかしら明日は我が身のような面持ちで尻目にしていた。……が、ふと、
「ぱぁぱ」
「ぱぁぱは、今向こうで酷い目に遭ってますからね。もう少ししたら、抱っこしてくれますよ、……多分」
 慌てて笑顔を取り繕うと、裕介は煌に向けて軽く手を振った。
 しかし、不意に煌の手が、むぎゅぅっと裕介の長い髪を掴み、引っ張った。
「あたっ、痛いって……」
「ぱぁぱ」
「だから、ユリウスぱぁぱは、」
「ぱぁぱ!」
 煌の顔が、くしゃりと歪んだ。――と、思った途端、
 うぇえええええええええ……ん! とあがった泣き声に、その場にいた全員が煌の方を振り返る。
 煌は裕介腕の中で、裕介の頬をおもいきりつねっていた。
「ぱぁぱあああああああああ……!」
 私ですか? と困ったように自分を指したユリウスの方を見ると、煌はご丁寧にも首をぶんぶか横に振る仕草を見せた。
 そこではた、と思いついたように、偶々傍にいたシェアラがユリウスに向かって呟きを洩らす。
「そういえばさっき、裕介は、ユリウスの後ろに立っていたな?」
「……あ、そういえば、そうですねえ」
「つまり、ぱぁぱ、は、ユリウスではなく裕介の方だった、ということか」
 的を射たシェアラの言葉は、しかし、裕介本人には届いていなかった。
 その代わりに、麗花の叫び声が聞えてくる。
「不潔よ不潔ぅうううううううううっ! 絶対裏で何かやっていらっしゃるとは思っていましたけれど、こっ、……子どもを……!」
「誤解ですって麗花さんっ! 私がそんな麗花さん以外と、もとい、私がそんなことをしたりはしないって、麗花さんなら知っているでしょうっ!」
「信じられないっ! それでっ、どっ、どこの何方とのお子さんなんですっ?! 一体いつの間にっ?!」
「ですから、麗花さん、話を聞いてくださ――!」
「許すものですかっ! さあ、全部洗いざらい言って頂きましょうか! 何時何分地球が何回回ったときにそういうことをなさったんです?!」
 裕介を殴り蹴り、ついでにその首も絞めながら、麗花は先ほどよりもより強い調子で裕介を責め続けていた。
 その一方で、麗花が裕介に殴りかかる直前に煌を助け出したアイラスが、煌を揺らしながらぽつり、と呟いた。
「なんだかよくわかりませんが、不思議な人間関係のようですね」
 苦笑気味に背後へとちらりと視線を遣れば、いまだに賑わっている麗花達の姿が見て取れる。
 煌はいつの間にか、そんな惨状には全く無関心な様子で、どこからともなく取り出したベビーラトルをころりんからりんと振っていた。
 それが、親から引き継いだ能力がゆえであることは、この惨状のせいで、誰にも気がつかれてはいなかった。
「そういえばあなたは、何というお名前なんですか?」
 微笑みかけたアイラスにも、煌は、玩具に意識を奪われていて何も答えない。
 しかし、玩具を握り締める煌の小さな手の下に何かが書かれているのが、アイラスの目に留まった。
「――きら?」
「何かわかったのか?」
「ええ。どうやらこの子の名前は、きら、というらしいですね」
 すっと傍に歩み寄ってきたシェアラに、アイラスがベビーラトルを示して言う。
「煌。光が大きく広がる。こういう意味合いの文字ですね。輝く、明らか、明るい……」
「なるほど、きら、ねえ」
 よい名前だな。
 ご両親は、さぞこの子を大切にしているのだろうな。
 シェアラが煌の頭を撫でていると、煌はシェアラに向けてにっこりと笑いかけてきた。


【Capitolo secondo】

I

 出発前にサンタは、ご丁寧にも家の戸を蹴り開けて、皆に出発の挨拶を残していった。
 背後のトナカイつきのソリを見たこともあり、大はしゃぎしていた煌が中心となって、全員でサンタを空の彼方へと見送ったその後。
「材料は……何でもある、みたいです……♪」
 台所へと料理の材料を調べに行っていた秋杜が、少し感動したようにして帰ってくる。
「皆さんは、何か食べたいもの……あります、か?」
 少し照れたように、ぐるりと周囲を見回した秋杜に、
「そろそろ甘いものが欲しい時間ですね」
 と、ユリウスが提案する。
「――ところで、皆さんはどこから来たんですか?」
 そこに、唐突とも思えるような質問を、アイラスが投げかけた。
 皆が皆、お互いに心当たりのある人物と反射的に顔を合わせると、
「私達は、東京、というところから来ています」
 秋杜、裕介、煌、麗花、ユリウスを代表して、テーブルの椅子に腰掛けたままのセレスが、アイラスに微笑を浮かべて見せた。
「そう仰りますと、アイラスさんは、東京ではない場所からいらしているのですね?」
「東京――、」
 懐かしい。
 一瞬そうは思ったが、
「僕達は、エルザードという場所から来ています。多分皆さんのいた世界とは、全く別の場所になりますね」
 アイラスが、シェアラとサルバーレとを代表して、簡単に説明をする。
「それでは、食生活は……まあ、似たようなものなのかも知れませんね」
「ご存知なんですか?」
「ええ、まあ……」
 セレスの問に、アイラスは曖昧に答えて頬を掻くと、
「とにかく、それでしたら、何を食べたいか、を聞いていった方が良さそうですね。食文化が違えば、もっと考えなくてはならないと思ったものですから」
「それでは私は、秋杜君、君の作ったチョコレートケーキが食べたいですねぇ」
 アイラスの話が終るなり、唐突に手を挙げたのは、ユリウスであった。
「それから、シュークリームに、クッキーも。紅茶も当然、必要ですね」
「チョコレートケーキに……シュークリームに、クッキー、紅茶……ですねっ」
 どこかから取り出したメモ帳にペンで書きながら、秋杜がはいっと愛らしく頷いた。
「他の方は……何か食べたいもの、あります、か……?」
「それでしたら、食事はもっと簡単に作れる物の方がいいかも知れませんね」
 周囲からの提案が無いことを補うかのように、アイラスが言う。
「チョコレートケーキにシュークリーム。そうなりますと、時間のかかるものばかりですしね」
「まあ、私はお食事に関しましては、皆さんにお任せ致しますよ」
 はたはたと手を振ると、ユリウスは手近にあった椅子を一つ引き、丁度セレスの隣になる場所に腰掛けた。
「私はこうやって、ゆっくりとデザートを待っていることに致します。――一眠りしましょうかねぇ」
 くてり、とテーブルの上に伏せたユリウスに、
「……私達は、お弟子さんほど甘くはありませんよ?」
 そっと、隣からセレスが囁きかける。
「お眠りになるのは宜しいですけれど、後から文句を仰っても、どうにもなりませんよ?」
「一体何の話で――、」
「どなたか起こしてくださるとよいですね」
 顔を起こした姿勢のままで、ユリウスが一瞬動きを止める。
「嫌ですねえ、きっと、秋杜君が起こしてくださると、私は信じています」
「麗花さん辺りがお止めになるかも知れませんよ? お手伝いしない人には、ケーキはあげなくていいんです、とでも」
 あまりにも有り得そうなことの指摘に、ユリウスは大きく溜息を吐かざるを得なかった。
「やれ、聖誕祭だと言いますのに、色々と面倒ごとが多くて困ります……」
「秋杜さんは、あの様子ですとお料理がお上手なようですね。私も、楽しみに待たせていただくとしましょう」
 くすり、と忍び笑いを洩らすと、セレスは不意に、テーブルの中央へと手を伸ばした。
 そこには、小さな山になるほど積み上げられた色紙と、鋏や糊とがある。
「私はこちらを、お手伝いさせていただくと致しましょう」
 料理は普段も、作っていただく側になってしまいますから。それに、急いでいる時に邪魔になってしまっては、申し訳ありませんからね。
 手早く緑色の紙を半分に折ると、直角三角形が三つ列なったような形にそれを切り抜く。
 広げれば、クリスマスツリーの針葉の部分の出来上がり。さらに、茶の紙で幹とそれを囲む煉瓦とを作り、糊で二つを貼り付けた。
 ヴィヴィなら、もっと上手くなさるのでしょうね。
 一瞬ふと考えたが、更に黄色の紙で星を切り抜き、木の天辺に添えた。赤や白の紙で小さな飾りをいくつか作って散りばめると、あっという間にパーティを彩る飾りが一つ出来上がる。
「ユリウスさんも、何かお作りになってはいかがですか?」
「……まあ、これでケーキが食べられるのでしたら、安いものですよねぇ……面倒ではありますが」
 苦笑したユリウスも紙を手に取り、早速鋏で何枚も重ねた紙を細く切ると、それを輪にして糊で貼り、次々と連ね合わせてゆく。
 その向かいで、麗花と裕介とは煌をあやしながら同じく飾りを作っていた。いつの間にか、シェアラはどこかへと消え、アイラスと秋杜、サルバーレは台所に立っている。
 かくて、暇つぶしも兼ねたパーティの準備が始まったのであった。


II

 それから、暫く。
 パーティの準備が着々と進み、部屋の中にも色紙や綿で作られた装飾が散りばめられ始めた頃。
「それにしても、探せば色々な物が出てくるようだな、この家は」
 裕介や麗花が中心となり、次々とできる飾りを設置していくテーブルのあるその部屋に、純白の大きなテーブルクロスを探し出したシェアラがどこか満足気に戻ってきたのは、つい先ほどのことであった。
 シェアラとしては、この場にこうして呼ばれてしまったがゆえに、半ば嫌々ながらに仕方なく始めた手伝いではあったのだが、
 ……これは意外な物が見つかったな。
 暇そうだからと理由をつけてユリウスに手伝いをさせながら、シェアラが感心したような面持ちでそのテーブルクロスを大きく広げる。
「ユリウス、もっと右だ」
「折角ゆっくりしてようと思いましたのに……」
 テーブルの両端からふわりとテーブルに布を被せれば、周囲の雰囲気に気品が加わったように見えた。
 ふむ……と布を一撫ですると、シェアラが顎に手を当てる。
「サンタクロースとは、儲かる商売なのか……?」
「確かに、随分と高そうな布ですものね。それもこれだけの大きさがあれば、かなりの物でしょう」
 同じくテーブルクロスに触れたセレスが、シェアラの言葉に頷いた。
 純白の中に、植物を模したであろう模様が、同じく白色で描かれている。光の加減によって表情を変えるその布に、セレスがふ、と、
「でも、使ってしまって大丈夫でしょうかね」
「ご丁寧に、台所にあったからな。大きさも、テーブルにぴったりだ」
 それにこの布は、ここにあるのが似つかわしい。
 心の中で、シェアラが付け加えたその時、そこにふと、台所から秋杜が顔を出してくる。
「あの……そろそろ、お料理を運んでも……大丈夫、です、か……?」
「構わない。こちらの準備は、大分できているからな」
 手近にあった、花瓶に差し込まれた薔薇の花をテーブルの真ん中に置きながら、シェアラが秋杜に微笑みかけた。
 秋杜は台所に戻ると、鍋の前に立つアイラスの服を引っ張った。
「あの……」
「はい?」
「そろそろ……大丈夫、だそうです……♪」
「おや、それは丁度いいですね。ねえ、神父さん?」
「ええ、まあ」
 デザートの果物の準備をしていたサルバーレが、皿に葡萄を盛りながら頷いた。
 アイラスが、コンロの火を止めて鍋の蓋を開ける。
 それをじっと見つめながら、サルバーレはふと思い出したように、
「しかしまあ、なんだかはいてくなんですねえ、この家って。私にはわからないことばっかり……。アイラスさんや、秋杜さんが、キカイに強くて助かりましたよ」
「僕は、機械に強くは……ない、ですよ……?」
「私達の世界では、台所にコンロやレンジなんてとても珍しいんですよ、秋杜さん」
 信じられないかも知れませんけれど、剣と魔法の世界ですからね。
 付け加えて、アイラスは味見に、と、秋杜にできたシチューが少し載った皿を差し出す。
「剣と魔法、ですか……?」
「そうですよね、サルバーレ神父? まあ、機械が全く無いわけではないのですけれど、珍しくはあります」
 美味しいです……♪ と笑った秋杜から皿を受取ると、アイラスは再び鍋の蓋を閉めた。
「ええ、まあ……異世界出身の方も、多いですから」
「異世界……?」
「ええっと、」
「絵本や、ファンタジー小説の世界だと思ってもらえば、きっと間違えはありませんよ」
 説明に困ったサルバーレの代わりに、アイラスが言う。
「何だか……不思議な場所から、来ている……んですね……?」
「面白い場所では、ありますけれどもね」
 機会があれば、案内して差し上げたい所は、沢山ありますから。
 アイラスが秋杜へと、眼鏡の奥から笑いかけたその時であった。
「ちょおおおおおおおおおおっとおおおおおおおおおおっ?!」
 台所の外から、麗花の悲鳴が聞こえてきたのは。
 思わず顔を見合わせた三人の内、
「あの……僕が、見て、来ます」
 心配そうな色を表情に浮かべ、秋杜が駆け足で台所を後にした。
「どうした……ん、ですか……?」
「――やはり、目を離してはなりませんね」
 隣に並んだ秋杜へと、その原因を示したのはセレスであった。
 まあ、子どもらしくて、よいことではあるのでしょうけれどもね。
 微苦笑して、付け加える。
 秋杜もすぐに、その理由を悟ることができた。
 燃え盛る、暖炉の傍で、
「危ないって言ったじゃないのっ! そんな所に近づいちゃあめっ、めーっ!」
 慌てて煌を抱きかかえる、麗花の姿がそこにはあった。
「もうっ、目を離すとすぐこうなんだから……さっきも落とした鋏は口に咥えようとするし……!」
「まあ、何も無くてよかったではありませんか。私ももっと気をつけますから……、」
「だって……!」
 心配なのよ――!
 不機嫌そうに口を尖らせた麗花の表情に、裕介は暫くの間じっと見入ってしまう。
 しかし当の麗花は、全くそのことに気がついてはいなかった。
「……とにかく! 田中さんっ、もっと気をつけないと駄目ですね……」
「そうですね」
 随分と好奇心旺盛な子、みたいですからね。
 目の離せない子だな、と、裕介が麗花から、いつの間にかうとうととし始めていた煌を受取る。
 ――それでも、
「でも、本当に可愛い……」
 裕介には、麗花の気持ちがよくわかる。
「私達が、守らなきゃならないのよね。今日は」
「ええ、そうですね」
 麗花の腕の中の煌を、裕介はそっと覗き込んだ。
 周囲の空気も、いつの間にか二人を見守るような、やわらかな暖かさを取り戻していた。


III

 運ばれてきた料理の数々は、野菜スープにスパゲティ等の手早く作れる洋食と呼ばれるものから、炊き込みご飯やおせちの類、懐石料理といった和食と呼ばれるものまで、様々な物が揃っていた。
「皆さん……沢山、食べてくださいね……♪」
 皆がテーブルに落ち着いた頃合を見計らい、各々に食べたい物を聞いては配っていた秋杜に、
「あー、秋杜君。そろそろお座りになってはいかがですか? 後は裕介君が全てやってくださるそうです」
「先生……」
 ちょっとした裕介の怒りとも呆れともつかぬものの含まれた声を聞き流すと、ユリウスは笑いかけて席を勧める。
「まあ、冗談はともあれ、もうそろそろきちんと行き渡ってますよ? お料理」
「そう……ですね……♪」
 同じく食事の準備をしていたアイラスやサルバーレが頷いたのを見ると、秋杜はユリウスの隣の席にちょこん、と腰掛けた。
「ところで、秋杜君は何が食べたいのです?」
「先生が他人にそんなコトを聞くだなんて、」
「天と地が引っくり返る前触れかしら」
 むぅ……? とテーブルの上に顔を覗かせた煌を膝の上にあやしながら言った裕介に、隣から麗花が強く同意する。
「あの……大丈夫、です……自分でとって、来られますから……」
 照れたようにはにかんだ秋杜に、
「とりあえず、秋杜君は和食がお好きなのでしたっけ?」
「ええと……それじゃあ、……折角ですから、ハンバーグをお願い、します……♪」
 アイラスさんが……作った、んですよ……?
 小首を傾げて、ユリウスに笑いかける。
 ――大体のところ、和食を調理したのは、イセカイの人にも和食を食べてほしい、と願った秋杜であり、洋食に腕を振るったのはアイラスであった。
 ユリウスが秋杜にハンバーグを一つ取って渡して、いよいよ全員が席に落ち着く。
 それから、暫く。
「……音頭は誰がおとりに?」
 微笑したセレスの言葉に、暫しの沈黙が辺りを支配した。
 しかし、そこに何かをきちんと感じ取ったのか、
「やんや〜い☆」
 コップの代わりにラトルを掲げた、すっかりと裕介の膝の上で目を覚ましていた煌の音頭で、
『乾杯っ!』
 皆が各々の飲み物を高く掲げた。

 そこからは、とにかくごく普通にパーティは進んでいった。
 美味しい料理を囲み、住む世界の違う人が集まっただけあってか、話はすぐに弾んでいった。
 ――しかし。
 幼い煌には、それが暇で暇でたまらなかったらしい。
 煌が、麗花を交えて談笑する裕介の膝の上からテーブルによじ登り、まずは麗花の飲んでいた烏龍茶を引っくり返したのは、テーブルの上の料理が半分以上減った頃の話であった。
「煌君っ?!」
「ちょっとっ! 抱っこしてるんだから、あなたがきちんと煌君のことみてないと駄目でしょうに!」
 唐突なことに驚く裕介に、麗花が慌てて叱咤を飛ばす。
「それはいやまあ、確かに……って、煌君っ! それ以上行くとテーブルから落ち……!」
 そのまんままーまーむーむーとテーブルの上を勢い良く進む煌の通る所、料理の載った皿は引っくり返り、入れ物の中の飲み物は零れ、更にテーブルの上から食器が落ちて壊れ、と、ぺんぺん草すら残らないような惨状が残される。
 セレスやシェアラが間合い良く、自分の傍にあった料理や飲み物や食器を退けたその後ろを、麗花と裕介とが急いで駆け抜けて行った。
「煌くーん、煌君っ! 止まって! 動かないで!」
 手を叩き、テーブルの端から裕介が――ぱぁぱが、引きつった笑顔を煌へと向ける。
 すぐにまうぅ? と、煌がその場にはいはいする手を止めた。
 煌の意識が裕介に引き付けられているその隙に、麗花がこっそりと、煌の背後に忍び寄る。
「いい子でしゅからね〜、そのまま、そこにいて」
 麗花の様子を伺いながら、今にもべろべろばぁ〜、とでもしそうな様相で、裕介が煌の方へと一歩歩み寄った。
 ――一触即発。
 誰もが、疑問符を浮かべてテーブルの上に座っている煌と、そんな彼を背後から捕まえようとしている麗花と、ぱぁぱこと裕介とに、注目を向けていた。
 やがて。
「あう〜……ぱぁぱ、ぱぁぱ〜」
「捕まえたっ!」
 丁度煌が裕介の方に向けてはいはいを始めようとしたその瞬間、麗花の手が煌を高く抱き上げた。
 再びテーブルの上に食器を落ち着かせ、紅茶を口にしながら、セレスがひそり、と口にする。
「本当の夫婦のようですね、あれでは」
 仲睦まじいのは、よいことですね。
 見ていると、どこか心の落ち着く光景です――と、セレスが口元に微笑を浮かべた。
 まあ、尤も、
「お片づけは、少々大変かも知れませんが」
「確かに、そうですね……」
 セレスの言葉に頷きながらも、ふ、とアイラスが周囲を見回して苦笑する。
「ああ、秋杜さん、僕も手伝いますよ……ん?」
 早速片づけを始めていた秋杜の姿に立ち上がり、落ちた食器を拾うべく身を屈めたその時であった。
 アイラスがその手を止め、暗い世界に雪の平原が続いているはずの外を見遣ったのは。
 ……やはり、気に留めておいて正解でしたね。
 外の様子が、騒がしい。
「何か来ましたよ」
 アイラスの言葉に、きょとん、として全員がくるり、と窓の方を振り返った。

 アイラスの言葉どおり、唐突に何やら宣戦布告をしにやって来たのは、首に長いマフラーを巻いた一つの雪だるまであった。叩かれた戸にアイラスが対応に出た瞬間、雪だるまはアイラスの目の前で小さな音をたてて崩れ去り、そこにはマフラーのみが残された。
 そこに編みこまれた言葉が、
『今年はお宅の木材を戴きに参りました! ご主人様は、お風呂に入れなくて困っております』
 更に、そのマフラーから零れ落ちた一枚の用紙には、ご丁寧にも『雪合戦の注意』と題された内容が書かれていた。曰く、氷の玉は禁止、曰く、中に石を詰め込むのは禁止――。


【Capitolo terzo】

I

 極寒の外に出る前に、シェアラが皆を呼び止め、軽く片手を挙げて微笑した。
 ――これで、凍死することはまずないからな。
 あの時、シェアラが全員に付与した力により、全員はこうして、寒さを感じることなく外の雪の世界の中に立っていた。
 全く、シェアラさんも不思議なことをなさりますね。
 そのようなことを思い返しながら、
「……ところで」
 偶々隣にいたシェアラを捕まえて、早速愚痴を零していたのは、ユリウスであった。
「何で私達が、こんなことに巻き込まれなくてはならないんですか……?」
 ここから暫く距離を置いた所には、この家を狙っているのであろう無数の雪だるま達の姿があった。先ほどから雪玉が、いくつもいくつも飛ばされてくる。
「先ほどから、ずっと愚痴ばかりなのだな」
 相変わらず微笑したままのシェアラに、そんなことはありませんけれど……、と小声で抗議してから、
「全く、面倒なことばかりで困ります……」
「まあ、確かにな」
 私だって、いつの間にか呼ばれていたわけだしな。
 ユリウスの気持ちがわからないわけではないが、と、しかしシェアラは、そこまでは口にしなかった。
 代わりに、
「しかし、部屋に戻って寝ようだなどとは考えないことだ」
「夜くらいゆっくりさせてくださいよ。昼間は忙しいんです……」
「そういえばユリウスは、麗花と仲がよいようだが。麗花の様子を見る限りだと、――昼間に仕事をしていると言われても、信憑性に欠けますよ?」
「シェアラさん……」
 シェアラの顔に浮かんだ笑みが、どうしてか恐ろしく感じられた。
 誰も私の味方はしてくださらないんですね……といじけかけた時、ふとユリウスの目に、秋杜に向かって雪玉が飛んで来るのが見えた。
「……秋杜君、」
 呼びかけた時には、しかしもう時遅し。何ですか……? ユリウス神父、と振り返った秋杜の顔面に、飛んで来た雪玉が、
 ――雪玉は、秋杜に当る手前で勝手に弾け飛び、白銀の世界に粉となって還っていった。
 ああ、そういえば。
 ユリウスは妙に感心したように納得すると、自分の修練時代の仲間でもあり、現在は秋杜の住まう教会の司祭でもある友人から聞いた言葉を、いくつか思い出していた。
 その心優しさに似つかわしく、防御と治癒に長けた秋杜の能力。結界術に関しては、確か、建物一つをすっぽり覆えるほどの術も使えるのだと聞いている。
「秋杜君がいれば、雪玉、当らなくて済みそうですね」
「……えっと……?」
「結界、お願い致しますよ。私はのんびりと見物を――」
「麗花が知ったら何と言うだろうな」
「まあ、少しくらいでしたら、手伝わせていただきますから……」
 シェアラのさり気ないつっこみに訂正を加えると、ユリウスは渋々と、手伝うことを証明するかのように雪玉を握り始める。
 シェアラはその様子を見届けると、その場は秋杜に任せることにして、ゆっくりと味方の陣を横切った。
 途中、へろへろの雪玉に当り、楽しそうに裕介の腕の中で笑っていた煌の声が聞こえてきたが、その暫く先には、飛んで来た雪玉を避けるアイラスと、天に十字を印して何かをぶつぶつと祈っているサルバーレの姿とがあった。
「ああっ、シェアラさんではありませんかっ! ちょっとどうにかしてくださいよ! 私、怖くて怖くて……!」
 颯爽としがみ付いて来たサルバーレは無言の笑顔で追い払い、
「どうだ、アイラス?」
「まあ、飛んでくる雪玉も、そんなに威力の強いものではありませんからねえ……」
 それにしても、雪合戦ですか。ただやる分には、随分と平和的でいいと思うのですけれどもね。
 ……それにしても、
 アイラスは今一度、ぐるりと周囲を一望した。
 やれ、やっぱり、一番手薄なのはここですね。サルバーレ神父のところ、ですか。
「しっかし、例外が無いのがいいですね。神父さんのいらっしゃるところでは、絶対こういうごたごたが起きるのですから……」
「ほっ、ほっといてくださいよ! それじゃあまるで、私が不幸の申し子みたいじゃあ……、」
「違うのか? てっきり、自覚しているものだとばかり思っていたのだが」
「シェアラさんまで!」
 そのままそめりそめりと床にのの字を綴りながら、神父はその場に蹲ってしまった。
 シェアラは、何事もなかったかのように後ろを振り返ると、何の前触れも無くすっと片手を掲げた。
 そこに勢いよく、雪玉が一つ飛んでくる。
 が、
「それにしても、何度考えても面倒なことになったな」
 ぽつりとシェアラが呟いた途端、雪球は、掲げられたシェアラの手の前であっさりと消滅していた。
 彼女によって張り巡らされた風の結界により、もう一つ飛んで来た雪玉も、同じ運命を辿る。
 全く、しかし……要はこういう奴らがいなかったら、この事態は起きなかったということで。
「……アイラス」
「このような面倒を引き起こしてくれたのですからね。自業自得、となってもらいましょうか」
 シェアラが言い終える前に頷くと、アイラスは手早く近くにあった雪を握り、雪玉を一つ作り出す。
 それを、シェアラが結界を解いた隙に、勢い良く投げやった。
 ――と、
「大当たりだな」
「おや、雪に戻ってしまいましたね」
 シェアラの呟きに、アイラスがほお、と感心する。
 どうやら雪だるま達に雪玉を当てると、元の雪に戻ってしまうらしい。
「増えたりしなければよいのだが……」
 シェアラは更にもう一度結界を張り巡らせると、敵討ち、と言わんばかりに大量に飛んで来た雪玉のこと如くを防いでしまう。
 ……まあ、後はどうするかは、状況を見て、だな。
 やれやれ、とシェアラは、再び風の結界を周囲へと張り巡らせた。


II

 徐々に徐々に小屋へと近づいてこようとする雪だるま達を、雪を当てては当ててはやつけ続けて暫く、
「秋杜君、ちょっと、煌君のことをお願いできますか?」
 偶々傍までやって来ていた秋杜へと、裕介は素早く煌を託していた。
 そのまま裕介は、雪玉に当たりそうになっていた麗花を抱きかかえて、雪から身を避ける。
「そういえば、もうかなりの時間になりますね」
「あ……はい、そういえば……そう、ですね……」
 ふ、とかけられた声に、慌てて秋杜は背後を振り返った。
 そこには先ほどまで、雪玉を作っては裕介達へと渡し、または、あまりにも集中攻撃を受けて悲惨なことになっていたサルバーレや、当てられそうになっても素早くは逃げられない自分のために、こっそりと雪玉を水に戻していたセレスの姿がある。
「……さて」
 セレスは唐突に一息吐くと、
「私はそろそろ、中に戻らせていただくと致しましょう」
「セレスティさんは……戻られる、んですか……?」
「ええ。少々疲れてしまいましたしね。皆さんが戻っていらした時のために、お茶の準備をしている方がよいと思いまして。少々テーブルの辺りも、片付けなくてはなりませんしね」
「そう、ですね……。僕も、手伝い……ます……♪」
 デザートの準備も……、ありますし……。それにこの子も……少し、休んだ方がいい、でしょうから。
 煌をあやしながら笑った秋杜と煌と共に、セレスは家の中へと消えて行く。
 そんな平和な様子を尻目に、溜息を吐いたのは裕介であった。
「ところで、いつになったら終るんだ? これ……」
 麗花が握った雪玉を受取り、見事麗花を狙っていた雪だるまに命中させる。
 確かに、先ほどから数が減っているようには見えるのだが、どうも一面が夜色を帯びた銀世界であるせいか、今一終わりに近づいているという実感が湧いては来なかった。
「田中さん……」
「はい?」
 不意に、真正面を遠く見据えて、麗花がぽつりと呟いた。
 振り返った裕介に、麗花は遠くを指して見せると、
「あれ……」
「あれ?」
 くるりと再び前を振り返り、裕介が麗花の指先を視線で追った。
 そこにあったのは、
「……大きいな」
 雪だるまの減少に伴い、味方の陣を縮めるべく、近くにやって来ていたシェアラがほお……と頷いた。
 ――そこにあったのは、全長は小屋の高さほどあろうかというほどの、巨大な雪の塊ができてゆく様子であった。
 小さな雪だるま達は攻撃を止め、次々とその雪の塊の中へと飛び込んで行く。
 やがて、
「……気をつけてください!」
 アイラスが周囲に警告を飛ばしたのと、周囲に一瞬の大風が流れたのとは、殆ど同じ間合いでのことであった。
 全員がぐっとその場に踏ん張り、飛ばされるのを堪えていた中で、唯一サルバーレのみがどこか遠くへと飛ばされてゆく。――が、本人にとっては更に不幸なことに、誰もそれに気付いてはいなかった。
「あれを倒せば終り、だな?」
「おそらく、そうでしょうね」
 風が止んだ後、やれやれ……と見上げたシェアラに、アイラスが頷いて見せる。
 一方で、
「……それじゃあ、私も戻りましょうかねぇ」
「先生、いい加減にしてください」
「私も疲れたんですよ……聖職者の朝は早いんですよ? もうそろそろ寝かせてくださいよ……」
「猊下っ! デザートのケーキ抜きにしますよっ!」
「麗花さんったら、意地悪でいらっしゃるんですから……だってあんなに大きな雪だるま、相手にするのが面倒くさそうなんですもの……」
 裕介と麗花との会話の果てに、ユリウスは大袈裟な溜息で、目の前にある巨大な雪の塊――それはそれは大きな雪だるまに、疲れ果てた気分になっていた。


【Capitolo quarto】

 ようやく終ったのは、いつであったのか。
 いよいよ我慢も限界に来た全員で、雪玉やら魔法やらを巨大な雪だるまに当て続けて暫く、ようやく周囲には平和が取り戻されることとなった。
 それからは家の中に戻り、その場にいる全員が、秋杜がユリウスの願いを聞き入れて作ったお菓子と共に、紅茶や珈琲を飲んで暖まっていた。
 ――それから、暫く。
 例のサンタが騒がしく帰ってきた。
 サンタは無遠慮に家の戸を開くなり、誰にとも無く怒鳴るようにして話しかける。
「ところで、家に被害はなかったんじゃな?!」
「……ええ。皆さんが、きちんと追い返してくださりましたからね」
「ほおう、追い返したとな! それはよくやってくれた!」
 ソーサーの上にティーカップを置いたセレスの言葉に、サンタは大きく手を打った。
 それから、むぅ、と考え込むと、
「しっかし、やっぱり襲われたか……で? 何が来たのじゃね?」
「雪だるまだ。小さいのが沢山と、大きいのと」
 答えたシェアラが、先ほどのマフラーをサンタへと投げてよこす。
 サンタはさっと視線を通すと、やれやれ……と眉を潜めて溜息を吐いた。
「木が足りなくて風呂に入れないじゃと――? ったく、絶対隣の隣のその隣のトナカイ飼いに違いないわい。アイツそういえば、バカの一つ覚えみたいに雪だるまばっかりぽこぽこ創る方法を考えおって……!」
 一人で納得すると、説明もせずに次の話を始める。
「まあどの道な、年始の占いでな、今年は年末に星がよくない位置にあると出たのでね。今年のクリスマスは何かが起こるのではないかと思って、気にしておったのだよ」
「散々私達に神父のくせにと仰っておいて、自分は占星術を信じていらっしゃるんですねぇ」
「なぁに、ちょっとした趣味じゃて。ま、タロットの方が好きじゃがな」
 苦笑したユリウスの言葉に、サンタはなぜか自信満々な笑顔を浮かべた。
 と、そこに、サンタのやってくる気配に、そそくさとサンタの分の紅茶を淹れに行っていた秋杜が、お盆を手にして台所から戻ってくる。
「あの……お疲れ様、でした……♪ 紅茶で、良かった……ですか……?」
「ん、ああ、すまんね。紅茶に――ほう、チョコレートケーキか」
 湯気をたてる紅茶と、見目も綺麗なチョコレートケーキの載ったお盆を受取ると、サンタは満足気に微笑んだ。
 しかし行儀は悪く、それを手近な棚の上に置くと、紅茶を手に取り、棚に寄りかかって一呷りする。
「くぅっ、体が温まるのぉ」
 次ぎはケーキの載った皿を片手にすると、フォークでつついて食べ始める。
「よい子じゃのぉ。ふむ、まるでクリスマスプレゼントを貰った気分だわい」
「そんな……」
「照れんで宜しい。しっかし、サンタがクリスマスプレゼントを貰うだなんぞ、面白い話じゃのぉ」
 永遠に語り継がれそうだわい、と、サンタが皿の上にフォークを置き、その手で秋杜の頭をくしゃりと撫でる。
 と、そこに、きゃっきゃっと両手を広げて喜ぶ煌を抱えた裕介が、煌にサンタクロースをよく見せようと、彼の近くに歩み寄って来た。
 裕介はそのついでに、
「そういえば、この近辺は、ずーっとこうして雪景色が続いているだけなんですか?」
「ん、あ、ああ。でも別のサンタの家もあるからの。まあ、平野だけではなかろうて」
「そうですか……」
「うぉいちょっと! 痛いって! ヒゲを引っ張るんでないっ! この悪戯っ子め!」
「やんややん〜やぁんやぁっ〜!」
 問うた裕介は、さり気なくサンタに煌を抱きかかえさせると、ちらりと麗花の方を振り返った。
「麗花さん」
「なっ、何ですか」
「少し外を、見て回りませんか?」
「え?」
 あまりにも突然のことに、麗花はきょとん、と瞬きをする。
 その手をきゅっと取ると、いけませんか? と裕介が麗花の瞳を覗き込んだ。
 その真っ直ぐな視線に、
「ちょっと……どうかなさったんです? 田中さん?」
「いいえ、別に。ただ折角このような場所に来たのですからね。帰る前に、観光もいいのではないかと」
「まあ、それは確かに……、」
 いいかも知れませんけれど。
 でも何で私を誘うんです――?
「麗花さんと一緒に、がいいんですよ」
 先を見過ごされたかのような言葉に、麗花は俯いて黙り込んだ。
 その手を半ば無理やり引いて、颯爽と裕介は、麗花と共に密やかにサンタの家を後にした。
「ところで……プレゼントは、きちんと、配れた……ん、ですか……?」
 何だあいつらは……。と、裕介と麗花の様子を見ていたサンタに、不意に、上目遣いに問う秋杜の声がかけられた。
 サンタははたはたと手を振ると、
「全くもって、役立たずを連れて行ってしまったからな……この神父、高い所が苦手だったらしくての。ソリが飛んだ瞬間、気絶してしまったわい」
 玄関の辺りでぐってりと倒れている、サンタに拉致されていた緑色の髪の神父、フォルを指差した。
 ま、何とかプレゼントは配ってきたがね、と、溜息を吐き、ふん、と鼻を鳴らす。
「この神父は、ただのお荷物じゃったって」
「あの……大丈夫、ですか……?」
 慌てて駆け寄った秋杜の言葉に、しかしフォルは何も答えられなかった。
「その……お茶でも飲んで、ゆっくり……休んでください……」
「おっとすまんの、少年や」
 腰を屈め、フォルのことを軽く揺すっていた秋杜に、しかしサンタが軽く待ったをかける。
 振り返った秋杜から順に、ぐるり周囲を見回すと、
「残念じゃが、もうそろそろ、皆帰る時間じゃ」
 よく笑う煌を揺すりながら、開いた片手でサンタは親指を立てて見せた。
 白い髭の下から、にぃっと笑みを浮かべる。
「ヴィクトリィに、グッドラックじゃ!」
「ふむ」
 どうやらそのようだな。
 逸早くサンタの言うことを一番実感して受け止めたのは、シェアラであった。
「もうそろそろ、お開き、だな」
「あう〜……」
 シェアラの視線が、静かに煌を見つめる。
 追われる様にして周囲の視線が、煌へと集まった――サンタの腕の中で淡く輝く、煌の元へ。
「あっ……まぁ〜……」
 サンタがそっと、煌を放す。
 しかし煌は重力に引かれて落ちることもなく、その場所にふわりと浮かんでいた。
「……僕は、楽しかったですよ?」
 いつの間にか自分の足元からも光が浮かび上がっていることに気がつき、アイラスが周囲に向けて微笑んだ。
「たまにはこういう経験も、よいかも知れませんね」
 まあ、神父さんの不幸に巻き込まれるのは、勘弁願いたいものですが。
「アイラス、そういえばサルバーレ神父はどこに?」
「そういえばそうですね……」
 あっ、と顔を見合わせて、シェアラとアイラスが言葉を交わした。
 しかし、シェアラは微笑を深くすると、
「まあ、心配しなくとも、そのうちエルザードには帰ってくるか」
「それも、そうですね」
 っと、もう時間のようですね。
「宜しければまたお会いしましょう? そういう機会が、無いとも限らないかも知れませんから」
 段々と色濃くなる光に、アイラスは自然と安心感を覚えながらも、各々笑い合う全員に手を振った。
「では、又の機会に」
 シェアラもシェアラで、無言のままに手を振っていた。
 見る見るうちに二人の姿が空間に溶け込み、そうして、この場所から跡形も無く消え去ってゆく。
「あう〜……まぁま、まぁまぁ……」
 間も無くして煌も、空に向かって手を伸ばしながら、二人と同様に空間に溶け込むようにして消えていった。
 取り残された人々が、苦笑する。
「やれやれ、私達も、最後まで振り回されてしまいましたね」
「あの……お片付け……しませんと……」
「いいんですよ、秋杜君。私達に留守番をさせておいて、片づけくらい、サンタさんもお安い御用だと仰っていることですし。ここはご好意に甘えてしまいましょう」
「そんなコト言っとらんわい」
 きっちりサンタからつっこまれた瞬間に、ユリウスと秋杜の姿が消える。
 テーブルの椅子に腰掛けたセレスが、暖かく一つ息を吐いた。
「不思議な経験でしたね」
「夢と現実の中間じゃて。お兄さんには、そうやって教えておこうかの」
 ただの夢ではあるまいて。
 サンタの言葉を聞いたセレスが、微笑を残してするりと消えてゆく。
 ――そうして。
「……やれやれ」
 ぐったりと倒れていたフォルが消えるのを見届けると、サンタは愛用の椅子に、どかっと腰掛けた。
 再び平穏が戻った小屋の中で、引き出しの中からパイプを取り出すと、手にとって視線を宙に彷徨わせる。
「わしも、片付けは明日にして、今日は寝るとするかの――ま、ともあれ、お疲れ様じゃったって」


【Capitolo quinto】

 エルザードにある、とある教会で。
「怖かったんですからああああああああっ! わけわかんなくてっ! 取り残されるしっ!」
「まぁまぁ、落ち着いてください、神父さん。こうして無事に帰って来れたんです、それだけでもよかったではありませんか」
「そりゃあ夢ですものっ! 帰って来れなかったら困りますっ!」
「――だったらそこまで大騒ぎする必要もないのではないか?」
「でもっ! やっぱり怖かったんですもの……!」
 この教会の主任司祭でもあるサルバーレは、差し入れを持ってきたアイラスと、祭服の修復のためにやって来ていたシェアラとを目の前にして、いつものように客間のテーブルの上に突っ伏していた。
「それよりも、だ、神父。あれだけ古い祭服をあれだけ大切に使っていることには関心するが、」
「もしかしてシェアラさん、珍しく褒めてくださってます……?」
「穴が開いたのなら、ああいうものはもっと早く修復を頼むべきだな。変わった布を使っているだけに、普通じゃあ布の在庫が無い――わかるだろう?」
「あう」
 アイラスの持ってきていたクッキーをつまみ、優雅に紅茶を口にしたシェアラの手痛い言葉が、再び神父の心に深く突き刺さる。
「第一、大事なミサの前に突然そういうことを言うとはね」
「だって……忙しくて、色々忘れていたんですもの……」
「でも神父さんがそのようなことをお忘れになるだなんて、珍しいのではありませんか?」
 すっかり雰囲気は、お茶会にも似たようなものになっていた。
 アイラスは眼鏡の奥から微笑を浮かべると、
「その分危機管理意識には欠けているのですから……僕としては、その気遣いが出来る分を、少しでも自分の身を護る方にまわしていただきたいと思っているわけですけれどもね」
 そうすれば、周囲の人まで不幸にはなりませんでしょう?
 小声で付け加えられた後半の言葉に、シェアラは静かに頷くと、
「確かに言えているな。私としても、一々面倒事に巻き込まれたくはなくてね」
「ちょっとシェアラさん……」
「そうですね、もうすぐ新しい年を迎えるのですしね。どうですか? 今年の目標は、我が身を護る、になさってみては。周囲への気遣いは大変結構ですけれども、自分の身を護れずに周囲に迷惑をかけていては、もともこもありませんからね?」
「酷い……」
 もう一度テーブルの上にがっくりと項垂れる神父の姿に、アイラスとシェアラとは視線を合わせて苦笑を浮かべていた。


 煌君、かあ……。
 昨日は随分と変な夢を見たような気がするわ……、と、東京にある教会の自室で麗花が頭を悩ませていた時、不意に、ユリウスから呼びつけられる声が聞えて来た。
 階段の下からわざわざ、三度ほどしつこく名前を呼んで来る。
「あ、はーい! 今行きますっ! 三回も呼ばれなくたって行くわよ……!」
 昨日見た夢の中でも、そういえば猊下って仕事サボっていたわよねっ!
 むすぅ、と怒りながら、部屋を出て戸を閉める。
 ――それに比べて、煌君は。
 可愛いし、可愛いし、やっぱり可愛いし可愛いし……まあ、ちょぉっと元気すぎたような気もするけどっ。
 あーあ、また煌君にだったら、会ってもいいわよね。
「全く、でもせめてれーか、って呼んでほしかったかしらね」
 ぶつぶつ言いながら、麗花は階段を下りて行く。
「麗花さん、来客ですよ」
「誰なんですか?」
 一番下についた時、いつものようにつかみ所の無い笑顔を浮かべたユリウスが、麗花にある一方を指してすぐさま立去っていった。
 おっかしいわねぇ……と思いつつも、麗花はそちらの方に視線を巡らせる。
 そこには、
「……田中さんなんて、大ッ嫌いっ! 嫌い! 大嫌いなんだからあああぁああああっ!!」
「ちょっ、れ、麗花さ……ぁんっ?!」
 来客者のその姿――裕介の姿を見るなり、麗花は思い切りその顔に拳を繰り出していた。
「来ないでっ! 来ないでぇええええええっ?!」
 ずたぼろ血みどろの海の中で、裕介がぴくりぴくりと片手を挙げて助けを乞おうていた。
 しかし、当の麗花は真っ赤になって裕介を見下ろすのみであった。それどころか、彼に一歩も近寄ろうとはしない。
「何なのよ! 何なの一体っ! もう知らない! ぜぇったい知らないっ!」
 一体何の話ですか……。
 問おうにも、体が動かない以上そうすることもできなかった。
 麗花はくるりと後ろを振り返り、冗談じゃないわと自分の頬を手で押さえた。
 ……言えるはずないじゃないの!
 夢の終わりに麗花、って、麗花って呼ばれて、お……押し倒されただなんてっ!


 その夢から、数日後。
「小麦粉、卵、それから……お砂糖っ……」
 ――すみません、少しお使いに行ってきてもらえますか?
 自分の住む教会の司祭に言いつけられて、夕方、秋杜は近くのスーパーマーケットを目指して街中を歩いていた。
 でも本当に……今度はお正月一色、ですね……♪
 道路を渡るべく、歩道橋を上る。
 冬の風の少し冷たい高見から、人通りも、車通りも多い街中をぐるりと一望した。
 ふと。
 そんな秋杜の視線が、小さな筆記具専門店の前で留まる。
 歩道の傍に停められた黒い外車から、スーツ姿の青年が降りてきていた。杖を片手にした彼は、何やら車の中へと一言二言喋りかけてから、暫くの間、車がどこかへと去って行くのを見送っていた。
 ……もしかして。
 思い、秋杜が身を乗り出して青年をもっとよく見つめようとする。
 銀髪に、海色の瞳のあの人。
 セレスティ……さん?
 その時。
 セレスが秋杜のいる歩道橋へと、ゆっくりと意識を仰がせた。
 それに気付いた秋杜が、戸惑いながらも、片手を挙げて手を振って見せる。
 するとセレスも片手を挙げて、秋杜へと微笑を送ってきた。それから丁寧に一礼をして、店の中へと消えて行く。
 ほんの数分の出来事ではあったが、秋杜にとってはそれが嬉しくてならなかった。満面の笑顔を浮かべながら、軽い足取りで歩道橋を後にする。
 ……あ、そういえば、
 僕、この前の夢の話……お父さんには……まだ、してなかったっけ……?


Finis



 ■□ I caratteri. 〜登場人物  □■ ゜。。°† ゜。。°★ ゜。。°† ゜。。°★ ゜。
======================================================================



★ 柊 秋杜 〈Akito Hiragi〉
整理番号:3999(東京怪談) 性別:男 年齢:12歳
職業:見習い神父兼中学生

★ 田中 裕介 〈Yusuke Tanaka〉
整理番号:1098(東京怪談) 性別:男 年齢:18歳 
職業:孤児院のお手伝い兼何でも屋

★ 月見里 煌 〈Kira Yamanashi〉
整理番号:4528(東京怪談) 性別:男 年齢:1歳
職業:赤ん坊

★ シェアラウィーセ・オーキッド
整理番号:1514(聖獣界ソーン) 性別:女 年齢:184歳
職業:織物師

★ セレスティ・カーニンガム
整理番号:1883(東京怪談) 性別:男 年齢:725歳
職業:財閥総帥・占い師・水霊使い

★ アイラス・サーリアス
整理番号:1649(聖獣界ソーン) 性別:男 年齢:19歳
職業:軽戦士




☆ サンタのおじさん
性別:男 年齢:不明
職業:サンタクロース

☆ ユリウス・アレッサンドロ
(東京怪談) 性別:男 年齢:27歳
職業:枢機卿兼教皇庁公認エクソシスト

☆ サルバーレ・ヴァレンティーノ
(聖獣界ソーン) 性別:男 年齢:47歳
職業:エルフのヘタレ神父

☆ フォルトゥナーティ・アルベリオーネ
(サイコマスターズ) 性別:男 年齢:22歳
クラス:エスパー 職業:旧教司祭

☆ 星月 麗花 〈Reika Hoshizuku〉
(東京怪談) 性別:女 年齢:19歳 
職業:見習いシスター兼死霊使い(ネクロマンサー)



 ■□ Dalla scrivente. 〜ライター通信 □■ ゜。。°† ゜。。°★ ゜。。°† ゜。。
======================================================================

 まずは長々と、本当にお疲れ様でございました。
 今晩は、今宵はいかがお過ごしになっていますでしょうか。海月でございます。今回はご発注をくださりまして、本当にありがとうございました。
 Buon Natale! とご挨拶するのにはあまりにも遅すぎ、かといってBuon Anno! とご挨拶申し上げるのにも遅すぎる今日この頃でございますが、皆様いかがお過ごしになっていますでしょうか。またもギリギリの納品となってしまいまして、毎回ながらに申し訳ございませんでした。
 今回は、久方ぶりに六名様で募集させていただきました。需要が無いと思っていただけに、少々吃驚したのでございますね……。実のところ、まさか埋まるとは思っておりませんでしたので。

>秋杜君
 こっそりと、いつもユリウスがご迷惑をおかけ致しております……(汗)。またまたしかも色々とお料理のリクエストばかりしてしまいましてすみません〜(汗<逃)。
 それにしても、秋杜君の和食メニューは本当に豪華なのです〜。まさしくパーティにぴったりな和、ですよねっ。
 ……あたしは料理ができないので、ちょっと羨ましく思ったりする今日この頃でございます。

>裕介さん
 いつもお世話になっております(特に麗花が/笑)。
 ちなみに裕介君は、もっと早く麗花を連れ出していれば、ご馳走様〜まで辿り着けたのかも知れないという感じだったようでございます(何)。
 ……でもあたしが言うのも難ですが、この二人、一体どこまで進んでいるんでしょう……とちょっと気になってみたりしております、ええ。

>煌君
 プレイングを開かせていただいた瞬間、噴出してその場で動けなくなってしまいました……(ぱたり)。ぱぁぱって……(大汗)。
 周囲の前に、まずあたしが大混乱してみたことは、抜群に秘密なのでございますね(こら)。とにかく笑いすぎたのです、本当に。
 きっと現実に帰ってみますと、煌君には何らかのプレゼントが届いているのではないかなぁ、と思ってみたり……する、のでございます(無責任)。

>シェアラさん
 いつもありがとうございます。今回も厄介事に巻き込んでしまいまして、すみませんでした(こそり)。
 きっと最後の大きな雪だるまは、頃合を見計らったシェアラさんの炎の一撃でやられているのだと思います。最後になりますと、もう皆して疲れてきていると思いますし……。
 ……そういえば、人を幸せにする魔法というものは、無いものなのでしょうか。いえ、あまりにもヘタレ神父が可哀相なような気がしてしまいまして……(駄目)。

>セレスさん
 いつもお世話になっております〜。
 相変わらず色々なところに気配りしていらっしゃって、こんな中でも紳士でいらっしゃるセレスさんに、またも密やかに感動してしまいました。
 確かにそういえば、サンタに子どもがいた場合、その子に対するプレゼントってどうなるのでしょうか……。むしろ手伝いをさせられていたりするやも知れませんよね(汗)。

>アイラスさん
 またもヘタレの不幸に巻き込んでしまいまして……。最近ではヘタレ神父は、不幸というよりも、歩く公害ならぬ歩く厄介事であるような気もしますが……。
 周囲への気配りは、流石〜、といった感じでございました。抜け目が無くていらっしゃるのですね、本当に。
 それにしても、やはりお料理ができるだなんて、あたしとしてはこっそりお羨ましかったりするのでございます(笑)。

 なお、今回は、ソーンではまだアイテムシステムが対応していないこともあり、アイテムにつきましては一切贈らせて頂かないことに致しました。どうかご了承くださいまし。
 それでは、今回はこの辺で失礼致します。何かありましたら、ご遠慮なくテラコン等よりご連絡をよこしてやってくださいませ。

 又どこかでお会いできます事を祈りつつ……。


23 gennaio 2005
Grazie per la vostra lettura !
Lina Umizuki
クリスマス・聖なる夜の物語2004 -
海月 里奈 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2005年01月24日

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