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『パーティーは突然に 』
南宮寺・ひかる2090
 真夜中の雪道を、南宮寺ひかるはあてもなく歩いていた。

 今日、今からおよそ数時間ほど前に、彼女は決闘の予定を入れていたのである。
 相手は、かつて自分の一族を皆殺しにした男。
 彼を倒し、一族の無念を晴らすことこそ、今の彼女にとって最大の目標であった。

 その仇に果たし状を送りつけた時から、彼女はこの日のためだけに全ての力を注いできたと言ってもいい。
 普段にもまして入念に武器を手入れし、心身のコンディションを万全にして、この日が来るのを待っていたのである。

 ところが。
 ひかるが指定した場所に到着した時、男はまだそこにはいなかった。
 約束の時間が過ぎても、一向に男が姿を現す気配はなかった。
 それでも、宮本武蔵のようにわざと遅れてくる可能性もあると考え、ゆうに三時間は長く待ったのだが、結局男が現れることはなかったのである。

 果たし状を受け取っておいて決闘をすっぽかすとは、何という恥知らずな男か。
 そう考えると無性に腹が立ったが、いくら腹を立てたところで相手が現れるわけでもなく、相手が現れなければ怒りをぶつける先もない。

 これでは、完全な独り相撲ではないか。

 勝手に果たし状を送りつけて、返事もないのに来るものと決めつけて、作戦だと思いこんでいつまでも待って。

「何をやっているのだ、私は……」

 怒りと空しさ、そして不完全燃焼のままの殺意。
 そんなものをもてあましながら、ひかるはどこへ行くともなく夜の街をさまよっていた。





「ねぇ、ってば」
 不意に左手を引っ張られて、ひかるは我に返った。
 見ると、十歳くらいの金髪の子供が、満面の笑みを浮かべてこちらを見上げている。
「お、おい、私に触れるな」
 そう言って、ひかるは慌ててその手をふりほどいた。
 彼女にとりついている怨霊が暴走することを危惧したのである。
 しかし、そんなことなど知らない少年は、遊んでもらっているのと勘違いしたのか、再びひかるの手を掴んだ。
「そんなとこでぼーっとしてないで、早くこっち来て座ってよ」

 一度目は運良く助かったが、今度こそ暴走する。
 ひかるはそう思ったが、暴走どころか、怨霊は何の反応も示さない。

「どうしたというのだ?」
 掴まれたままの左手を見つめながら、思わずそう呟く。
 何がなんだか、さっぱりわけがわからない。
 そもそも、ここはどこで、この少年は何者だ?
 少年に手を引かれながら、ひかるは懸命に事態の把握に努めた。

 とりあえず、辺りを見回してみる。
 窓には飾り電球が、天井にはミスルトゥが、壁にはリースが飾られており、奥には大きなクリスマスツリーもある。
 そして、テーブルの上には、大きなケーキとたくさんの料理が並べられている。
 どうやら、ここはクリスマスパーティーの会場とみて間違いなさそうだ。
 そうなると、問題はなぜ自分がここにいるのか、ということになる。
 いろいろなことを考えているうちに、ここに迷い込んでしまったのだろうか。

 と、その時。
 まるでひかるの心の内を見透かしたかのように、少年が楽しそうな声で言った。
「暇そうにしてたから、ボクが招待したんだよ」
 暇そうと言われるのは心外だが、確かにやることがなかったという意味では暇だったのかもしれない。
「そんなことより、ここ座ってよ」
 何か釈然としないものを感じながらも、ひかるは促されるままに腰を下ろした。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「それじゃ、人数も揃ったことだし、そろそろパーティー始めるよ」
 少年のその言葉で、パーティーは何となく始められた……らしい。

 だが、こういった場に慣れていないひかるには、何をしたらいいのかわからなかった。
 とりあえず見よう見まねで、と思って辺りを見回してみたが、他の面々もひかる同様に突然連れてこられたらしく、みんな状況を把握しかねてとまどっている。

 これでは、何の参考にもならない。
 かくなる上は、あの少年にでも聞いてみるしかないか。
 そう考えて、ひかるが席を立とうとした時、一人の少女が声をかけてきた。
「あ、あの、はじめまして……私、スフィアと言います」
 少しおどおどとした様子で、ぺこりと軽く頭を下げる。
「私は南宮寺ひかるだ、よろしく」
 ひかるが挨拶を返すと、スフィアと名乗った少女は嬉しそうに微笑んだ。
「どうぞ、楽しんでいって下さいね」
 この言葉から察するに、彼女もこのパーティーの主催者の一人なのだろう。
 そこで、ひかるは彼女にこう打ち明けてみることにした。
「楽しみたいのは山々だが、生憎こういった場には不慣れでな。
 何をしたらいいのか、皆目見当がつかん」
 その問いに、スフィアはきょとんとした顔をする。
「パーティーの楽しみ方がわからない」ということが、すぐには理解できなかったのかもしれない。

 少しの間の後、スフィアはにこやかにこう答えた。
「あの、そんなに難しく考えないで下さい。
 みんなでお食事したり、お話ししたりして、楽しく過ごせれば、それでいいんです」
「ふむ、そういうものか」
 それなら、なんとかできないこともなさそうだ。
 話が合うかどうかはわからないが、どうやらお互いに初対面の相手が多いようだから、必然的に使える話題は絞られてくるだろう。
「ありがとう。参考になった」
 ひかるが礼を言うと、スフィアは少し照れたように笑った。
「いえ、お役に立てたのなら嬉しいです」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 それから、どれくらい経っただろう。

 スフィアに教えられたからというわけでもないが、ひかるはひかるなりにパーティーを楽しんでいた。
 さすがに彼女の方から他の参加者に声をかけることはなかったが、相手から話しかけられることは何度もあったし、話の合う相手は少なかったものの、中にはそのギャップを楽しんでくれる相手もいた。

 こういうのも、たまにはいいかもしれない。
 いつのまにか、ひかるはそう思うようになっていた。





「楽しんでる?」
 ひかるが声のした方を振り向くと、先ほどの少年が立っていた。
「あ、自己紹介がまだだったね。ボクはプリズム、よろしくっ」
 そう言って、少しおどけた仕草で一礼する。
 その様子にひかるが苦笑しながら挨拶を返すと、彼は唐突にこんな事を言い出した。
「ところで、せっかくのクリスマスパーティーだし、プレゼントの交換会でも、と思ったんだけど、何かちょうどよさそうなものある?」
「何か、と言われても……まあ、一応探してみるとしよう」
 とりあえずそう答えて、ポケットの中などを探してみる。
 とはいえ、もともと決闘に行くつもりで家を出てきたのだから、プレゼントになりそうなものなど持っているはずがない。
「すまないが、プレゼントできそうなものは何もないな。
 残念だが、交換会は不参加ということにさせてもらおう」
 ひかるがそう告げると、プリズムは少し残念そうな顔をしたが、やがて小走りにどこかへ駆けていって、キラキラと輝く筒のようなものを持って戻ってきた。
「じゃ、これあげる。中を覗くと見たいものが見えてくる、魔法の遠眼鏡だよ」
 彼はそう言ったが、見た感じでは、遠眼鏡というより万華鏡に近い。
「面白そうだな」
 受け取って、試しに覗き込んでみる。何も見えない。
「何か見たいと思わなきゃ、何も見えないよ」
 その言葉に、ひかるは少し考えてから、東京タワーや自由の女神など、いくつかの場所を思い浮かべてみた。
 遠眼鏡はしっかりとそれに応えて、彼女の思い浮かべた場所の映像を次々と映し出す。
「ほう」
 どうやら、本当に魔法の遠眼鏡らしい。
 ひかるはその遠眼鏡から目を離すと、プリズムにこう尋ねてみた。
「いいのか? 本当にもらってしまって」
「もらってほしくなかったら、あげるなんて言わないよ」
 きっぱりとそう答えるプリズム。
 言われてみれば、それも道理である。
「では、ありがたくもらっておこう」
 ひかるがそう言うと、プリズムは満足そうに頷いた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 パーティーがお開きとなったのは、それからさらにしばらく後のことだった。





 気がつくと、ひかるは家の近くの路地にいた。
 ついさっきまでパーティー会場にいたはずだったのに、あそこに行った時と同様、あそこからここまでの記憶がすっぽりと抜け落ちている。

「幻、だったのか?」
 もちろん、幻などであるはずがない。
 だが、この夜の記憶の中で、あのパーティーだけが、あまりにも異質で、それが現実だったとはにわかには信じられなかったのだ。

 いずれにせよ、今となってはそれを確かめる方法もない。
 そう考えて歩き出そうとした時、コートのポケットの中に、何かが入っているのに気がついた。
 もしや、と思いながら、それを取り出してみる。
 ポケットから姿を現したそれは、まぎれもなく、プリズムがくれたあの遠眼鏡だった。

 いつの間にか、雪がまた降り始めている。
「ホワイトクリスマス、か」
 遠眼鏡をポケットに戻して、ひかるは自宅へ向かって歩き出した。

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★   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ★
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 2090 / 南宮寺・ひかる / 女性 / 18 / 退魔師(高校生)

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武です。
 この度はご参加下さいましてありがとうございました。
 まずは、このたびは遅くなってしまって申し訳ございませんでした。

 さて、ノベルの方ですが、参加して下さった方がひかるさんしかいらっしゃいませんでしたので、こんな形になってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?

 ともあれ、もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
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2005年01月19日

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