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『世紀末冥土伝説 』
オーマ・シュヴァルツ1953

 人ごみでごった返す、休日の繁華街。オーマは只ならぬ気配を感じ、振り返った。
「…なんでぇありゃ……」
 係りあいにならない方がいい。理性はそう告げていた………が……怖いもの見たさに桃色の親父心がむくむくと疼く。
 建物の影から、覗く小山の人影。通り縋りの道行く皆様も、ギョッと振り返るそれは明らかに、オーマの様子を伺っていた。
 本人は物陰から覗いているつもりなのだろう……如何せんその立派な体格のため物影に入りきれていない。はたから見ると滑稽きわまりない状況も、本人は至極真面目なようだ。一途な思いを込めた眼差しを、オーマに送っている。
「あぁ〜っと…そこのお前さん、俺になんかようかい?」
 小指の先ほどの理性と、本能とも呼べる親父心の戦いはほんの一瞬の間に、好奇心の勝る親父心の完勝に終わった。オーマの呼びかけにキュピーンと、相手の瞳が光ったような気がしたのは目の錯覚か。
 早まったかも知れねぇ。脳裏を横切る嫌な予感は、気のせいではないだろう。
「是非、ご主人様と呼ばせてくださいませ〜!」
 雄叫びと砂埃をあげながら、膝に縋り付いたそれに、流石のオーマも目を丸くした。
 清楚な白と黒のエプロンドレスがはちきれそうな肉塊もとい肉体。髪を飾る可愛らしいヘッドドレスのリボンはその首から肩にかけての見事なラインに食い込んでいる。
 流石の腹黒イロモノ変体親父もこちらの変体は守備範囲外だろう。

 身長2メートルオーバーのマッスル親父の足元にしなを作る、これまた負けず劣らず筋肉密度の高そうなガタイの良いメイド服を着た兄貴。白昼の悪夢を通り越して、まるで漫才のような光景である。一瞬にして駆け抜けた絶対零度の空気に、辺りは凍りついた。
「うちの病院でもその手の手術はやってやれないこともねぇ……だがなぁ………そのナイスマッスルボディ、無駄にするのは惜しすぎるぜ」
 いい筋肉密度だと、相手の肩にポンと叩くオーマの歯がキラりと輝く。悩みごとがあるなら聞いてやるよ、と実にオーマらしいニヒルな笑みを浮かべた。
 そのとき運悪くその場に居合わせた、善良な街の皆様が余りの光景に砕け散ったとか、いないとか………


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 店の主人の明らかに、帰ってくれという視線を気にせず。二人は小道を入って直ぐの露天の茶店に腰を落ち着けた。それ程はやっていない店なのか二人の他に客はいない。
「私……誰かの為に尽くすのが好きなんです」
 はらはらと零れる涙を、どこからともなく取り出した、レースのハンカチで拭う。そう、正に何もないところから取り出したのだ。それはオーマ自身も持つ、『具現能力』と同じもの。
「…お前さん、ウォズか?」
 今までいろいろな、ウォズと出会ってきたがオーマもこのようなものは初めてである。
「以前はそう呼ばれていました。でも、今の私はメイドです」
 今も昔も、ウォズはウォズに変わりないと思うのだが。それは大きな拳を握り締めて力説した。どうやら、害意を持つ存在ではないらしい。
「メイドのお仕事は重労働で、力も使いますし。体力もつかいますので……」
 このような姿になったんですけど。
「誰も雇ってくれないんです」
 確かに、家事は大変で重労働だ。自身も妻に仕込まれて家事をこなす、オーマもその言葉に一瞬納得しかけた。

 人と余り変わらぬ思考を持ち、子をなそうとするウォズもいるらしいので、メイドになりたがるウォズも中にいるのかもしれない。何かが根本的に間違っているような気もしたが、あえてオーマはそこに触れないことにした。
「それで…私と同じような体つきの方なら雇って下さるかもと……」
「でも、うちじゃぁ人に手伝って貰うような家事なんて殆どねぇしなぁ」
 どうすっかな。対外の家事はこなすマッスル親父が困って、額をかく。
 体格で断られるのなら、ウォズの『具現能力』をつかって断られないような体型と性別になればいいだけの話だが、二人ともその事は念頭にないようだ。
「メイドができれば、お前さんはそれでいいのかい?」
「はい、誰かの為に尽くせるメイドになれればそれでいいんです」
 キラキラと体格の割りに小さな円らな瞳を輝かせ、胸の前で両腕を組み会わせ、お願いポーズをとる。
「よっし、分かったお前さんの勤め先。俺が何とか口利いてやるよ」
「本当ですか!」
 そのかわり……言って置きたい事がある。と前置きをしてオーマがおもむろに立ち上がった。
「ポーズをとる時は、こうだ!!」
ムキッと両の腕の力瘤を作ってポージングをして見せた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ヴァンサーがウォズに仕事の斡旋をした…なんてことはあんまりねぇかもしれねぇな」

その後……夜な夜な、エルザード城の尖塔の天辺でポージングをとる、ガタイの良いメイドの噂が、まことしやかに囁かれることになったというのはまた別の話。




【 完 】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
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聖獣界ソーン
2005年01月14日

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