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『それは舞い降りる白き翼 』
ブルーノ・M3948
「買い物これで全部だったかしら……」
 草間零は買い物袋の中身を確かめながら、草間興信所へと帰る為、歩いていた。
「買い忘れはないみたいですね」
 わずかに笑みを浮かべて再び歩き出そうとした瞬間、頭上に大きな影がかかった。
 鳥にして大きな影で、飛行機にしては音がない。
 空を見上げた零の瞳に飛び込んできたのは、真っ白な姿をした少年だった。
「……」
 金属の翼を持つ、修道士姿の少年。深海の群青の瞳は、微笑みを宿している。
 少年は零のところまで急降下し、引き起こして減速し、着地した。
 翼は即座に折りたたまれて背中へと消える。
「あ、あの……」
 戸惑いの表情を浮かべる零に、少年はにっこりと愛くるしい顔で笑った。
 綺麗な黒髪は緩やかなカーブを描き、宗教画から抜け出したきたかのようなたたずまい。
 年の頃は中学生くらいだろうか。小柄で可愛い、という感じのタイプの男の子だ。
「はじめまして、僕はブルーノ・M、と申します」
 礼儀正しく少年−ブルーノは名乗り、零の前を跪いた。
 そして静かにその手をとると、手の甲にキスをする。
 キス、と言っても敬愛を示す行動で、本当にキスをしているわけではなく、実際に触れず、手は手袋越しである。
 ブルーノのエネルギーは人々の祈りの聖力。反して零は怨霊の霊力。
 この二つは相殺するため、直接接触すると互いに急激に消耗してしまう。
 それはブルーノにとっても大変な事であるが、それ以上に零に負担をかける事を避けたかった。
 そしてブルーノは困惑の表情を浮かべたまま、こちらをみている零へと笑みを返しながら口を開いた。
「僕は法王庁から派遣された聖霊騎士です。対霊鬼兵兵器としてこの国にやってきました」
 ブルーノは自分の存在を零に説明する。第二次世界大戦後半、北イタリア政権が、ドイツと日本から心霊兵器の技術供与を得て、カトリック教会の聖人遺骸(複数)を培養して作成されたものだ、と。そして終戦でバチカンが引き取り凍結していたものを、近年の状況から完成させ日本に派遣してきた、という話を。
「対、霊鬼兵兵器……」
 ブルーノの説明に零は戸惑う。
 零の体は複数の優秀な霊能者の肉体をつなぎ合わせて作られており、「超回復」を始め様々な異能力を有しており、さらに呪術的な効果により半永久的な生命を持っている。
 少年の言う事が本当なら、零とは対極の位置に存在する。
 いや、対極、という言葉では片づかない。いわばブルーノが倒すべき存在であるのだ。
 それなのに何故、ブルーノはこんなにも明るく、優しい笑顔を見せるのか。
「大丈夫です。僕は零お姉様の敵にはなりません。そんなに善良な零お姉様が、敵になるはずありません」
 戸惑いの表情のまま、しかし零はブルーノの瞳に嘘が無い事を感じ、頷いた。
「で、でも……お姉様と呼ぶのはやめてほしいのですけど……」
「え、駄目ですか?」
 捨てられた子犬のような表情になったブルーノに、零は困ったような顔になりつつ続ける。
「今の自分には、どう生まれたかより今相手とどう繋がっているかが大事。だから私はあの人を兄と呼ぶのです」
 今度はブルーノが戸惑った。しかし零の望みならば、と頷いた。
 どう生まれたか、それはお互いに同じような境遇で有る事は確かで。敵となりうる存在ではあるが、ブルーノは決して零が自分の倒すべき相手ではないことを確信していた。
 『今相手とどう繋がっているかが大事』自分と零とのつながり。それはなんだろう。
 出会ったばかり。だが遙か昔から知っているような気がする。
 ブルーノはじっと零の顔を見つめながら、どう呼べばいいか思考を巡らせていた。
 そして一つの答えが浮かんだ。
 ブルーノは嬉しそうな笑みを浮かべながら零を見つめ直す。
「それなら……零さん?」
「はい」
 初めてそこで、零はにっこりと微笑んだ。
「お荷物お持ちします」
「あ、大丈夫です」
「僕が持って差し上げたいんです」
 にっこりと、しかし有無を言わせぬ笑顔に、零は手荷物を渡した。
 そして興信所に帰りながら、他愛もない話をする。
 たどりつく頃にはすっかりうち解け、零はブルーノに優しい微笑みを向けるようになっていた。
「零さんになにかあったら、僕がかけつけてきますから!」
 真剣なブルーノに、零は微笑み、ありがとう、と呟く。
 空から舞い降りてきた天使のような少年は、真摯な眼差しで、零だけを見つめていた。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
夜来聖 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年01月12日

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