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『三騎の戦士 』
風宮・駿2980)&ウルフィアス・ローラン(3738)&葉月・政人(1855)


 前回の戦いでバイクという思わぬ移動手段を得た風宮は手放しに喜んだ。そして居候している家にちゃんとした置き場を提供してもらうとさらに大喜び。毎日の買い出しも遠くの激安スーパーまで足を伸ばせるとなると周囲も頬を緩ませた。ダンタリアン専用マシン『ヴォルテクサー』はもうひとりの家族、いや気の合う友達ができたかのような賑やかさを乗せてこの家にやってきた。家主の「普段は何の変哲もないバイクになってるんだから、特に怪しまれることもなくていいわね〜」という言葉がほんのちょっと風宮の心の中で引っかかったくらいだろうか。だが、万年能天気の彼がそれをずっと覚えているわけもない。彼がはっきりと覚えているのは、ヴォルテクサーが自分のものになったということだけだ。 
 普通のバイクに化けているヴォルテクサーは、翌日からさっそくその存在感を見せつける。ある時は買い出しの足として、ある時は風宮の気晴らしの道具として……基本的に家事に炊事、洗濯に掃除が終われば後は暇。そんな時間をテレビを見たり本を読むなどに時間を割かないのが彼だ。隙あらば家から飛び出してバイクの調子を確認するかのように街へと繰り出す。家主は高校生だから、めったに昼間に帰ってくることはない。それに自分とは逆に、家に閉じこもる方なので風宮が外出していても食事の用意さえしてあれば特に小言をいわれることもない。彼にとってしてみれば、安心して羽根を伸ばしに行けるというもの。この日は太陽が傾いてきた頃だったので、湾岸線を走ることにした。ヴォルテクサーは塩の匂いがする場所まで彼を導く。

 巨大な橋の上を走ると本当に気持ちがいい。風を切って走るというのはこのことをいうのだろう。風宮はなぜかバイクを持っていなかった昔にもこんな光景を見たような気がしていた。この心踊る躍動感はどこから沸きあがってくるのだろう……そんなことを思いながら、彼はぎゅっとハンドルを握り締めていた。そして無意識の動作からか、ミラーを覗きこんだ風宮は思わず後ろを振り向く。背後にはずっと彼を追うように近未来のフォルムをした謎のバイクが浮かんでいた。そう、これはエアバイクと呼ばれる代物である。実用化には程遠い、というよりまだマンガの世界でしか動いていないような発想の代物が現実に動いていた。風宮は初めて見る未来の乗り物に感激し、スピードを調節して併走できるように調整する。そして横に並ぶと、舐めるような視線でエアバイクを観察し始めた。ちなみに風宮は乗っている男に関してはまったく興味がないようだ。

 「うわ、初めて見た〜。これ、どんなシステムで動いてるんだろ。エアバイクだから当然、地面から発せられる磁力かなんかの反発を使って走ってるんだろうけど、それを使ってどのくらいのスピードが出るかってことだよな〜。まぁ、それ言ったら俺のベルトもどうだろうって話になるんだけど。」
 「貴様……」

 彼が物珍しそうにじろじろバイクを見たもので、どうやら相手のドライバーを怒らせてしまったらしい。風宮はそれを察して申し訳程度に手を上げるとそれを横に振り、アクセルを吹かして逃げていこうとした。ヘルメットの強化ガラス越しに見える目がかなり怖い。しかも金髪で緑色の目をした外人だ。英語ならまだしも、稀少言語で文句でも言われようものなら面倒なことになる。そうなる前にさっさと逃げようとした風宮を引き止めるようにドライバーは日本語で叫んだ。その声はおそろしいほどよく響く……それは心の奥に突き刺さるかのようだった。

 「貴様が……システムカバラの男か。」
 「なっ、ま、またその筋の奴か? もう、アンタいったい誰なんですか!」
 「さぁな、変身!」

 飽きるほど言い、飽きるほど聞いた言葉とともにエアバイクの外装に設置されていたさまざまなパーツが金髪の戦士に向かっていく。その真紅の鎧は身体のさまざまな部位に装着され、最後に顔の前後からマスクがかぶせられた! その姿は風宮が変身するダンタリアンによく似ている。

 「またこのパターンか! んもう、せっかくのドライブなのになぁ……」
 「我が名はエリゴル……お前のことは知っている。今すぐ変身しないと……」
 「しますしますよ、すりゃいいんでしょ!」

 『世界』と『戦車』のカードを持ち、腰に出現したベルトにそれをゆっくりとかざす。2枚のカードは風を切りわずかに揺れていた。それはまるで風宮を乗せるバイクと同じだ。しかし彼の乗るのは何の改造も施していない普通のバイクなので、徐々に相手との距離が開いていく。風宮は小さく「見てろよ〜」とつぶやいていつものセリフを叫んだ!

 「変身っ!」

 その掛け声とともに10の宝玉からダンタリアンのヴィジョンが浮かび上がる。それと同時にエリゴルを名乗る男はその手に暗黒を集め出していた。それはまるで生物のように動き、ある形へと変貌を遂げようとしている……一方、変身を終えた風宮は連続で『戦車』を読みこませたため、ほぼ同時にバイクをヴォルテクサーへと変形した。瞬時にスピードアップするマシン。その上で「へへん」と言いながら満足そうに鼻を掻く風宮だったが、相手を抜き去ろうとした瞬間に目の前を黒い棒のようなものが出て急ブレーキをかける!

 「あっ、危な……っ!」
 「反応はそこそこか。人間を見かけで判断してはいけない。いらぬ隙を生じさせるからな。」
 「あれはなんだ……漆黒の斧!」

 エリゴルはマシンの上でハルバードに似た長い竿状の『烈空の戦斧』を構えていた。あれならバイクとバイクの距離があっても風宮に攻撃できる。それを見てダンタリアンことソニックライダーは即座に右手の人差し指と中指に2枚のカード『死神』と『審判』を持った。そしてそれを読みこませると、同じように長い槍が出現した!

 「ダンタリアンの槍、か。」
 「俺はソニックライダーなの! なんでそっちで言うのかなぁ、確かにその名前も気にはなってるんだけど……」
 「とぼけているのか本当に知らないのかはしらないが、ならソニックライダーのままで死ぬがいい。ふんっ!!」

 エリゴルはバイクを巧みに操りながら前を行く車を避けつつ、最大の目的であるダンタリアンの破壊に全力を尽くす。赤と黒の悪魔から繰り出される斧の軌道は、ある程度ならソニックライダーにも理解できた。自分もバイクに乗っており、さらに同じような武器を持っている。その辺の飲みこみは早かった。前の車だけに注意を払い、斧の軌跡を瞬時に判断しながらそれを避け自分も鋭い突きを繰り出す。
 前から後ろに攻撃を仕掛けるエリゴルの身体を適確に狙った反撃は誰が見ても命中すると確信できるタイミングのものだった。しかし、決定的瞬間にそのバイクはほんの少しだけ上に移動した! エリゴルの真紅をまとっていたバイクはその突きをいとも簡単に弾きかえすと、さっきまでいた場所に戻る。あっという間の出来事だった。

 「しまった、相手はエアバイクだった……三次元の動きができる!」
 「その程度か……お前の力は! おりゃあぁぁっ!」
 「くっ、仕方ない。俺なりの三次元防御だ! 頼むぞ、ヴォルテクサー! たあぁぁーーーっ!!」

 風宮の意志を読むかのように、ヴォルテクサーは唸りをあげてエリゴルのエアバイクの前を取ろうと全力疾走した。だが、相手がそんな絶好のチャンスを見逃してくれるはずがない。ソニックをあざ笑うかのように突きで応戦するエリゴル。彼が狙うだんだんと的は大きくなっていく……その瞬間、ソニックがいきなりバイク座席の上に立ち、そのまま低く長い軌道で前にジャンプした! 走っているエアバイクに飛びつくつもりだろうか。エリゴルは的があまりにも大きくなり過ぎたせいで驚いてしまった。

 「気でも狂ったか! じ、自分から死ぬ気か、お前?!」
 「そんな後ろ向きな気持ちで戦えるかーーーっ!」

 風宮はしたたかだった。このジャンプを意外性を持った行動だけで終わらせる気などさらさらなかった。そう、彼もエリゴルの死角を突いた攻撃を仕掛けていたのだ。彼は飛びあがる瞬間、敢えて左手に槍を持ち替えて攻撃の基点になっている右腕でそれを見えなくした。もちろん自分も敵の攻撃を受けるのは覚悟の上。とっさの判断で動いた風宮の勝ちだった。

 『バギン!』
 『ガシャッ!』

 エリゴルの攻撃は驚きのせいで手がぶれたらしく、ソニックの左肩の装甲をわずかにえぐっていくだけに終わった。だが、彼の驚きはそれで収まらない。自分も同じように右肩の装甲を狙われ、槍の刃でわずかなダメージを受けていた。このタイミングで感じるはずのない衝撃を負った彼は心を大きく揺らす。しかも交錯した後、ソニックは自分のバイクにしがみついたりはしなかった。いったいこれはどういうことなのか。
 思考は判断を鈍らせる。エリゴルは進む先で響く異質な声を理解した時、自分が初めて劣勢に立たされていることに気づいた。マスクの奥の表情が驚愕から憤怒へと変わるのにそれほど時間はかからない。

 『マジシャン』
 「今度は的が大きい! 狙える!」

 「そうか、前を取るのがダンタリアンの目的だったのか。バイクを先行させ、自分がそれに追いつくように跳躍を……! やるな。」

 すでに大きく振りかぶった槍から真空波が打ち出され、もはや回避できない状況に追い込まれたエリゴル。しかし彼もまた戦斧に力をこめると、ソニックとまったく同じ軌道で空を切る! その時、真空波よりも大きな闇が空間に生み出され、ソニックの放った攻撃を一瞬にして食らってしまった! 味の感想も告げないまま、愛想もなく消えていく闇を見て今度は風宮が驚く。

 「く、空間を切り裂くのか、あの斧は! なんて武器なんだ!」
 「私を愚弄した罪は……重い! 漆黒の羽!」

 今まで武器として具現化していた闇が、今度はエリゴルの背中に集まる。それは堕天使を思わせるような黒き翼へと変貌し、形作られた頃には瞬時に恐ろしい数の羽を打ち出した! 追いかけるエリゴルにとって、前を行くソニックは格好の獲物。羽たちも高速で走るマシンの勢いを借りたかのようだ。
 風宮は一瞬、敵のいない道の先を見た……いつのまにか前を行く車はほとんど姿を消している。しかしそれははるか彼方のことで、この辺を走る先には彼らふたりを避けるかのようにして路肩に車を止めていた。ここで自分が避ければ何の関係もない人々が犠牲になるかもしれない。彼はその葛藤を振り払うかのように、あるカードを急いで宝玉に読みこませた!

 『サン』
 「うおおおぉぉぉーーーーーっ!」

 ダンタリアンはその全身から眩いばかりの光を発する……すべての宝玉が太陽の光を放っているのだった。それらに向かって突っ込んでくる闇の羽はすべて光の彼方へと消えていく。お互いがお互いの攻撃を打ち消しあいながら、現代の馬上槍試合は続くのだった。

 しかし彼らの背後から特徴のあるサイレンの音が鳴り響く。エリゴルは即座にそれを感知し、ダンタリアンに向かって別れの言葉を言い放った。

 「邪魔が入ったか。勝負はお預けだ。」
 「えっ、えっ??」

 たまたま近くにあった分岐路を使って本線から抜け出したエリゴル。その戦いはあっけなく幕を閉じた。ソニックは呆然としながらもバイクを安全に運転できるスピードにし、変身を解こうとカードを出そうとする。風宮はその時になってやっと後ろから迫ってくるサイレンの音に気づいた。後ろからやってくるのは警視庁の紋をつけたバイクで、自分と同じようなスーツを身にまとっている。さっきまで相手にしていた悪そうなカラーリングとは違い、そのバイクに乗っている彼は見ていて妙な安心感のあった。
 その時、彼は一般車両が自分たちを避けくれていたのかに気づいた。きっと運転手の誰かが警視庁に電話したのだろう。そして『エリゴルという悪者が自分を襲っているから助けてやってくれ』と通報し、警視庁はそれに応えて車両規制までして自分を助けてくれた。そうかそうかと納得の風宮はさっそくエリゴルを追っ払ってくれた警察官に丁寧なお礼をするために併走した。それはエリゴルの青年にどやしつけられた時とまったく同じ構図だった。

 「いや〜、助かりましたよ。最近こんなことが多くって……」
 「目標確認。そこまでです、武器を捨てて投降して下さい。」

 能天気な風宮は一番大切なことに気づいていなかった。一般人に「ソニックライダーが正義の味方かどうか」なんて判別がつけられないことを。端から見れば明らかに怪しい奴らが争っているようにしか見えないことを……あっという間にマスクの中の顔色が青くなっていく。

 「私は警視庁超常現象対策班の葉……」
 「え! う、うそでしょ? もしかして俺のこと捕まえるつもりなのかーっ! ヴォルテクサー、もう一走りだ!!」

 FZ-00の装着員・葉月が名乗りを上げる前にさっさとアクセル全開で逃げていく風宮。よく考えてみればそうだ。エリゴルのように同じ奴がいたらまだ味方として認識してもらえたかもしれない。しかし今はひとりだ。手に槍を持ち、改造したバイクに乗っている自分は不審者以外の何者でもない。戦いの反応と同じくらい早いスピードでそれを認識した彼は逃げに逃げる。
 だが特筆すべきは、警視庁が技術を結集させて開発したマシン『トップストライダー』の恐るべき性能である。あっという間に逃げる不審者を捉えるまで距離を縮めてたのだ。さっきの戦いよりも肝を冷やした風宮はいちかばちかで『運命の輪』を使ってヴォルテクサーを超加速させ、追いすがる相手から見事に逃げ去った。その時、葉月もマシンに搭載されていたブースターを使おうか悩んだが、途中であることに気づきそれをやめてバイクをそこに止める。

 「まぁ、いいでしょう。ダンタリアンは確かに敵かもしれないが、変身している男性のあの慌てっぷりからいうと犯罪者ではなさそうだ。しかし突然として発揮されたあのスピード……いったいあのバイクと中は誰なんだ?」

 交通規制された路上でバイクを止め、ひとりつぶやく葉月だった。この3人はまだ出会う運命ではないようだ……

PCシチュエーションノベル(グループ3) -
市川智彦 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年01月11日

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