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『MASA――ジェニファーの親友 』
RED・FAUST3787

 ――プロローグ
 
 最上階の司令室のディスプレーに向かっているREDは、各ディスプレイーが映し出す事態に眉を寄せていた。彼はまるで難しいオペをしている医者のような顔で、隣に立っている助手に言った。
「汗」
 言われた助手がREDの汗を拭う。
 REDは再びディスプレーへ向かった。そして気が付いたように言う。
「鼻くそ」
 もちろん言われた通り、助手は最近開発されたばかりのハナホジくんを使って、REDの鼻の穴を掃除した。ハナホジくんは尖端が小さなスプーンになっている。これで鼻の穴もクリーンだ。
 今MASAはクリスマスに続いてピンチを迎えている。
 お遊びで作っておいた鏡餅戦車ロボが、反旗を翻し暴動を起こしたのだ。地下に置かれている鏡餅戦車ロボは、溢れんばかりに涌いて出て一階を制圧してしまった。
 トントン、と少し間延びしたノックがする。
 REDはマゲラーにより部外者の侵入をチェックしていたので、その主が誰だかわかる。
 細雪・白、看護士見習いの女の子である。
 
 
 ――エピソード
 
 MASA開発のマッスルMASAスーツは、アニメや漫画に出てきそうな、スマートな外観をしていた。MASAマシンという特殊な機械を使っているため、装着した人間の脳波をキャッチし、装着者の思う通りの代物に変形する優れものだ。
 神宮寺・旭はそれを着るように研究員にすすめられ、微笑をしながら断った。
「肉体労働は、ちょっと」
 その隣で三春・風太が早速マッスルMASAスーツを着込んでいる。
 旭はマッスルMASAスーツを嫌そうに押し戻しながら、風太に聞いた。
「着心地はどうですか、風太さん」
「暑い〜! もうこれで体重が五キロは落ちそうだよ」
 風太はなぜか嬉しそうに言った。旭はふむふむとうなずいて顎を撫でながら
「三千円ほどですね」
 五キロを米の値段に換算して、マッスルMASAスーツを小バカにしたような顔で横目にした。
 研究員達が叫ぶ。
「ああ、この階まで鏡餅戦車ロボがやってきます、闘いましょう」
「了解! MASA国華劇団出動」
 元気よく大声をあげて、風太が鏡餅戦車ロボの上ってくる非常階段の前に立ち塞がった。
 
 
「時に白さん……、テスト内容を変更したいのですが」
 細雪・白はつぶらな目を瞬かせ、まとめた茶の髪をかすかに揺らした。
「え?」
 因みに彼女はここが看護士免許試験会場だと思っている。しかしREDは彼女がMASAの研究員になるべくやってきたことを疑っていない。
 そういうわけで、二人の会話は成立しているようで、まったく成立していなかった。
「色々なテストがあるんですか? あれ? 知らなかったなあ」
 白は屈託なく笑って、てへへと舌を出した。
「ふむ、今回はこの、鏡餅戦車ロボを撃破していただきたい」
 REDが画面を指差して言う。そこには大の大人ほどの高さのある、大きなみかんが頭に飾られた鏡餅に、大砲らしきものがついている変な代物が映っていた。
「変わった救急車ですねえ」
 白は目を瞬かせ、小首をかしげた。
「わかりました。救急車の中の皆さんを救い出せばいいのですね」
 きっと口許を結び、固い決意を示して白はうなずいた。REDも、鏡餅戦車ロボにやられている研究者達を助け出してもらいたかったので、同じくうなずいた。つまりやはり、二人に意志の疎通はない。
 REDが助手に目をやると、助手が一つのボディースーツを持ってきた。それがつまり、マッスルMASAスーツなのである。
「これは戦闘用のマッスルMASAスーツです、健闘を祈ります」
 REDに言われ、白は白と水色でできたやわらかい生地のスーツに袖を通した。着てみると、なかなか着心地がよい。生地に頬ずりしたい感触だった。
 助手が言った。
「なりたい物をイメージしてください、そのようになります」
 白はぱっとあるものを思い描いた。
 ゴジラ……である。
 その瞬間、そこには黒いゴツゴツした眼力鋭い怪物が登場した。
 
 
 風太は汗ダラダラで戦っていた。鏡餅戦車ロボは、大砲からなんとトリモチを発射するのだ。苦心してスチームクリーナーとなっている水鉄砲を振り回し、トリモチを迎撃。えいやあと、跳びかかってボコボコ殴り一機を静止させた。
「でもー、ボクもう頭クーラクラです」
 旭は止まっている鏡餅戦車ロボの内部をなにやらいじっていた。
「何を言ってるんです。クララは走るんです」
 風太の弱音に一喝する。が、いまいち言っていることがわからない。
 そのうち、旭はラジコンの操作機らしき物を懐から取り出した。
「うぃーん、ぐぃーん」
 子供のように言葉を発しながらそれを動かすと、なんと一体の鏡餅戦車ロボが旭の意志通りに動くようになっていた。
「かかってきなさい!」
 鏡餅戦車ロボの足元にトリモチを浴びせながら、旭が不敵に笑う。
 しかし……相手も鏡餅戦車ロボだったので、反撃のトリモチに遭い、結局旭とロボはその場から動けなくなった。場面が硬直状態である。
 そこへ、後ろから低い声がした。
「情けないのお! ワシが蹴散らしてくれるわっ」
 白ヒゲ白髪の巨体が、旭達を軽々と飛び越えていく。鏡餅戦車ロボがトリモチを吐くが、なんと六十九歳の彼紫桔梗・しずめは、大きな拳でそれらを切って捨てた。そして矢継ぎ早に鏡餅戦車ロボを片っ端から、捕まえては投げ捕まえては投げ、蹴っては殴り……。しかし鏡餅戦車ロボも必死である。なんとかしずめを止めようと、足元へトリモチを集中させる。やがて、しずめは膝下全てをトリモチで固められ動けなくなった。
「ぬお、こしゃくな」
 そこへ、例のもの凄い姿の白が登場した。
 彼女は悲しそうに言った。
「戦わないで!」
 そしておもむろに口を開き、口からゴゴゴゴウと火を吹いた。
 炎は風太のスーツに辺り、マッスルMASAスーツのせいで熱くはない筈なのだが、生理現象的に風太は思いっきりアチチチと逃げ惑った。それから旭を襲った炎は、旭の黒い服を焦げ臭くさせ、尚且つ頭をアフロに変えた。しずめの頭もヒゲもアフロになった。しかし炎のおかげで、トリモチの効力が薄れ、彼は懐からカップラーメンを取り出した。
 なぜか廊下にあった電気ポットでカップラーメンの湯を注ぎ、フォークを天にかざす。
「きゃあ、あたし口から炎なんて! お嫁にいけないっ」
 その瞬間に白は当初着たマッスルMASAスーツの原型に戻っていた。それを狙って鏡餅戦車ロボが動き出す。かわいらしい女の子であった白を守ろうと、風太が立ちはだかった。トリモチが風太の身体全体に撃ち込まれる。
「ご冥福をお祈りします」
 旭が涙を拭きながら言った。
「殺さないで! まだ死んでないよ」
 風太が大慌てで否定する。誰もトリモチなどでは死なない。
 白が、か細い悲鳴をあげた。
「きゃっ」
 彼女の視線を追うと、なんとしずめが巨大化していた。しずめは二階の窓を破るように身体を出し、建物を破壊しながら外へ出て行った。
 三人とも呆気に取られて眺めていたが、そんな場合ではない。しずめがいなくなった今、鏡餅戦車ロボは三人を標的にしてくるのだ。
 そこへ、REDの声がした。
「今こそ、巨大アフロロボ、巨大まりもロボを召還する!」
 ゴゴゴゴゴゴ、と大きな音がして、天井を破って丸い物体が落ちてくる。それは……ただの丸いまりもに見えた。その穴から、次に丸い黒い物体が落ちてくる。……今度は、REDの言葉を借りるならアフロらしい。が、黒いもさもさに手がついているだけだった。二つは縦にくっついている。
「合体! ジェニファー参上!」
 まりもとアフロなのになぜジェニファーなのか。
 新規参入者を得て、風太は気をよくしたのか、大声で叫んだ。
「ボクも、まりも部隊を召還だ!」
 風太が叫ぶが早いか、風太の手の平に小さなまりもが五つ集まった。
 ……。まりも部隊? に違いはない。風太の手の平に集まったのは、なんと風太と意志の疎通ができる小さなまりも達だったのだ! だが、戦いにはまるで関係ない。
 ジェニファーは下になっているまりもをむしり取り、くるくると手で丸めて鏡餅戦車ロボに投げつけた。すると、その分離されたまりもは鏡餅戦車ロボにくっつき、爆破した。三対の鏡餅戦車ロボが迎撃される。
 そしてジェニファーのまりも部分が本当に寂しくなった頃、鏡餅戦車ロボとの激戦は終わりを告げたのだった。


 しずめは巨大化した後、もの凄い高いMASAの塔をふんふんと一人登っていた。そして頂上まで登りきり、MASAのシンボルである大きな大きな三輪車に乗って、ちょっと屋上を回ってみた。あんまり狭かったので、三輪車ごと見事に落下した。
 ドシンという大きな音と共に地面に叩きつけられたしずめの胸元で、ペンダントがぴこんぴこんと光っている。
 するとみるみるうちにしずめの身体が縮みはじめ、彼は人間サイズに戻った。それからカップラーメンを取り出し、フォークで麺をかき回し一口食べた。
「まずい! もう一杯!」
 ズルズルとしずめのラーメンをすする音だけがMASAに響いている。
 
 
 ――エピローグ
 
 MASAの建物は半壊していたが、給食室だけは無事だったので、新年会と称された戦いの労いが行われることになった。
 そこにはジェニファーと、戦場を離れると陽気で気さくないい奴だったジェニファーと仲良くなった鏡餅戦車ロボ合体版が、仲良く酒を酌み交わしていた。
 白が心配そうにREDに聞いた。
「あたし、今回も落ちちゃったでしょうか」
 REDは偉そうにふんぞり返った姿勢で腕組をしてみせ、それから言った。
「いいや、合格だ。君は立派なMASAの研究者だ」
「やった!……って……え?」
 やはり二人の間に共通認識はない。白はようやくそれに気が付いた様子である。
 頭がアフロになっている旭は、しきりに髪型を気にしながら、ものすごい匂いを発しているマヨネーズ鍋なるものの管理をしていた。その強烈な匂いに人っこ一人集まろうとしない。旭は鍋を碗に盛って強引に、風太に食べさせようと風太を追いかけていた。
 さすがの風太もその匂いに恐れをなし、しずめの後ろに隠れる。
 しずめの前までマヨネーズ鍋を運んできた旭は、しずめにおずおずと鍋をすすめた。
 するとしずめは「うむ」とうなってからそれを受け取り、マイフォークで鍋を豪快に口へ運んだあと、言った。
「まずい! もう一杯」
 しずめはこの後しこたまマヨネーズ鍋を食べることになる。
 白は目をぱちくりさせながら言った。
「えーと、あたし看護士試験を受けにきたんですけど」
 その問いは誰にも届かなかった。
 その代わり、空にはしずめにより花火が打ち上げられ、サンバが流れ出し、陽気な新年会は朝方まで続いた……そうな。
 
 
 ――end


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2164/三春・風太(みはる・ふうた)/男性/17/高校生】
【3383/神宮寺・旭(じんぐうじ・あさひ)/男性/27/悪魔祓い師】
【3787/RED・FAUST(レディ・ファウスト)/男性/32/秘密組織?の会長】
【4510/細雪・白(ささめゆき・しろ)/女性/22/見習い看護士】
【4621/紫桔梗・しずめ(シギキョウ・シズメ)/男性/69/デストロイヤー】

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■         ライター通信          ■
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パーティノベル発注ありがとうございました。
お気に召せば幸いです。

文ふやか
あけましておめでとうパーティノベル・2005 -
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東京怪談
2005年01月07日

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