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『MASA――惨劇のクリスマス 』
RED・FAUST3787)&COELAS・SCHRAIN(4489)


 ――プロローグ
 
 下弦の月が、空にかかっていた。夜更け……クリスマスイブを迎えようという夜二十三日のことだ。
 ぴたん、ぴたんと大理石で作られた床に液体が落ちている。冷え冷えとした室内に、それ以外の音はない。かすかな月明かりを浴びたそれは、真紅の色をしていた。ゆっくりと流れ落ちるさまから見るに、おそらく血であろう。
 その血は冷たい床に落ちると、ジュワリと泡立って大理石を溶かした。
 ジュワリ、ジュワリと床が溶けていく。
 室内に小さな笑い声がこだました。
「……はははは、はははは、ショーターイムだ」
 その主はサンタクロースを彷彿とさせる赤いスーツを着ていた。彼は正に、天井からぶら下がっている。それはまるで、コウモリか悪魔のように。
 流れ落ちる血は彼の足元……つまり天井にできていた。しかし、その血は彼のものではないらしい。彼COELAS・SCHRAINに外傷は見えない。
「いいかお前等、素敵な悲鳴で私を迎えろ」
 COELASは満面の笑顔でそう言って、天井の突起にロープをかけ、勢いよく窓を蹴破った。その窓は鈍く音をあげる。おそらく、防弾仕様なのだろう。二度COELASの蹴りを浴びた窓は砕け散り、COELASは狂人のように笑いながら外へ飛び出していった。


 ――エピソード
 
 惨劇の跡に立ったRED・FAUSTは苦々しく口許を歪めた。
 そこには三人の男が倒れている。彼等はあちこちに怪我を負い、頭から血を流していた。右手をもがれた者もいる。左足を食われた者もいる。そして大きな血溜まりに、クリスマスならではのサンタクロースの扮装とトナカイの扮装をした三人は倒れていた。
「……兄さん」
 REDとCOELASは兄弟である。
 弟であるREDはCOELASの凶暴性を一番よく理解していた。
 あの独房へ閉じ込めただけではダメだと、わかっていたような気がする。COELASは狂気そのものだ。彼の力は二十四日に頂点を極め、世界を我が物にするという。阻止をしなくてはならない。この、MASAの科学力を結集させて、今こそCOELASを止めなくてはならない。
 死んだ三人へ弔いも兼ねて、MASA全体に張り巡らせた紙飾りをむしり取ったREDは、それらを三人の身体の上へかけた。
 ドカンと大きな音がして、跳ねるように廊下を振り返る。
 廊下はどこまでもどこまでもクリスマス飾りが続いていた。電飾もついている。この緊急事態に、チカチカと赤や緑や白い豆電球が交互についたり消えたり、まあきれい! である。


 枯れ果てた大地を木枯らしが撫でていく。
 COELASは赤いロープを伝い、MASAの至る場所へ現れては破壊を尽くした。屋上へ降り立ちふと見上げると、そこには二つ足で立つ巨大な猫がいた。その上にはMASAのシンボルである巨大三輪車がある。COELASは三輪車を壊そうとここまで昇ってきたのだった。
「兄さん、ここから先は行かせん」
 REDの拡声器の声がどこからともなく聞こえた。
 REDの声に従うように、大きな猫がゆらゆらと現れる。
 大きな姿はスフィンクスを思わせた。
「いけ! スフィンクスロボ!」
 ……その名の通りらしい。スフィンクスロボは、COELASをじろりと睨み、鋭い眼光からレーザー光線を発射する。COELASは軌道を計算して、素早く避けた。追うようにレーザーがCOELASの影を焼き尽くす。
 しかしCOELASは赤いロープを使い、素早くスフィンクスロボの背後へ回り込むと、それをスフィンクスの首にくくりつけた。そして引きずるようにロープを背負った。
 ニャーゴニャーゴとスフィンクスロボは悲鳴を上げるが、ロボなのでさほど苦しそうではない。
 しかしCOELASは力を緩めなかった。なんと彼の力でスフィンクスロボの頭部がすっぽ抜けてしまう。その中には、五人戦隊の格好をした、研究員達が座っていた。いきなり迎えた自らのピンチに、競うようにして研究員達はエレベーターに飛び乗った。
 COELASはふうと一つ嘆息した。
 そして巨大三輪車を見上げる。
 上から小さな物体が降ってきた。それはどうやら、マシュマロのようである。
「ぼくたち、マシュマロン」
 言うだけあって、ちょっと茶色っぽい。
 マシュマロンは総勢三十人ほどいるだろうか。COELASが鞭のようにロープを振るい、彼らをなぎ倒していく。だがマシュマロンは分裂するらしく、打たれたら打たれるほど数を増している。
「ここから先はいかせないよ」
 六十名に増えたマシュマロンが言った。
 COELASはヘラヘラ笑いながら、手に魔力を込めた。ぼんやりと魔のオーラがロープとCOELASを包み、マシュマロンを薙ぎ払う。マシュマロンの分裂は止まった。
「こうなったら!」
 マシュマロンは一斉にそう叫んでCOELASにしがみついた。両足に両手に腹に背中にそして頭にこれはこれで、大きなマシュマロンが一つできたような形である。
「……!」
「ありがとうMASA! 僕達を作ってくれて!」
 マシュマロンは最期の力を振り絞って、黄色いオーラを発した。これは、マシュマロンの自爆のサインだった。
 MASA司令塔にいるREDの目には、涙が浮かんでいることだろう。
 ……だが、マシュマロンの自爆が発動する一瞬前に、COELASが魔力を全身から放出した。マシュマロンは一瞬にして力を失い、黒こげになってその場に崩れ落ちた。その落ちたマシュマロンを、丁寧にCOELASは踏みつける。
 満を持してREDが円形エレベーターから現れた。
 少しこげた姿のCOELASがほほうと笑みを浮かべる。
「兄さん、ボクはこの日の為に……ライダー、ゴー!」
 REDは頭の上のクリスマスリースを片手にかざした。すると、白い正義の光がREDを包み、REDは黄色いマフラーをはためかせ、顔はスズムシに変化していた。正義のヒーロー、スーザンである。
 スーザンはとうっと飛び上がり、COELASは驚いて後退った。
「ライダーキーック」
 とキックを繰り出したところをCOELASのロープが足首に絡みつく。RED扮するスーザンはその場にバタンと落ち、結局COELASにしこたま殴られ、COELASは三輪車へ向かった。
 三輪車だけは、渡してはいけない!
 と、スーザンはまだ立ち上がる。
「待て!」
 ちらりと振り返ったCOELASに容赦の色はない。ブンブンとロープを振り回し、今度は確実にRED扮するスーザンの首を括る算段らしい。COELASの目の色に本気を見たスーザンは見えている口許をなんとか強がりで笑わせて、円形エレベーターへ逃げ帰り速攻下へ逃げた。
「あぶないあぶない」
 REDはスーザンの甲冑を外しながらつぶやいた。
 研究員達がざわめいている。
「閣下! このままではMASAが!」
 モニターを見やると、もうすでに三輪車は跡形もなく破壊された後だった。何故か屋上には大量のツタが這っている。これでは廃屋だ。
「ええい、こなったら巨大鏡餅戦車を用意しろ」
「は、はいっ」
「機関銃もレーザー砲も全部持ってこい。研究中の戦艦ヤマトもだ!」
 今宵はまだ二十四日の早朝……、兄との戦いは初日の出まで続く。
 
 
 ――エピローグ
 
 MASAはほぼ全壊している。戦艦ヤマトも一度自爆をしたが、それでもCOELASは倒せなかった。瓦礫の影に隠れながら、REDは夜が明けるのを待っていた。そろそろ初日の出の時間なのだ。COELASの唯一の弱点……それは初日の出なのである。
 そのとき時計が鳴った。
 ばっと時計を見ると、デジタル文字が表示されている。
『着信蟻』
 ……嫌な予感がして顔を上げると、その音を頼りに自分を探し出したCOELASが目の前に立っていた。
「みっけ」
 は、はつひのではまだか!
 
 MASAはまだ、再建の目途は立っていない。
 

 ――end
 

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3787/RED・FAUST(レディ・ファウスト)/男性/32/秘密組織?の会長】
【4489/COELAS・SCHRAIN(シーラス・シュレイン)/男性/44/モデル】

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■         ライター通信          ■
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MASA――惨劇のクリスマス お送りしました。
軽いノリになってしまいました。お気に召せば幸いです。

文ふやか
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2005年01月07日

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