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『城田の悲劇 』
城田・京一2585


 発端をさぐれば、それは前日の夜の事になる。

 影山軍司郎はむぅと低く唸ったきりで、人通りのない道路の向こうに横目をやった。
年も明けようとしている今この時に、ましてこのような裏路地に足を運ぶ者があろうとは。
低く唸りつつ、軍刀を突きつけた相手の姿に目を向ける。
そうしている間にも、人の気配は確実にこちらへと向かってきている。
 影山は闇に紛れこみそうな黒装束の裾を風にはためかせつつ、目の前の存在に手を伸べた。
「……いらぬ騒ぎにするのも無粋であろう」
 呟き、手近な位置にあった倉庫へと目を向ける。
いくつか並んだコンテナの中にある袋を掴み取り、その内にそれを封じることにしたのだ。
「明朝早く、回収に参る」
 軍帽に指をかけて位置を正す。
――――そう、それは仮の処置であった。
もちろん仮とはいえ、その処置は確実なものでもある。
何者かが袋の封を開けさえしなければ、それが内から抜け出す術はないほどに。
 影山は再び人の気配を察し、闇夜に紛れこむように姿を消したのだった。


「わたしの一年の私服はあのデパートの福袋にかかってるんだよ」
 さもそれが当然の事であるかのように、城田は橋掛を先導し、一軒の有名デパートの入り口をくぐり抜ける。
 銀座にあるそのデパートは、毎年元日から初売りをしている。
城田は親友である橋掛と連れ立って初詣に参拝した後、いそいそとここを目指してきたのだった。
「冬は出歩きたくねエのに」
 橋掛は城田の後ろを渋々歩きながら、冬空には寒そうな頭を片手で軽く撫でつけた。
城田は橋掛の言葉には耳を貸そうともせずに、寒そうな橋掛の頭に一瞥し、
「ニット帽は落としてしまったのかい、橋掛君」
「神社の境内で無くしちまったって言ったじゃねエか。少しは人の話も聞けよ、センセー」
 悟られない程度に小さなため息を一つ。
城田はといえば、橋掛の言葉になど耳を向けることもなく、楽しげに福袋が販売される会場を目指す。
「これがなかなかの争奪戦でね。毎年ひどく混雑するんだよ。もちろんわたしは狙った獲物は逃がさないのだがね」
 楽しげに笑いつつも、その目はすでに臨戦体勢に入っている。
 橋掛は城田の鋭い眼光を見やって、もう一度小さなため息をついた。
「……奢ってくれよ、センセー」


 夏目怜司は大事な息子の願いをかなえるために、銀座の有名デパートに足を運んでいた。
甘い物好きな可愛い息子は、元日限定で販売されている『お菓子詰め合わせ』の福袋が欲しいと呟いた。
有名菓子店の代表的な菓子が目一杯に詰めこまれたその福袋は、主婦や女性陣の手によって、激しい争奪戦を繰り広げられる。
夏目の脳裏に浮かぶのは、福袋を手にして嬉しそうにはしゃぐ息子の姿。
「パパはきっとゲットしていくからね」
 口許にニヤけた笑みを浮かべつつ、一人ごちて腕時計を確かめる。
 お菓子詰め合わせの福袋が販売されるまで、もうしばらく時間がある。
ついでといっては何だが、紳士服の福袋も一つ買って帰ろう。
参観日などで――もちろん日頃からも――かっこよくキメたパパの姿を、息子の自慢の一つにしたいのだ。
うわぁ、パパかっこいい! 大好き!
――――口許が、さらにニヤけた。


 倉田堅人はようやく得られた休日に、一人さみしく銀座を訪れていた。
営業職という業務柄、彼は年末のぎりぎりまで仕事をしていた。
妻と子供は年末という時節柄、実家に里帰りをしている。
自他共に認めるマイホーム・パパである彼にとって、これはひどく辛い事だ。
――――家のドアを開けて、そこに待つはず妻子がいないなんて!
 もちろん、妻子を追って帰省することも可能だ。
だがしかし、現実は冷たく、厳しい。
年明け早々、早くも仕事のスケジュールが手帳に書き込まれているのだ。
そのようなわけで、倉田の正月休みは、実質数日あるかないかという状態なのだ。
……さみしい時間と気持ちを紛らわせるために、彼は銀座へと足を向け、一軒の有名デパートのエスカレーターを上っている。
「テレビのCMで、福袋は元日に販売しますってあったけど……みんな気合い入ってるなぁ……」
 到着した紳士服の福袋販売の会場には、中年女性を中心に、奇妙な熱気が渦巻いていた。
よく見れば、ぽつりぽつりと男の姿も見うけられる。
「――――ん? あれは」
 見知った人影を見つけ、沈んでいた心がわずかに弾む。
それは城田京一と、夏目怜司の後姿だった。
見る限り、城田と夏目は互いに気がついていないようだ。
城田はスキンヘッドの男と連れ立っているようだし、夏目は何やらニヤニヤと幸福そうな笑みを隠しきれないでいるようだ。
「ぉおーい、城田クン、夏目クン」
 片手を持ち上げて横に振ってみせるが、二人はやはり気がついていない。
そうこうしている内に、熱気はさらにヒートアップする。
「福袋の販売を行います!」
 デパートの店員らしき若い男がそう宣言するのと同時に、会場の空気は一気に渦を巻いた。
迫力に圧倒され、一瞬呆気にとられた倉田だが、しかし次の時には、拳を固く握り締めていた。
「負けないゾー!」
 ガッツをとって、熱気渦巻く戦場へと身を躍らせた。


「な、なんだこれはぁ!」
 橋掛の口をついてそう言葉が出たのも、無理のない話だ。
福袋を求める手、手、手。手がぬうといくつも突き出てきて、どの手も我先にとばかり袋を求めている。
歩いてもいないのに押し出され、流される。超のつく満員電車だったらこうだろうかと思えるほどの人の流れだ。
買い手は主に中年女性で、袋を一つ取った者がいればそれを奪う者が現れ、さらにその隙をみて割りこんでくる者もいる。
「せ、戦地かよ」
 胸の下あたりで繰り広げられている争奪戦に、橋掛はある意味感嘆ともいえる嘆息を――つく暇もない。
「せ、センセー、センセー」
 自分の前にいる城田に目を落とす。
見れば、城田は――城田のその目は、戦地に立つ男のそれになっていた。
ぎらぎらと照り、確実に獲物を狙う、獣にも似た眼光だ。
その城田の手が、ぬうと伸びて、魔物の巣窟の中にある、一つの袋に指をかける。
口許には、勝利を確信した笑みさえ浮かんでいた。

 ひしめきあう女性達の波に紛れ、夏目はゆっくりと、確実に袋の傍まで近付いていた。
なんとか手を伸ばして、福袋の一つに手をかけようとした、その時。
「む、むう。なんだこの混雑は! ええい、そこをどけ! どかないか!」
 背後から迫る低い声に、夏目は思わず振り向いた。
見れば、とてもじゃないがこの場には不釣合いないでたちをした男が、必死の形相で人ごみの中を漕いでいる。
真黒な軍服に身を包み、軍帽のズレもそのままに、男はなおも人ごみをかきわけようとしている。
「……」
 男の、ある種の異様さに驚きながらも、夏目はふと視界に飛びこんだ一人の男に目をとめた。
「倉田さん?」
 夏目の斜め後ろ、少し離れた場所で身じろぎしていたのは、顔見知りの倉田堅人だった。
倉田は夏目の声に気がつくと人懐こい笑みを浮かべて手を振る。
そうしている倉田の横を、軍服の男は、やはり必死に進んでいく。
あり得ないくらいの混雑をかいくぐり、男が前へ前へと進んでいくのを見届けながら、倉田と夏目がむうと唸った。
「あの男……」
 夏目が眉をひそませて呟いた。
「よっぽど福袋が欲しいんですね。すごいガッツだ!」
 倉田が賞賛を述べた。
見る間に前列へと進んでいった軍服の男は、押し出された中年女性達の罵倒など気にかける様子もなく、目指す福袋に手を伸ばしている。
「いや、倉田さん。俺は今彼が呟いていた言葉を聞いたのです、がッ!」
 どすん、と中年女性の肘が夏目の腹にぶつかった。
「はぁ?」
 夏目の言葉に耳を傾けつつも、倉田は、同時に聞こえてきた内側からの声を聞いた。
『堅人、妖気がするぞ、気をつけい!』
 内側からの声――それはすなわち、倉田の内に居る辰之真の声である。
「あー、辰之真は何言ってるんだか。うーむ、私も彼に負けず、ガッツを見せよう!」
 奇妙なライバル心が倉田の心を掴む。
「く、倉田さん、彼はさっき」
 夏目が何事かを告げようとしているが、その声は客の喧騒にかき消され、倉田の耳に届かない。
倉田は軍服の男に引けをとらない勢いで前列へと歩み出て、男の姿を確かめる。
男は前列まで出て来たはいいが、最後の攻防戦で難儀しているようだった。
「よーし、これで福袋をゲットだ!」
 手近にあった袋に手をかけようとしたその時、同時のタイミングで横からぬうと腕が突出してきた。
「ちょ、ちょっと、そこの人。これは私が先に」
 言い放ち、同じ袋を掴んでいる腕の主を確かめる。
「んー?」
 それは強面にスキンヘッドといういでたちの男だった。
熱気のために脱いだのだろうか。上着を着ておらず、むきだしになった屈強な腕には、びっしりとタトゥーが施されている。
 うわ、やばい。呟きそうになった倉田だったが、スキンヘッドの男は思いがけず穏やかに笑い、握っていた袋を手放した。
「すまん、気がつかなかった」
 笑ってそう返し、違う袋に手を伸ばす。
「橋掛君、福袋は手にしたのかい?」
 男の向こうから顔を覗かせた城田が、倉田に気付いて、澄んだ水底のような瞳を緩ませた。
「倉田君じゃないか。偶然だねェ」
「城田クン! するとこちらは」
「挨拶はいいから、ひとまず移動しようぜ、センセー。さっきから肘鉄とかさんざんくらってんだよ」
 橋掛が二人の会話を遮断した。

 三人が混雑から抜けて会計を済ませた頃、追いかけるように夏目が走り寄ってきた。
手には福袋を抱え持っている。
「夏目君まで。これは本当に偶然だなあ」
 城田が満足そうに頷いた。
「橋掛君、こちら夏目君に倉田君。ちょっとした顔なじみでね」
 狙い通りの福袋を手に入れた城田は、心の底から機嫌よさげに、夏目と倉田を橋掛に紹介する。
「さっきはどうも」
 ニコやかな笑みを浮かべ、倉田が橋掛に片手を伸ばす。
橋掛は快くそれに応じ、びっしりとタトゥーが彫りこまれた腕を伸ばし、握手した。
「それはそうと、城田さん。先ほどすれ違った男が、妙な事を口走っていたのですが」
 橋掛は続いて夏目にも握手を求め、夏目はそれに応じた後、声をひそませ眉根を寄せた。
「先ほどの男とは――――」
 城田が言葉を返した時、福袋販売の終了を告げる、店員の声が響き渡った。
「おや、販売が終了したようですね」
 倉田がのんきにそう告げて、福袋を買い損ねてしまった人々を悠然と見まわす。
その中でひときわ目立つ軍服の男に目をとめて、倉田は思い出したように言葉を続けた。
「そういえばあの彼。彼、あんなに必死だったのに、買いそびれてしまったんですねェ」
「いや、違うんだ、倉田さん」
 夏目が言葉を返す。
「――――事件かい、夏目君」 
 城田の目に静かな光が宿る。
「彼はすれ違いざまに、こう言っていた……その福袋の中の一つは、大当たりなのだと」
「大当たり!」
 城田と倉田の顔が同時に輝いた。
「素晴らしいじゃないか、夏目君。それは大問題だ。今年の福袋は例年とは趣向が違うのだね、全く知らなかったよ!」
 声を弾ませ、城田はさっそく買ったばかりの袋に手をかける。
「こんな場所で開くなよ、センセー。みっともねェ」
 橋掛が城田の動きを制しようとするのと同時に、低く太い男の声が一同を制した。
「待て! 不用意に開けるな!」
 声の主はあの軍服の男であった。軍服の男は自分を見つめる四人の男の視線を知ると、背筋を正して敬礼した。
影山と名乗った男は、おもむろに城田が持つ福袋へと手を伸ばし、むんずとそれを握り締める。
「きみ、影山君。これはわたしの福袋だよ。大当たりがあるとは知らなかったが、きみが買い損ねたのはきみの責任だろう」
 城田が負けじと袋を引く。 
「あんなに必死だったんだ、気持ちもわからなくもないが……」
 倉田が同情の視線を向けた。
「ち、違うッ! 私が言う『大当たり』というのは、」
 影山が懸命に袋を引っ張った、その拍子に、袋は派手な音をたてて真っ二つに割れ、破けた。

 途端、辺りを静寂が支配した。
影山は「むう」と低く唸り、夏目は目の前に姿をあらわしたその生き物を、その目で確と見据えている。
「影山さんが言っていた『大当たり』とは、どうやらあれのことだったようですね」
 夏目が小さく呟いた。
「ああ、そうだな。俺らが思っていた大当たりとは、てんで違う『当たり』だったな」
 橋掛が小さく頷きながら、ちらりと城田に目を向ける。
城田は破けた袋の端を握り締めたまま、呆然とした表情で固まっている。
狙い、確実に手に入れた福袋が、目の前で無残にも引き裂かれたのだ。
しかも中にいたのは、城田の一年分の私服ではなく、
「ばけものであったな」
 ぬらりと歩みを進めたのは倉田である。――しかし、否。倉田はすでに辰之真と入れ替わっていた。
倉田の姿をした辰之真は五人の前に進み出て、手近にあった金属製の手すりへと指をかける。

 そこに現れたのは、形の定まらない顔と、大きな鉤爪を持った、一匹の怪物だった。
五人が集まっていたのがフロアの端――非常口階段の傍であったのが幸いしたか。
怪物は、五人に囲まれるような形で立っていた。
「――――餌を得るために渡り歩く『空鬼』と呼ばれる怪物だ。日頃は一ヶ所に定住しない性質だが、彼奴はここ数日この辺りを根城として宿り、不運な者を捕えて食らっておったのだ」
 影山はそう言いながら、脇にさした軍刀に手をかける。
「鬼、か。――堅人め、拙者の言葉を無視しおって。妖気がたちこめておると申したであろう」
 辰之真が言葉を返す。
彼の手の内には、手すりが姿を変えた一振りの刀が握り締められている。
「あんまり良くねエ奴なのかい?」
 橋掛が形の良い頭を撫で上げた。
「人を屠り食らうやつだ」
 影山が頷く。

 ようやく、客達が事態に気付き、甲高い声を張り上げた。

「……わたしの苦労を無駄にした、その責務は重いよ」
 ゆらりと立ちあがった城田の手の中には、二丁の銃が握り締められている。
ゆっくりと持ち上げたその顔に、その目に、浮かんでいたその鈍い輝きは――――
「ラボ・コートのおでましだ」
 小さな嘆息と共に笑みをこぼした橋掛の腕のタトゥーから、わずかに血が滲んでいた。

 客の絶叫は伝染し、瞬く間にフロア全体が恐怖に包まれた。
一番手近な場所にいた店員が、腰を抜かしてその場に座りこんでいる。
怪物はその店員を目掛けて飛び跳ねた。
跳躍するさいに、怪物はその足で壁をとらえ、大きく蹴り上げた。
壁はその衝撃で大きく崩れ、ひときわ大きな塊が、橋掛の頭をめがけ、崩れ落ちた。
避ける間がない。下敷きになる――――!
腕を突き出して壁を支えようとした橋掛だったが、降ってきたのは、数匹の奇妙な生物。
壁が手足をはやし、生命をもったかのように見えるその生物は、橋掛を直撃するより前に、忙しく走りまわって去っていった。
「……これは」
 見れば、そこにいたのは影山だった。
影山は崩れ落ちてきた壁に手を触れて、一時的に『生命』を与えたのだ。
「与えた時間はひとときだ。間もなく勝手に止まるだろう」
 軍帽を指で正しながら、影山は呟くようにぼそりと告げた。

 大きく跳躍し、その場を後にしようとした怪物だったが、その動きは先に回りこんでいた夏目によって遮断された。
「思いがけない騒ぎになったようだが……市民は守る。人助けもする。大事な息子との約束も当然果たす。それでこそ男ってもんだろ?」
 ふと笑い、振り上げられた怪物の片腕に指を伸ばす。
夏目が触れた箇所はたちどころに粉砕され、一粒のかけらさえも残さず消えていく。
怪物は咆哮とも哄笑ともとれる絶叫をあげて、大きく退いた。
しかしそこに待っていたのは、辰之真。
辰之真の気配に気付き、振り向いた怪物の首に、ぬらぬらと光る切先がピタリと寄せられる。
「逃がしはせぬ」
 不用となった眼鏡の奥で、鋭利な眼光が怪物を見とめた。
「……不本意ではあるが、元は私がしでかした失態だ」
 影山が大きく踏みこむ。
その手が握り締めている軍刀が、怪物の頭に触れて止まった。
 動きを制された怪物の咆哮が、フロアの空気を震わせる。
それに震撼したのか、あるいはパニックになったゆえなのか、一人の中年女性が、パニックに乗じて迷子になっていたらしい子供にぶつかり、転ばせた。
女はそのまま走り去っていったようだったが、現状への恐怖と、転んだ事の痛みに、子供は火がついたように泣き出した。
その子供の泣き声に、夏目と辰之真が反応する。
「わきに目を向けるな!」
 影山が叫んだが、遅かった。怪物はその場から逃げ出し、その子供を目掛けて飛びかかっていたのだ。
「――――!」
 場が凍りつく。
しかしその子供は無傷のまま、きょとんとした顔で目の前に現れた二人の男を見上げた。
一人は、橋掛。橋掛は怪物の攻撃を両腕で受けていた。
橋掛を襲った威力は黒い刃に姿を変えて、威力をそのまま怪物へと返していた。
両腕のタトゥーからは血が溢れ、ポタポタと床に伝い落ちていく。
怪物の空っぽの目が恐怖を示した時、その眼孔の中に、二丁の銃が突きつけられた。
「わたしの心が味わった空虚を、そのまま味わうがいい」
 言い放ち、ひきがねに指をかける。

 声にならない叫びと、数発の銃声。
同時に、怪物の体は三本の切先によって貫かれた。
のたうちまわるその怪物に近付いたのは、目の色を赤に変容させた夏目だ。
夏目は恐怖に怯える子供に目を向けた後、ゆっくりと手を伸べた。
「細胞のかけらも残さず、消してやろう」



 トゥルルル トゥルルル カチャ
「あ、パパだよー。……ん? ちゃんと買ったとも。菓子の福袋だろう? パパが約束を破るわけがないじゃないか」
 携帯で会話をしている夏目の目尻は、だらしなく下がりきっている。
その横では、倉田が、羨ましそうに夏目の横顔を眺めている。
「いいなあ、夏目クン。まあもっとも、私もお土産用に買ったのだけれどもね!」
 倉田はうきうきとそう告げて、下げ持った二つの福袋に目をやった。
そこには『シェフのお薦め! 豪華菓子詰め合わせ』と書かれた福袋が揺れている。

「だからセンセー、決着はつけたんだから、それでよしとしようや」
「いいや、おさまらないね。きみ達が揃いも揃って福袋を手にしているというのに、わたしが手にしていないというのは、まったくもって理解にかける」
「いや、ほら、影山だって持ってねぇだろうが」
 荒れる城田を宥めつつ、橋掛は影山を指差した。
「むう、人を指差すとは、礼儀を知らぬらしいな」
 影山が憮然と言い放つ。
「いいや、やはりおさまらないね。ここは酒でも奢ってもらわないと割にあわない」
 城田はそう告げ、コートの内ポケットにしのばせている二丁の銃に手をかける。
「さもないと、この銀座を爆破してやるぞ」
 その目は、心底本気だという意思を浮かべている。
「ラボ・コート……」
 大袈裟に肩でため息をつく橋掛に、倉田が明るく笑ってみせた。
「どうだろう、これから新年会なんていうのは。かの争奪戦も切り抜けたわけだしね!」
「賛成です。こうして偶然顔を合わせたのも縁だろうし、乾杯しに行きましょう」
 携帯電話をポケットにしまいつつ、夏目が深く頷いた。
「当然きみの奢りだろう? 橋掛君」
 ラボ・コートが、橋掛の肩を軽く叩く。
「仕方ねエ、奢ってやるよ。ってことだから、あんたも行くだろう? 影山」
 冬空の下では寒い頭を撫でながら、橋掛は立ち去ろうとしていた影山の名前を呼んだ。
名前を呼ばれた影山は意外そうな顔をしたが、すぐに迷惑そうな表情を浮かべ、首を横に振ろうとした。
が、「きみは今回の事件の責任者のような者だろう」というラボ・コートの言葉によって、見事に引き止められた。
「俺がマジックをお見せしますよ」
 城田の言葉を継ぐ形で夏目が笑う。
夏目の指がパチンと鳴ると、宙から数枚のカードがばらばらと落ちてきた。
仕掛けの見当たらないマジックに、影山もわずかに目を見張る。
「まあまあ。あんたらも、巻き込まれちまった同士、今夜は落ち着いて過ごそうや」
 橋掛が場をまとめた。
 ラボ・コートは城田に戻り、どの店に席を設けようかと思案している。
「ちょうどいい! 夏目クンのところのお子さんはいくつだったかな? 私の子供は――」
 

 こうして五人の男達は、薄く暮れていく元日の空の下、酒の席を設けるために、ぞろぞろと連れ立って去っていくのであった。 

 

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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★あけましておめでとうPCパーティノベル★┗━┛゜

【2585 / 城田・京一 / 男性 / 44歳 / 医師】


【1503 / 橋掛・惇 / 男性 / 37歳 / 彫師】
【1553 / 夏目・怜司 / 男性 / 27歳 / 開業医】
【1996 / 影山・軍司郎 / 男性 / 113歳 / タクシー運転手】
【2498 / 倉田・堅人 / 男性 / 33歳 / 会社員】

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■         ライター通信          ■
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主発注をくださいました城田様、ご発注ありがとうございました。
城田様以外の四名様には、初めまして。ご発注ありがとうございました。
今回このパーティノベルを手掛けさせていただきました、高遠一馬と申します。

えー、何から書きましょう。
プレイングを見て笑ったのは、今回が初めての経験でした。皆様個性的です(笑
そういった部分を存分に反映させようと心掛けつつ、書かせていただきました。
少しでもそれが適っていればよいのですけれども。

皆様とても個性的で、書き手としてはひどく書き易く、なおかつ楽しく書かせていただけました。
良い経験をさせていただきました。ありがとうございます。

PCの相関などを考慮させていただきましたが、PCの関係、口調、その他、
行き届かない点がありましたら、どうぞ遠慮なくお申しつけください。
このノベルが、皆様に少しでも楽しんでいただければ、光栄です。
今回はありがとうございました。
あけましておめでとうパーティノベル・2005 -
エム・リー クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年01月06日

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