▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『北風と私 』
ジョセフ・マクレガー1454

 そして、俺は日本の地に降り立った。
 美しき女神の国、日本。スチュワーデスのお姉さん方は微妙なラインだが…まぁ、良いだろう。きっと、素晴らしき国であるはず。
 それはさておき、俺の名はジョセフ・マクレガー。
 「黄金の夜明け」団系列の分派「銀の星社」の魔術師だ。東洋密教を取り入れるべく、研究旅行にやってきたが……さすがにジャパンは美しい。
 灰色の空は冬だから仕方ないとして、この空気は格別だな。
 俺は思いっきり深く吸い込んだ。

 ブロロロロッ! パッパー! ブシュぅ〜〜!

「がはごほげへッ!!」
「ばっきゃーろー! 何処見歩いてやがる、爺さん!」
(「じ、爺さん??」)
 トラックの排気ガスを吸ってしまった俺は運転手の方を見た。…が、もう相手はこっちを見てはおらず、さっさとトラックを走らせ始めている。
「おいッ! 爺さんとは何だ!! 俺はまだ、29歳…」
 俺の主張は虚しく、相手はとうの昔に走り去っていった。
(「くそお……」)
 多分、日本では見慣れぬ銀髪だったせいだろう。俺はじいさんでも何でもないのだが、相手が誤解したまま去ったのなら、如何な魔術師とて証明のしようもない。俺は仕方なく諦め、観光ツアーを続けることにした。
 千葉とか言う土地に空港があったのだが、まずは雷門とか言う観光スポット&寺に言ってみることにし、電車に乗って都心部へと向かう。ガイドブック片手に歩く俺に街の人々は親切にしてくれた。
―― ありがたい…(胸きゅぅん☆)
 しかし、この時そんな俺の気の緩みが事件の発端を呼び込む形になってしまったのだった。
 参道を歩けば仲見世が続き、正月詣でにでてきた人々に押され、道を俺は進む。人形焼と煎餅屋の店に気を取られていた隙に人がぶつかってきた。
「おっ?」
「あ…すみません! 大丈夫ですか?」
「いや…俺は大丈夫だが……」
「お兄さん、日本語上手いね〜♪」
「そうか?」
 ぶつかってきた男は親しげに笑いかけてくる。先ほど『爺さん』とトラックの運転手に言われただけにその言葉が何となく嬉しかった。
 それがいけなかったのだ!!(拳)考えても遅く、その男はしきりに謝って去って行った。俺は気分良く道を行き、さっきから気になってきた人形焼屋に近付いていく。そして、注文した所で重要な事に気がついた。
「日本のお菓子か…買ってみよう」
「まいど〜♪」
「…………はッ! さ…財布が……」
 全財産が入った財布が忽然と、まるで魔法のように消えていたのだ。
 店の人間が怪訝そうにこっちを見ている。
(「恥ずかしい…ひっじょぉぉぉぉに、今…俺は恥ずかちぃ!!」)
 ここは俺のセンスで切り抜けなければ、怪しい外人一号として警察に連行されてしまう。日本の警察の検挙率というのは凄まじいらしいからな、うん。
 卓越したジャパニーズワードマジックで店員を翻弄だ!…というわけで、お約束の言葉を店員に投げた。
「OH! 両替スルノ忘レテマシタ☆ 此処ハ、とらべらーずちぇっくハOKデ〜スカ??」
「は?」
 嘘っぽいカタコトだが、この際はOK。さっきまでの流暢な日本語は心の中でオールスルーだ。そんなことは、心の中に棚を作って押し込めて、コンクリート詰めにして捨ててしまおう。
「デハ、きゃっしゅかーどハ使エマスカ?」
 にっこり好感度1000パーセント笑顔で言う俺。
「仕方ないなぁ…こんな仲見世じゃ、カードなんか使えないよ」
「OH、残念ネ! Byebye〜♪」
 かなり焦りながら、俺はその場を去っていこうとする。
 駄菓子菓子!!
 悪いことは続くもので、パスポートの入った旅行バッグを引ったくりに奪われてしまった。
「OH! Come Bag、me〜〜!」
 泣きっ面に蜂状態な俺はおやじギャグなことを言いながら、そいつを追いかける。縺れる脚を通行人の脚に引っ掛け、数人を巻き添えにして転んでしまった。ひたすら謝ってその場を逃げ出し、全財産とバッグを奪われた俺は、途方に暮れて街中をさまよい歩いている。
(「もう、ダメかもしれない……」)
「みゃう♪」
「ぬ?」
「みゅ〜う〜♪」
 屈辱感に苛まれている俺を癒すかのような、あの声が…あの愛らしい「みゅう♪」と言う声が聞こえてくるではないか。
 俺は必死になってあたりを見回した。もしかしたら、変態おじさんが愛らしい少女の声を雑踏100デシベル(うるせーよ)の中に見出したかのような顔に見えたかもしれない。
 そんなこたぁ〜どうだっていい。今、俺は愛に飢えている。ふと見れば、三毛猫の赤ん坊達が民家の窓辺で戯れているではないか。
 ユーはショック! 1GBショック!
(「可愛い〜〜〜(ラヴ)」)
 実はこのジョセフ・マクレガー。無類の猫好きのジョセフで通っている(なんやそら;)
(「せめて心を癒してくれぇ!(悶々)」)
 そのもふもふした毛皮と笑顔と処女のようなピンクの肉球で俺を慰めて貰おうと、俺は民家の窓辺に近付いた。怪しい者ではアリマセン、決して。
 言い訳ぶっこいて近付いていくと、彼女らの足元に見える小さなプラカップにシーチキンらしいものが見えた。多分、猫缶の中身だろう。

 ぐ〜ぎゅるるる〜〜☆

(「あうっ(泣)」)
「そーいや…昼ご飯食うてへん……」
 朝、ホテルを出てから何も食べていなかったことを思い出し、すきっ腹を俺は擦った。
「なあなあ…それを俺に分けてくれないか?」
 御歳29歳のイギリス人青年が窓辺に張り付いて猫缶を強請る。そんな怪しい状況を考えもせず、俺は何度となく強請った。
「ちょっと…ちょっとでいいから、お嬢さーん!」
「みゃう?」
「なあなあ…猫缶分けてくれよ」
「みゃ〜う〜♪」
 猫たちは楽しげに前足をフリフリしている。
「あぁッ! 肉球乱舞〜〜〜〜♪ ち、違うって…。…あぁ、言葉通じへん」
 踊る肉球に見惚れていれば、親猫の登場に俺は気がついていなかった。
「お?」
 やっと気がついて俺が振り返れば、そこに不機嫌な面構えの親猫が睨んでいた。表情からすると「ウチの猫(こ)に何の用よ!」…と言ったところか。
「餌、分けてくれ」
 そういうと、親猫は「馬鹿言ってんじゃないわよ、消えな」といった目つきで睨みあげる。こうなったら仕方ない。背に腹は変えられぬ。長年鍛えてきたこの高等魔術でこの場は凌ぐしかない。
 俺が構えると親猫のほうも飛びかかろうと前傾姿勢になる。
 この一瞬が勝負だろう。
「みぎゃ〜〜〜〜〜!!!!!!」
 交差する俺と親猫。
「あぁ、やっぱり肉球可愛い〜〜♪」
「ふぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!! ふぁっぎゃー!!!!」
「しまった、肉球に見蕩れ…あだっ! あいてててっ!! 痛てー!」
 乱れ肉球爪斬百烈拳を食らった俺は、顔を抑えてへたり込んだ。すとっと地面に降り立った親猫は「おとといきやがれ」と言った感じに睨んでいる。
 敗北者の俺はふらりと立ち上がった。

――愛らしい赤ん坊猫ちゃんたちよ…こんな俺を見ないでくれ。こんな恥辱プレイには耐え切れない。おじちゃん…恥ずかちぃからっ♪ あうぅ…(涙)

 謎の思考のまま俺は歩き始める。
「マツ●ンサンバが身にしみる季節。異国は……寒いな……」
 でっかい夕日を背に、俺はあてどなく街を彷徨う。
 きっといつか、この日本でキューティーな猫ちゃんとパラダイスGOGOな日々を夢見て。


■END■

P・S… でも、その前にご飯が食べたいなっと♪
PCシチュエーションノベル(シングル) -
皆瀬七々海 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年01月06日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.