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『little angle 』
紅月・双葉3747

☆−Fall−☆

 一年に一度。
 天使達は地上に祝福をもたらす。
 人々はその日を、クリスマスと呼ぶ。

 世界中に数え切れないほど存在する教会。その1つ1つに天使たちは舞い降りる。
 この街外れの小さな教会にも、例外なく天使は来るのだ。
 その身体に似つかわしくないほどの大きな翼を羽ばたかせ、彼らは地上に降りる。舞い散る白い羽根は雪になって地上を白く彩り、時に雪に混じる羽根を手に入れ特別な祝福を与える。
 教会に訪れる人々に等しく祝福をもたらす日。それは、この小さな天使にも同じだった。
 祝福をもたらし天へと帰る。
 それだけのはずなのに―――…
『何……!?』
 見えないはずの彼を無数のカラスが取り囲む。
『止めて!』
 襲い掛かるカラスの嘴が、彼の身体や羽根を傷つける。
 彼は翼を羽ばたかせ、団子状態のカラスの群れから飛びぬけた。何とか逃げなくてはいけない。
『…ぁう!』
 背中に鈍痛を感じて、彼の意識は白濁として、力の抜けた翼が羽ばたくのを止める。
 彼の身体はそのまま地上へと落ちていった。

☆−Encounter−☆

 師が呪具を製作している関係上、クリスマスに使用される祭器を届けるために、紅月・双葉は地図を片手に知り合いの教会へと歩を進めていた。
 程よく冷えた空気が、吐息を白く染める。顔を上げ、混じりけの無い絵の具をこぼしたような真っ青の空を見つめる。
 雪が降っても幻想的だが、ここまでキレイな空を覗かせているクリスマスも、またいい。
(……?)
 済んだ風が、聖なる気配を運び込む。
 人や動物とは違う、大聖堂で祈りを捧げている時に感じる清廉された心を感じられたときに出会う空気と同じ。双葉は何か胸騒ぎを感じて、風に導かれるままに路地を曲がっていく。
 ふと心に生まれた胸騒ぎの先の路地に、散らばる白い羽根の上に光に映えるふわふわの髪の6歳くらいの年の頃の少年が倒れていた。
 双葉は少年に駆け寄ると、最初の自分の考えが間違いだった事に気付く。
 少年は散らばる白い羽根の上に倒れているのではなく、少年の背から白い翼が生え仰向けに倒れていたのだと。
 双葉が知っている背に翼を付けている者は、天使しかない。
 天使と同じ容姿の少年を抱き起こすと、口元に耳を当て息を確かめる。
「大丈夫ですか?」
 双葉の声に反応するように、薄っすらと瞳を開けた少年は、
『だぁれ…?僕が、見えるの……?』
「はい、見えていますよ。大丈夫ですか?」
『……ぅん』
 ところどころ煤汚れた背中に白い翼を持った少年。
 双葉はクリスマスという今日の日に出会った少年に、何か運命を感じずにはいられなかった。
「おや…」
 少年は小さな手でぎゅっと双葉の服を掴んで、また意識を失ってしまっているようだった。
 抱き起こした少年と自分が影に包まれる。双葉は顔を上げると、綺麗だと思っていた空に不釣合いなカラスが数羽、二人の上を旋回していた。



 ところどころに傷を作った天使を、癒しの波動で癒していくと、背の翼が本物である事に気が付く。
「痛む所はありませんか?」
 自分が見つけられなかった部分に傷があってはいけないと問いかけると、天使はじっと双葉を見詰めていた瞳を一瞬大きくして、勢いよく首を振った。
『あの、助けてくださってありがとうございました。えと、お兄さんは、どうして僕が見えるの?僕の事誰にも見えないはずなのに』
 驚きに彩られてた瞳で双葉を見上げ、やはり少年とも少女ともつかない高めの声を口に乗せる。
「どうしてでしょうね。もしかしたら、私が神父だからかもしれませんね」
などと答えて笑いかけると、少年は納得したように頷いた。
「さぁ天使様。空から落ちられて、どうされたのですか?」
『カラスに襲われて、落ちちゃいました。僕ティアラって言います!未来を司る天使ティアイエル』
 照れたように微笑んで、声を弾ませて双葉に名前を告げるティアラ。
「私は、紅月双葉と申します。ティアラ様」
『さ…様なんて、僕はそんな高位な天使じゃないです!』
 未来を司っているのならば、天使としての地位は高位でなくても人の身であれば敬意を払うに値する。それでも様を付ける事を頑なに断るティアラに、双葉は苦笑しつつ「分かりました」と答えたのだった。

☆−Protection−☆

 教会に行かなければならないというティアラの手を引いて、双葉は道を歩く。一人で行くと言ったが、また例のカラスに襲われるかもしれないと思ったし、双葉もティアラが向かおうとしてる教会へ祭器を届けなければいけなかったので、丁度いいとばかりに一緒に教会へ行く事にした。
『僕たちは、毎年この日に教会へ祝福を届けるの』
「では、私が所属している教会にも天使様が訪れているのでしょうか?」
 双葉の質問に、ティアラはニッコリと微笑んで頷くと、
『そうだよ。双葉の教会にも、誰かが行っているはずだよ』
 ミサは毎年行われているはずなのに、今ティアラを目の前にするまで気が付かなかったとは、まだまだ自分も未熟なのだと思う。
『やっぱり僕って、まだまだ未熟なのかも』
 人に姿を見られちゃったし、と照れたように微笑んだ。
 教会へ向かう道すがら、ティアラと同じような聖なる気を発しながらも、どこか淀んだ気配に双葉は瞳を細め、立ち止まる。
『ティ〜ア〜ラ〜〜〜!!』
 すると、どこか舌足らずな高めの少女の声が響いてきた。双葉はすっと顔を空へと向けると、カラスが数羽、真正面から飛びぬけていった。
「誰ですか?」
 声のトーンからしてやはり子供。ティアラと同じような天使は子供が多いのだろうか。
 カラスの羽根に包まれながらも顔を上げると、ティアラと同じくらいの年のころの黒い翼を持った少女がこちらを見下ろしていた。
『サ…サリー!?』
 どうやら、ティアラはあの黒い翼の天使の正体を知っているらしい。
 先ほどのカラスが彼女から発せられたものならば、ティアラを守らなくてはいけない。
『退いてよ、おじさん!!バカティアラ!絶対、教会になんか行かせないんだから!!』
「……!?」
 確かに、28歳と言えばもうおじさんの歳かも知れない。だが、幾年生きてきたのか分からない天使におじさんとは言わる事は多少心外だと思いつつ、この目の前の天使たちの容姿は小学校上がるか上がらないか程度なのだから、自分はやっぱりおじさんなのだろうと切なくも納得してしまう。
 ティアラがサリーと呼んだ少女が叫ぶと同時に、その背後から無数のカラスが襲いかかる。
 双葉は思わずティアラを庇う様に抱きしめた。
 殺傷性を増したそのカラスは、ティアラを庇う双葉の背中に鋭い切り傷を付けていく。
『双葉!背中が!止めて!!』
 大きく抱きしめてくれる双葉。
「ぁぐっ……」
 一度受けた傷の上を抉るようにカラスが駆け抜ける。
 ティアラは自分を庇う双葉の腕からもがく様に抜け出すと、サリーを睨みつけ両手を広げた。
「ティアラ!?」
『いい心がけだわ!今日さえ動けなければいいんですもの!!』
 バサリと彼女の黒い翼が大きく開かれ、その翼から放たれたカラスがティアラを包み込む。
「止めなさい……」
『ふ…双葉??』
 身体を押さえ込んでその場に座り込んでいたティアラが双葉を見上げる。
 ゆらりと立ち上がった双葉を中心として、冷たい空気が渦を巻いた。



『ごめんなさい…』
 頭にばってんバンソーコーをつけるようなギャグっぷりを披露して、ふて腐れている少女天使。
 双葉の足元で正座させられているサリーこと黒い天使・サリエル。双葉の記憶が正しければサリエルとは最高位の天使にして、邪眼の使い手であり、堕天使としてもその名を連ねている。正直本当の所は定かではないが。
 見た目は少女天使のサリーを前にして女性が苦手な双葉が平気でいられるのも、きっと本質的には性別と言うものが存在していないからだろう。
 双葉は先ほどティアラが受けた傷を、癒しの波動で消していく。見た目ほど深い傷ではなかったらしく、傷跡は綺麗に消す事が出来た。
「サリエル様は、どうしてティアラを襲ったんですか?」
 謝りはしたが完全に気を許していないサリーは、そんな双葉にぷいっと顔を背ける。
 ふぅっとため息を付いてサリーを見ていると、双葉の背後から声が掛かる。
『ごめんね…サリー…』
 口を開いたのは、ティアラだった。
 その言葉を聴いた瞬間、サリーの瞳からぶわっと涙がこぼれ出る。
『謝らないでよぉ!今日が終わった後に出会うティアラはもうティアラじゃないんだからぁ!!』
 天使は死なないから、傷つけて動けなくしても、祝福を与えに行かせたくなかった。
 クリスマスに祝福を与える天使は、新しく生まれ変わる。
「サリエル様にも、今日祝福を与える教会があるのではないのですか?」
 ぽろぽろと涙を流しながら、サリーがぼそりと呟く。
『私は、堕天使になっちゃったもの。祝福なんて…与えられるわけないじゃない』
 なぜ堕天使が天使に逢う事が出来るのだろうか。聖書の通りならば、堕天使は天界を追放された存在のはず。二人が出会う事などありえない。
「堕天使が天使の邪魔をするのは道理…なのでしょうか」
 その言葉にサリーはばっと顔を上げると、双葉を睨みつけ叫んだ。
『違う!!ティアラは…人の未来に祝福を与えたら、生まれ変わっちゃうん…だもの……そんなの、私……』
 あふれ出る涙を拭おうとせずに、ただ泣いているサリーに堕天使と天使という種族の境を越えた絆を感じて、双葉はサリーの前に膝を付き、その顔を真正面から見据えると柔らかく微笑みかける。
「貴方はティアラが大好きなんですね」
 双葉の言葉に、ティアラは一瞬瞳を大きくすると、真正面からきっと双葉を睨みつけた。
『誰も気が付かないのに、誰も知らないのに…!!』
 サリーは双葉を睨みつけると、背中の翼をバサっと広げる。
『ティアラなんか勝手に祝福を与えて勝手に生まれ変わっちゃえばいいのよぉ!』
 飛び上がり、そんな捨て台詞を残してサリーは空へと飛び去っていく。
『早く…教会に、行かなくちゃ』
 そう呟いてティアラは双葉を見上げると「服、ダメになっちゃったね」と微笑んだのだった。
 道すがらポツリポツリとティアラは話す。
 未来への祝福を与える事で全ての力を使い果たし、また生まれなおす『ティアイエル』と言う天使。
 双葉は思う。
 人間は罪深い、この小さな天使が祝福を与えるに値するだけの価値が…本当にあるのだろうか、と……
『僕たち天使は、人の思いで生まれるモノだから、双葉がそんな顔する必要…ないよ?』
 知らずに眉間に皺がよっていたらしい。ティアラに言われるまで気が付かなかった。
 双葉は肩をすくめ苦笑を浮かべると、また空を見上げたのだった。

☆−Blessing−☆

 やはりサリーが帰ってしまった後から、ティアラの顔に明らかに元気が無い。
 双葉はティアラの手を引いて教会の扉の前に来たものの、ティアラの足はそこでぴたりと止まってしまった。
「どうされましたか、ティアラ?」
 見下ろしたティアラが泣きそうに双葉を見上げる。
「さぁ、この先にはあなたの祝福を待っている人がたくさん居ますよ」
 双葉はティアラの背と同じくらいになるように膝を着くと、
「例え、誰もティアラが祝福を与えていることを知らなくても、私は知っています。命がある限り、ティアラは私の…彼女と私の中で行き続ける事ができます」
『双葉…』
 不安げに見上げていた顔に決意の色を浮かべて、ティアラは双葉に笑いかけた。
 その笑顔を答えとして、双葉は教会の扉を開ける。
(!?)
 風など一切吹いていないのに、教会の中から暖かい風が双葉の髪を吹き上げた。
一瞬の光に眼を細めると、教会の中へ引き込まれるようにティアラの身体が浮かび上がる。

 教会の中から聞こえる賛美歌。
 それに乗るようにティアラの歌声が響く。
 教会いっぱいに大きく広がる翼。

 大きく広がったティアラの翼から落ちる純白の羽根が、光となって教会中に蛍の光のように広がっていく。
 この光が見えているのは自分だけなのかもしれない。
 その姿さえも光の粒子に変えて、ティアラは振り返る。
「……っ!」
 振り返ったティアラの微笑みの穏やかさ。
 この時ティアラが空の階で遊ぶ可愛らしい天使などではなく、受胎告知などの絵画に残る重厚な天使に見えた。
『ありがとう双葉。貴方の未来に祝福があらん事を!』
「お元気で、ティアラ」
 双葉は笑顔を浮かべ、あえて『元気で』という言葉を口にした。
 ティアラはその言葉に一瞬瞳を大きくしたが、その姿に見合うような無邪気な笑顔でニッコリと微笑み返す。
 それは、聖なる日クリスマスに起きた奇跡。
 教会に振る光の中に身を投じると、双葉の前に一枚の雪のように真っ白な羽根が一枚舞い降りた。




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★   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ★
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【3747 / 紅月・双葉 (こうづき・ふたば) / 男性 / 28歳 / 神父(元エクソシスト)】


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■         ライター通信          ■
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 こんにちは初めましてクリスマス限定little angleにご参加くださりありがとうございました。ライターの紺碧でございます。本当はバトルでもしてもらおうかと思っていたのですが、やはりクリスマス商品でありますしクリスマスの日は何処の国も争いを止めると言うことで、あえてバトル描写は省略させて頂きました。
 双葉様は神父と言う事で、正直激しく書きやすかったです。ですが、神父様という職が好きなだけで、知識に乏しい僕にはかなりの難産でした。とくに堕天使と分かってまで様をつけるかどうかという所が。結局ごまかしてしまいました(苦笑)

 それでは、また双葉様に会える事を祈って……
クリスマス・聖なる夜の物語2004 -
紺藤 碧 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年01月06日

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