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『年明けのセンチメンタル 』
海原・みその1388

 人間にとっては、家族水入らず…と言うのも大切な事なのだと思います。

 ただ、わたくしや末の妹の場合は…普通、とは少し事情が違います。なのでその辺りはいまいちわかり難いと言うのも確かなのですが…普通の人間、はきっとそうなのだと思います。
 ですから、今年の大晦日は真ん中の妹に、家族だけで過ごしてもらいたい、と考え、わたくしと末の妹は、相談の上で別々に過ごす事に致しました。

 …それは、大晦日に妹たちと過ごすと言うのならば何か別の事を考えもしますが。
 そうでないとなれば。
 する事はわたくしにとって当然とも言える事だけになります。



 当然、する事。

 …それは、程度の差は幾らかあるとは言え、毎年の事でもあります。
 年が変わる時には、わたくしが仕える御方の『眠り』も、自然、浅くなってしまう事が多いのです。
 深淵の巫女としての役割は、御方を深い眠りから目覚めさせないようにする事――ですから。
 その時ばかりは、わたくしや他の深淵の巫女総勢で、御方の眠りを保つ必要が出てきます。
 行われるのは御方との夜伽と封印強化の儀式。
 深淵の巫女は大晦日に向け一日以上の時間を掛けて、身心共に清め、飾り立て――御方に失礼の無いよう、身嗜みを整えます。
 その間、他の巫女たちと装飾や衣裳等で色々張り合う事もありますが――あまり、そちらにばかり気を遣ってもいられない事も確かで。
 そんな風に張り合う間にも刻々と、御方の眠りが浅くなって行くのが感じられますから。
 …勿論、どの巫女にとっても御方が最優先です。
 ですから、張り合うよりも御方の好まれるよう、慰められるように、最後には皆で協力し合うような形になる訳です。

 準備が整えられると儀式が始まり、年越しの夜伽が始められます。
 代わる代わる、巫女たちが御方を宥めます。
 無論、わたくしもその中に居ります。
 けれど――御方も、今宵ばかりは、通常よりも抑えが利かないようで。

 …それは、具体的には人様に申し上げる事ではありませんが、『激しかった』…とだけは言えます、わね。
 珍しくこのわたくしの、頬が紅潮している気もします。

 今日の御方は、眠りが浅くなっているだけはありました。



 ともあれ、これが済めば…年越しのおつとめはひとまずおしまいです。
 …そうなると、する事がありません。
 深淵の巫女たちは各々、深い眠りについたばかりの御方を刺激しないよう気を付けつつ、ただ、時を過ごすのみ。そして新年明け暫くは、夜伽などは行われません。
 おつとめの後の休養と言えば聞こえは良いですが、それは暇、とも言い換えられます。
 少なくともわたくしは――そう思ってしまいました。
 今までは――“陸”での事を知るまでは、そんな風に思う事など、無かったと言うのに。

 …他の巫女たちと共に、そんな暇を持て余している中――どうにも心が別の場所に向かってしまうのは、わたくしの気のせいなのでしょうか。
 わたくしは、何を置いても、御方が一番の筈なのに。
 深淵の巫女は、それだけで満たされていれば良い筈なのに。

『人間』に害され過ぎた…のでしょうか。
 今まではずっと、寂しさのようなものなど少しも、一度も感じた事など無いのに。
 ただ、当然の事として、続けてきた事なのに。
 御方さえ居れば、寂しいなどと思う事は無い筈なのに。

 …妹たちは今この時を、どんな風に過ごしているのでしょうか。
 気になっている自分が居ます。

 真ん中の妹は家族水入らず、楽しんでいるでしょうか?
 末の妹はこの年末年始、どんなお遊びをしているでしょう?

 以前のわたくしは、“陸”の者の事など、これ程気に留める事など無かったと言うのに。
 …可笑しい、ですわね。
 自然、口許に笑みが浮かぶのは何故でしょう。
“陸”の事を思ってしまう自分を、否定したくありません。

 そうですわね。
 …落ち着いた頃にでもまた“陸”へ――妹たちのところへ伺ってみましょうか。

【了】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2005年01月06日

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