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『little angle 』
チリュウ・ミカ(w3c964)

☆−Fall−☆

 一年に一度。
 天使達は地上に祝福をもたらす。
 人々はその日を、クリスマスと呼ぶ。

 世界中に数え切れないほど存在する教会。その1つ1つに天使たちは舞い降りる。
 この街外れの小さな教会にも、例外なく天使は来るのだ。
 その身体に似つかわしくないほどの大きな翼を羽ばたかせ、彼らは地上に降りる。舞い散る白い羽根は雪になって地上を白く彩り、時に雪に混じる羽根を手に入れ特別な祝福を与える。
 教会に訪れる人々に等しく祝福をもたらす日。それは、この小さな天使にも同じだった。
 祝福をもたらし天へと帰る。
 それだけのはずなのに―――…
『何……!?』
 見えないはずの彼を無数のカラスが取り囲む。
『止めて!』
 襲い掛かるカラスの嘴が、彼の身体や羽根を傷つける。
 彼は翼を羽ばたかせ、団子状態のカラスの群れから飛びぬけた。何とか逃げなくてはいけない。
『…ぁう!』
 背中に鈍痛を感じて、彼の意識は白濁として、力の抜けた翼が羽ばたくのを止める。
 彼の身体はそのまま地上へと落ちていった。

☆−Encounter−☆

 長い髪を束ねることもせず、チリュウ・ミカはパートナーでもある逢魔がやりたいとせがんだクリスマスパーティの買出しの為に街に繰り出した。
 キリスト教でもない自分が、どうして今や敵でもある天使を崇めるような宗教のお祝いをしなければいけないのだ。
 無宗教国家として名高い日本にとって、クリスマスやバレンタインなどの記念日は今や宗教的なものではなく、一種のイベント毎として位置づけられている。どうせ、大勢や大切な人たちと食べたり飲んだりプレゼントを交換したりと思い思いの事を「クリスマスだから」と理由をつけて騒ぐ日だ。
 後は、小さな逢魔にプレゼントでも買って帰ろうと道を一本外れた路地へと足を進める。
 確か、記憶が正しければこの辺りに可愛い雑貨の店があったはずだ。
 買い物袋を脇に下げ道を歩く。

―――ドシャッ!!

 不思議な衝突音に、ミカはふと足を止める。
「……?」
 今、目の前を何かが通り過ぎ、足元に落ちた。
 ミカはゆっくりと視線を足元に移動させる。
 足元に倒れているのは、東京を占拠したあの神の使途と名乗る自分達魔皇の敵、神帝軍の天使達と同じ背に翼を持った少年。
「天使…!?神帝軍か!?」
 ミカはバッと顔を上げ、敵の姿を確認しようと感覚を研ぎ澄ませる。
 だが、空には絵の具をこぼしたような青空に、不釣合いに飛ぶカラスだけだった。
 この天使以外の敵は見当たらない。
 ミカは視線を天使に戻すと、足元の天使は所々に傷を作り、背の翼も煤汚れている。怪我をしていようとも天使である事に変わりは無い、だが……
「お前、大丈夫か?」
 年端も行かないこの目の前の少年天使が、家で待っている逢魔の面影と被り、ミカは天使の傍らに屈みこむと、思わず声をかけていた。
 ミカの声に反応して、天使は薄っすらと瞳を開き、
『だぁれ…?僕が、見えるの……?』
「あぁ、見えている。大丈夫か?」
『……ぅん』
 力なく頷いた天使は開いた瞳をまたゆっくりと閉じていく。逢魔よりもまた小さい天使を、ミカはそっと抱き上げる。
「ん?」
 天使は小さな手でぎゅっとミカの服を掴んで、また意識を失ってしまっているようだった。



「お前は、何者だ?」
 眼を覚ました天使にミカは問いかける。もし、神帝軍の天使ならば倒さなくてはいけない。
『僕は、未来を司る天使…ティアイエル』
 ティアラって呼んでください。と、屈託の無い笑顔で付け加えた天使に、ミカは顎に手を当て思案顔でティアラを見つめる。
「神帝軍の天使じゃないのか?」
『神帝軍?』
 ティアラは首をかしげ、ミカを見上げる。
『あの、助けてくださってありがとうございました。えと、お姉さんは、どうして僕が見えるの?僕の事誰にも見えないはずなのに』
 突然の質問に、ミカはきょとんと瞳を大きくして一瞬戸惑う。
 人の眼に見えない天使?
 首を傾げつつも、とりあえずは、名乗られたのだから名乗るのが礼儀だろう。
「ティアラだったな。わたしはチリュウ・ミカ」

☆−Protection−☆

『僕たちは、毎年この日に教会へ祝福を届けるの』
 教会に行かなければならないというティアラの手を引いて、ミカは道を歩く。一人で行くと言ったが、またあのカラスに襲われるかもしれないと思い、一度関ってしまったら途中で放棄することも躊躇われ、ティアラと一緒に目的地へ向かう。
 ティアラ達天使はクリスマスの日に教会へ訪れる人々に祝福を与える事が仕事だという。
「教会に居る者だけに祝福を与えるのか?」
 ミカの質問に、ティアラはニッコリと微笑むと、
『僕たち天使は、僕たちを信じる人の思いの結晶。だから、教会以外では意味が無いんだ』
 今のティアラの言葉は、まったくキリスト教も信じていない自分にティアラが見える理由に疑問を持たせた。
 答えが出ないまま、思案にあけくれつつ歩を進めていると、
『ティ〜ア〜ラ〜〜〜!!』
 どこか舌足らずな高めの少女の声が響いてきた。どこからの声かとミカは辺りを見回すと、カラスが数羽、真正面から飛びぬけていった。
「誰だ!?」
 声のトーンからしてやはり子供。ティアラと同じような天使は子供が多いのだろうか。
 カラスの羽根に包まれながらも顔を上げると、ティアラと同じくらいの年のころの黒い翼を持った少女がこちらを見下ろしていた。
『サ…サリー!?』
 どうやら、ティアラはあの黒い翼の天使の正体を知っているらしい。
「お前は…神帝軍か?ならば、容赦はしない……」
『意味分っかんない、おばさん!!バカティアラ!絶対、教会になんか行かせないんだから!!』
「お…おば……」
 確かに、齢28歳職場でもお局様予備軍となっていた自分だ。こんな見た目子供の天使たちから言わせれば、おばさんなのかもしれない。だが、幾年生きてきたのか分からない天使におばさんとは言われたくない。
 ティアラがサリーと呼んだ少女が叫ぶと同時に、その背後から無数のカラスが襲いかかる。
 問答無用の攻撃に、ミカは瞳を吊り上げるとその背にティアラを庇って、額に魔皇の証である紋章を輝かせた。



 見た目は壮絶だが、内容はある意味滑稽だった。
『ごめんなさい…』
 サリーは魔皇の力を受けたにも関らず、頭にばってんバンソーコーをつけるようなギャグっぷりを披露して、ふて腐れている。
ミカの足元で正座させられているサリーこと黒い天使・サリエル。彼女もティアラと同じような天使らしい。だが、こちらは天から堕ちた堕天使。
 ミカの咄嗟の転機でなんとか二人は無傷で済んだものの、彼女を見下ろしているミカとサリーの間でおろおろと成り行きをただ見つめているティアラ。
「お前は、どうしてティアラを襲ってきた?」
 謝りはしたが完全に気を許していないサリーは、ミカの言葉に頬を膨らませただ睨みつける。
「まだ、懲りていないようだな」
 すぅっとミカが瞳を細めると、また額に輝く黒の魔皇の紋章。
 びくっと、サリーはその身をすくませた。
『ミカ…』
 ティアラはくいくいっとミカの袖が引っ張って、首を振る。
『ごめんね…サリー…』
ミカの横で、ティアラは俯き言葉を紡ぐ。
 その言葉を聴いた瞬間、サリーの瞳からぶわっと涙がこぼれ出た。
『謝らないでよぉ!今日が終わった後に出会うティアラはもうティアラじゃないんだからぁ!!』
 天使は死なないから、傷つけて動けなくしても、祝福を与えに行かせたくなかった。
 あぁ、そうか、クリスマスに祝福を与える天使は、新しく生まれ変わるのか。
「わたしに、お前達天使の世界の事は分からないが、役目を全うすることが出来なかった天使は、この先どうなるんだ?」
 役目を全うできなかった天使は、ただ消えるのみ。サリーもそれを知らないはずないのに。
 ミカの質問に、言葉を無くしていたティアラと、泣き崩れていたサリーが顔を上げる。
「お前には役目がないのか?」
 教会に等しく天使が舞い降りるなら、この黒い翼の天使にも何か役目があるはずだ。なのに、自分の役目をほったらかしにしてここに居る、ミカにとっては矛盾の天使。
『私は、堕天使だもの…役目なんて、ないわ…』
「お前は役目のあるティアラが羨ましかったのか?」
『違う…!!私は……』
 ぐっと口ごもり、またそっぽを向くサリーに、ミカは屈みむと、その姿を真正面から見つめた。そして、天使と言う存在であれど、同じ女なのだという事を悟る。そんなミカにそっぽを向いているサリーの顔からはぼろぼろと涙が溢れている。
『だって…ティアラは…人の未来に祝福を与えたら、生まれ変わっちゃうん…だもの……』
 あふれ出る涙を拭おうとせずに、ただ泣いているサリーを見て、ミカはその顔に笑顔を浮かべる。
「サリーはティアラが大好きなんだな」
 ミカの言葉に、ティアラは一瞬瞳を大きくすると、真正面からきっとミカを睨みつけた。
『誰も気が付かないのに、誰も知らないのに…!!』
 サリーはミカを睨みつけたまま、背中の翼をバサっと広げる。
『ティアラなんか勝手に祝福を与えて勝手に生まれ変わっちゃえばいいのよぉ!』
 飛び上がり、そんな捨て台詞を残してサリーは空へと飛び去っていく。
 天使という存在で、ミカの眼にはどうしても小さな子供にしか見えなくとも、やはり少年と少女なのだという事。
 俯いているティアラにミカは振り返ると、
「悲しむことは無い、ティアラ。サリーはただ駄々をこねているだけ」
 消えてしまう、居なくなってしまう以上に悲しいことなんてほかに無い。
 頭で分かっていても、心が追いついてこなかっただけ。そんな頃が自分にもあったなと、ミカは苦笑を浮かべる。
「さぁ、行こうか」
 立ち上がり、ミカはその手を差し出した。
 道すがらポツリポツリとティアラは話す。
 未来への祝福を与える事で全ての力を使い果たし、また生まれなおす『ティアイエル』と言う天使。
 ミカは思う。
 人間は罪深い。この小さな天使が祝福を与えるに値するだけの価値が…本当にあるのだろうか、と……
『言ったでしょう?僕たち天使は、人の思いで生まれるモノだから、ミカがそんな顔する必要…ないよ?』
 知らずに眉間に皺がよっていたらしい。ティアラに言われるまで気が付かなかった。
 ミカは肩をすくめ苦笑を浮かべると、また空を見上げたのだった。

☆−Blessing−☆

 やはりサリーが帰ってしまった後から、明らかにティアラの顔に元気が無い。
ミカはティアラの手を引いて教会の扉の前に来たものの、ティアラの足はそこでぴたりと止まってしまった。
「ティアラは、後悔しているのか?」
 サリーと一緒に行かなかった事を。
 見下ろしたティアラの首が左右に振られる。
「ティアラは確かにわたしの敵である神帝軍とは違う」
『ミカ…?』
「例え、本当は同じであったとしても、ティアラの祝福を必要としてる人がいる。お前はお前の使命を果たすんだ」
 不安げに見上げていた顔に決意の色を浮かべて、ティアラはミカに笑いかけた。
その笑顔を答えとして、ティアラの背を押すと、ミカは教会の扉を開けた。
(!?)
 風など一切吹いていないのに、教会の中から暖かい風がミカの髪を吹き上げる。
一瞬の光に眼を細めると、教会の中へ引き込まれるようにティアラの身体が浮かび上がる。

 教会の中から聞こえる賛美歌。
 それに乗るようにティアラの歌声が響く。
 教会いっぱいに大きく広がる翼。

 大きく広がったティアラの翼から落ちる純白の羽根が、光となって教会中に蛍の光のように広がっていく。
 この光が見えているのは自分だけなのかもしれない。
 その姿さえも光の粒子に変えて、ティアラは振り返る。
「……っ!」
 振り返ったティアラの微笑みの穏やかさ。
 この時初めてティアラが受胎告知などの絵画に残る重厚な天使に見えた。
『ありがとうミカ。貴女の未来に祝福があらん事を!』
「元気で、ティアラ」
 ミカは笑顔を浮かべ、あえて『元気で』という言葉を口にした。
 ティアラはその言葉に一瞬瞳を大きくしたが、その姿に見合うような無邪気な笑顔でニッコリと微笑み返す。
 それは、聖なる日クリスマスに起きた奇跡。
 そっと教会の扉に背を向けると、ミカの前に一枚の雪のように真っ白な羽根が一枚舞い降りた。




★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


【w3c964maoh / チリュウ・ミカ / 女性 / 28歳 】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは初めましてクリスマス限定little angleにご参加くださりありがとうございました。ライターの紺碧でございます。本当はバトルでもしてもらおうかと思っていたのですが、やはりクリスマス商品でありますしクリスマスの日は何処の国も争いを止めると言うことで、あえてバトル描写は省略させて頂きました。
 ミカ様はプレイングからとてもクールなPCだというイメージを持ったのですが、天使は敵でも子供には弱いよう思えたので多少クール感が拭えていれば…などと、画策したのですが、上手くいってないような気もします(苦笑)

 それでは、今後のアクスディアの世界で、またミカ様に出会える事を祈りつつ……
クリスマス・聖なる夜の物語2004 -
紺藤 碧 クリエイターズルームへ
神魔創世記 アクスディアEXceed
2005年01月05日

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