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『☆幸せの贈り物☆ 』
来生・一義3179

 
★オープニング

 12月25日・・。
 聖なる日とされるその日、空から一つ星が流れた。
 流れ星・・。
 星が地平線に落ちた時、一人の女の子が“幸せの贈り物”をするべく降り立った。
 名前はベル。
 7か8くらいの容姿の彼女は、空を仰ぎ見ると深呼吸をした。
 彼女の目的は人々の願いを叶える事。
 「あたしだって、やる時はやるんだからっ。」
 そう一つ叫ぶと、ポシェットからキラキラと七色に光る砂を取り出した。
 それをぱっとその場にまくと、彼女は姿を消した・・・。

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 ドスン!と、表に何かが落ちたような感じがして思わずドアをひき開けた。
 そこには小さな可愛らしい女の子が涙目で尻餅をついている。
 「あぁっ、ここの住民さんですかっ!?」
 “・・そうですが、あなたは・・?”
 「私、ベルって言います!はい、これ名紙ですっ!」
 手渡された名紙には“幸せの贈り物宅配人、ベル”と黄色のペンで書かれている。
 ・・・なんだか怪しい・・。
 「あ〜、その顔、信じてないですね!?本当ですよ〜。それで、何か願い事を言っていただけますか?」
 “・・願い事と言われても・・。”
 「今日1日限りの幸せの魔法です。明日になれば解けてしまうけれども・・なにか、お願い事、ありませんか・・?」
 ベルはそう言うと、ウルウルとした瞳を向けてきた。
 ・・仕方がない。本当かどうかは怪しいが、お願い事をしてみるか・・・。


☆来生 一義

 来生 一義は、瞳を潤ませながら見上げるベルの顔をマジマジと見つめた後にゆっくりと言葉を紡いだ。
 「・・随分痛そうですが・・お怪我はありませんか・・?」
 ベルの顔が、くしゃりと歪む。
 先ほど聞こえてきた音は、きっとベルが落ちてきた音なのだろう。どれほどの高さから落下してきたのかは分らないが・・この涙目からしてかなり痛そうだ。
 「大丈夫です・・。ちょっと、失敗しちゃって・・。」
 ベルは、ニッコリと一義に向かって微笑んだ。
 それが例え空元気だとしても、笑えるだけの余裕はあると言う事だ・・。
 「そうですね・・。もし、本当に願いが叶うなら、一日だけでも私の方向音痴をなおして頂けませんか?」
 「方向音痴・・ですか・・?」
 「そうです。生前も今も、弟の案内がないと何処にもいけませんし、散歩がしたくても面倒をかけると思うといい出せなくて・・一度だけでも一人で街を歩けるようになりたいんです。」
 真剣なお願いに、ベルはじっと顔を見つめた。
 一義は、顔の表情を緩めると口の端を僅かばかり上げた。
 「クリスマスの賑やかな町と、楽しそうな人の顔を眺めながらゆっくり散歩して・・それから、私が生前通っていた会社をもう一度見に行きたいんです。幽霊ですから、気付かれる事も無いでしょうし、仲の良かった同期の連中が、元気に仕事をしている所を見られれば良いんです。」
 そこまで言うと、一義は言葉を切った。
 そしてややあってから困ったうに顔を傾けて、ベルの瞳を覗き込んだ。
 「こんな願いでも、叶えて貰えますか?」
 「こんな願いだなんて!とんでもない!本当に、そんな事で良いんですか・・?」
 「はい。私にとってはとても素敵な事ですから・・。」
 ベルが、キラキラと微笑む。
 「こういう願いなら、喜んでお引き受けします!」
 ベルはそう言うと、ポシェットから七色に輝く砂を取り出して一義にかけた。
 一瞬だけ目の前が真っ白になったかと思うと・・ベルの姿はなくなっていた。
 これで、もう方向音痴がなおっているのだろうか・・?
 何も変わっていない気がするが・・。
 一義は、半信半疑のまま・・クリスマスムード一色に染まる町へと繰り出して行った。


★変わらぬ町並み

 一義はまず最初に、繁華街へと繰り出した。
 赤と緑に染め上げられた店の看板。
 ツリーには綿が白くかぶさり、クリスマスらしさを漂わせている。
 この道を・・一義は弟の十四朗と共に歩いた事を思い出していた。
 とんでもない方向音痴の一義は、十四朗がいないと何処にも行けないほどだった。
 一人で道を歩くのは久しぶりだった。それこそ、この姿になってからは散歩などほとんどしていない。
 道に迷うからだ。
 生きている時ならいざ知らず・・この姿になってしまっては迷った場合、家に帰るまでに何年かかるか分らないからだ。
 一義は、フラリとあてもなく歩いた。
 笑顔を浮かべる人々。
 恋人と、友人と、家族と・・。
 ふっと、背後からなにかの視線を感じ・・振り返った。
 しかしそこにはなにもない。
 気のせいだったのか・・。
 一義は、首をひねりながらも街中を歩いた。
 ベランダに飾られる、ポインセチアの葉・・シクラメンの花・・大きなクリスマスツリー、その上で輝く大きな星・・。
 一義はクリスマスの町を満喫した後で、自分が以前勤めていた会社の方に向かって歩き始めた。
 ・・・少し歩いて、一義は異変に気がついた。
 道が分かるのだ。
 そう・・次の道を左に行けば大きなファミレスがある。右に行けば郵便局・・。
 全てばらばらだった場所が、道が、パズルをはめ込むかのように頭の中で合わさり、大きな一つの町として完成される。
 一義はよどみなく迷いのない足取りで以前勤めていた会社に着いた。
 そっと、会社の中に滑り込む・・。
 何も変わっていない会社の中。
 懐かしさのあまり、思わず立ち止まってマジマジと見つめる・・。
 すると、向こうから人がやってきた。
 見知った顔。同期で入った者の一人だ・・。
 その隣にいる者も知っている・・。
 2人とも平社員から部長になっている・・。
 胸に付けられた銀色のバッチが、蛍光灯の光にキラリと反射する。
 一義はなんだか寂しいような、嬉しいような気持ちでいっぱいになった。
 元気で仕事をして、いつの間にか部長になり・・あんなにも堂々とした雰囲気を出して・・。
 「それにしても、こう忙しい時になるとアイツの事思い出すよな・・。」
 「そうですね。彼がいてくれたら、どんなに助かった事か。」
 「あんなに優秀な人材・・若くして亡くなった事が悔やまれる。」
 「23だったよな・・。あれから11年も立つんだなぁ。」
 自分の事を言っているのだと、一義はそこで気がついた。
 「本当、いてくれたらなぁ・・。来生のやつ・・。」
 2人は、湿っぽくそう言うと、去って行ってしまった。
 一義が亡くなった今でも、同期の者達は覚えていてくれた・・。しかも、今でも必要としてくれていた・・。
 何か温かものが胸の中にあふれ出し、一義は思わず微笑んだ。
 そして、しばらくその場で会社を眺めた後で・・そっと後にした。
 会社から出た時、何故だかふわりと懐かしい気持ちを感じた。
 そう・・弟が直ぐ近くにいるような、そんな安心感。
 そうだ。早く帰らないと心配するかも知れない。また迷っているのかと思われて探されたのでは大変だ・・。
 一義は、組み立てあがったパズル通りに道を進んだ・・・。


☆開かれたドア

 家の扉の脇に、ベルが体育座りでちょこんと地べたに座っているのが見えた。
 こんな寒い中・・。
 一義は慌てて駆け寄ると、ベルの頬に手を当てた。
 すり抜けはしなかった・・。変わりに、冷たい温度が伝わってくる・・。
 「中に入って待っていてくだされば・・。」
 「いいえ、大丈夫です。それよりも、一義様の喜ぶ顔が早く見たくって・・・。」
 ベルはそう言うと、ニッコリと笑った。
 「その魔法、今日の12時までは有効ですよ。」
 「でも、もう見たいものも見れましたし・・。」
 「それじゃぁ、魔法を解いても良いですか?」
 ベルの言葉に一義は頷いた。
 ポシェットから七色に輝く砂を取り出すと、一義にかけた。
 白い光があふれ出し・・目を閉じた。
 開いたそこにベルの姿はなかった。
 ただ、揺らめきながら声だけが一義の耳に聞こえてくる・・。

 『メリークリスマス』

 一義は、少しだけ目を閉じてその声に耳を済ませた後でぽつりと呟いた。

 『ありがとうございました・・。メリークリスマス。』

 「兄貴、何処行ってたんだよ。」
 突然背後から声がかかった。
 十四朗だ・・。いつも通りボサボサの頭と、汚いシャツ・・。
 「散歩だ。迷わずに、一人でな。」
 「うそだろ、おい・・。ちょっと、その話詳しく聞かせろよ。」
 十四朗が驚いたように言いながら、部屋のドアを開けた。
 大きく開かれたそこを、チョイチョイと指で指し示し、中に入れと合図を送る。
 「中で、じっくり詳しく聞こうじゃねぇか。」
 「良いだろう・・。」
 一義はすっと部屋の中に入ると、まずどこから話そうかと考え始めた。
 十四朗は、部屋のドアを閉めると・・鍵をかけた・・・。

  〈END〉

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 ★   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ★
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

3179/来生 一義/男性/23歳/色々な意味でうるさい幽霊

0883/来生 十四朗/男性/28歳/三流雑誌「週刊民衆」記者

  *受注順になっております

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 ■         ライター通信          ■
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 この度は『幸せの贈り物』にご参加ありがとう御座いました!
 ライターの宮瀬です。
 今回は兄弟ものと言う事で・・見守る弟と見守られる兄と言う2つの視点から分けて書いております。
 なので、2つを足して1つの作品になるようになっております。

 来生 一義様

 初めまして、この度はご参加ありがとう御座います。
 方向音痴をなおすと言う事でしたが・・如何でしょうか?
 プレイングにお書きくださったことは全て組み込みましたが・・。
 もしお時間がありましたら、対の十四朗様の文章を合わせてお読みください。
 お気に召されれば嬉しく思います。

 それでは、またどこかでお逢いしました時はよろしくお願いいたします。



クリスマス・聖なる夜の物語2004 -
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東京怪談
2004年12月29日

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