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『 A Contest! 』
鈴森・鎮2320)&鈴森・転(2328)

 その日、鈴森 転(すずもり うたた)は疲れていた。
 鎌鼬三兄弟の壱番手であり、人間としては某ゲーム会社の在宅社員…業務内容はMMORPGのゲームマスター…である彼はここ最近、幾つかのトラブルとバグ、それに年末進行の忙しさに翻弄され、珍しく会社と家の行ったりきたりを繰り返していた。
 会議室では喧喧囂囂、家に帰れば目が痛くなるまでパソコンに向き合い…ほとんど睡眠を取れていない状態が続くこと一週間。
 いくら多少人間より丈夫とは言っても流石にそれだけ眠っていなければ眠気と疲れで指は震えるし、足はふらつく。
 ふらつく足でどうにか家へと辿り着いた彼は久方振りに身体を伸ばすべく、お気に入りの寛ぎポイントへと足を向けた。
 そう、ようやく仕事を一段落させた彼は寛ぐことを許されたわけである。
 寛ぐといえば、彼には最近これしかない、と言うお気に入りがあった。
 それは『ちぐら』である。
 あまり聞きなれない単語ではあるが、『猫ちぐら』と言えば思い当たる方もいるだろうか?
 新潟県関川村の特産物として有名なそれは、もともと彼の地方の方言で『ゆりかご』を意味する。
 材料は良質の国産藁100%、一本一本手作りで編んだ紐を組み合わせて編み上げて作られるため、一つとして同じ形のものはない。
 夏は涼しく、冬は暖かく居心地がいいのが特徴の、ようするに高級ペットベッドである。
 普通のものだと鼬形態では全長50センチ程もある転には少々手狭な為、ボーナスを叩いて特注で購入したそれはそれでも転には少々小さめで。
 だがしかし、それがまた良かった。
 身体にぴったりジャストフィット、最高の寛ぎ空間なのである。
 古い記憶を呼び起こさせるような懐かしいイグサの香り、さらさらの手触り、何よりもそのみっちり感。
「はぁ…」
 ちぐらの中で惰眠を貪る夢を思い描きつつ、大きな溜息と共にちぐらの置かれているリビングへと繋がる扉を開いた転はその場に立ち竦んだ。
「………」
 何故ならそこにはお気に入りのちぐらだけではなく、一つの尻尾があったからである。
 真新しいちぐらからはみ出しているのは小さな小さな三男の尻尾。
「……………」
 こちとら徹夜明けだというのに人様のベッドで何勝手に寛いでんだと言うところ。
 怒りを抑えて歩み寄り、そーっと覗いてみると、中には鼬形態の弟、鈴森 鎮(すずもり しず)と、おそらく彼が持ち込んだのであろう大量のカラフルなお菓子の包みが投げ散らかされていた。
 中身が入っているものも、いないものもある…開いているものは中身が零れているものさえ。
 その中心でお菓子の食べかすを口元につけたままの全長20センチ程の小さな鼬は、それはそれは幸せそうにすいよすいよと寝息を立てている。
「…鎮。」
 手を掛けて揺するものの、鼬が動く気配はない。
「……鎮。」
 揺すっても、揺すっても。
「…………鎮!」
 すいよすいよと言う規則的な寝息が揺らぐ気配はない。
「……………」
 疲労と睡眠不足で非常に短くなっていた普段どちらかと言えば温厚な兄の堪忍袋の緒が切れるまでにそれ程の時間はかからなかった。
 彼はたまたま近くに落ちていた風呂敷を手に取るとばさっと音を立ててちぐらへと押し被せた。
 四つ端を掴む、持ち上げる。
「!?」
 中で何かごそりと動いたが当然気にしない。
 兄はそのまま、ぶんっと勢いをつけてその長身で風呂敷包みを振り回し始めた。
 何を考えていたのか、それはおそらく本人さえもわからない。
 疲労と睡眠不足のなしたナチュラルハイ状態?
「うぎゃあぁぁあぁぁぁぁっ」
 ぐるんぐるんぐるんぐるん振り回す振り回す振り回す振り回す…風呂敷包みの中から聞こえる絶叫。
 ぐるぐるは、その悲鳴が途切れるまで続けられた。
「……………」
 ぽとり。
 暫くの後、ちぐらが地に落とされる。
 兄は鼬の形態へと姿を変えると、目を回しててろりと伸びている弟を引きずり出すとどすどすと足音も荒く…といっても身体が小さい野生動物、たいした足音はしないのだが…ちぐらへと頭を突っ込んだ。
「………(怒。」
 中は甘いお菓子の匂いに満ちている。
 ざりざりするお菓子の欠片だの、ゴミだのを乱暴に掻き出して自身の身体を納め終わるとほぅと溜息を吐いた。
 …やっと眠れる。
 だがそう思ったのは甘かったかもしれない。
 ぽーいと掻き出されて目を回していた鎮が我に返ったからである。
「……にゃ、にゃにが…」
 くるくる回る視界、揺れる頭を押さえて辺りを見回した鎮の目に入ったのは、先ほどまで自分が寝ていた居心地のいいちぐらにみっしり詰まった兄の姿。
「…………」
 何が起こったかはわからない。
 ただわかっているのは、自分が目を回して床に伸びていたのも、暖かくて居心地のいいちぐらから叩き出されたのも全て兄の仕業だと言うことである。
「ってめえぇぇっ!何しやがんだコノヤロウっ、俺が先に寝てたんだぞっ!」
「…………」
 聞こえているのかいないのか、転からの返答はない。
「きーけーッ!」
 げしっとそのてっぷりした尻にキック。
「…コレはもともと僕のちぐらでしょう」
「聞こえてんじゃねーかっ、俺が先に使ってたんだぞっ、使われるのが嫌ならしまっときゃいいだろーがッ!大体言えば退いてやるのに引きずり出すたあどーゆー了見だッ!」
 眠っていたところを叩き起こされたお陰で弟のご機嫌も斜め。
「起こしたけど起きなかったでしょう!」
「あんなの起したっていわねえっ、振り回す前に一言だなぁ…」
「かけましたよっ」
「かけてねえっ!」
「かけましたッ!」
 ちぐらの中から聞こえるくぐもった声に、鎮はギーッと高い鼬の鳴き声を上げた。
 爪を引っかけ、ちぐらにみっしり詰まった兄を引っ張る。
「出ぇろーッ!」
「離しなさいッ、僕は眠いんですッ!」
 ちぐらを巡る、仁義無き争いはまだまだ収まりそうにない。


     *              *              *


 数時間後、いつもの通り肉体労働から帰宅した鎌鼬兄弟次男が見たものは。
 何が起こったのか荒れ放題散れ放題の部屋と、兄一匹でもみっちりサイズの猫ちぐらに並んで上半身を突っ込んでぐったりとタレている兄と弟、二匹の鼬のてっぷりとした大小のお尻だった。
「…なんだぁ?」
 ただいま二匹、爆睡中…お疲れ様。

                                 −END−
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
結城 翔 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年12月29日

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