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『□■□■ Fantastic Fantasia -夢幻想夜曲- ■□■□ 』
ロキ(w3b613)



――小人達が組み立てた
――広場の全てを異世界に
――小人達が組み立てた
――僕らの町を異世界に

「おいでませお嬢様、いらっしゃいお坊ちゃま。
 旦那も貴婦人も皆おいで下さいな、いくらでも見てって下さいな。
 勿論見ているだけじゃなく、楽しんでくれりゃ最高さ。遊んでくれりゃ最高さ。

 俺達ジプシー、ボヘミアン。流浪している民なのさ。
 町にひっそり現れて、ひっそりこっそり遊園地。
 こんな見事な遊園地、絶対他では見られない。

 床下を駆け抜けるのを許してくれるのが料金。
 ちょっとつまみ食いを許してくれるのが駄賃。
 なんてったってこんなに小さい俺らだからね、
 そうでもしなきゃ暮らして行けない。

 夢を見てくれるのが料金。
 遊んでくれるのが駄賃。
 なんてったって幻想の住人だからね。
 そうでもしなきゃ消えちまう。

 さあさあ小人の遊園地、
 この町で開くのは今夜だけ。
 さあさあ楽しい遊園地、
 聖なる夜を遊んで過ごして。

 ここは楽しい移動遊園地。
 小さいけれどあなどれない。
 なんてったって遊園地。
 木馬も踊って誘ってる。

 ――――welcome to the "Fantastic Fantasia"!!」

■□■□■

「わっはー……遊園地遊園地ーっ!! ねね、ロキ、あれ乗ろうあれっ!」
「お、音和ちゃん、あんま走るとッ」
「うわたあぁっ!?」
「あー、やっぱりコケたっ!」

 入り口でのパペットショウにつられて入ったそこは、移動遊園地だった。一週間ほど前からやってくるという噂を聞いて目を付けて、その楽しそうな雰囲気に、ここならきっと彼女も気に入ってくれるだろうと思って。案の定はしゃぐ音和の様子に、ロキはへへっと笑みを漏らした。本当に、年上だとは思えないぐらい無邪気にするのだから、可愛くて仕方ない。
 町がクリスマスムード一色なのと同様に、遊園地の中にもそんな装飾が所々に見えていた。柵の上にポインセチアの鉢植え、リースの飾り付け。あまり馴染みのない行事だったけれど、お祭り好きの彼女は、自分の魔皇と一緒に喫茶店の飾り付けをしながら楽しんでいるらしい。

 笑っている彼女は好きだ、いつもより、可愛いから。
 音和は転びかけた所為で顔に掛かった前髪を払う。
 些細な仕種だって、可愛くて、好き。
 ……たくさんたくさん、好き。

「あははっ、なんかこういうの初めてかも! ねー、たま吉さんっ」
「いや、たま吉さんは喋んないって」
「むぅ、なんてったって上顎骨と下顎骨が離れてるもんね!」
「そういう問題でも無い気がする――いや、そもそも声帯とかそう言う問題が、って、音和ちゃん? どこ……」
「ねね、ピエロさん、フーセンちょーだいフーセンっ!」
「わー、先に行ってないでよっ!」

 元気すぎるんだから、と、ロキは苦笑を漏らす。ピエロから風船を二つも強奪してきた音和は、青い方をロキの手首に括り付けた。

「ね、こうすると無くさないでしょ?」
「音和ちゃん、自分のは飛んでるよ」
「はわぁあぁぁッ!」
「よ、っと」
「おー、シャンブロウすごい! 跳躍跳躍っ!」
「大人なんだか子供なんだか、だよねぇ……へへ、じゃあ音和ちゃんのは俺が括ったげるねっ」
「ん、あんがとね!」

■□■□■

 そう、それは戦にも似ているのかもしれない。
 武器を取り、目を眇め、精神を集中させる。
 感じるのは祖霊の鼓動――それが、感覚を伝える。戦場を制するための空気を伝える。
 そこにどんな音が満ちていようとも、心は静寂にして平穏。
 だから、何事にも、対処出来る。
 命の遣り取りにも。

 カッ、と音和は閉じていた眼を開ける。

「あーたたたたたたたたたたたた――――ッ!!」
「……音和ちゃん! もぐらたたきにムキにならないで、壊れるから、壊れるから!!」
「うっしゃー、ひゃーくてーん!」
「凄いけど煙出てるよ!!」
「細かいこと気にしちゃだめ! あ、景品にお菓子出て来たよ? ほらほら、ロキ、あーん?」
「んぐッお、音和ちゃんッ!!」

 口の中にチョコレートを突っ込んでやると、ロキは妙に慌てた様子を見せる。今日は少し様子がおかしいかな、と思いながら、音和は自分もキャラメルを口に含んだ。甘い味は好きだ、だって甘いから。甘いと幸せだから、お裾分け。
 ジェットコースターが頭上を走る、音和はベンチに腰を下ろした。骨が少し音を鳴らす。ぺしぺしと隣のスペースを叩けば、ひょいっとしなやかな動作でロキも座り込んだ。ぴこぴこと犬耳が忙しなく揺れているのは落ち着かないからだろうか、うーん、音和はチョコレートの包み紙をくるりと剥がしながら空を見上げる。冬の晴天はどこか冷たいイメージ。冴えた空は熱を溜め込まないと、自分の魔皇は言っていたのだっけ。

「ほらほらロキ、あーんして?」
「な、なんでさっきからチョコばっか?」
「甘いものは身体をあっためるんだよー? 今日は天気良いけど、ちょっと寒いでしょ? ロキは寒いの嫌いだから毛布にぐるぐるしてるんだーって聞いてるもん」
「ッだぁあぁ! お、音和ちゃんだってたま吉さん被ってるからあったかいだけで!」
「たま吉さんとは一心同体だもーんっ。ほらほら、あーん?」
「う、うぅ……あーん」
「……なんか、餌付けしてる気分だねっ? ロキ、お手〜っ!」
「しないからーッ!」

 頭上をもう一度ジェットコースターが過ぎていく、手首に括り付けられた風船と同じ赤い色のレーンが延びている。少し歩き回って疲れたけれど、こうやって座っているのも折角の一日が勿体無い。誘ってもらえたのだから、めいっぱいに楽しむのがお礼というものだろう。
 音和はぴょこんっと立ち上がる、また骨が軽く音を立てた。ぎゅぅっと握ったロキの手は暖かい、獣体温というやつだろうか。きっと自身の体温と外気の差がありすぎるから寒いのが苦手なのだろう――自分には、その体温がひどく心地良いのだけれど。

「んー、ていっ」
「ッお、と!?」
「あったまれあったまれー」

 むぎゅ、と無邪気に抱き付かれて、ロキは口をパクパクと開閉する。

「で、あったまったらジェットコースターね! 風当たって冷たいけど頑張って?」
「そ、それが目的……」
「ほへ? なんか項垂れてるよー、ロキ」
「き、気のせいだよ、きっと……」

■□■□■

 恋の一時間は孤独の千年だとか、ストーブに手を置いている一分間と可愛い女の子と話している一分間は天と地ほども違うとか。手首に括り付けられた風船の紐をくるくる遊びながら、ロキは下界を眺めていた。観覧車は巨大で、どうやって持ち運びや組み立てを行っているのだろうかと思ってしまう。だが、そんなことは考えず、純粋に楽しんでいる音和は――窓に張り付いていた。
 殲騎に乗っている時に眺める様子とはまた違う。こうやって、ただ遊びで眺めるのは、なんだか酷く平和で楽しいことのように思えた。平和な、一日。たまにはこうやってほのぼのとした時間を過ごしたって罰なんか当てられないだろう、きっと。

 だけど、心の中はドキドキと落ち着かなくて。
 密室の中に好きな子と一緒にいるのだから、それは半ば当たり前の事で。
 頬を上気させてはしゃいでいる彼女は、いつもよりもあどけなくて可愛いから。
 だから、本当は、もっと色々話しかけたいのだけれど、出来なくて。

 観覧車は頂点に差し掛かろうとしている。
 この瞬間にと、決めていた。
 この遊園地に来ようと決めた時に、それは、決めていた。
 だから、逃さずに。

「お、音和ちゃんっ」
「ん? どしたのロキ、あ、もしかして高いの怖いんだ?」
「ち、違うって! その――俺、は」

 かくん、とゴンドラが揺れる。
 風船が揺れて、二つが触れ合った。
 赤と青が、触れ合った。
 一番高い場所で、触れ合った。

「音和ちゃんが、好き――なん、だ」

 言葉に出したらきっと傷付くだろうことは分かっていた。自分が、敵わないことは判っていた。それでも言わずにいることが出来ないのは、好きすぎたから。もしかしたら自分が子供だったから。必死で自分を勇気付けて、言葉を発した。
 詰まってしまったけれど、その真剣さは通じたのだろう。彼女は目を丸くしている。少し幼い顔が、もっと幼く見える。許されるのなら、キスぐらい、したいのに。いつものように自制心を働かせて衝動に耐える、これ以上――傷付きたくはない、から。

 彼女は魔皇に忠誠を。
 自分はきっと、敵わない。
 判っていたけれど伝えたかった。
 伝えたくて、仕方なかった。

「ロ、キ?」
「音和ちゃん、は――どう、かな。俺のこと、そのッ」
「え、えっと」
「あ、やっぱいいッ! 急がないから、今すぐ返事とか難しいと思うから、だから、……だから」

 観覧車が下りていく。
 本当は怖かった、拒絶されるのが、拒否されるのが。ただ怖くてそれだけで、それ以上は何も無かったのかもしれない。言葉を交し合ってしまわなければ、宙吊りでも、今のままでいられる。言葉を返されさえしなければ、まだ、こうして、友達で。
 それも苦しいことだけれど、でも、傷付くのは――やっぱり、怖い。
 無言のゴンドラに、時々振動だけが伝わった。

■□■□■

 冬の夜は早い。すっかり暗くなってしまった道を歩きながら、音和は時々ちらりとロキを見ていた。
 観覧車の中で伝えられた言葉の半分も、きっと自分は判っていないだろうと思う。途切れ途切れの言葉、必死な表情、真っ赤な顔。そこに込められた思いとか、愛情とか、きっと、判り切る事は出来ていない。でも、だから返事が出来ないわけじゃない――きっと。

 自分の運命の相手は、魔皇なのだと思っていた。
 だけど、運命の相手と言うのは、必ずしも恋愛対象ではない。
 逢魔にも、自分の魔皇がすでに結婚しているとか、逢魔同士で恋仲になったとか、そういう話は聞いている。だからきっと、そういうものなのだろう。
 だけど、今はまだ、ロキは友達だから。
 これからどうなるのかは、判らないけれど。

「ろ、ロキ、あのさッ」
「な、何、音和ちゃんっ」
「手――を、つなご? その、寒いから、ねっ?」
「う、うんッ」

 赤と青の風船が揺れる、たまに、触れ合う。
 冷たい風が抜ける道を、二人で歩く。
 今はまだ、途中の道を。

「あ――のさ、音和ちゃん」
「な、なにっ?」
「今日は、付き合ってくれて、ありがと」
「うん、えっと――ボクも楽しかった、よ」

 イルミネーションが優しい光で聖夜を伝える、暗い空から、白い星が落ち始めていた。



■□■□■ 参加PC一覧 ■□■□■

w3b613ouma / ロキ / 十六歳 / 男性 / シャンブロウ
w3d187ouma / 音和 / 十八歳 / 女性 /  凶骨

■□■□■ ライター戯言 ■□■□■

 こんにちは、初めまして。この度はご依頼頂きありがとうございました、ライターの哉色ですっ。アクスでは初めてのお仕事なのでドキドキしながら書いておりましたが、如何でしょうか……ちゃんとお二人を書けているのか心配だったりです。告白という大事なエピソードなのに! クリスマスを過ぎてから、という微妙な納品になってしまいましたが、少しでもお楽しみ頂けていれば幸いと思います。それでは失礼致しますっ。
クリスマス・聖なる夜の物語2004 -
哉色戯琴 クリエイターズルームへ
神魔創世記 アクスディアEXceed
2004年12月28日

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