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『トリックプレー 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)
「今日は、いつもとは少し違ったことをやろうか」
 その言葉を聞くと、ファルスはいつもどきりとする。

 シリューナの口から時々発せられる、この言葉。
 ファルスのこれまでの経験に照らして意訳すると、「今日はとても難しい課題を用意してある」となる。

 そして、今日発せられたその言葉も、どうやらその解釈で間違いなさそうだった。

「今日は、特定の魔法ではなく、覚えた魔法を実戦の中で使いこなす能力を鍛える」
 そう言われて連れてこられたのは、変身ヒーローもののテレビ番組でよく見かけるような、だだっ広い空き地。
 特に仕掛けのようなものはなさそうだが、一体何をするつもりなのだろう。

 ファルスがきょろきょろと辺りを見回していると、シリューナは苦笑しながらこう続けた。
「今回は模擬戦闘形式でやろうと思う。もちろん、相手はこの私だ」

 前言撤回。
 どうやら、今回は「とても難しい課題」などというレベルではないようだ。

「ちゃんと防御結界も張っておいたし、薬もたっぷり用意してある。
 それに、多少派手にやってもここならさほどの問題はない」
 そう言うと、シリューナはファルスから三十メートルほど離れてから、静かに身構えた。
「さあ、かかってこい」

 その様子を見ながら、ファルスは必死で考えを巡らす。

 やる以上は、やっぱり勝ちたい。
 だが、普通に戦っては、とても勝てる相手ではない。
 覚えている魔法の種類も、熟練度も、シリューナの方が遙かに上だ。
 それに加えて、シリューナの得意とする呪術には、ボディブローのようにじわじわ効いてくるものが少なくない。
 そう考えると、長期戦になればなるほど、勝ち目は薄くなると見ていいだろう。

 とはいえ、短期決戦に持ち込むには、威力の高い魔法で一気にたたみかけるより他にないが、そんなものをシリューナがまともに受けてくれるだろうか?
 もちろん、答えはノーだろう。

 何かないだろうか。
 それなり以上に威力のある魔法で、高い確率で当てることができるもの。

「どうした? かかってこないなら、こちらからいくぞ?」
「ま、待って下さい!」

 何かないか。
 何か。何か。

 あった。
 一つだけ、あった。

 まだシリューナにも一度も見せたことのない、ファルスの切り札。
 まだ研究中で、練習でも一度も成功したことはないが、もし彼女に勝つ方法があるとすれば、それはきっとこの魔法……いや、この戦法しかないだろう。

 いちか、ばちか。

「……行きますよ、師匠!」

 そう高らかに宣言して、ファルスは呪文を唱え始めた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 気合いとともに、ファルスの右手からサッカーボールほどの大きさの火球が放たれる。

 サイズからは想像できないほどの強い魔力を感じるのは、単なる火球ではないから――恐らく、着弾と同時に大爆発するようなアレンジでも加えてあるのだろう。
 もちろん、それだけならば避ければすむ話なのだが、ファルスがあれだけの思案の末に出してきたものであることを考えると、それ以外にも何か仕掛けがしてあるに違いない。
 追尾してくるか、あるいは直前でいくつもの小型火球に分裂するか。
 いずれにしても、「避ける」という選択肢をとるのは、この場合リスクが高すぎた。

 そうなれば、ここは「避ける」事より「防ぐ」事を考えた方がいいだろう。
(疲れるからあまりやりたくないが、この場合は仕方がないか)
 そんなことを考えながら、自分の目の前に空間障壁を展開する。
 ファルスの火球にどれほどの破壊力があろうと、この空間の壁を越えることはできまい。

 渾身の一撃だったはずの火球を、空間の裂け目が飲み込んでいく。
 空間の壁が視界を遮っているため、その様子を直接見ることはもちろんできなかったが、シリューナは容易にその情景を想像することができた。

(さて、ティレはどんな顔をしているのかしら)
 少し意地の悪い期待を胸に、シリューナが障壁を解除する。





 笑っていた。
 ファルスの顔に浮かんでいたのは、シリューナが期待したような表情ではなく、会心の笑みだった。

(ということは……まさか……!?)

 慌てて後ろを振り返ると、すぐ目の前に、先ほどの火球が迫っていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「……か、勝った……かな?」
 炎と煙がシリューナを包み込むのを確認して、ファルスはその場に座り込んだ。

 最大火力で火球を放った後、相手が障壁を展開するのを待って、空間転移の魔法の応用で火球を相手の背後に瞬間移動させる。
 期待通りにうまくいったのはいいが、疲労度の方も予想以上だった。
 本当はここで一気にたたみかけるはずだったのだが、そんな余力はとてもない。
 今の一撃で勝てていなければ、もはやお手上げである。

 勝ったのか。
 それとも、ダメだったのか。

 期待と不安を感じながら待つファルスの前で、煙が徐々に晴れていく。

 そして、何とか向こうが見通せるようになったとき。
 ファルスは、思わず息をのんだ。

 シリューナの姿は、そこにはなかったのである。

 煙にまぎれて姿を隠したのか、それとも、まさかとは思うが、爆風でどこかに吹き飛ばされたのか。
 いずれにしても、早くシリューナを見つけなければ。

 そう考えて、ファルスが立ち上がった時。
「残念ながら、少しだけ詰めが甘かったようだな」
 背後から、声が聞こえた。

「師匠っ!?」
 慌てて振り向くと、そこには肩で息をしているシリューナの姿があった。
 ダメージはそれなりにあるようだが、戦闘不能と言うほどではなさそうだ。

 どうやって。
 ファルスがそう口にするより早く、シリューナがこう続けた。
「ティレが勝ち誇った顔をしていてくれたおかげで、何とか気づくのが間に合った。
 もしティレが表情に出していなければ、気づかぬままで直撃を受けていたかもしれない」

 その言葉が、少し悔しくて、とても嬉しかった。
 悔しかったのは、そんな小さなミスがあったこと。
 そして、嬉しかったのは、「それさえなければ」と、師匠が今の魔法を認めてくれたこと。

「私も空間障壁の直後の空間転移はさすがにこたえた……今日のところは、引き分けということにしておくか」
 少し疲れたように笑いながら、シリューナが右手を差し出す。
 その手を、ファルスはなんの疑いもなく握った。

 と、次の瞬間。
「……とでも、言うと思った?」
 不意に、シリューナがしてやったりという表情を浮かべる。
 もしやと思って右手を見ると、すでに肘の辺りまで石と化してしまっていた。
 ほとんど体力を使い果たしているファルスに、この呪術を跳ね返す術などあろうはずもない。

「だまし討ちというのはこうやるんだ。成功が確信できるまで決して種を明かすな」
 シリューナの言葉で、ようやく謀られたことに気づいたファルスであったが、もはや何をするにも手遅れである。

「ひ、卑怯ですよ師匠〜っ!!」
 ファルスの叫び声が、結界の中に響き渡った。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(まあ、こんなところか)
 ファルスが完全に石化してしまうのを見届けてから、シリューナは大きく息をついた。

 正直なところ、ファルスがここまでやるとは思っていなかった。
 魔法自体の威力もさることながら、その組み合わせ方も……まあ、多少強引すぎる気がしないこともないが、それなりによく考えられている。
 思っていることがそのまま顔に出るのはマイナスといえばマイナスだが、これもシリューナだからこそ気づけたようなもので、彼女をよく知らない相手なら、まともに食らっていただろう。

 シリューナは弟子の成長を喜びながら……ふと、あることに気がついた。

 自分が大ダメージを受けることはほとんど想定していなかったため、今回用意してある薬は全て「効き目は抜群だがものすごくしみる」ものばかりだったのである。
 もちろん、今から薬を作り直すほどの余裕はとてもない。

(次からは、やけどの薬だけでもしみないようにしておくか)
 自分の「些細ないたずら」を後悔しつつ、シリューナはもう一度大きなため息をついたのだった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

<<ライターより>>

 撓場秀武です。

「経過及び結末はお任せ」ということでしたので、私なりに考えてみましたが、いかがでしたでしょうか?
 順当勝ちでは面白くない、けれどもファルスさんの能力や性格だと多分勝ちきれないだろう、ということで、結局シリューナさんの逆転勝ちになりました。

 ともあれ、もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
西東慶三 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年12月28日

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