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『「Holy Night Guardian」 』
セフィス1731)&ルーン・ルン(2155)


12月24日――――それは、世界中で「聖なる日の前夜」として祝われる日である。
町はどこも紙や木の実やこの季節では数少ない花に彩られ、ろうそくの明かりだけを灯して、人々は敬虔な気持ちのまま、この幸福に満ちた日を過ごしていく。
子供たちはこの日だけは、大人たちと同じようにその日を楽しむことを許され、その手にあふれんばかりの贈り物を抱えて、幸せそうに走り回っている。
町中のいたるところでごちそうが並べられ、まるで夢の国にいるような心地にさえなる。
そんな、誰にとっても特別なその日に最近、空賊の魔の手が伸びていた。
多くの子供たちのために用意された数々の贈り物を、彼らは容赦なく奪い、壊し、悪虐の限りを尽くす。
そのため、今年サンタクロースは、無事に子供たちの手に贈り物を届けるため、ふたりの護衛を雇った。
その腕には定評のあるセフィスと、サンタと昔からの知り合いであるルーンだ。
元々、この依頼を出した時にはセフィスひとりであったが、数を頼みとする相手のため、ひとりでも悠々と戦えるための状況作りに、助けの手がほしかったのだ。
羽兎に依頼のメモを貼り付けた後、数日後にセフィスが立ち寄ってみると、乱暴な字でルーンの書き込みがあった。
『了解ダヨ☆ルーン・ルン。他に適任者が現れてなかったら、オレでドウかな?』
そんな話し方をする者はたったひとりしかセフィスは知らない。
「彼は聖者だったわね」
ふっと唇の端にかすかな笑いを浮かべると、これ以上は無用と張り紙をはがした。
そして当日。
雪に覆われた大地が広がるその上空で、セフィスはサンタクロースと共にルーンを待った。
「遅かったわね」
「うン。ちょっト寄り道をネ☆」
お気楽極楽にさらりと言う割には、ところどころに返り血を浴びている。
その中にはルーン自身の独特の血も混じっていようが、セフィスはあまり気にしなかった。
「それじゃ行くわよ」
ひらりと護衛用に用意されたもう一台のそりに乗り込み、セフィスはトナカイに鞭を入れた。
その隣りに座って、ルーンは頭の後ろで手を組んだ。
「現場はドコ?」
「ここから半刻も行かないうちに出会えるわ」
セフィスの表情は厳しい。
去年は空賊に大半の贈り物を奪われ、どうにもならないうちに聖なる日は終わってしまったという。
贈り物を受け取れなかった子供たちに、この一年幸せが訪れたかどうか、サンタクロースはとても心配していた。
(これ以上、不幸を作り出さないために戦おう・・・)
セフィスの心に、紅の炎が灯った。
セフィスの見立てどおりだった。
気付いた時には、姿を高速で隠しつつ、周囲の輪を狭めて近付いてくる暗色の有翼の一団が現れていた。
「ああ、アレネ」
「まだ姿をくらましているけど、何だか判別はつく?」
「ガーゴイルだネ」
「ガーゴイル?!」
セフィスは驚いた。
「空賊と聞いていたのだけど・・・」
ガーゴイル――――背中に蝙蝠の羽を生やした恐ろしい怪物である。
元々は豊穣の神であったが、冥界の住人となり魔物となった。
ガーゴイルという名は古代の言葉で『ガルグイユ』(喉という意味)から来ているという。
その証拠に、彼らは猛り狂ったように潰れた声で叫び続けている。
「・・・何にせよ、敵であることに変わりはないわ」
貪欲で凶暴な空の魔物たちを目の前に、セフィスはルーンにひとつの提案をした。
「このままでは速度でやつらに劣る。私はソニックと共にやつらの間を飛翔するから、やつらを撹乱してくれるかしら?」
「了解☆」
サンタクロースは穏やかな顔に悲しみの色を浮かべながら、それでもそりでの道行きを止めようとはしなかった。
世界中で彼の訪れを楽しみにしている子供は数知れない。
その使命感が彼を支えているのだろう。
セフィスは指を手にあて、高く細い音色の口笛を吹いた。
もう既に飛竜のソニックは近くに召喚してある。
合図と共に轟音を周囲に叩きつけ、ソニックはガーゴイルの間を蹴散らすように近付いてきた。
通りすぎざまに軽々とソニックの背にまたがり、セフィスは大きなランスを右手にガーゴイルの群れの中に突進していった。
その隙に、ルーンはそりの上に立ち上がり、涼やかな微笑を浮かべた。
「いけないネェ、女性や老人を苛めルのは」
その両腕が音楽を奏でるように優雅に舞った。
その瞬間。
ガーゴイルたちの飛翔がおかしくなった。
ところどころで出会い頭に衝突したり、ふらふらとまるでワルツを踊るかのように危なげな飛翔をする。
彼らにだけ聞こえる混乱の楽の音に合わせるかのように。
その一瞬をセフィスは見逃さなかった。
数十頭は確実に存在するガーゴイルの間を素早く駆け回り、そのランスで甲羅のような胸板を突き破り、一撃で心臓を大破させる。
断末魔の絶叫が辺りに響いた。
緑色の穢れた血しぶきと、一方的な剣戟の音が交錯する。
それを満足げに見やり、全身から血を流しながら、ルーンはサンタクロースに言った。
「アンタ、これで来年も安泰だネ☆」
「ああ、礼を言うよ」
ルーンはそのやさしさに満ちた声に、自嘲気味に笑って応えた。
かつては聖者と呼ばれ、真っ白な聖衣にこの身を包んで奇跡を生み出していた自分の姿を思い浮かべる。
「今は紅の聖者ダけどネ」
それを奇跡と呼んでもいいものならば。
すべての浄化と称した、赤い殺戮そのものを。
空に散る、魔物たちの血の雨を眺めながら、ルーンは無感動にそう思った。
幸せを奪うモノたちへの、セフィスの怒りが太刀筋に輝く。
次から次へと難なくその銀色の槍は振るわれ、派手にガーゴイルの身体が散らばる。
その間たった1刻――――もう二度と、この宙域にガーゴイルの姿を見ることはないだろう。
完膚なきまでに壊滅した魔物の一団は、命からがらに逃げ出した。
子供たちへの贈り物には、その汚らしい爪先ひとつ触れられなかったのだった。
真珠のしずくのような汗をぬぐいながら、セフィスは弾む息と共に戻ってきた。
赤に染まったルーンは、自らの血をもっと赤い舌先で舐め取ると、セフィスに微笑と共に言った。
「聖なる夜には、戦乙女にも聖なる衣をってネ☆」
空に鮮やかな真紅が舞った。
それと同時に、セフィスの全身を、鳥の羽のようなふわふわした真っ白なドレスが覆った。
背中には擬似的な翼も見える。
「な、なに、これは・・・」
「プレゼント。サンタのオジサンと配りニ行くんだヨ、天使サマ」
「だ、だからってこんな・・・」
「少し遅れタからネ」
見た目の凄惨さからは程遠いほどのんびりした声で、ルーンは言った。
狂気を魂に刻み付けられていても、今日この日だけは聖者になれそうな気がしていた。
「わしからもお願いするよ、お嬢さん」
サンタクロースが、やわらかい笑みを浮かべてそう言った。
セフィスは仕方なくうなずく。


そして、天使と聖者と幸せの贈り主を乗せたトナカイの引くそりは、世界中の子供に、これからの一年の幸福と安寧を授けに、静かに静かに大空を駆け抜けて行った――――


END
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聖獣界ソーン
2004年12月27日

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