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『□■□■ Holynight Junkey ---ラストクリスマス--- ■□■□ 』
緑川・勇0410


 去年のクリスマス。
 それはまあ、楽しく過ごしていたと思う。流石に道場も稽古を休んで、門下生や師範が入り乱れて宴会をしていた。ケーキを肴にシャンパンをそそぎ、無礼講とばかりに楽しく騒いで。皆揃って輪になって歌ったり、羽目の外れた奴が踊りだしたり。中には寒中水泳だ! と叫んで、近所の川に飛び込み、足を攣った奴もいた。ああ、なんとも楽しい日だった。
 楽しい日だったとも。
 少なくとも今日よりは、絶対に楽しかった。

「おいたをする子なんて絶対許さない! 今日も元気に裁いてあげるんだからねっ!」

 びっしぃ! と指を差して、キュロットのように裾の短い緋色の袴を翻す。頭に付けた星付きカチューシャの圧迫感にムズムズしながら、俺は巨大なきぐるみに対峙する。その中に入っているのはクラスメートで、さらに俺の周りに居るセーラー服やらゴスロリやら様々の服を適度にアレンジした衣装を身に着けている女子もクラスメートで。
 そんな俺達がいる舞台を、きゃあきゃあ良いながら見ているのは子供達だ。見ているんだか見ていないんだか判らないが、取り敢えず客席に座って、こちらに向かっている。時々エプロンを付けた先生達が注意をする声がしても、舞台の上の俺達は物語を進行しなければならない。ああ、このこっ恥ずかしい衣装のままで。

「みんな、行くわよ!!」

■□■□■

「ね、勇ちゃん、お願いされてくんないかなぁ?」

 じ、っと上目遣い気味に俺を見る女子の視線に、思わずたじろいだのは十二月も初頭の頃。
 冬に入って体育も外での長距離から室内運動の柔道になった頃、俺は試合で柔道部の女子を負かしていた。まあ相手が医療用のハーフだったことを差し引いても、俺のこの身体でそんなことをすれば目立つ。しかも型が綺麗に入ったものだから、途端に何かやっていたのかと更衣室で質問攻めにされたのだ。仕方なく俺は、小さい頃に弱い身体を鍛えるために少し武術をやっていた、と言ってしまった――そう、それが全ての発端と言えなくもない。
 羊ヶ丘の教育システムは初等部、つまり小学校からだが、実を言えばその隣に同じ系列の幼稚園がある。そこから初等部に上がる子供が大部分を占めていて、つまり実質上羊ヶ丘学園幼等部とも言うべきところなのだが――やはり頭が良くても相手は子供。七夕会やハロウィンの行事は派手で、勿論、クリスマス会も――ある。

「幼稚園の先生方が演劇やるにしたって、こーゆーのは無理でしょ? ボランティア委員会で引き受けちゃったんだけど、こればっかりは市販の衣装しかなくて」
「…………でも、流石にこれは」
「大丈夫、子供用のLサイズって結構大きいから、勇ちゃんならぴったりだよ!」
「それ、全然嬉しくないんだけど」
「おねがいっ! ね、キャラクター的にも丁度良いんだもん!!」

 見せられたのは、アニメ雑誌。
 開かれたページには、ミニスカートのように裁断された袴を纏った女の子。
 巫女服のアレンジだろう、露出の高いそれ。

 ああ知っているさ、見たことがあるさ。テレビでCMとしてだけだが、知識的には知っている。幼児向けと言うか幼女向けのアニメで、女の子が変身して戦うストーリーだ。よくあるパターンさ、よくあるパターン。仲間も何人かいて、そのキャラクター別に衣装も違って、セーラーやらゴスロリやらと。知っているさ、知っているとも。
 だからこそ、その服を着せられるなんて御免に決まっているんだ!!

「セーラー服は中等部のをアレンジすれば良いし、ゴスロリ? って言うのかな、こういうのは好きな子がいて。でも巫女服ってそんな持ってるものじゃないでしょ? 変身セットって子供向けにあるのね、それ買ったんだけど、やっぱ小さくて」
「た、確かに私は小柄だけど、でもこういうのはちょっと……」
「それにね、このキャラって古武術の使い手なのっ! 勇ちゃん合気道でしょ、丁度良いじゃない!」
「だからね、話を――」
「ね、ね? ボランティアだもん、子供達のために一肌脱いでよぉ〜〜〜っ!!」

 …………。
 この年頃の女の子と言うのは、どうすれば自分の要求が通るのかを本能的に知っている。
 俺はその時そんな事をボンヤリと考えながら、半ば投げ遣りに、それを承諾したのだった。

■□■□■

 アニメ雑誌とレンタルビデオでキャラクターの把握をし、不本意ながら本当に丁度良いサイズの市販衣装に袖を通し、俺は舞台に立っていた。子供達は星柄の紙でできた円錐形の帽子を被って声援を贈ってくれている。嬉しいが、切ない。この歳になってこの格好をするのは屈辱ものだろう。まだ怪獣のきぐるみの中に入っている方が、俺のプライドには優しい。
 制服以外で女装はしないつもりだったのに、まさかこんなコスプレをさせられるなんて。一年前の楽しく馬鹿騒ぎしていたクリスマスが懐かしい、そして愛しい。びしっと決めポーズをすれば、子供達がきゃあきゃあと喜んで声を上げた。

 ……俺の恥が笑われている気分になるのは被害妄想と言う奴だろうか。むき出しの足が寒いな、まるで俺の心のように寒い。

「やったぁ、大喜びだねっ!」
「お疲れさま〜!!」
「勇ちゃん、ちょっとぎゅーって抱き締めてもいい?」
「いや、それは、勘弁して……」

 一刻も早く脱ぎたい、これに比べたら制服の方がよほど良い、いっそブルマー穿いても良い。そのぐらいに切なさいっぱいの俺なんだが、舞台を下りると子供達が群がってくる。

「お姉ちゃんかっこいー!」
「すごいの、びしぃっ! てしてたの!」
「ねね、もっかいやって、もっかいやって!」

 無邪気にきらきらした瞳が俺を見上げてくる。人を見下ろすのは久し振りの感覚だが、まあ、子供まで見上げるようになるというのは流石にないだろう。サンタを信じている、そしてサンタが進んでプレゼントを渡したいと思うような、まだ何も知らない子供達。
 アニメが嘘っぱちだということも、俺が男だということも何も知らないで慕ってくれる。きらきら、きらきら。楽しい時間をめいっぱいに楽しんでいる、そんな夢を壊すことなんて、出来るはずも無い。
 これもボランティアの内なのか、そうなのか。こんな格好するだけじゃまだ足りないのか、良いだろう。
 なかばやけっぱちの気分で、俺はビシッ! と構えを取った。

「今日も元気に裁いてあげるんだからね!」


 去年のクリスマス、俺は酒を飲んで馬鹿をやって弟子と楽しんでいた。道場で宴会、無礼講の突っ込み三昧、川に飛び込んだ馬鹿を助けてみたり、勺に来てくれたあの子にちょっとドキドキしたり。酒で赤い顔をもっと赤くして、それを誤魔化すためにもっと飲んで、潰れて、踏まれたり蹴られたりした。何よりも、男だった。
 今年のクリスマス、俺は幼稚園でコスプレをさせられている。恥ずかしいミニキュロットの巫女服、細い足をむき出しにして恥ずかしいほど幼稚な台詞をオンパレード。去年とは全く違う種類の赤面を必死に堪えて、どうにか舞台を下りたら、子供達に羨望の眼差しを向けられている。何よりも女でいる。

 まあ、そう悪くも無いか。
 この格好は死ぬほど恥ずかしいけれど。
 たまになら、本当にたまになら、そんなに悪くも無い。


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哉色戯琴 クリエイターズルームへ
PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2004年12月24日

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