▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『小さな奇跡、一つ 』
桜木・愛華2155)&藤宮・蓮(2359)


「いいな、分かったか?」
「え、ち、ちょっと…」

 いきなりだった。心の準備とか、そんなこと全くする暇もないくらいに。

「分かったんだな?んじゃ、クリスマスにな」

 それだけ言って、彼はさっさと帰ってしまった。それが無性に頭にきた。

「か、勝手なことばっかり言わないでよ!…もう…」

 思わず怒鳴ってしまった愛華に、それでも彼は何時もの笑顔で手だけを振っていた。
 まぁ…確かに嬉しくも、あるんだけど…今一彼が何を考えているのか、分からない…。





* * *

「クリスマス、開いてるか?」

 世の中、もうクリスマス一色だ。別にキリスト教徒でもあるまいに、みんな本当にこういうのが好きだな、と思う。
 まぁ、それは俺も同じ、か。
 クリスマス、過ごすなら好きなやつと一緒がいいというのが常識。
 遊ぶだけの相手なら幾らでもいる。でも、そんなのと過ごすのはいやだ。

「え、あ、えっと…」
「どうなんだ?」

 目の前の背の低い女の子。何時もは何故か反抗的なくせに、こういうことを聞くと大体しどろもどろになる。

「…た、多分開いてる、けど…」

 まぁそういうところが可愛いところでもあるわけで。

「うし、なら決まり。クリスマス、開けとけよ。いいな、分かったか?」
「え、ち、ちょっと…」

 こういうのは、時間を少しでもおくとまたなんだかんだ言い始めるので強引に決めてしまうのに限る。俺は、一方的に約束を取り付けて歩き出した。
 少したって、後ろで何かあいつが怒鳴り始めたけど、それはまぁ何時ものことだから、軽く手を振り返しておく。

「さって…」

 クリスマス、どうするか。





○A



 蓮君に急に誘われてから少したったある日のこと。一人の女の子に出会いました。
 雪のように白い髪の、とても儚そうな女の子。
 それは本当に偶然の出会い。偶々愛華が草間さんのところにいたとき、その子がやってきた。
 喋れない、その女の子の願い。それは、好きな人に何かを贈りたいというものだった。

 好きなその人の好みを調べ、毛糸を一緒に買いに行った。女の子は、ただそれだけで嬉しそうだった。
 そして、みんなに編み物を教えてもらいながら、ただ黙々と女の子はマフラーを編んでいく。
 ずっとその顔に、小さく、本当に小さくだけど、ずっと笑顔が浮かんでいたのが分かった。

 あぁ…この子は、本当にその人のことが好きなんだなって。ただその顔を見ているだけで分かった。
 そんなその子の顔を見ているうちに、愛華も何か作ってきたくなった。
『…蓮君、喜んでくれるかな?』
 折角のクリスマスだし、ね。

 色は、ダークグレーに決めた。蓮君が何時か、その色が好きだって言っていたから。

「えっと…確か…」
 家に帰った後も、ずっと編み物に没頭した。クリスマスまでは、あまり時間もないし。
『愛華、何してるの?』
 そんな時、不意に声が聞こえた。編み物から顔を上げれば、そこには一匹のテディベア。
「ん、編み物…マフラー作ってるの」
『へー誰に誰に?』
 興味津々なその声。愛華はわざとはぐらかしてみた。だって、口に出すと少し恥ずかしいから。
「教えてあげないもーん」
『むーケチー』
 喜んでもらえたら教えてあげるね、なんて心の中で呟いて、また編み始めた。

「…あ、もうこんな時間だ」
 既に、日付は変わって大分経っていた。少し眠気が襲ってきて、思わず目をこする。
「…ま、いっか」
 それでもやめる気は起きなかった。少しずつ形の出来ていくマフラーを見ていると、もっと作りたくなってくるから。
 クリスマスまで、後少し…喜んで、くれるかな?





○R



 まぁ、確かにあいつのことは気になってた。
 からかえば、何時も面白いくらいに反応を返してきたし、遊びだけの相手とは何かが違ってたし。
 去年はただ、あいつと一緒に過ごせたら楽しいかな?なんて、ただそれだけだった。
 でも、今年は…。
 気づけば、今まで泊めさせてもらってたところとはすっぱりと縁を切ったし、やっぱりそうなんだろうな、って思う。
 態度を見れば、あいつだってそうなんだろうな…って思うんだけど。

「…あー、うだうだ考えてもしょうがねぇか」

 考えるのは、柄じゃない。
 約束した日に言ってしまえば、それでいいんだ。

「それじゃ、一人寂しい部屋に帰るとしますかね」

 やたらと冷えると思ったら、雪が降りそうな天気だった。
 俺はポケットに手を突っ込み、そのまま足早に部屋へと向かった。





○A



 数日後、12月24日、クリスマスイブ。
「出来た…」
 手の中には、出来たばかりのマフラー。少し歪なところもあるけれど、それも手作りの証拠。

 興信所に行くと、女の子のマフラーも出来上がっていた。となると…。

「あの、ごめんね?今日なんだけど、会えるのが夜になっちゃいそうで…」
 電話すると、蓮君は何時もの調子で『別にいいよ』とだけ返してきた。
 心の中で、もう一度『ごめん』といって、電話を切った。今は、あの子の応援しなきゃ…。





* * *

 女の子が、震えていた。好きな男の子がそこにいるのに、全く動けずに。
 きっと、怖いんだ。気持ちを伝えて、それを拒否されるのが。
 それは、愛華にもよく分かる…。

「…きっと、大丈夫」
 だから、ギュッと抱きしめてあげた。
「きっと、気持ち伝わるから。…愛華も、頑張るから」
 そう、頑張るから。愛華、あなたから一杯勇気をもらったから。だから、頑張って。

 すると、その子は頷いて、愛華の手をとった。
「えっと…何?」
 愛華の手のひらに、その指で何かを書いていく。それ、文字だった。
 『ありがとう』、その言葉を書いて、また何かを書いていく。
「……」
 その言葉が、愛華の心の中に何度も響き渡った。





○R

「…そうか、分かった。別にいいよ」
 本当にすまなさそうな声。プツッと電話が切れた。
「…あーあ、折角気合入れてたのに、肩透かし喰らっちまったかぁ」
 ふーっと、空を仰ぐ。合ってさっさと言おうと思っていたのに。
 しょうがねぇか、と、しばらく時間を潰すことにした。
 夜までは、また長い。
「…降ってきそうだな」
 ま、ホワイトクリスマスっていうのも、それはそれでいいか。
 とりあえず、寒いのでホットの缶コーヒーを買った。冷え切った手に、熱い缶が気持ちいい。
「…こういうとき、御姉様方がいねぇと辛いなー」
 まぁ、それも自分から別れたからしょうがないんだけど。



 時間を潰すために、ちょっとあいつのことを考えてみた。
 ホント、何時の間に気になりだしたのか…と、そこまで考えて、やめた。
 考えるだけ馬鹿らしい。今のこの気持ちが全部、それでいいじゃないか。
「ホント、柄じゃねぇよなぁ」
 思わず、苦笑がこぼれた。





○A+R



 愛華が空を見上げれば、雪が降っていた。
 多分この雪は、あの子。思いを伝えて、消えてしまった。

 約束の公園は、もう真っ白になっていた。雪が積もって、何か別世界のよう。雪はやむ気配がない。
 そんな公園の真ん中で、愛華は手のひらに書かれた言葉を思いだした。
「…頑張れ、かぁ…」
 あの子は、自分と同じ愛華を応援してくれていた。
「…そうだよね、愛華、頑張るから。…見ててね」
 あの子に、沢山の勇気をもらったから。きっと、大丈夫。そう、愛華は呟いた。



「何を頑張るんだ?」
「え、えっ!?」
 急に後ろから声をかけられ、驚きながら振り向くと、そこには蓮がいた。

「よっ。何そんなに驚いてんだよ、夜がいいって言ったのはそっちだろ?」
 うーさむ、などと言いながら、蓮はゆっくりと愛華の前まで歩いてきた。
「で?何頑張るんだよ」
 蓮が悪戯っぽく顔を覗きこむと、愛華の顔が一気に赤くなった。

「あ、あの、その…」
 何故か、動けなかった。今ならあの子の気持ちがよく分かると、愛華は思った。
 うまく言葉が出てこない。勇気を出すと、決めたはずなのに。

 蓮は、そんな愛華のことがなんとなく分かるのか、何も言わずにそのまま愛華が何か言うのを待った。

 時間だけが過ぎていく。雪はやまず、二人の頭や肩に、薄く積もっていった。
 蓮が、その雪を払おうと腕を動かす。その腕に巻かれた腕時計が、愛華の目に入ってきた。
 時間は、23時59分――――もう、日付が変わる。

「…これ」
 そこまできて、やっと決心がついたのか、愛華は手に持っていたものを差し出した。
「俺に?…ありがとな」
 蓮は早速それを首に巻いた。ダークグレーのマフラー、暖かさに笑みがこぼれる。
「…それでね。えっと…」
 愛華は、きっと顔を上げた。何かを決心した、真剣な顔。
『頑張るって、約束したもん』
 何時しか、雪はやんでいた。

「おっと、そこまで」
 と、蓮はその小さな唇を指で止める。
「そっから先は俺」
「え、え?」
 急に言葉を止められ、愛華は戸惑いを隠せない。しかし、蓮は変わらない笑みを浮かべたままだった。
「うだうだ言うのは性に合わないから、一回しか言わないからな」
 すっと、その顔が真剣になる。思わず愛華も黙ってしまった。
「愛華、お前のことが好きだ」
 突然の告白。全く動くことが出来なかった。
「…っあー、やっぱり柄じゃねー」
 蓮は照れくさそうに、頭をぽりぽりとかく。

「…嘘…」
 愛華は、まだ信じられずにいた。
 嬉しい、確かに嬉しいんだけど…。
 自分の気持ちには気づいていた。でも、彼がそうだとは限らない。ずっとそう思っていた。
「嘘じゃねーよ」
 しかし、蓮のその顔は酷く穏やかで、嘘を言っているようには見えなかった。
 その顔を見ていると、愛華の瞳から自然と涙が溢れてきた…。

「…ありがと…」
 それ以外の言葉が見つからなかった。涙を流しながら、愛華はただそれだけを言い続けた。

「おーい泣くなよー。なんか俺が泣かしてるみたいだろ?」
 そういう蓮は、何時もどおりの蓮だった。顔には、何時もの悪戯っぽい表情が浮かんでいる。
 それを見ていると、愛華はどんどん腹が立ってきた。勿論、嬉しくもあるのだけど。
「れ、蓮君が泣かせたんでしょー!」

 そこにいるのは何時もの二人。でも、ちょっと変わった二人。

「あっ」
 そんな愛華を、蓮は抱き寄せる。少し雪で冷えた体は、それでも暖かかった。愛華の顔が、また赤く染まった。
「悪い悪い、怒るなよ。…ほら」
 そんな愛華の耳元で呟いて、蓮は何かをその手に渡した。小さな箱だった。
「これ…」
「クリスマスプレゼント、お前にあうかなって思って。開けてみろよ」
 言われるままに、その箱の包装を丁寧に剥がし、開けていく。
「わぁ…」
 そこには、シンプルなシルバーのリングが入っていた。
「ほら、貸してみろ。はめてやるよ」
 愛華が言われるままに渡すと、蓮はその左手をとって、薬指にはめた。
「ちょっ、蓮君、そこは…」
「ここにはめておけば、お前を誰にも取られずに済むだろ?」
 驚く愛華に、蓮はまた笑いながら言った。それに、また愛華が赤くなる。
 そんな愛華の頬を、分かりやすいよなとか言いながら、蓮がつついた。
「もう、蓮君!…そんなことしなくたって、愛華は…」
 最後のほうはぼそぼとと聞き取れなかったが、言いたいことは蓮にもすぐに分かった。

「分かってるって」
 と、言ったかと思うと、蓮はまたその小さな体を抱き寄せて。
「ん……」
 唇を重ねた。





* * *

 それから、愛華が少し不機嫌になってしまって、蓮はその機嫌を直すのに苦労した。
「なー機嫌直せよー」
 しかし、そんな蓮の言葉を愛華は軽く流す。
「ふーんだ。折角のファーストキスだったのに、強引にやるなんてサイテー」
 うぅ、マズったか…と、蓮は少し後悔する。でも、それは蓮にとって普通のことだった。
「好きなのにキスしちゃいけねぇのかよー」
「…蓮君、その顔面白い」
 今度は、蓮が少し拗ねてしまった。そんな蓮の顔を見て、愛華は思わず笑ってしまった。
 その笑顔に、蓮もまた元の笑顔に戻る。

 それから二人は向き合った。
「ホントにもう…さっきのは許してあげる。だから、今度はちゃんとしてね」
「分かりましたよ、お姫様」
 そして、二人はもう一度唇を重ねた。



「なぁ、大晦日一緒にいられるだろ?」
「どうかなー?」
「おーい、そういうこと言うなよー」
「ふふっ、冗談だよ…あ、雪」
「ホントだ、また降ってきたか」
「それじゃ、帰ろっか」

 そこにいるのは、何時もと変わらない、少しだけ変わった二人。

 今日はクリスマス。小さな奇跡が沢山起こる。きっと、二人もその奇跡の中の一つ。



「…ありがとう」
「ん、何か言ったか?」
「なんでもない…ありがと」
「何だよ、変なやつ」

 愛華は、白い少女が微笑んだような気がした。
 だから、お礼を。ありがとう、と。



 さぁ、明日はどうしよう?
 二人の日々は、始まったばかり…。



<END>

――――――――――



 というわけで、ライターのEEEです。今回は発注ありがとうございました。
 草間の方の依頼からのリンクのようなカタチで、ということだったのでこんな感じにさせていただきました。
 それにしても…ホント長かったですね!(笑
 無事に二人がくっつくことができて安心しています。よかったよかった(笑

 それでは、今回はこのあたりで。ありがとうございました♪
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
EEE クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年12月24日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.