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『□■□■ Die Hard Day ■□■□ 』
キース・ローディー0105


 まあ、そんなわけで、最悪っぽい日の話をしようと思ったり、思わなかったり。
 その日の俺は非常にゆったりとした気分でランチに手をつけていた。数年前に比べたら随分と味が良くなったトマトが挟んであるホットサンドイッチは、チーズも中々風味が出ていて美味。昔は生野菜なんて臭くて変形してて所々変色してて、なんてのがザラだっただけに、今の文明の復興度合いを知るには食糧が一番のメーターだと思う。
 ちなみに俺レベル、六十点。マスタードとマヨネーズは避けてくれと頼んだにも拘らず反映されなかったから。客の話は聞いて下さい、親父さん。鼻をほじっているんですが、その手は洗ってくれたんですか。客の煩い店内をボーッと見てる場合じゃないぞ。

 昼時の酒場は夜とは違った活気の元、中々に混み合っている。オーダーは粗方終わって客の殆どがガヤガヤと談笑しながら食事中、俺は二人掛けのテーブルを一人で占領している。片方の椅子には、先日ガンスミスから返って来たばかりの銃のホルダーと荷物を掛けて。
 思い入れがあるわけじゃないんだけれど、なんとなく気に入っているのは扱いやすいから。いやあ、良い貰い物をした。うん、誰がくれたんだったか憶えてないけど。財布の中身ぐらいに憶えてない、ランチの料金ぐらいに憶えてない。
 ……いや、本当にいくらだったっけか。いやいや、誰だったっけか。どっちでも良いか、と、もう一口かぶりつく。うまうま。物を食ってるときが幸せなのは、根源的な欲求が満たされるからなのか。

 サングラスを曇らす湯気を軽く拭う、が、皮手袋だった所為で余計曇った。むぅ、何の陰謀だ……あむあむあむ、と三口で三切れのパンを口に放り込む。喉が辛くなったからカフェオレを一気飲み。味が薄い、そしてぬるい。せめて砂糖を足してコーヒー牛乳にしてくれ、いやいや、そんな場合じゃなくて。
 ぱたぱたと手袋を叩いてパン屑を落とし、俺は傍らの椅子に置いてあった鞄に手を伸ばした。えーと、ああ、うん、発見。財布。

 ぱたり。札入れを開く。
 …………。
 かちゃり。パスケースを開く。
 …………。
 いやあ、空が青い日だ。昔は塵芥で曇ってたもんだ、十五年ぐらい。

「おいお客さん、あんた、どうしたんだい」
「……あー」

 財布を覗きこんで遠い眼をする客を訝ったのか、主人が俺をじっと見ていた。少し距離があるから、あの位置じゃあ財布の中身は見えなかっただろう。うーん、せめて旧時代のファーストフードぐらいの値段設定だと思ったんだけれど、ちょっと計算が合わなかった。マヨとマスタード抜いてくれなかったからだ、きっと。いや、それとも先日のガンスミスがぼったくりだったのか……銃のメンテって案外高額だからなぁ。
 ずれはじめた俺の思考を、がし、と肩を掴む手の握力が中断する。見上げてみればガタイの良い男が、にぃやりと俺を覗き込んでいた。別に怖いわけじゃなく、ただ、視線を逸らす。人を見詰めるのは好きじゃない、まあ、色々の理由で。

「兄ちゃん。見たところその財布、殆ど空のようだが?」
「あー……そうかも、だなー」
「つまり兄ちゃん、食い逃げ犯だってことだな?」

 いや、皿洗い一週間ぐらいでどうにか払いたいんだけど、俺としては前科モノになるつもりはないわけだから。
 言い掛けた刹那、俺はがっしりとしたその肩に担ぎ上げられそうになり、慌てて身体を捩った。幾度か繰り返したこともある修羅場の経験上、と言うか反射で、荷物とガンベルトも引っ掴む。少し間を取るようにすればどこかのテーブルにぶつかった、が、その様子を見ている場合じゃない。

 男――スキンヘッドに色黒、オプションパーツヒゲ&黒タンクトップの筋肉質巨漢は、ぽきぽきと指の骨を鳴らして俺を見ている。俺も俺で中々ひょろ長いんだけど、やっぱり横幅があると迫力が違う。どうでも良いけど、関節鳴らすと指が太くなるのに。エンゲージリングのサイズ探すの大変だぞ。
 ジーンズを穿いた脚やむき出しの腕のラインから見て、エキスパート――良い所で医療用サイバーだろうか。そいつはべろりと自分の口唇を舐めて見せる。うぅん、可愛くない。いや、直接的に言おう、醜いと。

「悪ィな、こちとら用心棒なんだ。目の前の犯罪は未然に防がなきゃ、なぁあ――」
「ああ、……なるほど。だから店主が胸を張っている……」
「そーゆーことだ、兄ちゃん。悪いこた言わねぇ、大人しく縄喰らっとけ。こいつはな、ここらのマフィアからも一目置かれるぐらいの――」
「……ながい、たるい」
「まだ終わってねぇ!」
「いや、腹いっぱいで眠くて」
「とか言いつつ何銃に手ぇ掛けてんだ!!」
「いやぁ、こっちの言い分聞く気ゼロ……っぽい、からー。取り敢えず、落ち着いて欲しいなーと……思う気分のお年頃……」
「年頃は関係ねぇ!!」

 いやあ、真打、漫才喫茶。
 これは次世紀に流行るかもしれない、ありえないかもしれない。

 店主とおっさんの突っ込み二連サブマシンガンがいい加減煩い。うーむ、黙らせるために一発ぐらい撃っておいた方が良いんだろうか……牽制ってどっちに向ければ良いんだっけ、腹? 頭? ……それじゃ死ぬかもなぁ。
 たしか平屋建てだったから、二階は無いだろう。取り敢えず天井に銃を向けて、俺は軽く、ごくごく軽くトリガーに指を――



ッガァン!!



「…………掛けただけ、なんだけどなー」
「あ、あわわっ」
「うぉ、てめぇッ!」
「ぎゃッ」
「ほぁああ!?」

 チュィンチュィン、間抜けな音を立てて店内を駆け巡るのは弾丸。
 何か良い方向に進んでしまったのか、天井からぶら下がった電灯のシェードに弾かれ、アルミの水差しに弾かれ、その他諸々の店内障害物に弾かれ、それは巡る。

「……サイバー医師の方が儲かるもん、なぁ……こんな田舎じゃそうそう……腕の立つガンスミスなんて、いない、かぁ――しかし暴発はないだろ、暴発は……」
「暢気にほざいてんじゃねぇえぇ――――ッ!!
「そういえばあの店、サイバー医院も兼業だったもんな……こんな、金にならない仕事なんかしない、かぁ――とは言えプロが、手抜きはいけない……」
「って言うか止めろよこの弾丸、おい!!」
「しかし今日は、空が……青いー。銃もよく光るな……」
「光らせてんじゃねぇえ――――ッ!!」

 ぢゅんッ。

「ムウゥッ!」

 ……。
 止まった。

 テーブルの下に避難していた客達が、弾丸の弾ける音がしなくなったことにやっと顔を上げる。そして、瞬間にまた身体を隠す。店主とボディガードも頭を押さえて這い蹲っていた姿から顔だけを上げて、唖然と、俺の後ろを――
 …………。
 いやあ、後ろを振り向かずに歩いていけたらどんなにか良いでしょうね、神様。だけど生きて記憶を持っているものとしてそう都合の良い世界で生きていく事は出来ず、だから俺は今も新たな情報を記憶として刻みつけるために、振り向かなければならないわけで。

 そろり、俺は顔を後ろに向けた。
 テーブル。
 に、向かっている中年男性。
 体格は普通、ごくごく上品な背広を羽織っている。だけどその袖の左だけが大きく作られていて――それは、彼の左腕が生身ではない証。そしてその腕を押さえて、背中を丸めている。着弾、だろうか。確かに止まった時は金属音がしたもんなぁ。
 って言うか、大問題は、むしろ。

「お、お客様、ご無事ですかッ!?」

 泡食った声の店主。それゃそーだ、なんてったってその男、テーブルに明らかな『非合法ドンと来い』系列の男達を控えさせている。そして自身が胸の付けたピンバッジは、俺も見たことのあるどこかのマフィアのシンボルマーク――つまり、まあ、幹部系。
 ……そんな事をまったりと観察していたら、囲まれていました、と。

「だ、大丈夫ですか、お客様ッ」
「――命に別状は、ない。パーツの間に入った程度だ」
「あー、……それは何より……災難、でしたねー」
「――――やれ」

 予想外の事態が起こったら対処と言うのは実に大変。特に俺のようなタイプは、なんと言うか、世渡りは下手だけれど生きるのが上手と言うタイプで――つまり、人とのコミュニケーションを取るのが苦手だから。人と話をする時はもっとこう、事前に考えてシミュレートもするし、アクションリアクションもある程度予測を立てておく。不測の事態によって乱された心情と言うのは、静まるまでに中々の時間が掛かるからだ。そしてその間に何か、人生最大の危機に放り込まれる事だってないわけじゃない。

 まあつまり、予測は大事です、という話。

 俺は自分に飛び掛ってきた黒服の一人の肩に手を付いて、その上を飛び越えた。この人数を相手にするほど酔狂じゃない、三人以上を相手する場合は自分も複数人で対応するのが妥当と言うもの。囲まれた時点で袋叩きにされるイメージは出来上がっていたから、回避動作も同様だ。
 要は囲まれたそのサークルから出てしまえば、身体の自由度は格段に上がる。そして後は、まあ、のんびりと脚を振り回したり銃底で殴ったりすれば良いだけだ。安全装置を掛けておけば暴発はしない、この場合銃はただの鈍器と化す。言うなれば石器。ううん、なんて原始的な戦い方――

 俺は一人の足を払い、床に叩き付ける。身体を崩してその鳩尾に膝を入れ、腕を薙げばまた一人脚を取られた。その肩をめ一杯に押せば、床に叩き付けられた身体は呼吸困難。危ないかな、と思いつつもブーツで首筋に蹴り。
 背後から押さえ込まれそうな気配に気付いて前転、の途中で足を伸ばす。自然背後に居た相手は顎を蹴りの上げられた。器用に倒立前転から起き上がり、勢いを殺さないままに廻し蹴り。うん、最近銃に頼ってたから、身体が硬くなってるな。足を伸ばすと筋が痛い。
 さて。

「限度の三人は頑張ったし、人数も半分になったところ、で――」

 くるり、ぐきっ。

「ッぅぉをッ」
「な、なんだこいつ!?」
「ブーツでターンかまして足首捻ったぞ!?」
「あそこからグレネードランチャーが飛び出すのか!?」
「ふ、ふふふ――違うな」
「何!?」
「トンズラ、だ!」

 単純に捻りました、捻挫です。

 それでも痛む足を引きずって、俺は逃げる。逃げ足はいつもの三倍だ、今日は靴紐を赤にしていて良かった。ラッキーカラーは赤、三倍の色。俺はスラムと町の間にあるような工房のドアを蹴り開ける、しまった捻挫してる脚で蹴っちまった、死ぬほど痛い。
 ぽかんと口を開けているオッサンの口に安全装置を外した銃を突っ込み、にっこり笑顔を。

「取り敢えず――メンテ頼むぞ……この、詐欺師が。暴発、させて――やろうか、このまま。それとも――」
「ぁ、がぁあ」
「マヨとマスタード抜きの、ホットサンドイッチを……俺に恵むか……」
「ほ、ほうは!(後者!)」
「……ふぁいなるあんさー?」
「はいあるあんはー!(ふぁいなるあんさー!)」
「じゃ、作って……来い」


 後日から、何故か俺は街の連中に避けられるようになった。そして何故か食堂に入れなくなり、街中で襲撃を受けるようになる。このままでは通行人の皆様に迷惑だ、これはいけない。

「……どっか行くか……確か、アフリカで――なんか見付かったとか、見付からなかったとか……」


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PCシチュエーションノベル(シングル) -
哉色戯琴 クリエイターズルームへ
PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2004年12月20日

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