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『『リバーズ・エンド』 』
羽角・悠宇3525)&初瀬・日和(3524)


 温かなもう春も終わろうという頃の陽光の中で、悠宇は小刀で手の平サイズの丸太を削り出していた。
 彼の隣にちょこんと座って、それを見ている日和は長い髪を掻きあげながら小首を傾げる。
「その丸太はどうしたの?」
「学校の帰りに家を建てている所があって、そこの大工さんにもらった」
「ふーん。それでその丸太を使って何を作るの?」
「船」
「船?」
「そう、船だ」
「船か。楽しそうだね」
 日和はにこりと微笑んだ。
「それは飾っておくの?」
「いや、川を走らせる」
「川を?」
「そう」
「川って、近所の?」
「おう」
「それはなかなかにすごい冒険だね」
「だろう?」
 縁側に座る日和の足下で愛犬のバドが顔をあげた。
「その船はどんな船になるの?」
「帆船だよ。色はこのまま」
「色を塗らないの?」
「ああ。ニスは塗るけど、色はつけない」
「どうして?」
「木の色を大事にしたいから。ほら、この色だけで綺麗だろう?」
 悠宇は手に持っている彫りかけの丸太を太陽に向けた。陽光を浴びるそれはとても綺麗だと日和も想った。
「そうだね。すごく綺麗」
 日和はくすりと笑う。
「その船に乗ってるのは誰なの?」
「それは俺と日和だよ」
「まあ、嬉しい」
「それと犬のバドと、イヅナの末葉と白露」
「それはちょっとしたノアの箱舟のようね」
「あはははは」
「川からその船が目指す場所は何処なのかしら?」
「リバーズ・エンド」
「川の終わり?」
「そう。そして」
「海ね」
「ああ」
「ここから海か。それはやっぱり、ものすごい冒険よね」
「おう」
 日和は瞼を閉じる。そして風に肌を撫でられるその感触を飛躍させる。
「川に船が下ろされたわ」
「よし。じゃあ、まずは帆を張るんだ」
「ええ」
 話に乗ってきてくれた悠宇に感謝して、日和はまたくすっと笑う。
「帆が張れたわ」
「風も吹いている」
「船は海に向って進むのね」
「おう」
 だけど冒険には危険がつきものだ。
「大変、悠宇君。バドがやけに吠えていると想ったら大きな怪物が襲ってきたわ」
「ん、それは亀だ。噛みつき亀。気をつけないと船体ごと噛みつかれて船が沈むぞ」
「どうしよう? この船には武器はあるの?」
「いや、無いよ」
「それはダメよ。大海原を行くのだから武器が無いと」
「なーに、冒険は知恵と勇気で行くのさ。噛みつき亀は凶暴だけど、でも日和がいるだろう。歌を歌って、その亀を手懐けるのさ」
「なるほど。歌は力を持つものね」
「そうさ。さあ、日和、歌を」
「ええ。では悠宇君はブルースハープを奏でて。曲はアドリブでいいわ」
 悠宇は小刀で丸太を消すりながら鼻唄を歌う。それに合わせて日和も歌を歌う。
 バドが日和の足下で吠えた。
 イヅナたちも日和の両肩で鳴き声をあげる。
 日和と悠宇は顔を見合わせて、笑いあう。
「噛みつき亀はどうやら去ったようだわ」
「ああ、そのようだ」
 日和はお腹を両手で押さえる。
「お腹が空いたわ」
「じゃあ、釣りだな」
「釣り?」
「そう。自給自足だ」
「魚だけでは栄養が偏るわ」
「わかってるよ。だからちゃんと冷蔵庫もあるし。甲板には蜜柑の樹も植えられてるしね。だから栄養面は大丈夫」
「壊血病は怖いもんね」
「料理は日和に任せるよ」
「ええ。任せてちょうだい」
 犬のバドとイヅナたちがしかし座ったままの日和を不思議そうに見るが、しかしこれはもちろん話の続きだ。
「冷蔵庫の中にある物はお肉、ハムと卵、それに野菜。他にも保存の良い物がたくさんあるわね」
「日和。魚も釣れた」
「わわ。ではこの魚を使ってお料理をしましょう」
「ほほう、これは上手そうだ」
「さあ、たーんとお食べください」
「おう」
 そして二人で、会話の中でご飯を食べる。
 食器洗いは悠宇の仕事のようだ。
 悠宇は小刀で丸太を削りながらその過程を音声化させる。
「まったりね。この航海は。って、航海っていう言葉でいいのかしら?」
 顎に人差し指を当てながら小首を傾げる日和に悠宇は肩を竦める。
「いいんじゃないのかな? でも、まったりはどうだろう? この船は川からリバーズ・エンドを目指すんだから、やっぱり危険だよ。なんせそこには巨人がいるんだから」
「巨人?」
「そう、巨人。ほら、黒いランドセルを背負った巨人が笑いながらこの船を捕まえようとしてきた」
「ああ。なるほど。それはありうるわね。今度も歌を歌うの?」
「いや、子どもは夢中になるとそれしか目が行かなくなるから、難しいかな」
「では?」
「ん、冒険を聞かせるんだ」
「冒険?」
「そう。子どもは冒険が大好きだから」
「それでお友達になるのね」
「ああ」
「そうするとその子たちが船を運んでくれるのかしら?」
「いや、彼らもちゃんと冒険を理解しているから、それは向こうからも言わないし、俺も言わない」
「そうなんだ」
「それで船は川を行くのね」
「リバーズ・エンドを目指してね」
「あ、でも海に繋がっているのなら、潮の流れにも影響されるんじゃないのかしら?」
「そうだね。海が満潮になる時間は、船もやっぱり流されてしまうと想う」
「それは困ったわ」
「そうでもないよ」
「どうして?」
「船が沈まないようにバランスを取る作業は面白いし、なかなかの冒険だ」
「うーん」
 日和は渋い表情。
「だけど満潮の時に流されるなら、引潮の時は船は進むのよね?」
「ああ。のはずだよ」
「だったらまんざら悪い訳でもないわよね?」
「そだね」
「一気にリバーズ・エンドまで行くかしら?」
 嬉しそうに言う日和に、今度は悠宇が苦笑を浮かべる。
「いや、それじゃあ、つまんないよ」
「あら」
「だけどリバーズ・エンドの近くまでは行く」
「そうだね」
「その時の気持ちはどんな気持ちなんだろう」
「ん?」
「噛みつき亀に襲われて、巨人にも襲われて、釣った魚や冷蔵庫の中の食料で料理を作って、潮の満ち引きにも左右されて、そんな航海を続けて、ついにリバーズ・エンドに辿りついた時の感動は?」
「どうなんだろう。わからないな。俺には。想像もできないよ」
「そうだよね。私にも想像できないよ。その船はリバーズ・エンドに辿りついた時、どう想うんだろうね?」
「さあ。でも」
「でも?」
「確かなのはそのリバーズ・エンドの向こうには海があって、そして海に出たらまた新たな旅が始まる」
「そうだね」
 そして悠宇は船を完成させた。その一週間後に。
 季節は春の終わりから、夏になっている。
 初夏の明るい日差しの下で、
 少年と少女は、リバーズ・エンドに向けて、その船を川に流した。



 ― fin ―


 ++ライターより++


 こんにちは、羽角・悠宇さま。
 こんにちは、初瀬・日和さま。
 いつもありがとうございます。
 リバーズ・エンドの向こうに広がる何かにそっと想いを馳せる二人が何かを見つけられる事を祈っております。^^


 それでは今回はこの辺で失礼させていただきます。
 本当にご依頼ありがとうございました。
 失礼します。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2004年12月15日

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