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『Dance, Would You ? 』
鈴森・鎮2320)&鈴森・夜刀(2348)

 
 テレビの中で、羊や熊や子豚や狼のマリオネット達が、歌にあわせてくるくると踊る。
 童謡をポップスやロック調にアレンジして聞かせる子供向け音楽番組。アレンジの大胆さと、原色をふんだんに使ったキッチュかつポップな画面構成とで、今や大人にも人気上昇中のプログラムである。
 そして、目下、鈴森鎮のお気に入りでもあった。
「始まったー!」
 鼬の姿でリビングのテーブルの上に降り立ち、鎮もテレビの中の人形達と一緒に踊り始める。隣には、彼のペットであるイヅナのくーちゃんも一緒だ。
 今日は、ある日森の中で熊さんに出会ってしまうあの歌のロックバージョン。
 鎮もくーちゃんもノリノリだった。
 身長二十センチほどのチビ鼬と、ロボロフスキーハムスターそっくりの掌イヅナ。そんな二匹が、後足で立ち上がり、リズムを取ったりクルリと片脚で回ったり。時折、バランスを崩して倒れそうになりつつもノリノリで踊る。
 歌は佳境に入った。ラストの「ララララーラーラーラーラー」で鎮が前足を差し伸べ、くーちゃんがその下でくりくりと回転する。コンビネーションもばっちりだ。
 ブラウン管の光の前で繰り広げられる、小動物スキーなら一発撃沈間違いなしの光景に、熱い視線を送る男がいる――。
「あー、良い汗かいた!」
 一曲踊りきって、鎮は人の姿で額の汗を拭った。その腕に飛び乗り、きゅう、とくーちゃんも満足げに鳴く。
「ジュース飲もうぜ、くーちゃん。ノド乾いただろ? ……っと」
 キッチンに行こうとしたら、鼻先にコップが差し出されたので、鎮は目を丸くした。
「兄貴?」
「まあ、飲め。弟よ」
 オレンジジュースを片手に、神妙な顔をして背後に立っていたのは、鮮やかな金色に染めた髪がよく似合っている若者。鈴森兄弟の次兄、夜刀である。
「なーんか、薄気味悪いなあ。どういう風の吹き回しだよ」
 氷が入って冷たく、親切にもストローまで添えられたコップを受け取りつつ、鎮は胡乱げに夜刀を見た。
「どういう風の吹き回しって。一年365日一日24時間、いつもいつも優しいおにーちゃんだろ、俺は」
 真顔で言う夜刀の手の中には、くーちゃん用の小さなカップ(鎮お手製)まである。貰い慣れない人物からそれを渡されて、くーちゃんも円い目を瞬いた。
 どうも怪しい。鎮の危惧通り、オレンジジュースが無くなったところで、にっこり笑って夜刀が切り出した。
「ところで可愛い弟よ。まだまだ踊り足りなかったりはしないかな?」
 別に、と頭を振ろうとした鎮の肩を、がっし、と夜刀の両手が掴む。
「踊り足りないよな? これから、俺と一緒にクラブで楽しく踊りたい、むしろ踊るよな!?」
「クラブって……」
 クラブとは、夜刀が出入りしているいつもの盛り場、ナンパスポットだろう。そこで何故自分が踊る必要があるのか、鎮には理解できない。しかし、夜刀には夜刀なりの理屈があるのだ。 
 そう、先ほどから踊る鎮たちに熱い視線を向けていたのは他の誰でもない、この夜刀だった。女の子は、大抵可愛いものが好き。小動物が好き。それが音楽に合わせて踊っていたら、メロメロになるに違いない。そこを口説けば……!という、超下策な作戦を、彼は踊る二匹を見ながら思いついていたのである。
「おにーちゃんの、小動物でドッキドキ☆ヤッターモテモテだー☆作戦に協力してくれ、弟よ!!」
「えー!」
 露骨に嫌そうな顔をする鎮を捕まえ、強引に引っ張って、夜刀は夜の街に繰り出した。
 胸に、モテモテの野望を抱いて。

    ++++

 音と光が溢れるクラブの店内。
 大音量のユーロビートをかき消す勢いで、黄色い声が上がった。
「かわいーい!」
「なにコレ、ぬいぐるみみたい!」
「も一回踊ってー!」
 テーブルの上に鎮とくーちゃんを下ろし、なだめすかして踊らせると、夜刀の目論見どおり女の子たちが寄ってきた。席をぐるりと囲まれて、夜刀は満足げだ。
「ほら、鎮。くーちゃんも、もっと踊って踊って!」
「えー」
 掌で背中を押されて、チビ鼬と掌イヅナは再び踊り出した。キャア、と歓声が上がる。
 夜刀はというと、周囲の人だかりの中から可愛い女の子を物色しているようだ。
(鼻の下、長えー)
 ちらりと夜刀の顔を横目に見て、鎮は呆れ顔になった。その隣で、くーちゃんがピョイと跳ねて喝采を浴びる。賑やかなこの場所が気に入ったらしい。
「ま、いいか」
 この際、鎮も夜刀のことは気にせず踊りを楽しむことにした。
 さて、夜刀はというと、もう内心笑いが止まらない。ここまでは狙い通りだ。男連れではなく、かつ、好みの女の子数人に目星をつけ、片端から声をかけることにする。
 が。
「なあ、ところでキミ、……」
「ああん、もう、可愛いー!」
「あのさ、後で……」
「さっきのくるって回るの、またやってー!」
 二匹の小動物にすっかり心奪われている彼女たちに、夜刀の声は届かなかった。
「あのー…………」
「あ、飼い主さん?」
 やっと、一人の子に振り向いてもらえた。夜刀の顔がぱっと輝いたが、しかし、すぐにどんよりと曇ることになる。
「この子たち、何食べるの? おつまみのナッツあげちゃダメ?」
「え? ああ、どうぞ」
「食べてるー! 可愛いー」
「あーん、撫でたーい。いいですかー?」
「え?? うん、どうぞ」
「ずるーい! 私も撫でるー。キャ、ふわふわー!」
「この子たち、なんていう名前なの?」
「あー……鎮と……くーちゃん……」
 次々と投げかけられる質問は、鎮とくーちゃんに対してのものばかり。
 平静を装って答えるものの、夜刀の胸中は半泣きだった。
「お、俺の名前は聞いてくれないのね……」

   ++++

 その後、鎮とくーちゃんはモテにモテた。
 踊って楽しんだ上に、お菓子をもらったり飲み物をもらったり、綺麗なお姉さんに抱っこされたり。美味しい思いを山ほどして、数時間後店を出るころにはすっかりご満悦の表情だった。
「楽しかったー!」
「きゅうー!」
 人の姿になった鎮の肩の上で、くーちゃんも嬉しそうに喉を鳴らす。
「……そうかそうか」
 対照的に、夜刀はぐったりしている。
 彼の野望はついえた。可愛い小動物が居れば、そりゃあ、可愛い小動物“が”大好きな女の子が集まってくるわな、という話で。そりゃあ、モテるのは飼い主ではなく、その小動物本体だわな、というオチで。
「俺は疲れたよ。……精神的に」
 さんざんオマケ扱いされて、夜刀の自尊心はいたく傷ついていた。いつものお調子者ぶりはどこへやら、肩を落として萎れまくっている。
「また連れてけよな、兄貴」
 ぽん、とその萎れた肩を叩かれて、夜刀は顔を上げた。鎮の無邪気な笑顔が、彼の心に塩を擦りこむ。
「二度とお前らは連れて行かねー!」
「えー! やさしーおにーちゃんじゃなかったのかよー!」
「お子様はな、夜はお家でミルクでも飲んでるのが一番なんだよ!」
「何だよ、それ!」
 夜刀の喚き声と、鎮の不満げな声が、夜の街に響き渡った。


                                  END














++++++++++*ライターより*++++++++++++++++++++++++

 お世話になっております。担当させて頂きました、階アトリです。
 またまた可愛い鎮くんと、ちびっこイヅナを書かせて頂けて楽しかったです。
 夜刀さんと鎮くんとの関係は、過去作品を参考に、次兄さんには「兄貴」長兄さんには「にいちゃん」という呼び方の違いから、色々と想像させて頂きました。
 夜刀さん、折角かっこいいんだから、普通にナンパしたほうが良いのでは?とプレイングを読んだ瞬間に思いましたので、野望はこのようなオチに。
 冒頭の子供番組は、こんなのがあったら楽しいかも、というライターの捏造です。鎮くんのイメージにそぐわなかったら申し訳ありません。
 楽しんでいただけましたら幸いなのですが……。では、失礼します。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
階アトリ クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年12月14日

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