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『決着の果てに待つ結末 』
神崎・こずえ3206)&明智・竜平(4134)



 決闘ではないが、そのような戦いを申し込んで三日後。
 時刻は午後十時三十分。
 天気は晴れ。
 場所は例の公園――以前、目撃されているので公園の奥の雑木林の囲う、ひと気のない場所を戦いの舞台に選んだ。
 これで誰にも邪魔をされない、決着がつくまでは。
 明智・竜平(あけち・りゅうへい)と対峙するのは、幼馴染の神崎・こずえ(かんざき・こずえ)である。寄生霊に取り憑かれ、屈強な敵を求めて暴走する彼を止めるためには戦うほかに手段はない。
 こずえは、戦いが始まるとすぐに呪符を使用し、《封滅結界》なるものを周囲に張り巡らせた。この結界に触れた霊体、または霊質を持った生命体は使用者に調伏――つまり屈服させられる。彼女は多種多様な符を用意していた。また符を自在に操るために特殊な素材で出来た糸を右手に巻きつけている。
「――うざったい、戦略だな」
 しかし、竜平はそう簡単には引っ掛からない。恐るべき身体能力で応戦してくる。竜平は接近戦を好む。力では到底叶わないこずえはなるべく距離を置いて戦っているが、竜平はサイキックも使用できるため、遠距離からも攻撃してくる。それ自体は軽いものだが、それを機に接近してくる恐れもあった。
 見えない『何か』が空気を伝ってきた。
 その『何か』は一般人には決して察知できないものだろう。こずえにだって見えはしない。だが、竜平が力を繰り出す瞬間の癖は見抜いていた。というより、サイキック能力者は力を使用するとき、何らかのアクションを起こす。こずえはすでに何度か体験しているので事前には察知できなくても発動時には感知できる。
「――やばっ」
 こずえは咄嗟に地面を転がった。次の瞬間、後方の杉の木の枝が上空から降りかかってきた。竜平のサイコネキシスにより枝が折れたのだ。棘のある杉の葉が太股に刺さる。
 痛みに耐えながらすぐに立ち上がった――が、わずかな隙を狙って竜平が容赦なく飛び掛ってきた。懸念していた通りだが、杉の葉が思わぬイレギュラーとなった。
 もみ合いになる。竜平がこずえの喉笛を狙って腕を伸ばしてきた。反応よくこずえは体を横、数十センチほどずらし、竜平の腕は地面に突き刺さった。
 今がチャンスだと思い、こずえは糸に絡めた符を竜平に差し向けようとした――が、竜平は反対の手で符を弾き飛ばした。これもサイキックの能力だ。
 再び離れ、息を整える暇もなく竜平が地を蹴る。
 こずえは、ここまでは予定通りね、とわずかに笑みを浮かべた。
「ふん、笑う余裕さえあると言いたいのか!」
 思い通りにいかない戦いに竜平はいささか冷静さを欠いている。もちろん、こずえにも余裕などなく、たとえ勝てたとしても辛勝だろうと予測していたのだが、軍配が上がるのはこちらだと確信していた――先ほどのもみ合いの中で。
「――なっ、これは」
 竜平がこずえの数歩手前の地面を踏んだ瞬間、光が満ちた。
 予め地面に仕掛けておいた符――《霊縛結界符》である。二組セットになっていて、もう一組はもみ合いになっているときに、竜平の足に絡ませておいた。右手の糸は大げさに扱って気を引いただけのダミー符で、《霊縛結界符》は左手に握っていた――それは竜平の視界の外での出来事だ。
 結界に取り込まれた竜平は、それでもどうにか脱出しようと暴れたが、そのうち力を失っていった。霊縛の作用があるお札が竜平の体内に潜んでいる寄生霊から力を奪っているのだ。寄生霊に力がなくなれば、竜平を操る事もできなくなり、自己消滅してしまうはずだった。
『――くっ……こんなことが……莫迦な……これでは……内にも外にも……ぐあああああぁぁぁ!』
 光量が一気に増し、周囲が昼ほどに明るくなったかと思えば――竜平の体から昆虫の類を思わせる形状の、実に気味の悪い生物が上空めがけて昇っていき、途中で粉々になった。
 公園内に闇が戻り、こずえは身動きしない竜平に駆け寄った。
「……くっ……お、俺は一体……なにを」
 正気に戻ったようで一安心したこずえだったが、竜平はこちらに気づくや否な、その場に膝をついて俯いてしまった。
「すまない」
 ただ、彼はこずえに謝罪の言葉を述べた。
 こずえは竜平の体を抱きかかえて、「よかった」と呟いた。
 しばらくお互い言葉もなく沈黙していたが、そのうち竜平が顔を上げた。
「知ってたんだ」
「……知ってた?」
「ああ、あの霊と同居する事を決意した理由が、すごくバカバカしいことだってな。俺はただ強くなりたかっただけじゃない……おまえに、こずえに理解してもらいたくて、カッコつけたかっただけなんだ。今ならよく分かる。劣等感だけじゃない。自己中心的な、利己的なエゴで……そこを寄生霊につけこまれたんだ。結局、俺の心の弱さが……」
「そんなことない……そんなことないよ。あたしだって……だってあたし、自分のやりたいことばかり考えてて……ごめんなさい。あたし、竜平の気持ち、まるで理解してなかった。ホント……バカだよね、あたしたち」
 嗚咽混じりにそこまで言うと、こずえは泣き出してしまった。竜平の服を掴みながら。
 泣くことで何かを発散するように、もしかしたら泣くことで苦しみを解放しようと無意識の内に考えたのかもしれないし、単に自分が泣き虫なだけかもしれないし、竜平に同情しているのかもしれないし、自分が悲しいだけかもしれない――だけどこずえは泣いた。
 泣くのに理由なんて不要だから――


 竜平の疲労は思った以上に重かった。そこで二人は近くにあったこずえのマンションに移動した。
 部屋の中に入ると、二人はごく自然に、特に言葉を交わしたわけではないのだがカーペットの上に寄り添うようにして座った。
 背中合わせ――こずえは竜平の体温を感じながら、今はこれでいいのかもしれないと思ったが、いつの間にか自分のこれまでの生活、退魔師としての日々を語り始めていた。
「今までいろんな怪奇事件と係わってきたけど、やっぱりどれも一筋縄じゃいかなかった。あたしが未熟なこともあるけど、退魔師って常に死の危険が迫っているの――あたし何度も死に掛けた、と思う。自覚がないわけじゃないけど、戦いの中で感覚が麻痺することって多いから。でも、それってすごく危険なことなんだよね」
 竜平は「そうか」と言いながらこずえの手を握った。
「依頼者だってまともとは限らないの。どんな依頼にだって応えないといけないし……でも、中には本当に信じられない依頼者もいる、もちろん敵だってそうだけど……貞操の危機だってあった。一般人を危険に晒して責任と問われた事もある。何度も何度も謝って、でも許してくれなくて……何日も何日も謝って、結局、許してはくれなかった。……普通の暮らしに戻ろうとも思った。でも、あたしは退魔師だから、人にはない力があるから、これで同じような境遇の人たち、力を持った人たちとも出会えた。そして、誰かの命が助かるのなら、自分の力を行使することができるって思えるようになったの」
 こずえは振り返り竜平に言った。
「たぶんね、力があるということはね、リスクをしょうってことだと思うの。五の力を使えば五の力が跳ね返ってくる危険性があると思うんだ。もし、あたしの生命力が四だとしたら、その五の力で命を落とすかもしれない。それが今のあたしの日常。力を有する人たちは誰もがその苦しみと戦ってるの……」
「……こずえ」
 竜平が毅然とした表情を浮かべ立ち上がった。
「俺はおまえの力になりたい」
「――え?」
 こずえが素っ頓狂な声を上げた。まさか、今、そんなことを言われるとは思ってもみなかったのだ。竜平はなおも続けた。
「俺にはこずえほどの力はない。以前までの俺はそのことさえ認めようとはしなかった。だけど、今は違う。俺は一人の人間としてこずえに協力したいんだ。出来る事は限られているかもしれない。もしかしたら、何も出来ないかもしれない。それでも――俺にしかできないことだってあるはずなんだ。もしそうだとしたら、俺はこずえの足手まといにならなくてすむ。その俺にしかできないことを、これから必死になって探すつもりだ。無理強いするつもりはない。俺もこずえの話を聞いて、危険性のある仕事だということ理解したつもりだ。それでも俺は、それを承知の上で協力したいと思ってる――ダメか?」
 恐る恐る訊く竜平は緊張した面持ちだった。
 するとこずえは「うん」と小さく呟きながらコクリと頷いた。
 何かが決壊したように思えた。決壊した何かは本来、不必要なもので――いや、人と人の間にある壁みたいなものなのだ。その壁はいくら破壊しようとしても乱暴な手段では到底打ち崩せない屈強な代物で、優しく囁きかけなければ壁はうんともすんとも言ってくれない。壁を崩すための方法論は人によって違い、非常に難解な作業となる。
 こずえと竜平は見事、壁を除去することに成功した。何度も衝突しながら、何度もすれ違いながら――そして、ようやく理解しあえた。
 もしかしたら、これからも苦しまなければならないのかもしれない。
 だけど、こずえは思うのだ。月並みかもしれないけど思うのだ。
 竜平が側にいてくれるのなら、と――



 −終−
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2004年12月09日

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