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『「炎の殺意」 』
架月・静耶4365


 犯した罪は放火。
 そして殺人。
 最初はただ、火が見たかった。
 炎がメラメラと燃える様は綺麗なのよ。
 家が燃えさかるのを、
 車やバイクが燃えさかるのを見るのが楽しかった。
 人が長い間、築き上げてきた財産がほんの数分にして灰となって消える、それが快感だった。
 その対象が人、となったのは、あたしが放火した家から飛び出して来た住人が火達磨になりながらもがき苦しみながら死んでいく様が美しかったから。
 だからあたしは、それをやったのだ。



 日本国首相は首相補佐官と共に北海道の秘密施設を極秘で訪れていた。
「国民は誰も知らないでしょうね。**刑務所の地下にこんな施設があるとは」
「ふん、知られては困るよ。なんせこれは私の切り札なのだからね。御前様にはどれだけ感謝してもし尽くせぬな」
「ですが、その御前様ですが、例の中国の蚊がこの日本に入り込んだ折に我らが派遣したエージェントを殺そうとしたようですが?」
 補佐官は声を押し殺して首相に囁いた。
 首相はその彼を睨み据える。
「馬鹿。口に出すんじゃない。だからおまえは週刊誌に女性問題を報じられて、選挙に落ちるのだ」
「す、すみません」
「御前様が何をお考えになられているのかは私にもわからんよ。しかし、あの方は神だ。神がなさる事はそれが全て。非力な人間は神がなされる事を見てる事しかできぬし、そしてそれがもっとも賢いやり方だ。馬鹿なおまえは女性の前でぞうさんしかやれんだろうが、私はそういう賢いやり方ができるから首相となれた。他の政治家やマスコミに批判されながらもおまえを首相補佐官に使ってやるのは、おまえがまだ使いようがあるからだ。私をあまり失望させるなよ」
 首相は恫喝するような声で首相補佐官にそう言い、そして歩き出した。
 薄暗い廊下を行く彼ら。
 前方に最新鋭の自動ドアがある。国会議事堂及び首相官邸の地下に存在する核シェルターの強度、設備を遥かに超える技術を注ぎ込んで作られた物だ。
 首相と首相補佐官はそれぞれ角膜チェックをして、そして開いたドアから次の部屋へと行き、それを10回繰り返して、それで彼らはそこに到着した。
 白衣の人間たちが多く歩き回る研究室に。
「ようこそ、首相」
「うむ。それでどうだ、研究は?」
「はい。先日、こちらにやって来た実験台を扱って、ひとつ、面白いモノを作り上げました。炎系の能力者です」
「炎系の能力者か?」
「はい。ジェット機並の炎を放出する事ができます」
 その科学者の言葉に首相と首相補佐官は眉根を寄せた。
「体は耐えられるのか?」
「まあ、実際見ていただく方が早いでしょう」
 科学者は指を鳴らした。
 壁が静かに横にスライドし、そして現れた強化硝子の向こうにはひとりの女性がいた。あれだけ週刊誌で叩かれたのに、まだ色好きの首相補佐官はその女性の容姿に生唾を飲み込む。彼女は美しかった。それもそのはずだ。彼女は数々の罪によってつい先日死刑となったはずの女優であったのだから。
「やはりいい女ですな」
 たまらず彼女のたわわな胸を眺めながら呟いた首相補佐官に首相は鼻を鳴らした。
 そんな彼らを横目で嘲ったように眺めながら科学者は指を鳴らした。
 彼女の前に神話上で語られるグリフォンが現れる。遺伝子操作によって誕生した化け物だ。
 それが彼女に襲い掛かるが、しかし彼女は唇の端を吊り上げて、化け物に右手を向けた。転瞬、彼女の体が紅蓮の炎に包まれて、怪物の方は消し炭となって消えた。
 彼女は笑っていた。炎に包まれながら己が美しい体を両腕で抱きながら。
 もはや首相補佐官は彼女を陵辱するような視線は向けてはいない。向けているのは恐怖と嫌悪の視線だ。
 しかしその彼の瞳が大きく見開かれた。
 なぜなら彼女がこちらを見てるからだ。
 そしてそれが彼の、そして彼らの最後となった。
 科学者たちの想像以上の事が彼女の身に起こっていたのだ。
 彼女は強化硝子の向こうから手を向けて、そして、
「炎の華よ、咲け」
 と、呟いた瞬間に、まるで電子レンジの中に入れられていたかのように内側から首相も首相補佐官も、科学者もすべて破裂して、そしてその肉も内臓も、すべて焼失した。


 そして狂気は放たれた。



 ――――――――――――――――――
【Begin Story】


 またいつもの血生臭い戦場へと僕は赴く。
 連絡が入ったのは2時間前のAM3時32分。
 赴く先は北海道**市にある**刑務所。
 そこでエージェントと合流し、僕はその人の補佐という事になるらしい。
 詳しい任務はその人から受け渡されるらしい。
 組織が用意した飛行機の窓から下に広がる世界を見つめながら僕は、組織の事について考えていた。
 組織はどうやら僕を殺そうとしているらしい。
 理由はわからない。そしてどうやら兄の死にも組織が裏で関係しているらしい。
 ならば離反するか、組織から。
 いや、ダメだ。
 そんな事をすれば、兄の死の理由を知る術が失われる。
 虎穴に入らずんば虎子を得ず。やるしかない。
「架月静耶。目標地点上空に到着した。これより当機は」
 パイロットがレバーを握り締めながら僕に何かを言わんとするが、しかし僕はそれを聞いてはいなかった。
 殺気が…殺気? 違う。純粋な狂喜がこの飛行機を襲ったのだ。
 胸の奥底から這い上がってくるような嘔吐感に僕はこれから自分を襲う現実を知る。
 ――あるいはそれを人は虫の報せ、と呼ぶのだろう。
 僕のような死地を何度も生き残ってきた者だけが得ることの出来る感覚。
「くそぉ」
「どうした? って、おまえ、何を???」
 パイロットがそう言うが早いか、それとも僕が呪符を取り出すのが早いか、飛行機を熱波が襲い、爆発炎上した。
 もしも地上からこの飛行機を見上げていた者がいれば、その人は夜空に炎の華が咲いたのを見ただろう。
 しかし僕は取り出した呪符による結界を張っていたので、その炎から僕の命とそしてパイロットの命を守り抜いたのだ。
 だがそれでこの星が持つ重力から解放された訳じゃない。
 僕らを襲う重力の力。
「やられるわけにはいかない」
 呪符を握り締め、僕は印を切る。転瞬、手放したその呪符は巨大な大地から生える手となって、僕らを受け止めて、そして僕を大地に下ろしてくれた。
 大地に降り立った僕を新たな炎が襲う。炎の鳥、不死鳥が。
「だからと言って」
 僕は呪符の剣を握り締め、それで不死鳥を切り裂いた。
 ――勝ったつもりになった。その瞬間。だけどそれは甘かった。
 切り裂かれた不死鳥は火の粉となって、その火の粉が小さな不死鳥となり、僕を襲うのだ。
「くぅ」
 再び印を切ればその呪符の剣が広がって、僕を覆って、鎧となり、それが炎から守ってくれた。そう、ぎりぎり命だけ。
「死ぬか、架月静耶。ここで死ねばおまえは楽になれるぜ?」
「そうですわ。どういたします?」
 中年の男と、小学生ぐらいの少女。二人は全身火傷に虫の息となった僕ににたにたと微笑んでいる。
 僕はその二人にありたっけの力を込めて微笑んだ。
「やれ」
 男が言った。
 そして少女が、
「ホーリー・エンジェル」
 と、己が能力名を囁いた。転瞬、彼女の背中から純白の翼が生え、そして彼女のかざす手から放出されたエネルギーによって僕の傷は完全に癒えた。
「合格だ。さてと、狩りを始めるぞ」
 男がそう言った。しかし突然にそう言われても……
「あなた方は一体?」
「俺らは組織から派遣されたエージェントだ。失敗作を狩る為にな」
「失敗作?」
 彼はとある場所を指差した。そこにあったのは火事の跡だ。
「ここには刑務所があった。3時間前まで」
「3時間前まで?」
「そうだ。しかしその場所をたったひとりで焼失させた者がいる。それが俺たちの標的」
「標的。では敵は能力者で、そしてその能力は」
「そう。俺と同じ炎を扱う。しかしスペックは向こうの方が上。ポテンシャルもな。いかに同じ炎の能力者とはいえ俺の炎への耐性では奴の炎には敵わない。そこでおまえが派遣された。おまえの役目は呪符による俺のサポートだ」
「あたしと一緒にね」
 ウインクする少女。
 僕は絶句した。あれだけの能力者である彼すらも……
「怪異ですか?」
「いや、人間だったものだ。強化人間だよ」
「強化人間? それは一体」
「おっと、そこからは言うんじゃねー。俺らの動き・会話は隠者によって監視されている。少しでも変な行動をすれば、抹殺対象に指定され、狩る立場から狩られる立場になるぜ?」
「それは……わかってます」
 ――あるいは兄も……。
「では、作戦開始だ」



 +++


「しかしあなたよりも強力な能力者ならば、あなたの炎は通じないでしょう? だったら、どうやって標的を倒すんですか?」
「これを使う」
「これは?」
「相手は真性の能力者ではない。詳しい話は受けてはいないんだが、進化を促す薬物等によって強化されているらしい。故にその能力を持つに至った薬物の影響すべてを無効化できるこの薬を使うんだ。この薬を使えば、標的はただの人間と戻る」
「ただの人間ですか」
 ――ただの人間でも記憶はある。その記憶を吐かせれば、なんらかのアドバンテージを組織に対してもてるかもしれない。
 僕らを乗せた車は街へと向っている。
 心理学的理由に基づいてだ。
 おそらくは十中八九そこで標的と遭遇できるはず。
 向う先から凄まじい狂喜を感じるからだ。喉が緊張にひくひくとした。
「問題はどのようにして標的を誰もいない場所に移動させかですね」
 僕がそう言った瞬間、助手席の彼が鼻を鳴らした。
「あほか。んな事をやってれば、死ぬのはこちらだ。何、組織には街一つの壊滅は了承させている」
「なっ」
 僕は言葉を失った。しかしここで下りるわけにはいかない。
「了解」
 僕はそう言い、アクセルを踏む力を強めた。



 +++


 彼女はその街にあったブティックで衣服を買い揃えると、店主を焼き殺した。
 くすっと笑いながら肩を竦めた彼女は店の外へと出る。
 ほとんど肉のついていない薄い腹からぐぅーっと音が上がった。
「ちぃ。やーね。この能力を得てからほんとに楽しいけど、燃費が悪いのが一番のネックだわ」
 科学者の話に寄れば今の自分は軽トラックがF1のエンジンを積んでいるような物なのらしい。
「早くご飯を食べたいわね」
 そして彼女はファミリーレストランを見つけて、そこへと歩いて行こうとし、その彼女の前に車が止まった。
 中から出てきた三人に彼女はほくそ笑む。
「これは楽しめそうね。あなた方なら、綺麗な炎の華を咲かせられそうだわ」
 それが彼女の性であったのだ。



 +++


 僕は焦った。
 彼女が今の僕よりも強いから。
 それに、周りにはたくさんの無関係な人間がいるのだ。その人たちを……
「そこのボク」
 彼女は僕を指差す。
「あなた、好みよ、あたしの。だから抱きしめてあげる」
 転瞬、彼女の体が紅蓮の炎に包まれる。
 周りからあがったのは阿鼻叫喚だ。
「ちぃー、この馬鹿、やめろぉー」
 僕は呪符を取り出す。式神を作り出し、それに彼女を襲わせるが、しかしそれらはすべて灰となって……
「抱きしめられるのは嫌いなの?」
「なっ」
 彼女が掻き消えた、と想った瞬間に、背後からかけられた声。
 鼻腔をくすぐるのは空気が焼ける臭い。そして人肉も。
 周りは悪夢かのように火の海となっていた。
「くぅそぉー」
 僕は呪符による剣を作り出し、後ろを振り返ると共に横薙ぎの剣撃を放った。
 だが、その剣は灰となって消えるのだ。
 彼女はにやりと笑って、僕に手を向けて、炎を放つ。
「うぉ」
 僕は呪符によるガードを張る。
 怒りによってポテンシャルが引き上げられた。
 彼女の炎を僕は……
「あら、やっぱり、楽しめそう。じゃあ、五分咲きよ」
 瞬間、視界が青白い炎で覆われた。



 +++


「ふん。まあ、良しとするか。よくやったぜ、静耶。おまえが標的に隙を作らせた」
 彼は銃を撃った。弾丸は彼女に着弾している。薬品は即効性だ。彼女はもう普通人。
「焼き殺してやるぜぇー」
 彼は彼女に向かって不死鳥を放った。
 しかし、
「おバカさん」
 くすっと笑ったと同時に不死鳥は火の蛇に飲み込まれて、そして彼も灰となって消えた。
「あー、やっぱり綺麗だわ。火の華は」
 けたけたと笑う彼女。しかしそこでぴたりと笑いを消すと、彼女は鬼のような表情で肩を大きく上下させながら立っている静耶を睨んだ。
 そう、彼は耐え抜いたのだ、彼女の炎に。
「五分咲きに耐えれるなんてね。だったらこれはどう?」
 彼女はハイな声で叫んだ。そして、炎の蛇が静耶に襲い掛かる。
 それを睨み据えながらぐぅっと歯を食いしばる静耶。口の片端から、血の筋が垂れる。
「うぉおー」
 静耶が咆哮をあげる。彼の前から式神が飛び出し、火の蛇と激突し、それを抱き抱えて、潰した。
「へぇー、それがボクの力? 炎の猿」
「そうです。これが僕の力です」
 静耶は怒りによってポテンシャルをあげた。
 炎の猿はほんの一瞬で彼女の力を見抜き、それと同等の力を込めて作り上げたモノなのだ。
 しかし……
「だけど、その力にボクの体はついてきてはいない。息も絶え絶え。体が悲鳴をあげている」
 そうなのだ。時折、筋肉流動が起こり、静耶は悲鳴を上げそうになる。
「さあ、これで終わり。満開の華をボクの死に花にしてあげる」
 彼女は両手を広げて、炎の華が咲き、その花の中心から静耶に向って炎の蛇が。
「くぅそ、僕はここで」
 下唇を噛む静耶。
 炎の猿が炎の蛇を受け止めるが押されている。
 静耶の体から血が噴き出す。
 しかし、
「感謝する事ね。この巡り合わせに。いえ、感謝するのは早いかしら。だって、あたしの能力を使ってもあなたをフルに回復させる事は出来ないから」
 静耶の後ろで少女が能力を使い、静耶の体を回復させている。
 回復していってる傍で、傷つくが……。
「これはぁ」
「均衡状態か」
 炎の蛇と炎の猿はがっちりとぶつかりあったまま動かない。
 しかし能力者には大きな差が合った。
 静耶は回復してるのだ、少女の力で。
 だが、彼女は腹を空かせて……
 ぐぅーっと鳴る腹の音を聞きながら、彼女はへっと口の片端を吊り上げた。
 そして炎の猿によって、彼女は灰となって消え去った。



 ――――――――――――――――――
【ラスト】


「勝ったのに、残念そうね」
「そうでもないさ」
「あら、そう?」
 少女はくすくすと笑った。
 しんしんと降る雪。
 その雪がまるですべてを覆い尽くすかのように降り積もっていく。
「雪はすべてを覆い尽くすわね。匂いも、物も、雪の前では消えるわ」
「そうだな」
「だけどどれだけ雪がムキになって降り積もっても、それで覆い消せるのは雪が存在できる時だけ。明るい太陽に溶かされたら、隠していたモノは現れ出る」
「何が言いたい?」
「だからさ、太陽はすごいって事よ」
 そう言ってる傍から分厚い雪雲が途切れ、太陽があらわれ出る。
 少女はその太陽に手を伸ばし、開け広げていた手を握り締めた。
「そうだな」
 静耶も手を太陽に向けて、握り締める。
 傍から見ればそれは他愛も無い話。しかしそれは隠語を活用した話であった。太陽はすべてを知ってるモノ、という意味を示す。つまりは少女はそれを掴めば今回の事も何もかもわかると言っているのだ。
 静耶のやるべき事は、何故か少女が教えてくれた。
 この少女と行動を供にするかどうかは別として、静耶は自分から動くべき機が来ている事を感じ取っていた。

【了】
 

 ++ライターより++


 こんにちは、架月静耶さま。
 いつもありがとうございます。
 このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。


 プレイングでは嬉しいお言葉ありがとうございました。
 ライター冥利に尽きます。^^
 PCを一番に知ってるのは、PLさまなので、そのPLさまからそう言ってもらえるのは嬉しい事です。
 今回は静耶さんのポテンシャルの高さや、性格の末端のようなモノを書けましたし、彼が進むべき方向を書けたので、良かったな、と想いました。^^
 本当に一体、彼の運命がどうなるのか楽しみです。^^


 それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
 本当にご依頼ありがとうございました。
 失礼します。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
草摩一護 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年12月08日

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