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『てくてく、と 』
ファン・ゾーモンセン0673

 その日、ファン・ゾーモンセンは小鳥のさえずりと共に目を覚ましました。清清しい朝です。まだ少し眠たそうに目を擦っていたファンくんですが、今日が何の日であるか思い出すと、パッとはね起きました。
「バザーの日だ!」
 今日はエルザードの天使の広場でバザーが行われる日。ファンくんは何日も前からこのバザーを楽しみにしていたのです。
「えへへ〜何があるんだろ。また、絵本あったらいいな〜」
 ワクワクドキドキのファンくんは着替えを済ませると、元気よくバザーへと出掛けました。

 てってけてってけ

 小道を歩くファンくん。鼻歌でも歌いたくなるような良いお天気に益々上機嫌で歩きます。
「あ、お花畑だ〜」
 野原の中の小さな花畑を見つけたファンくんは、ちょっと寄り道。
「わ〜キレイだな〜!」
 赤や黄色や白の小さく可愛い花にファンくん嬉しそう。蝶々も楽しそうに花の上を飛び、小鳥も喜んでさえずっている様。
 しばしバザーの事は忘れて花を摘み、花の合間に見え隠れするクローバーの中から四葉を見つけようと花畑の中へ顔を突っ込むファンくんに怪しい影ひとつ。かさりと音のした方へ顔を上げたファンくんの顔から血の気が引く。
 そこにいたのは大きな犬。ファンくんよりも大きな茶色い毛の豊かな犬はヘッヘと舌を出し、ファンくんを見ている。
「い、イヌさん……」
 ごくりとひとつ、唾を飲み込みぎこちない動作で立ち上がるファンくんに、犬は丸みを帯びた暗褐色の目で不思議そうに小さく頭を傾けた。
(子供がいる……何してるんだろ?)
 イヌさんの気持ち。
(こ、怖いよぅ……どうしよ、どうしよー!?)
 ファンくんの気持ち。
 じりじりと後ろ歩きで犬から離れていくファンに、茶色の犬は一歩足を踏み出しました。それにビックリしたファンくん、一気に駆け出します。
 花畑を抜けて、木が並ぶ野原へ駆け込み、更にファンくんは奥へと走ります。走って、走って、走りつかれてようやくファンくんは走るのを止めました。
「はぁ……はぁ……あ〜こわかった〜」
 どっきん、どっきん心臓の音がうるさくて、しばらくファンくんは座っていました。休んで胸の音が静かになって、ホッとしたファンくんは気づきました。
「アレ……ここ、どこだろう?」
 ファンくんの座っている場所は木の根元。周りを見ても、木ばかりで、どこへ行けば元いた道に出られるのか全く判りません。 
 不安にファンくんの瞳がうるりと潤んできた。
「うっ……ううぅ……」
 今にも泣き出しそうなファンくんですがガサリと音をさせ、また現れた犬に顔が引きつる。
「こ、こないでよぉ……」
 ぎゅっと目を瞑り、体を緊張させて一心に犬がどこかへ行くように祈るファンくん。そんな彼の頬を暖かいものが撫でる。おそるおそる目を開けると、円らな眼をしてハッハと舌を出している犬がぺろりとファンくんの頬を伝う涙を舐めた。
「ぐすっ……イヌさん」
 戸惑うファンくんの小さな体に甘えるように頭を摺り寄せる犬に戸惑いながら、頭を撫でると嬉しそうに犬はまたファンくんの顔を舐めた。
「うわぁ! あは、あはは。イヌさん、ボクのこと慰めてくれてるの?」
 ちょこんとファンくんの前に座る犬に照れたように微笑んだ。
「ゴメンね。逃げ出しちゃったりして……でも、こわかったんだよ」
 ワン、と分かっているのかいないのか。一声吠えた犬に笑顔を見せていたファンくんだけど、アッと思い出し立ち上がる。
「そうだ!バザーに行くんだった!!」
 そして、今自分が迷子になっている事に気づいて困った顔で周りを見渡すファンくんは見上げている犬に尋ねた。
「ねぇ、ボク、エルザードのバザーに行きたいんだ。天使の広場でやるんだよ。知らない?」
 犬は小さく首を傾げる。
「ふぅ……やっぱり、知らないよね。どうしよう……」
 困ったファンくん。犬は何度か瞬きをし、立ち上がる。ゆっくり尻尾を振りながら数歩進み、ファンくんを振り返る。
「どうしたの? あ、もしかしてボクを連れてってくれるの?」
 犬はゆっくり、また顔を先へと向け歩き出す。その後を慌てて歩き出すファンくん。

 テッテッテ
 てくてくてく

 犬の後を歩くファンくんは、犬も怖くない事がわかり、気分も少しラクになった様子。
「あ、見て見て〜栗の木があるよ!」
 見つけた栗の木へ走り出そうとするファンくんの服の裾を噛み、引き止める犬。
「……あ、そうだね。バザーに行くんだったね」
 えへへ、と笑うファンくん。そして、また歩きだすけれど、好奇心旺盛なファンくんはあたりをキョロキョロ。

 テッテッテ
 てくてくてく

 時々犬に正しい道へ引き戻されながらもファンくんはエルザードへ確実に近づいていった。
 そして、夕暮れが近づいて来た頃。ファンくんの目に見たかった景色が見えてきました。
「エルザードだ〜!ありがとう、イヌさん」
『ワン!』
 一声吠えた犬はのんびり向きを変えると、去っていく。犬に手を振り、ファンくんは天使の広場を目指し駆け出した。

 この後、天使の広場についたファンくんを待っていたのは後片付けを始めたバザー会場で、お金片手に途方にくれた……というのはまた別のお話。


PCシチュエーションノベル(シングル) -
壬生ナギサ クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2004年12月06日

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