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『夢の休日 』
ぺんぎん・文太2769)&相生・葵(1072)

 ある秋の日の休日。
 相生葵とぺんぎん・文太の二人は連れ立って、動物園を訪れていた。
 甘いマスクの良い男の隣にちょこんと立つのは、イワトビペンギン――正確にはイワトビペンギンに酷似した物の怪なのだが、ぱっと見にはイワトビペンギン以外の何者にも見えなかった。
 家族連れが目立つ動物園で、この二人のツーショットは、かなり……異彩を放っていた。
 だが……。
 最近の葵はペンギンに夢中で、そんな葵にとって文太はまさしく憧れの人!!
 そんなこんなで浮かれている今の葵には、周囲の視線などないも同然。
「楽しみだね、文太さん」
「……」
 にこにこと上機嫌の葵に、文太はこくりと頷いて答える。
 途端、葵はますます浮かれてぱああっと表情に笑顔を浮かべる。
「さあ行きましょうか。まずはペンギンのところです」
 エスコートに慣れた手をスッと差し出せば、文太はとりあえずと言った感で、片手をひょいと出してきた。

 こうして、妙な二人連れの休日デートが幕を開けた。


 ここの動物園はそれなりに大きいところで、ペンギンは中でも人気スポットに入る場所らしい。
 南極を模した白い床と氷(もどき)の中で過ごすペンギンたちは、それなりに快適そうに過ごしていた。
 それだけではない。半地下への階段を下りれば、水面下のペンギンを見ることもできるという素敵な作りになっていて、葵は目を輝かせた。
「どの子が好みだい?」
 隣に立つ文太ににこりと笑顔で声をかけるが、文太は特に想うところはないようで、なんとなく水槽の向こうを見ている感じだ。
 しかしそれでもしばらく待つと、文太はぶんぶんっと首を横に振って肩を竦めて見せた。
「そうか。ここには文太さんの好みの子はいないんだね」
 少々残念に思いつつも、ここで好みの子がいたところでお近づきになれるわけではない。
 これはこれで良かったのかもしれない。
 しっかり一時間以上もペンギンたちを堪能して、次に向かうはお土産売り場。
 それはペンギンの檻の近くにある『南極の動物たち』なるお店で、中は当然南極に住まう動物たちの関連グッズでいっぱいだった。
「……」
 ふと立ち止まった文太がじっと葵を見上げると、葵はスッと優雅な仕草である一点を指差した。
 ――ああ、やっぱり……。
 その時の文太の心境は一言で言えばそんな感じ。何もそこまで徹底しなくてもという心境だ。
 だが葵のほうは目の前にペンギングッズ、右手の先に文太と揃っているからかものすごく幸せを満喫していて。 そんな葵の様子に、文太はあえてツッコミは入れないでおくことにした。
 結局葵は、あれも可愛いコレも可愛いと持ちきれないほど買い漁り、購入したペンギングッズは宅配便で送られた。


 土産選びに時間がかかったせいか、店から出たら太陽はほとんど真上になっていた。
「お弁当にしようか。文太さんもお腹が減ったでしょう」
「……」
 こくり。
 文太は至極静かに頷いて、案内図の中に描かれている、動物園に隣接する公園へと視線をやった。
「そうだね、それじゃあ公園で食べようか」
 なんと目線だけでしっかりと文太の言いたいことを理解した葵は、極上スマイルで微笑んで、やっぱり文太の手を引き公園へと移動した。
 お昼時というだけあって、公園のあちこちに家族連れがレジャーシートを引いていた。
「ママーっ、あの人ペンギン連れてるよ!」
「うわあ。いいなあ。僕も欲しいーーっ!」
 オコサマたちの無邪気な声をBGMに、しかしこの一角は周りと一線を隔した雰囲気を醸し出していた。
 文太に夢中で周りの声も視線もまったく気がついていない葵と。
 そういったことをあまり気にしない文太と。
 そもそも動物園に微妙にそぐわない組み合わせであるだけに、思いっきり異彩を放っているのだ。
 しかしそんな違和感もなんのその。
 葵は至極幸せそうで、文太もなんだかんだ言って楽しんでいた。
 ツッコミどころは多々あれど、やはり友人が幸せなのはこちらも嬉しい。文太にとってはそれだけで充分、良い休日だと言えるのだ。
「お弁当が終わったら、ちょうどショーの時間だね」
「……」
「ペンギンのショーをやっているんだよ、この動物園は」
 だからすごくお気に入りなんだと付け足して、葵はにこやかな笑顔を見せる。


 さて葵の告げた通り。
 のんびりお昼を食べて片付けてちょっと休憩してのんびり歩いてステージに向かうと、ちょうどショーが始まる時間だった。
 短い足でぴょこぴょこと歩きまわり、音に合わせて踊ったりするペンギンたちの楽しいショーを見て、最後に向かったのは葵の家だ。
「泊まっていってくれると嬉しいんだけど……どうだろう?」
 通された葵の部屋は、何から何までペンギン尽くし。
 所狭しとペンギンのヌイグルミが並べられ、カレンダーはペンギンの写真。乱雑にならない程度にだが貼ってあるポスターももちろんペンギン。
 予想以上のその室内に一瞬呆気にとられた文太であったが、泊まること自体にはなんの異論もない。
「……」
「ありがとう、文太さん」
 こくりと頷いた文太の答えに、葵は本当に嬉しそうに柔らかな声音で告げた。


 ――真夜中。
 文太は、なにやら悪夢を見て目を覚ました。
 どんな夢だったかはもう忘れたが、何かに押しつぶされる夢だった気がする――と。
 目は覚めたはずなのに、まだ苦しい。
 しばし周囲に目をやって、そして文太はその原因に気がついた。
 葵が、文太を思いっきりむぎゅ〜〜〜っと抱きしめていたのだ。
 どうやらぬいぐるみと間違えられているらしい。
「…………く」
 ばたばたと両手両足で暴れてみるが、幸せ一杯の葵が気づく様子はまったくなく。
 結局その後、文太は朝まで眠ることができず、代わりに昼寝をたっぷりした。


 葵のベッドですやすやと寝息を立てる文太。
 窓からは暖かな秋の陽射し。
「……ああ、幸せだなあ」
 昨夜の文太の苦労を知らない葵は、目の前に広がる光景に、幸せの息を吐いたとか。
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日向葵 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年11月26日

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