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『□■□■ Stuffed Junkey ---無口な弟子--- ■□■□ 』
緑川・勇0410


 ストレス解消に弟子いびりをした事があるか。
 訊ねられたら答えよう、迷わず選択しよう、『Yes』の文字を。
 ソレが出来なくなって久しい今、俺はどうやって日々の鬱憤を晴らせばいいんだ? 溜まる。溜まるに決まっている。ストレスで胃に穴が開いてもおかしくない、円形脱毛症が出来たって良いはずだ、だがこの身体にはそんな微妙な機能まで搭載などされていない。だから俺は今日も錯覚の頭痛と腹痛に耐えながら歩いている。休日の街を女子高生、もといクラスメートと共に。

「あ、これとかどー?」
「え、そっちの方が可愛くない? タータンとか」
「えー、ギンガムが良いー。勇ちゃんはどっちが良いと思う?」

 知りません判りません、チェック模様なんてどれも同じにしか見えません、タータンとかギンガムとかどういう差異なのかまったく理解が出来ません。自分で選んでください、以上。
 ……なんて事が言えないというのは、社会的な悲しい常識だ。俺は適当に考える素振りを見せながら、適当に合わせ、適当に答える。じゃあこっち、なんて言って腕にワンピースを掛けて、彼女達は再び服を選び出した。

 事の始まりは金曜日、帰りのHR前だった。前の席で週末のショッピング予定を立てていたクラスメートが、半ば唐突に俺を誘ったのである。断れるはずもない、あまりにも唐突なその声に驚き、俺はほぼ何も聞かない状態でなんとなく首を縦に振っただけだったのだから。

 デートの経験が無いというわけではないが、こういう『女の子同士のお出掛け』というのに付き合うのは初めてだ。しかしなんて金遣いの荒い子供達だろう、それ親の金だろうが。困っているわけでもないのにそんなに服を買い込んでどうするつもりだ。まあ、この年頃に限らず、女の子なんてみんな可愛いものは欲しいんだろうが。
 怪しまれないように、俺も適当にハンガーを取る。一応生活費の支給はされているし、別段贅沢もしていないから余裕はあるが、これといって欲しいと思う服は無い。婦人服売り場には。手に取ったスカートも、勿論買うつもりなんて――

「あ、勇ちゃんそれ可愛いんじゃない?」
「へ?」
「あ、ほんとー。サイズ、それだと大きくない? S……あ、あったあった」
「んー、それでも大きくない? 勇ちゃんのウェストってどのぐらいー?」
「え? えっと、確か五十無かったと思う……」
「あ、これ五十四だからちょっとおっきいよー」

 セーフ。
 迂闊なもんを取るんじゃない自分、もう少しでタイトミニの餌食だったぞ。はっはっは、ミニでタイト? この俺が? 思わず浮かんだ乾いた笑いを逃がしていると、クラスメートの声が聞こえる。ああ、何を話しているんでしょう。鼓膜が聞きたくないと拒否したがっていても、耳を閉じることなんて出来るはずがない。

「五十無いとさ、Sでもキッツイ……つかゆるゆるだよね」
「んー、子供服の方が良いかも? 結構あっちにも可愛いのあるよね」
「うんうん、やっぱお人形さんみたいにしたくなるよね、子供って! いっぱい着せ替えしたりさー、親の趣味が出るって言うか?」
「ねー、と言うわけで」

 ぎゅむ。
 宇宙人拘束写真ですか?
 なんて逃げが出来るはずもない。俺は重い身体が女子高生のか細くもパワフルな腕で引き摺られる様子に巨大な溜息を吐いて諦めた。諦めるさ。諦めようじゃないか。
 子供服売り場に連れ込まれることぐらい。
 だが。

「…………」
「あ、これとか可愛くない!? こっちのブラウスも結構安いし!」
「このスカートパニエ付いてて超可愛いー! あ、リボンの取り外し出来るんじゃん!」
「あ、あの」
「あとこれも! レッグウォーマー付いてて良い感じだし!」
「あのー」
「じゃ、これ着て来てね、勇ちゃん!」

 ……どうして。
 どうして自分の服を選んでいたときよりもそんなに輝いているんだ、この少女達は。そしてこの、サイバー化しているはずの腕にすら重みを訴える量の衣類は何。精神的に感じる重さなのか、だがそれにしたって前が見えないほどに積み上げられているのは錯覚じゃないだろう。よろよろと試着室に向かうが、あの薄っぺらいカーテンの内側にこの量が入るのだろうか? と言うか、今にもバランスを崩してぶちまけそうなんだが――

「ッひゃ」
「あらごめんなさい?」
「ぅわたたたたッ」
「きゃ、大丈夫、痛くない〜?」

 子連れの母親にぶつかられバランスを崩し、俺は衣類共々コケてしまう。幸い服がクッションになってくれたお陰で床を傷付ける事はなかった。駆け寄ってきた店員は、思いっきり子供をあやす口調である。社会的年齢十六歳、肉体年齢十四歳、精神年齢二十七歳。どの年齢を取ったとしても子供ではない。この対応には怒ってしかるべきなのだろうが、俺の口から零れるのは、『大丈夫です、すみません』の言葉だけだった。
 辿り着いた試着室の中にはクラスメートの声が響く、やれあのブラウスにはこのスカートだとかあのジーンズにはこのタンクトップで、とか。確かにボトムは無くて困っていたが(何の嫌がらせか支給品はスカートばかりだったし)、こんな思いっきり目立つ形になってまで購入したいとは思っていなかった。むしろこんなことになるぐらいなら要らねぇ。

 なんと言うか、やはり最近ストレスの解消対象が無い所為なのか、溜まっているのだろうか。身体が重苦しい錯覚の中では、様々のことに抵抗するのにも疲れているのかもしれない。例えば強引な女子達に引き摺られることに対する自己主張だのなんだの。

 散々着せ替えさせられたが全部を買うわけが無く、俺は数本のジーンズを購入するだけに留めた。七部丈のものなんて男だった頃には脛毛の問題で縁が無かったが、この身体ならそれなりに便利だろう。中々に動きやすいし。トップは幸い不足していないので保留だ。スカート買えば良かったのにー、と言って来るクラスメートに、俺は乾いた笑いを向ける。誰が履くんだ。制服だけで充分だ。
 自動ドアを出ると、一人が向かいにあった店を指差す。ピンク色の屋根のそれは、いかにも女の子が好きそうなファンシーショップだった。別段欲しいものがあるでもないだろうに、彼女達は自然に脚を運ぶ――俺も惰性によって、引き摺られていく。
 なんだってこんな風に自己主張が遠くに行ってしまっているのだか。確かに女子高生のグループは陰湿そうだから、下手に不興を買うとこれからの生活や仕事に支障が出るのかもしれなくはあるが、ここまで状況に流される現代の若者をしている必要はない。小柄で気弱なクラスメートのポジションなんてそうそう重要なものではないのだから。

 やはり人間どこかでガス抜き対象が無ければ――実用価値のなさそうなキーホルダーウォッチを手に取りながら、俺はぼんやりとそんな事を考える。イチゴ型のそれは可愛さだけを特化されている本来の意味は殆ど無いも同然だ。小さな身体に押し込められた、一応軍事用装備のオールサイバーとしての性質。自分と重ねて漏らしたのは苦笑、まったく因果だよなあ、と、視線を巡らす――

 そこで、運命的な出会いを果たす。
 これだ。

「勇ちゃん? そ、それ買うの?」
「うん。すみません、送ってもらえます?」
「ではこちらに住所とお名前、電話番号をお願いいたします」
「うわー、勇ちゃんってば太っ腹……」
「あはは、ウェストは増えないけどねー?」




「だらぁッ!」




 アッパーカット。ちなみに力加減はしている、勿論。
 どさり、フローリングの床に落ちるそれ。
 ――それは、俺の身体よりも巨大なクマのぬいぐるみだった。

「ふー……砂鉄でも詰めればもうちょっと手ごたえあるんだろーけど、まーいっか」

 笑って俺はクマを拾い上げ、ぱたぱたと埃をはたいてやった。
 昔は弟子いびりで発散していた日々の鬱憤やストレスだが、これからはこのぬいぐるみで晴らすことになりそうである。無口に耐える可愛い弟子。はー、と抱き締めて、俺はベッドに腰掛けた。ギシッとスプリングが軋む音に一瞬身体を強張らす、危ない危ない。壊す所だったぜ。

「ったく……なあクマ、理不尽な世の中だよなー。まあ俺に殴られるお前も理不尽かもしれんだろうが、それは勘弁しろ。運命だ」

 ぽつり、漏らした愚痴に、かくんっとクマが首を下ろした。



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PCシチュエーションノベル(シングル) -
哉色戯琴 クリエイターズルームへ
PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2004年11月24日

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