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『【初心者のためのエルザード案内】 』
アイラス・サーリアス1649
 僕の後ろを、ひとりの少年がついてきている。闇を閉じ込めたような黒髪黒目。ハッキリした顔立ちは美術品じみていて、人目を引くに充分。僕よりは2、3才若いくらいだ。
 天使の広場で所在なさげに佇んでいた彼に何の気もなく話しかけたのが始まりだった。聞くところによると、この世界に新たにやってきた冒険者らしい。そりゃここは広いし、迷うのも仕方ない。ちょうど暇だったので、とりあえずはエルザード城下を案内してあげようということになった。名前を聞いてみるとまだないと言うのはおかしかった。本名がダサいからカッコいい通り名を考えている最中だそうで。ま、そのうちポッと閃くことだろう。
 冒険者としてチェックすべき場所はいくつもある。まず何と言ってもアルマ通りの白山羊亭。料亭と冒険斡旋所を兼ねているこの店は、冒険者の拠点のひとつだ。
「ええと、元気ウェイトレスのルディアさんの声が絶え間なく聞こえてきて、とても明るい雰囲気の店です。初心者には最適でしょうね。さすがにまだ明るいから開店はしていませんが、夜になったら行ってみるといいでしょう」
 彼はなるほど、と頷きながらメモを取り始めた。勉強熱心だ。僕が最初の頃はそんなことをしただろうか?
 さて白の次は黒というわけでベルファ通りに向かう。昼の歓楽街にはほとんど通行人は見られない。そうこうするうちに到着する。
「ここが魅惑の踊り子・エスメラルダさんの黒山羊亭です。白山羊亭と違って大人向けな雰囲気に満ちています。ここで渡される依頼もそういうのがわりと多いですね。僕はこの前、娼館なんかに行ってしまいましたからね……。知ってます? 娼館」
 小さく首を横に振る彼。これもいずれは知ることか。
「冒険者にとってなくてはならないのが、白山羊亭黒山羊亭ですね。冒険を引き受けるのはどちらでも構わないですが、大切なのは自分が引き受けたい依頼かどうかですね。何でもかんでもやろうとすると疲れますから」
 さあ次。エルザード城だ。高台の上に立つそれは、ひょうっと高い尖塔やら旗やらがここからでも確認できる。
 門の近くまで行ってみると、巨人の騎士レーヴェさんが仏頂面をして番をしている……かと思ったら席を外しているようで、変わりに少し小さい番兵がいる。いずれにせよ、何の用もないのに入れてはくれないだろうから、遠くから眺めるだけにしておく。
「ここには普段レーヴェさんという騎士がいるんですが、強いですよ。敵にはしたくありませんが、あの人と一緒に魔物と戦えたら心強いですね」
 年若い新人さんは王様について聞かせてくださいと聞いてきたが、答えられなかった。
何しろ僕だってよくは知らないのだ。
 今度はソーンの名所といわれるコロシアムにしようかと思ったが、あそこはいまだ本格稼動していないので、エルファリア王女の別荘に行くことにした。
 白い壁に茶色い屋根。洒落た色合いの建築物にはたくさんの住人がいる。この彼もここに住むことになるかもしれない。
 ロビーに入る。そこで思い出す。
「……まだ整理中の部屋が多かったんですよね。まともに見られるのは玄関と中央ロビーと住人の部屋くらいで。はは」
 すぐに外へ出た。外観は立派なのに、もったいないことだ。
 さあ気を引き締めて、あと少し。
 次はガルガンドの館まで歩みを進める。入館すると強固な壁のような本棚とそこに収められた蔵書が目に入る。いつ見ても凄まじい。
「これまでの旅人たちの冒険のすべてを記録しているというガルガンドの館です。たぶん冒険に出ないでも、ここに閉じこもっていればそれはそれで楽しいでしょうね。健康に悪いから実際にやっちゃダメですよ?」
 目が眩むような本の光景から離れ、入口まで戻った。あとはエルザード王立魔法学院だけど、さっき見てみたら休校日のようで中には入れなかった。なので現地には行かず概要だけ説明しておいた。
 学院に課せられたふたつの使命。――ソーンの根底となる力『聖獣』との繋がりを持つ者『ヴィジョン使い』を育成し、養成するための教育機関としての役割。もうひとつは、『ソーン』というこの世界そのものの成り立ちやソーンの各地を調査し、研究するための探索機関としての役割がある、云々。彼は僕が言ったすべてをメモに写し取っていた。

 目ぼしいところは回ったと告げた。すると後ろからついてくるばかりだった彼は僕の目の前でキッチリと頭を下げた。礼儀正しいのはいいことだ。こういうのは、嬉しくなる。
「それじゃあ天使の広場に戻って、他の冒険者さんとお話でもしましょう。そのあとに白山羊亭で一緒にお食事でもどうです?」

【了】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
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聖獣界ソーン
2004年11月24日

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