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『日が暮れる頃は 』
シュライン・エマ0086)&草間・武彦(0509)


 ――プロローグ
 
 やっぱりお弁当を持って、午前中のうちに興信所を出た。
 車は快適にエンジンを回している。二人ともシートベルトを締めていた。車は駐車場代ばかり持っていくただの金食い虫だが、乗ってみるとそこそこ掃除もしてあり悪くない。
 草間は運転席に座って五分せずに、煙草を一本取り出して火をつけた。
 昼間はまだたまに二十度を上回る陽気だった。もう冬だというのに、天候は浮かれている。
 街道沿いの道はまだ空いていた。おかげで草間も上機嫌だ。
 シュライン・エマは胸元のメガネを片手で弄びながら、外を見ていた。空は目の覚めるような冬晴れだった。もう秋晴れではないだろう、冬晴れという言葉を再び空にあてがう。それから道路脇で遊んでいる子供に目をやった。
 コロコロと転がるビニール製のピンク色のボールが、車道へ出た。
「武彦さん」
 言うと、草間がそちらへ目線を向ける。後ろを見る暇もなくブレーキを踏み、クラクションを鳴らした。
 開け放したままだった窓から草間が顔を出した。
「危ないじゃないか、気をつけろ」
「すいません」
 まだ十歳ほどだろうか。少年はビクビクしながら後退し歩道へ去って行った。
「まったく」
 草間は灰皿へ置いた煙草へ手を伸ばす。
「カリカリしないで」
 シュラインが苦笑すると、目的地の一つドンキホーテが見えてきていた。
 

 ――エピソード
 
 黄色いカゴを持って勇んでドンキホーテを歩いて行った草間・武彦の財布の中身は現在三千円ほどである。
 シュラインはその後姿が人込みに紛れるのを見届けてから、玄関口に置いてある米五キロ千五百円に目を止めた。安い、近所のお米屋さんで買うより五百円近く安い。シュラインは黄色いカゴを手に取って、五キロの米を二袋カゴの中へ入れた。カゴがずっしりと重たくなった。それから目的の自転車パンク用キットを探し出して、一つ買うことにした。
 ドンキホーテはくだらない物に満ちている。
 クリスマスツリーを横目に、草間の妹君への今年のクリスマスプレゼントは何を用意しようかと考えていた。そこへ草間が現れる。
「おい、見ろよ」
 嬉しそうに声をかけられて振り返ると、案の定カゴをいっぱいにした草間が立っていた。手には懐中電灯を持っている。
「そんなに買えるの」
「これ、なんと電池がいらないんだぜ」
 シュラインの台詞は耳に届かなかったのか、草間は手に持っている懐中電灯のレバー部分を片手で押した。すると懐中電灯が灯った。一見すると、握力を鍛える機械のようだった。ガシャコンガシャコンと音を鳴らして、草間は普段使っていない体力を懐中電灯で消費している。
「便利だよなあ、災害時に電池が必ずあるとは限らないもんなあ」
「……災害時に余分な体力があるかどうか怪しいと思うけど」
「災害バック作らなくちゃだろ」
「たしか、今年のはじめに作ったような」
 シュラインは指を顎に当てて、記憶の隅にある災害バックを思い出していた。自宅ではない筈だから、おそらく興信所だろう。
「カンパンだろ、水だろ、サランラップだろ」
「武彦さん」
「レトルト食品に」
「災害バックは用意してあるわよ、興信所に」
 カゴの中身を確認している草間の手が止まる。中腰のまま草間はまじまじとシュラインを見上げた。
「全部?」
「ええ、懐中電灯は名案だと思うわ、それは買いましょ」
「カンパンも?」
「カンパンがおやつに欲しいんだったら買ってもいいと思う」
 草間は口を尖らせた。
「おやつならもっと別の物買うよ」
「じゃあ、おやつ買いに行きましょ。それと、水とかも戻しましょ」
 床に置いたカゴを持ち上げる。草間も自分のカゴを渋々持った。シュラインの荷物に気が付いて、シュラインのカゴに手を伸ばす。受け取ったカゴは自分の物より重たかった。
「なに買うんだ、エマ」
「おこめ」
「こんなとこまできて米かよ」
 シュラインは手を振りながら、防災グッツの棚へ歩いて行き、草間の持っているカゴの中身を手早く棚へ戻してしまった。
「よしっ、武彦さんおやつはどうする」
「いらない。お前は」
「私もいらない」
 レジへ引き返して並んでいると、出口の近くに自転車が一万円特価で売っているのが見えた。
 クリスマスプレゼントという言葉が浮かんでくる。
「あ、ねえ、春になったらみんなでサイクリングなんかいいわね」
 草間の手を引っぱって言う。すると草間も視線を自転車の方へ向けた。
「サイクリングねえ……お前自転車乗れるの?」
「やだ、誰に聞いてるの。当たり前じゃない」
 くすくすと笑う。草間は自分の財布を出して、シュラインのカゴの中身を見つめた。
「足りるかな」
「足りないわよ、三千円しか入れてないんだから」
 シュラインはハンドバックから財布を取り出した。
「この懐中電灯は買いだろ」
 草間が得意満面でそう言ったので、シュラインは答えるように微笑んだ。
 
 
 草間が以前弁当を食べたと言っていた、大きな公園で弁当を食べた。
 日当たりのいいベンチに二人で並んでご飯を食べる。ちょうど見頃を迎えたイチョウやモミジが秋の名残を告げている。遠くで気の早い子供がタコをあげているのが見えた。タコはどこまでも高く上がっている。
「エビフライ、もう一つ食べてもいいか」
 草間は三個目のオニギリを片手にシュラインに聞いた。シュラインがうなずくと、最後のエビフライをもう片方の手で取り、口へ運ぶ。
「そろそろ寒くなるな」
「そうね」
「ボールペン十本入りと、朱肉でいいのな」
 さっきまで話していた事務所の消耗品の話に話題がすり替わる。
「五つセットのファイルもいくつか。そろそろ、諦めて怪奇の棚を作ろうかしら」
 草間が口の中の物を嚥下してから、口を開いた。
「バカ言え。縁起でもない」
「そうでもしないと、ファイルが巧いことまとまらないのよ」
 怪奇事件を無理矢理分類するものだから、整理もなにもない状態になっている。草間興信所の棚は今カオスである。
「あと、食器ね」
「食器ぃ? どうしてだ」
「五人も六人も集まって事務所でご飯食べるでしょう。いい加減足りないのよ」
 草間は黙り込んで砂肝とレバーとコンニャクの炒め物に手を伸ばした。これで弁当は終了だった。手早く食べてしまい、指を舐めたところへシュラインがウェットティッシュを差し出した。
「ダイソーで食器と消耗品を買って、山田電気で洗濯機を見るコースな」
 ダイソーと街道を挟んで斜め向かいに山田電気がある。
 空になった弁当箱を畳んで、二人は立ち上がった。
 
 
 大きなお皿を二枚と取り皿を五枚、茶碗を二つ、それから古くなっていた急須を思い出して急須を一つ買った。ボールペンのセット、ファイルセット、スティックノリのセットそれと朱肉を付け足す。どれも必要経費、領収書をもらって経費として数えたいところだが、いつそれが清算されるか不安だったので、やめた。それでも、食器を選ぶのは楽しかった。百円均一だというのに、様々な柄大きさとバリエーションは多かった。
 隣にいる草間は、クラシックとカタカナで書かれた謎のCDを何枚も持っている。それと、使いもしない辞書を手にしていた。
「……それ買うの」
「買うよ」
「辞書なら事務所にもあったでしょ」
「これが欲しいの」
 結局草間は千五百円の懐中電灯を一つと大量のCDと辞書を買って、二千五百円使ってしまった。そうそう三千円を使えることもなかろうと思ったシュラインの作戦負けだった。
 一度荷物を置きに車まで帰ってから、家電を見に行った。
 大きな電気屋に、またも草間は興奮冷めやらぬ様子である。
「おい、エマ、ファックスだ」
「ファックスは事務所にあるでしょう」
「普通紙だ」
 家電ともなると値段が値段なので、無駄使いをしてしまうこともないだろうと、シュラインと草間は分かれることにした。シュラインは目的通り、洗濯機の前でうなっている。興信所の洗濯機は未だ二層式なのだ。そろそろ全自動に変えたい。
「エマ、冷蔵庫新しくしないのか」
 草間がお伺いを立てにくる。
「冷蔵庫? ああ、霜取りしなくちゃね」
「じゃあ、炊飯ジャー」
「ダジャレ?」
「偶然だよ」
 草間はひょこひょこシュラインの隣に並んで、洗濯機を見回した。
「乾燥機つきがいいよ」
「そう簡単に言ってくれるけど。値段がねえ……」
 草間も洗濯機それぞれの値段を覗き込んで、同じく低い声でうなった。
「値段がなあ」
 結局二人はビデオ五本セットを一つ買って、山田電気を出た。
 二層式洗濯機はまだまだ現役のようである。
 
 
 ――エピローグ
 
 帰り道に喫茶店へ入って一服することになった。
「ブレンド」
「二つ」
 草間がメニューも見ずに言い、シュラインが付け足した。
 ウェイターは愛想を振りまかず、すぐに退散していった。草間が煙草を取り出して一本口にくわえる。
「物珍しさは消えた?」
 シュラインが小首を傾げて聞いた。
 草間は煙草をくわえたまま、眉根を寄せる。すぐに店のことを訊ねられたのだと気付いて、彼は苦笑いをした。
「でも、楽しかっただろ」
 煙草を片手に草間が言った。シュラインも笑って同意する。
「ダイソーの先に大きなスーパーがあって、そこで桃は買ったんだ」
 煙草を口許へ戻し、火をつける。
 すぐにコーヒーが二つ出てきた。シュラインは砂糖とミルクを適当に入れた。
「武彦さんがショッピングが好きだったなんて、驚きだわ」
 男は常に女の買い物癖を嫌がるものだ。
「安くて、面白くて、たくさんあるんだから当然だろう」
 草間は当然のような顔をしてそう言った。
「当然ねえ……」
「あ、今呆れたな」
「呆れてない、呆れてない」
 草間が煙草を灰皿へ置き、コーヒーを一口すする。シュラインもつられて手に取った。
「まあ、次は洗濯機だな」
 コーヒーは酸味が強かった。
「次ねえ……」
 お互い目を合わせて、いつのことだかと笑顔を作った。
 外はもう薄暗い青い光に満ちていた。通り過ぎる車のヘッドライトが、線のように余韻を残して去っていく。
 
 
 ――end


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女性/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0509/草間・武彦(くさま・たけひこ)/男性/30/私立探偵】

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■         ライター通信          ■
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日が暮れる頃は ご依頼ありがとうございました。
どういう形がいいかな、と模索したのですが、いつもと変わらずといった感じです。
お気に召せば幸いです。

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 文ふやか
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東京怪談
2004年11月22日

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