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『Complex Junkey ---密室解放--- 』
緑川・勇0410


 自分が健全なる男子高校生だった頃、確かにそんな欲求は持ったかもしれない。そんな不埒なことを考えた罰なのかもしれない。だが、これはツライ。拷問だろう、神様。あんたやっぱり居ないんだな。

「あ、何それ新しいブラ?」
「んー、可愛いでしょ、チェックになってんの」
「シャツから透けるんじゃない、あんま派手だと」
「あー、なんかちょっと成長してないー?」
「わひゃ、も、揉むなこらーっ!」
「きゃはははは!」
「あ、やっばい剃り忘れたー」
「ねースプレー貸してー?」

 きゃっきゃ、繰り広げられる魅惑の光景に背を向け、俺はいそいそとジャージから頭を抜いた。

 体育の度に繰り広げられる地獄のような光景。いや、多分男としては一度で良いから入り込んでみたい空間なんだろう。女子更衣室、女子高生付き。確かに俺だってこの学園の生徒だった頃は、一度ぐらい興味を持ったかもしれない。いや、持ったけど。健全な男子高校生としては当たり前の欲求だったんだと弁解し釈明する。そうだ、俺は悪くないんだ。
 だが――いざ入ってみると、そのあまりの異空間さに圧倒される。何の恥じらいも無く下着やら、えーと……まあ女の子用品の話をする姿。豪快に服を脱ぐ様子。軽いボディコミュニケーションの数々は、とてもじゃないが直視できない。恥じらいを持ってくれ今時の若者よ、なんて思いながら、俺はいつも部屋の隅でこそこそと着替えをしていた。手早くブレザーになり、一刻も早くここを出る。それが俺の最重要任務だった。それに比べたら情報収集だのなんだのは、眼中に無いほど些細な仕事だ。見るな、何にも見るな自分。円周率でも唱えて気を紛らわそうにも、そんなものは十桁で詰まった。こ、この体育会系脳髄め。

 幸い彼女達は俺の挙動不審な様子を気に止める素振りを見せない。まあそうだろう、この年頃の子なんてあまり他人を気にしたり観察したりするもんじゃないし。スカートを穿いて、ジャージを脱ぐ。このときばかりはスカートに感謝だ、自分の身体を晒さずに着替えが出来る。スカートを発明した人は偉大だ。

「ね、緑川さんてさぁ」
「ッ、へ!?」

 突然声を掛けられてしなだれ掛かられ、思わず変な声が漏れる。見れば、クラスでも結構目立つタイプの女子が俺に圧し掛かっていた。結構発育もよろしくて、何と言うか、その。コミュニケーションでも、動機が。息切れが。

「いっつも隅で着替えてるけど、もっとこっち来ても大丈夫だよー? 校舎増築されてから結構広くなったしさ、ここも」
「あ、あの」
「もしかしてサイバーだからとか? 大丈夫だよ、結構そーゆー子もいるし」
「あー、でもオールの子って珍しいかな? ハーフはいっぱいいるよねー、繋ぎ目とか薄く残っちゃってるのすっごい気にするの。全然見えないぐらいなのにさ」
「いるいる、やっぱ自分だと過敏になっちゃうんだって!」
「でもオールだったら繋ぎ目とかわかんないよねー?」
「あ……あのぅ」

 あのー。
 お嬢さん達落ち着いてくださいむしろ冷静になって。そして俺をここから出してください。
 不穏な空気、不穏な話題。増して行く好奇心が眼に見えるような錯覚さえ受ける。

「脳幹入れるのって多分後ろだよね?」
「わ、わひゃあっ!?」

 くるん、身体を引っ繰り返されて壁に向けられ俺は声を上げた。でも誰もそんなの気にしたりしない、俺はロッカーと睨めっこ。誰かのロッカーネームを見上げ、現状の把握に努めたり、努めたくなかったり。
 スカートのホックはまだ止めていなくて、だけどジャージは脚から抜いてしまっていて。ぶら下がっている状態のそれはいつ落ちても不思議じゃない状態だった。落ちる? おいおい、衆人環視の中で下着はまずいだろ、いくらここが女子更衣室でも。俺は男だぜ、ハハハン?
 ショートボブの髪、首筋を覆っている部分を分けられる。リアルな感覚は女の子の指先の細さを伝えて、少しだけぞくりとさせられた。待て、待て待て。早まるな若者よ。何をするおつもりですか。俺も何をしている状態ですか。混乱は最高潮に達している、ずるりとスカートが落ちる。シンプルな白い下着と、キャミソール。ブラは諸々の理由でつけていなかった。自尊心とか、そんな必要なほど無いだろうとかそういう理由で。

「あ、これって充電用のジャックだよね? 授業で習ったことあったし」
「そうそう、あれー? なんかあんまり見えないよね、傷とか」
「んー、でも結構肌は硬いかも? こことかは? あ、こっちはー?」
「やだやだ、それって変態っぽいー!」

 俺の人権は一帯何処へ出掛けて行ったんだろう。唐突な事態に対応できず、俺は硬直したまま触れられるのを受け流している。
 背中から始まって二の腕の内側、腋、脇腹に太もも。ふにふにとクラスメート達が俺の身体をつついていく。俺はロッカーに向かったまま硬直し、その時間を流し続ける。何も考えたくない、何をされているのか考えたくない。次の時間はなんだっけ、数学、苦手だったんだよなあ昔から。眠いじゃないか。ふにゅ、と胸を掴まれて、流石に俺は声を上げた。

「ちょ、ま、待って」
「あ、やっぱり胸は結構柔らかいかもー?」
「え、どれどれ?」
「やだ、」
「良いじゃん女同士だしー? おー、ホントだこっちは結構柔らかいかも」
「他に繋ぎ目とかありそうなのってどこかな?」
「やっぱり普段見えないトコ? 下着の下とか」
「背中には見えないよねー?」

 くんっ、とキャミソールの背中を引っ張られ、中を覗き込まれる。もう声も無く、俺はただ硬直して俯いていた。何が起こってるのか判らない。覗き込んでくるクラスメートの下着姿、その胸元が嫌でも目に入った。
 見慣れた自分の身体よりも丸みを持ったそれ。同じ未成熟のカテゴリにありながらも、肉体年齢の二歳差――思春期、第二次成長の真っ只中では、それは顕著な差を現している。カラフルな下着。笑っている口元。なんだか感覚が曖昧になってくる。耳が聞こえない感じ。
 さて、ここは何処で、俺は何をしているんだろう?
 下着の身体を締め付けない緩めのゴムに、誰かの指が掛かる。


きーんこーん、かーんこーん……


「あ、やっばいチャイム鳴っちゃった!」
「次って数学だっけ? やべ、問題集やってねー!」
「あたし今日当たるんだった!!」

 ばたばたと着替えをして出て行く女子。幸い次の時間に体育の授業は無いらしい、入れ替わりに他のクラスが入ってくることは無かった。だから俺は、下着姿のまま茫然と、していることが出来た。

 時間にして、五分。多分そんなところだったんだろう、休み時間なんて十分かそこらなんだから。
 その間に何があったのか。何が。へたり、ロッカーに寄り掛かって俺は尻餅を付いた。脚に纏わり付いたスカートに皺が寄る。だけどそんなの、構わなかった。俺は。『俺』は。
 情けなくて涙が出そうになる。
 焼き付けられたのは、カラフルな下着。丸っこい身体。しなやかな指先。
 見下ろしたのは簡素な白い自分の下着と、平らで細いだけの身体。

 違う。

 浮かんだ考えを即座に否定し、俺は制服やワイシャツを引っ掴む。いつまでもこんな所に居るからいけないんだ、早く教室に戻ろう。そこには男子もいる。女子だって服を着てる。大丈夫だ、大丈夫。
 何が大丈夫なのか判らない、それでも俺は口の中でそれを呟き続けた。



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哉色戯琴 クリエイターズルームへ
PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2004年11月19日

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