▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『MASA――グランドオープニング 』
RED・FAUST3787


 ――グランドオープニング
 
 ある男が、禁断の施設MASAに迷い込んだ。
 そこでは魚が空を飛び鳥が水中を泳ぐ。右を見る、そこにはバカ殿のマゲを被った目のついた丸い頭がある。その頭が煌々と光っていた。左を見る、そこには馬よりも大きな猫が毛繕いをしていた。にゃあご、と一つ鳴いて男を大きな猫目が凝視する。
「ひ……ひぃ……っ」
 男は後退った。
 殺される、ここは一体どこなのだろう。
 引き返そうときびすを返す。そして一目散に駆け出した。だが辺りは回転ドアのついた施設が建ち並んでおり、どこまで走ってもその建物がなくなることはなかった。肩を上下させて息をする。そして男は前方を見た。
 巨大なタワーが建っていた。
 上は雲に隠れていて一切見えない。タワーの入り口から、のそ、のそ、と先ほどの巨大な猫がこちらへ歩いてくる。それはまるでスフィンクスのように見えた。スフィンクスは多くの人間を殺したと言われている。逃げよう、だが待て、彼は後ろへ逃げて元の位置へ戻れる筈だった。しかしそうではなかった。逃げ場がない。もう元の場所へは戻れないのだろうか。
 助けてくれ。近付いてくる巨大な猫に、渇いたのどがはりついた。声も出ない。ただ後退って、また後ろへ向かって駆け出そうとした。圧倒的な絶望感に押し潰されそうになる。
 そのとき、道を照らしていたマゲマゲが言った。
「よく来てくれた新たな研究者よ、我々MASAはキミを歓迎する」
 マゲはいっせいにそう言った。
「ま……まげ……」
「だがそれには一つ条件がある。キミの一発芸を披露してもらおう」
「いっ……一発?」
 もしかすると、その審査に通らなければこの猫のオモチャにされるのだろうか。
 なんてことだ。男は思う。一発芸なんて、いまどき忘年会でも所望されないというのに!
「さあ、我々にキミの実力を――MASAにやってくることのできたキミの実力を見せてくれ」
「……っぎょ、ぎょうざ」
 男は耳を畳んでぎょうざを作った。
 しばらくの沈黙が訪れる。そして、のっしのっしと猫が近付いてくる。
「はっはっはっはっは、わかったぞ、ヤーレンソーランだな」
 マイクの先の声の主はそう言って大爆笑している。
 男は呆気に取られた。
「よろしい、キミに研究施設を与えよう。芸に、そしてMASAの為にがんばってくれたまえ。ボクの名はRED・FAUST。MASAの会長職についている」
「け、研究……?」
 ガタンと音がして突然道が動くコンベアーになった。
「え? ええ? えええええ?」
「MASAに栄光あれ!」
 REDの声が言う。そしてバックには「MASA! MASA! MASA!」という大勢の民衆の声がした。
 ここは……――MASA。人はこの施設及び世界をそう呼んでいる。
 
 
 ――オープニング
 
 REDは回転座椅子をぐるりと一周させるつもりだったのに、三周も回ってしまった。すべては筋肉増強椅子足が絶対届かない椅子くんのせいだ。もちろん足が絶対つかないので、回る際は思い切って飛び乗るしかない。そしてどこで止まるかも運任せである。
 この発明が先月のMASAの成果であった。
 そんなことは今はもういい。先月の成果になど最早興味はない。REDの興味は既に動いている。
 MASAで動いている巨大プロジェクトは全部で三つある。そして毎月集計される小さなプロジェクトもいくつかあった。今日はその三つのプロジェクトの報告と小さなプロジェクトの発表会だった。
 REDは腕時計のボタンを押し、モニターを映した。
 テレビの中の研究者達がREDに手を振っている。REDは挨拶としてチョップをして返した。これがMASA流の挨拶である。
「本日発表の品は……まずこちら。高反発枕及びマットです」
 研究者達はREDが毎日変更する制服を着ている。因みに今は、MASAかり担いだ金太郎の衣装だ。もう冬なので少し寒そうだが、MASAは完全冷暖房なのでよしとしよう。
 REDはモニターと自分の間に自動的に現れた机にマリモを置き、マリモに向かってうなずいた。
「ふむ、それで」
「松本布団屋さんが不況にあえぎどうにかこうにか布団屋で食べていけないだろうかという理由の元、新たな布団原案として作られました。特徴は、反発が大きいので枕に頭をつけても跳ねっ返ってしまうところです。同様にマットもあり、そちらも跳ねっ返ってしまいます。どちらも眠るのにまったく適していません。マットと枕を一セットにし、注意書きとして『眠れません』『遊びすぎにご注意ください』と書く予定です」
「まずまずだな……松本布団屋さんの繁盛は間違いないだろう」
 REDはまりもに言う。
「光栄の極み」
「次の発表へ行ってもらおうか」
 モニタがザッと鳴って切り替わる。
「一芸をします。『がちょーん』」
「……何故ベストを尽くさないのか! フヮット・ドゥー・ユア・ベスト! 次」
 またモニタがザザザッと切り替わる。
「我々が開発しましたのは、なんと形状記憶ティッシュです」
 金太郎姿の研究者が映った。
「こうして鼻をかんでも……クシャクシャになりません」
 チーンと研究者が鼻をかむ。
「鼻水が黄色いな、風邪か」
「ですから、こうしてピンと元に戻ってしまいます」
「ふむ、凄い発明だ。次」
 モニタが切り替わると次の研究所では金太郎姿の研究者達が、熊を取り合っていた。
「お馬の稽古、お馬の稽古」
 研究者達はうわ言のようにつぶやきながら、熊のぬいぐるみを着た研究者を取り合っている。そして熊は叫んだ。
「熊を! もっと熊を!」
 熊の切望した声に、REDは心動かされた。
 腕時計に向かって言った。
「至急熊を十頭ほど研究施設へ送り込んでくれ」
 これでいいだろうとモニターを見ると、今度は本物の熊の登場に逃げ惑う研究者達がいた。REDはそれを見ながら思った。
 熊が一頭多かったかな、と。
「次だ」
 モニタが切り替わる。するとそこには金太郎が腰を落とし両手を合わせて立っていた。
「かめはめ波を出す研究をしています。そして、本日ついに、かめはめ波が!」
「おお、それはすごい、楽しみだ」
 金太郎姿の研究者の手に光が集まりはじめる。
「これはエレキテルの力によって成せる技です」
「かーめーはーめー……! 波っ」
 プスッ。
 ……プスッて。
 微かに火の粉のようなものが出たような気がする。
 REDは無情にもそれを切り捨てた。
「次――む、今月の発表はそれで終わりか。仕方がないな、次は三大研究の途中経過報告を見てやろう、しかしその前に休憩だ」
 REDは椅子から飛び降りた。モニタそれぞれが電源を切っていく。
 現在この部屋は地上五千メートルにある。そして地上三十メートルの給食室まで降り、REDはMASAライスを食べた。MASAライスとは、マカロニサキイカライスである。味は想像した通りだ。
「いよいよ三大研究の発表だね、まりもちゃん。楽しみだなあ」
 そうして三大研究の発表がはじまろうとしている。
 
 
 ――end and next


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

【3787/RED・FAUST(レディ・ファウスト)/男性/32/秘密組織?の会長】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 MASA――グランドオープニング
 をお届けしました。
 まさかシチュエーションノベルで続きもののご依頼がくるとは思わず、驚きながら書かせていただきました。続編も間を開けずお届けする予定です。
 設定資料の段階からのお話でしたので、WR捏造話ばかりになってしまいました。申し訳ありません。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

 ご意見ご感想お気軽にお寄せ下さい。
 
 文ふやか
PCシチュエーションノベル(シングル) -
文ふやか クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年11月17日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.