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『【秋葉原】 』
栄神・万輝3480
 かつて電脳都市として知られていた街、秋葉原。
 色々な技術の集積地として長年知られてきたのだが、ここ数年の間で秋葉原はその姿を大きく変貌させていた。
 以前までよく見かけられていた家電製品は姿を消し、同人ショップやメイド喫茶などといったオタク文化が広まっている。
「‥‥随分とここも変わったなぁ」
 たった数日来なかっただけなのに、辺りの景色は様変わりしていた。
 以前まで遠方から来る客で賑わっていた家電ショップが不況のため閉店セールを行っており、最近出来たばかりのメイド喫茶には長蛇の列が出来ている。
「有名人でも来るのかな? こんな朝早くから並んでいるし‥‥」
 『ここが最後尾です』と書かれた看板を持っているバニーメイドの少女を見つめ、栄神・万輝(さかがみ・かずき)がチラシを受け取り確認した。
「あっ‥‥、やっぱりそうか」
 どうやら有名なコスプレイヤーが店員として、一時間だけメイド喫茶で働く事になっているらしい。
 しかもこの日だけの特別メニューが出るためか、並んでいる客達も妙に気合を入れている。
「それでこんなに並んでいるのかぁ〜。‥‥みんな頑張っているなぁ」
 凄まじい熱気に包まれている行列を見つめ、万輝が感心した様子でその横を通り過ぎていく。
 長い行列はまるで蟻地獄に誘われる蟻の如く伸びていき、驚いたバニーメイドの少女が番号札を配って行列がこれ以上伸びないように対処する。
「あっ‥‥、こっちにはいつの間にか古書店が出来たのか。いまなら買い取り額20パーセントアップだってさ‥‥。大量買い取りもしているようだし、何か売りに出してもいいなぁ」
 ダンボールを抱えて読み終えた本を売りに来ている客達がいるため、万輝が自分の家に要らない本があるかを思い出す。
 必要な本しか家にはないと思っても、意外と要らない本がある場合もあるため、家に帰ったら部屋を探してみるのも悪くはない。
「‥‥やっぱりここか」
 誰かの声がしたため、万輝が近くの裏路地に入っていく。
 まるで何かに導かれるようにして‥‥。

【ジャンクショック】
「‥‥この辺りはいつもと変わらないようだね」
 華やかな表通りから裏路地に入り、万輝がジャンクショップの並ぶ裏通りにむかう。
 ジャンクショップの店頭には違法にコピーされたデータやソフトが無数に並び、まだ一般では売られていない商品が横流しされ、法外な値段をつけて売られている。
 普段から警察官が巡回しているため、あまり堂々と売る事が出来ないようにも思えるが、専門的な知識を持ち合わせていない警察官にとって、どんな違法な物であっても単なる商品のひとつとしか認識していない。
 それに誰かの通報があるのならまだしも、何の通報もないのだから、警察官といえども迂闊にジャンクショップを調査する事は出来ないだろう。
「‥‥ここはやっぱり魔界だね」
 苦笑いを浮かべながら、万輝がパーツを拾い上げる。
 ショップの店員も『魔界の入り口にようこそ』と冗談まじりに微笑んだ。
「おや‥‥? こんな所にいたんだね」
 足元に擦り寄ってきた黒猫を抱き上げ、万輝がホッとした様子で溜息をつく。
 黒猫の背中には立派な翼が生えており、甘えるように万輝の頭に飛び乗った。
「おっ‥‥、かず坊か。今日はどんなパーツを買いに来たんだい」
 万輝の姿に気づいたため、ジャンクショップの店長がニヤリと笑う。
 この辺りで万輝の事を知らない者はいないため、ジャンクショップの店長も親しげに話しかけている。
「その様子じゃ、何かいいモノでも入荷したんだね? 僕に隠し事はよくないよ」
 瞬時に店長の表情を読み取り、万輝がボソリと呟いた。
 店長もしまったとばかりに表情を強張らせ、驚いた様子で汗を流す。
「かず坊には負けたよ。‥‥あるぜ。放り出し物が!」
 完敗とばかりにガハハと笑い、店長が店先にあるジャンクパソコンを指差した。
 普通のパソコンとは違う、一台のパソコンを‥‥。

【電子の精霊】
「き、君は‥‥」
 ジャンクパソコンの上に座る少女と目が合い、万輝がクスリと笑って前に立つ。
 少女は電子の中に散らばる精霊のような存在で、万輝の心にずっと呼びかけていたらしい。
「僕を呼んでいたのは君だね?」
 目の前の少女を見つめ、万輝が優しく語り掛ける。
 少女は緊張しているためか、小さくコクンと頷いた。
「僕と一緒に来るかい?」
 自分を呼んでいた相手の正体が分かったため、万輝が少女にそっと手を差し伸べる。
「‥‥」
 すると少女は恥かしそうに頬を染め、万輝の手を握って微笑んだ。
 まるで小さな蕾が花開くようにして‥‥。

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栄神・万輝様☆

ライターのゆうきつかさです。
この度はPCシチュエーションノベル(シングル)のノミネート申請ありがとうございました。
ライターとして最初の仕事だった事もあり、緊張しつつも書かせていただきました。
気に入っていただけたら幸いです。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
ゆうきつかさ クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年11月01日

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