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『ローナ、日曜朝のお楽しみ♪ 』
ローナ・カーツウェル1936


 まぶしい光がカーテンの隙間から差しこむ。今日はポカポカ陽気の日曜日。ローナ・カーツウェルは薄暗い自室ですやすやと小さな寝息を立てていた。遊び盛りの彼女は昨日もお気に入りのマウンテンバイクで街中を探検し、いろんなものやいろんな人に出会った。そんな思い出が夢に出てきて、今も彼女を楽しませているのかもしれない……
 しかしローナは突然パッと起き、布団を払いのけるとベッドから飛び降りる。その身のこなしはまるで忍者だ。物音ひとつ立てずに床に着地した彼女はささっと動き、まずはカーテンの端を持って右から左へと走り抜けた。それは幕を引く黒子のように見える。部屋は太陽の光でまぶしいくらいになった。そしてローナは部屋の片隅にちょこんと置かれたテレビの前に正座し、脇にあったリモコンのスイッチを押す。

 『山羊戦隊っ、テラレンジャーぁ!!』
 「Oh、Good timing! 今日も予告から見れたね!」

 大人気子ども向け特撮番組『山羊戦隊テラレンジャー』の映像を見て嬉しそうに話すローナ。あるテレビ局が子ども向けにアニメや特撮番組をまとめて放送する『スペシャルキッズランド!』、これが彼女のお目当てなのだ。ローナはこれが大好きで、毎週欠かさず見ている。だが、いつも元気印の彼女が番組をお行儀よく見るはずがない。コマーシャルが終わるまでドキドキしながら待つものだから、興奮がどんどん高まってくる。そして放送開始という時にはもうすっかりハイテンションになってしまっているのだ。

 「Huuun、今日はTerraBlackのストーリーなのね。」

 テラレンジャー放送開始数秒で今日の番組の主役を知るほどハマってるローナの顔はやたら嬉しそうだ。そう、黒は忍者の色。彼女のお気に入りはブラックを演じるイケメン俳優とその変身後の姿だったりする。しかも自分と同じ忍術使いだからたまらない。黒山羊をモチーフにしたスーツで敵と戦う彼の姿はいつもローナの憧れだった。

 「いつかはBlackと一緒に戦ってみたいなー。」

 目が覚めてるのにそんな夢を見る彼女を置いて、番組はオープニングへと進む。ナレーションがいつも曲の前に語る前口上を耳にしたローナは突然立ち上がり、一緒になってそれを叫ぶのだった。

 『人の気持ちを踏みにじる、想いを断ち切るポストリア! 奴らの悪事を見つけ出し、正義の祈りで粉砕だ! 想いよ、届けっ! 俺たち、山羊戦隊テラレンジャー! メーリッシュ!』

 ローナは完璧にセリフを言い切ると、そのままオープニングテーマを画面に出てくるヒーローたちと一緒になって踊る。変身した後のアクションもベッドをクッションにして平気でこなすところがスゴい。

 「メーリングラーーーッシュ! とぉわあぁぁっ!」

 どうやらこのテラレンジャーなる作品は郵便やメールをテーマにした戦隊ヒーローらしい。『ポストリア』というのが悪役で、大規模な郵便事故などを起こして地球に被害をもたらす。それを追跡調査などしてちゃんと届くようにするのが正義のヒーロー『テラレンジャー』というわけだ。全員が山羊をモチーフにした変身スーツを装着しているのは、どうやら『山羊の郵便屋さん』をヒントにして作られたかららしい。前口上の最後に言った『メーリッシュ!』は番組が作った造語で、彼らの決め台詞として使われているものだ。もちろんローナに対してこれらの解説は必要ない。それどころかもっとたくさんのことを知っているからだ。

 ストーリーは半分ほど進み、テラレンジャーは敵を追い詰める。ここからはお約束の巨大ロボとの戦いだ。ローナはこの『お約束』というのがお気に入りらしく、目がキラキラ光る瞬間でもある。そしてお互いにロボに乗りこんだところでローナがつぶやいた。

 「Oh! 今日はポストシュレッダー2とテラシューターロボとの戦いね! But、ミーはテラスプラッシュロボでBattleするのがgood choiceだと思うよ。」

 彼女のいう通り、敵のマシンはテラシューターロボをボコボコにしてしまう。だが、後ろから助けに入ったのはテラスプラッシュロボだった!

 「Yes! Go、テラスプラッシュロボ……Oh、My God! Nextweek?!」

 実は今週のテラレンジャー、2週続きの1話目だったのだ。盛り上がってきたところで物語をバッサリと切られてしまい、ローナはテレビの前でへたり込む。せっかく予想が当たったのに結果がどうなるかは来週までわからないのだ。
 しかしエンディングテーマが流れ始めると、また勢いよく立ってテラレンジャーたちと一緒に踊り出す。今日はテラブラックが主役だったので、彼中心の映像で構成されている。彼女の下がったテンションもまた上がってきた。そして次回予告では彼女お気に入りのテラブラックとスプラッシュロボが大活躍のシーンがダイジェストで流される。

 「Oh、Wonderful! 来週も絶対に見ないとダメね!」

 すっかりご満悦のローナは、続いて同じ特撮番組の『銀河鎧甲ファティルード』を見始めた。こちらはさっきとは違った趣きの作品で、主に大きなお友達向けのハードなストーリーだ。しかしバトルスーツを装着して敵と戦うので、あんまり大きな違いはなかったりする。ローナくらいの年ならストーリーを理解しながら見れるように構成されているようで、彼女も今までの話をちゃんと内容は理解していた。
 超鉱物・ルナメタルで作られた鎧を瞬時に身にまとう主人公たちは、地球を支配しようとする秘密結社・月の使者から地球を守っていた。しかし先週から展開が大きく変わり、敵がダメージを無効にしてしまう弾力性の皮膚を備えた生物鎧・コアセルベートを主人公たちにぶつけてきた。あっという間に優劣が逆転し、地球の一部が月の使者に支配されてしまったところで先週は話が終わっている。今週は敵の支配から人々を救うため、主人公たちがファティルードを装着して戦うのだが……ローナはすっかり物語に引きこまれているのか、彼らに大きな声援を送る。

 「Fight! Fight! 悪の手に地球を渡しちゃダメ!」

 テラレンジャーではキャラや設定にハマり、ファティルードではシナリオにハマる。主人公が攻撃するたびにテレビの前で強く握られた拳を振り下ろすローナの目は本当に真剣そのものだ。すでに額にいい汗かいている。しかし攻撃の通じない敵に歯が立たない主人公たちはついに壁際まで追い詰められた。ローナが思わず両手で目を覆った時、仲間の研究員がスポーツカーに乗って登場し、新装備を彼らに渡すのだった!

 『これを使うんだ! グラビティブレッダーだ!』
 「What? 新兵器?!」

 彼女も知らない武器を使って、あっという間に敵を蹴散らす主人公たち。そして支配された街を救い、主人公たちは新たな武器とともに新たな戦いに身を投じる決意をして今週の放送は終了した。怒涛の展開にローナもあ然。口を開けたまま、新兵器について語るのが精一杯だった。

 「Gravity、bulleter……Oh、知らなかった。覚えておかないとね。」

 そのまましばらくあっけにとられていると、すでに番組は『スペシャルキッズランド!』の最後を締めくくる『ブレザーキュート』になっていた。今までの2作品とは違い、今度は女の子向けの変身ヒロインアニメである。さっきまでのごつごつした鎧のイメージはどこへやら、華やかな雰囲気がテレビから流れ出していた。オープニング曲は放送当初から歌詞が入っていたため、ローナはすでに丸暗記している。近くにあったリモコンをマイク代わりにかわいく振り付けしながら歌っていた。しかしテラレンジャーを歌っている時の力強さはそこにはない。歌っている最中はキュートな笑顔を誰に見せるわけでもなく振りまいていた。そして曲が終わると女の子らしくいそいそと座って、テレビに視線を向ける。
 今日はキュートが待望の体育科変身を先生から得る時だ。ブレザーキュートは教師から新たな力を伝授してもらいながら、最強のプリンセスキュートになるという大きな目的があった。もうそろそろ全部の力が揃いそうなのだが、同じ力を持つブレザーミスティーという娘が登場し物語を引っ掻き回しているというのが今までのあらすじだった。
 ところがローナはこのミスティーなる女が気に入らない。毎週毎週、主人公の味方になるのか敵になるのかはっきりしない行動をするものだから苛立っているのだ。今日もお約束でよくわからない行動をするブレザーミスティーに向かって、彼女は思わずテレビに向かって質問する。

 「Why? いったいユーは何がしたいの? CuteとのBattle……?」

 そんな妨害にも負けずにブレザーキュートは体育科変身を手に入れ、新たな力でミスティーを粉砕。そして捨て台詞を吐いて逃げていく……本心を語らずにまた逃げる彼女に向かってローナはコマーシャルなった画面に向かって延々と叫び続けるのだった。

 「ユーは何がしたいの〜〜〜っ!!」

 そんなこんなしているうちに、ママがローナに「朝ごはんよ」と告げる。いつもこんな調子で彼女の日曜日は始まるのだった。今日はいったい何をしよう。

PCシチュエーションノベル(シングル) -
市川智彦 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年10月29日

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