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『臆病な僕と人見知りな君 』
星祈師・叶1354)&刀伯・塵(1528)

 カポン……
 庭の獅子嚇しが小気味の良い音を鳴らす、此処はとある男が住み着いた庵の一室。今そこに、一人の男と一匹のペンギンが机を挟んで対面している。
「って……そうじゃねぇだろ」
 男の言葉に、ペンギンもまた頷く。
「おい、叶。何時までそんな所で隠れてるんだ?」
 男が呆れて見やった先、そこは部屋に一つだけある入り口の壁……その壁際にひょこりと顔を覗かせた男の子が居る。呼ばれた名前から察するに、叶と言う名であろう。
「だって・・・・塵さん〜・・・・」
 今にも泣き出しそうに弱々しい声を上げ、叶は潤んだ瞳を男――塵に向けた。
「だってじゃねぇだろ?ほら、お前が居なきゃ始まらねぇじゃねぇか」
 しようがねぇなぁと言う様な感じで塵は立ち上がり、叶が隠れている壁へと向かう。一方のペンギンもまたしょうがないなぁと言った風に「ハフリ」と溜息一つ、立ち上がると此方は部屋に備わった押入れへとペタペタと向かった。
 押入れの襖は少し開いて居り、そこからちょこっとだけ顔を見せている者が居る。どうやらこのペンギンの子供の様で、フルフルと震えてウルウルした瞳を親であるペンギンに向けている。
「クワ?」
 と、親ペンギン。
「クゥ〜」
 と、子ペンギン。
 どうやら、状況は両者共に同じ様である。塵がやれやれと言った感じでペンギンを見れば、其方もやれやれと言った感じで塵を見詰める。
「はぁ〜」
「クワファ〜」
 二つの溜息が、見事なハーモニーを奏でた……

 
 話は数日前に遡る。
「えっ?・・・・生まれたんですか?」
「……ああ、ついこの間な」
 ハルフォ村に、叶と塵の二人で湯治をした帰り道、塵が漏らした言葉に叶が飛びついた。
 塵が住む庵には様々な怪生物が住み着き、すっかり物の怪屋敷よろしくなっているのだが、其処に新たに二匹怪生物が増えた。以前から住み着いていたペンギン夫婦の子供である。自然自発的に増えて行く怪生物に頭を悩ませていた塵にとって、この知らせは朗報所か凶報以外の何者でもなかったのだが、庵の住人はやんややんやの大騒ぎ。塵の悩みの一つとなっていた。
「全く……夫婦もんの怪生物ってだけでも驚きなのに、子供までこさえやがって……」
 溜息と共に吐き出された塵のぼやきに、叶は微笑み言う。
「え・・・・?良い事じゃないですか・・・・きっと可愛いんだろうなぁ・・・・」
 何処か楽しげな叶に塵は又溜息一つ……
「で・・・・どんな子達なんですか・・・・?」
「まぁ……普通のペンギンだろうけど。そうだな、一匹は好奇心が旺盛でな、全然じっとしてねぇ。で、もう一匹が嘘みてぇに大人しい奴でな〜いっちょ前に人見知りとかしやがるんだ」
 苦笑いを浮かべる塵に、叶は微笑を見せ黙って聞いている。
「まっまぁ、生まれちまったもんはしょうがねぇしな」
 微笑まれていたのが気になったのか、塵は咳払いと共に何処か取り繕うような科白を吐くと気恥ずかしそうに赤面する。そんな塵を見ながら叶はクスリと微笑むと言う。
「ねぇ・・・・?一匹貰っちゃ駄目ですか・・・・?」
「はっ!?」
 塵は驚き叶を見やるが、叶は変わらず微笑みを浮かべているだけ……
「いや、そりゃ貰ってくれるなら助かるが……本気か?叶」
「本気ですよ・・・・?だって、可愛いじゃないですか・・・・あっでも、おとなしい子が良いなぁ・・・・」
「可愛いって……いや……まぁ可愛いんだが……」
 否定しかけるが、実際可愛いから否定出来ない塵に、叶がまたクスリと微笑む。
「良いですよね・・・・?」
「……ったく、しゃーねぇな」
 そう言った塵は、苦笑いを浮かべていた……


 とまあ、こんな事情があったからこその、この席だった訳だが……現状は、当の本人達が隠れている状態である。
 不意に塵は親ペンギンに合図を送った。すると親ペンギンも塵の意思を汲み取ったのかペタペタと塵の傍にやってくる。
「「・・・・?」」
 不思議がる子ペンギンと叶を見詰めながら塵は言う。
「じゃ、後は二人でゆっくり語らってくれ。年寄りは縁側で茶でも啜ってるわ」
「クワ!」
 それだけ言い残すと、塵と親ペンギンはスタスタと部屋から去っていった。一瞬の反論の余地も与えぬ、見事な撤退であった。
「・・・・どっどうしよう・・・・」
 オロオロする叶。
「クゥ〜クゥゥ〜」
 同じくオロオロする子ペンギン。
 そんなこんなで、半時ほどオロオロし尽した頃、遂に叶が動いた。静々と部屋の中に入り、机においてあった既に冷め切った茶を飲み始める……って喉渇いただけ!?と思いきや、ちらちらと子ペンギンの方を気にしつつ飲んでいる様子。子ペンギンの方も、好い加減喉が渇いたのか叶の様子を静かに見ていたが、恐る恐る襖から姿を現した。
 体長は大体20cmと言った所か?毛はまだ灰色で、ふわふわした感じが残っている。ヨタヨタとゆっくりゆっくりではあるが確実に近付いてくる子ペンギンに、叶が愛らしさと微笑ましさを感じ微笑んだその時!
 ドガァ!!!!!
 入り口の襖が行き成り弾け飛んだかと思うと、突如一匹の巨大な鰐が室内に乱入して来る!
「うわぁぁぁぁん!!」
「クェェェ!!」
 二人(?)は突然の乱入者に驚き、慌てて押入れの襖へと逃げ込むと襖を閉め抱き合う。だが、そんな二人の気持ちもお構いなく、鰐は襖に近付くとベリベリと襖を破いて行く!
「どっどっどっどうしよう・・・・」
「クックェェ」
 うろたえる二人、剥がされて行く襖!絶体絶命の大ピンチ!!その時、二人は気配を感じてバッと後ろを見た。
 其処には、ズラッと並んだ顔・顔・顔・顔!!!!!!総勢で言うなら四十九名いる筈だが、二人にそんな物を数えている余裕など無い!
「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「クェェェェエェェェ!!!」
 前方の恐怖より、後方の驚愕と言うべきか!叶は子ペンギンを抱えたまま襖を蹴破り、鰐を踏み越え一目散に部屋の外へと駆けて行く!
「だっだから、此処でやるのはやだって言ったのにぃ!!」
「クェェェ!クェェェェ!」
 わめきながら廊下を駆け抜け、角を曲がったその瞬間!
 ブラ〜ン
 女の笑顔が目の前に突如として現れる!
「ふわぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
「クェェェェェェェェェェ!!!!」
 とても綺麗な笑顔の女なのだが、唐突に現れれば驚愕以外の何者でもない。叶は思わずある力を解放する!武神力『韋駄天足』により早くなった速度で笑顔の女を振り切り、二人は一目散に逃げて行く!その速度で良く曲がれたね?と思える廊下の角を曲がり、一路向かうは玄関!だが……
 フワリ……フワリ……
 其処にいたのは、蟹とエイ!
「もうやだぁぁぁぁ!!」
 叫びながらも方向転換、一路来た道を一気に戻る叶の腕の中、子ペンギンは最早気絶に近い状態だった……


「随分と騒がしいな」
「クワ」
 此処は縁側。のんびり日向ぼっこ中の塵と親ペンギン。のほほんと茶を啜り羊羹なんぞに舌鼓を打ちつつのどかな昼下がり。
 バン!!
 不意に開け放たれた襖の音に、そののどかな昼下がりは終了した。
 現れたのは叶と子ペンギン。子ペンギンは、しっかりと叶に抱きかかえられてのご登場だ。
「おっ?なんだ、どうなるかと思ったけど大丈夫じゃないか」
「クワァ」
 満足そうに笑みを見せる塵と親ペンギンの姿を確認して、ペタリと叶がその場に尻餅を付くと途端に泣き出し、つられて子ペンギンも泣き出した。
「わぁぁぁぁぁん!!!!!怖かったよぉぉぉ!!!!」
「クェェェェゥ〜クェェェゥ〜」
「おっおい!?一体どうした!?」
「クワ!?」
 突然の出来事に、慌てふためく親二人。しかと抱き合い泣き続ける子二人。昼下がりの縁側で、確かに絆は深まったような……そんなのどかな日だった……



 

PCシチュエーションノベル(ツイン) -
凪蒼真 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2004年10月29日

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