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『嗚呼、運命の赤い糸 』
海塚・要0759)&露樹・八重(1009)

「ま、またですかぁ、海塚さん…」
 東京某所、どこにでもあるような雑居ビル。
その中の一室、オカルト雑誌として有名なアトラス編集部内の応接室で、同編集部員が背中を丸めて泣きそうにしていた。
この編集部では有名な駄目社員、三下忠雄。
野暮ったい眼鏡の奥で、今日も涙が光る。
「そうだ!今回はなんと…記念すべき、私が人界に侵攻したときの話だ!
どうだ、嬉しかろう?」
 ぬはははは、と意味のない高笑いを発する男を見て、三下はますます背中を丸めた。
応接室の机をはさんで、三下の目の前にいるのは、彼と同じ性別を持つとは思えない程大柄な男だった。
体中から得体の知れないオーラ放ち、明らかに凡人とは思えないある種特殊な雰囲気を漂わせている。
その髪と瞳は銀色に鈍く光り、その日本人離れした顔といい、鍛え抜かれた身体といい、凡そ一般人とは言えないだろう。
彼を知っている者ならば、どんなに遠くからでも、それが彼だとわかる。
彼の名前は海塚要(うみづか・かなめ)。自称ー…魔王。
「念のために聞きますけどぉ…記事には…」
「なるっ!むしろ、お前がそうするべきなのだ!分かったか、山川っ!!」
「だから三下ですぅ…。もう全然合ってないじゃないですかぁ」
 うううう、と妙なうなり声をあげて肩を落とす三下。
彼にとっては、こんな厄介ごとは日常茶飯事なので、勿論のこと助けに入る編集部員はいない。
「分かったなら大人しく聞いておれ!」
 要はふんぞり返ってそう怒鳴るように言うと、ふっと遠くのほうを見るような目をして語りだした。











 あれはー…そう、私がまだ、魔界にいた頃のことだ。
私はその頃、人界への侵攻を控えていた。
私は魔王だからな、人界を恐怖のどん底に落とさねばいかんのだ。
だが…それは魔王の仕事であり義務であるが…同時にもう一つの義務が存在してしまう。
そう。魔王は人界を征服しに出向くが、その決着として勇者に殺されなければいかんのだ!
それもまた、魔王の仕事なのだよ。そういうものなのだ!
だが、私は…実を言うと緊張していた。
考えてもみろ、わざわざ殺されにいくのだぞ!?私はそんな猟奇は好かん!
私がそんな己との戦いに悩み苦しんでいた折…、私は一つの記事を見つけたのだ。
それは私が愛読していた少女雑誌で、雑誌名は確か、『ぷち★レモン』という…

「…それって、女子中学生向けの雑誌じゃないですか…?
確か、『恋に恋する女の子の最終兵器★』だの銘打っている…」
「そうだ!それに何か文句でもあるのか!?
この私が最終兵器雑誌を愛読して何か問題でもあるのか!?」
「いっ、いええええ!ないですっ!すいませんっ!」
「ふん、ならば余計な横槍は入れるでない!」

 そう…その雑誌の中の、とあるお手紙コーナーがな…私の目に留まったのだ。
それは読者間で手紙交換をしようとする、なんとも画期的な企画だった。
その中の、ある一人の少女と、私は手紙を交換することとなった。
その募集は女子限定だったが、私はこの際なりふり構っていられなかったのだ!
彼女は占いもできるそうだったのでな、私は彼女の力を借りようと思ったのだ。
彼女の名前は、そう…露樹八重(つゆき・やえ)といったか。
なんとも奥ゆかしく、また文字も丁寧、物腰も柔らかな日本人的美人…。
いや、少し話がそれてしまったな。
 そして私は、八重嬢と文通とやらをすることになったのだ。

「はあ…文通ですか。それはまた古風な…」
「そうだろう!古風というものは良いことだ。わかるか!!」
「はあ…。そ、それで…海塚さんは、どういった手紙を出されたんですか?
というか、そもそも女子限定だったんじゃ…」
「ふはははは、鴨川よ。そのような心配は無用だ!私を誰だと思っておる!
この私に、己を女子だと詐称する手紙を書くことなど造作もないわ!」
「だから三下ですってぇ…」

 そう…そして、文通がはじまった。
私は…非常にうまくやっていた!
文字もかわゆく丸文字にしたし、名前ももちろんひらがなにした!
ふふ、誰が見ても恋する女子中学生の手紙だっただろう!
実物をお見せできないのが非常に残念である!
そして私は、八重嬢にある相談をした。無論、人界侵攻の件である!
だが彼女は私がそのようなことを企んでおるとは全く知らぬので、事実はカバーするように書いたがな。
『八重きゅん、私今とーっても心配なことがあるんだ!
私、あるヒトにアタックしようと思ってるの…。でも何があるかわからないし!
あのヒトは私を受け入れてくれるかなあ?BY海塚かなめ★』
 みたいな感じだ!!
…どうした、ぴくぴくと震えておって。そんなに感動したのか?仕方がない奴だな!
まあ、お前の気持ちもわかる。私も書いたときはえらく感動したものである!
 そして、八重嬢の返事が届いた。
返事は…なんとも…その…。彼女の手紙は意味深で、私には到底理解は難しいのであったが…。
最後に一言、こう書かれていたのだ…。
『牛にご用心』と…。


 そこまで言ったところで、要は大きく息をついた。
心なしか、珍しく顔色が青ざめている。
「…へ、へぇ…。あのぅ、牛って…も、しかして…」
 三下が恐る恐る口に出すと、要はビクゥっと身震いした。
彼の脳裏には、あの恐るべき牛事件のことが浮かんでいるのだろう。
三下も、要自身から伝え聞いた、あの壮絶な牛事件。
まだ記憶に新しい。



 ふ…私が愚かだったのだ。
いや、その手紙を読んだ当時は…あんな事態を想定だとできなかった。
侵攻について危惧を抱いていた己を、愚かだと笑ったものだ。
だが、その言葉通りにあの事件は起こった!
そしてそれからも、立て続けに彼女の言葉通りに私は悲劇に見舞われた。
だが厄介なことに、彼女の言葉の真の意味がわかるのは、全て事件が起きてからなのだ!
まるで某予言者のごとくな!
彼女の言葉通りに私はあの少年に襲われ、とんちんかんな戦いを繰り広げ…。
もう、いい加減にこの運命から逃げ出したくなった!
 だから、私は彼女に最後のお伺いを立てた。
私はどうすべきなのかを、あの少年をどうしたら撃退できるかを!
彼女の答えだと?
そう、これはまた、意味深なもので…。
皮肉だな、今になって初めてその意味が分かるとは…。

「そ、それで…答えは?」
 三下は思わず息を呑んで、要の達観したような笑みを見つめた。
「ふ…答えはだな…」
「……………」
 そのまま数分間ほど、二人の男は見詰め合ったまま固まった。
そして、ふいに要が口を開く。

「『かなめちゃんの本当の姿と本当の気持ちを、あの子に教えてあげたなら…
二人の関係は、永遠に…』」






                 ★





 …これは、要自身が知る由もなかった話。
件の最後の手紙が送られ、彼と少年の運命の邂逅がなされたその次の日のこと…。

 ある少女が新聞記事を読んでいた。
少女は体長10センチほどしかなく、驚くべきことに背中に黒い翼を二対持っていた。
真っ黒の魔術師が着るようなローブを纏い、頭の先からつま先まで黒尽くめだが、その顔は妖精のように愛らしかった。
だが今、その愛くるしい顔には、まるで何かを企んでいるかのような笑みが浮かんでいる。
 彼女は己の背丈からすると不釣合いなほど大きな新聞誌を器用に広げ、目的の記事を探し出した。
その記事の題名を、小さな小さな指でなぞる。
彼女は唇から可愛らしい声を紡ぎ出した。
「…猟奇でポン。斬っても突いても死にはしないけど痛いんだこんちくしょーIN東京湾…でぇすか…」
 そして、ふふふふ、と満足気な笑いを溢す。
ふっ、と顔を上げ、遠くのほうを見るような目をしてこう言った。

「かいだんのれきしがまた、1ぺーじ」







 おわり。






PCシチュエーションノベル(ツイン) -
瀬戸太一 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年10月25日

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