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『雪の王子と猫かぶりの姫君 』
皆奈月・りゆ4009)&葛弥・世都(4010)


 いつの間にか夏も終わり、季節は巡る。
 空を見上げれば薄い雲がゆっくりと流れ、校庭のポプラ並木はきれいに色づいていた。
 秋という季節が、やたらと広い神聖都学園にも訪れたようだ。
 学園内には色々な施設が揃っている。
 何せ学園丸ごとが小さな地方都市ほどの広さがるのだそれこそ本屋、CDショップ、スポーツクラブまでヘタに買物に行くよりも学園の中の方がイロイロと揃っていると言っても過言ではない。
 そんな数多ある施設の1つである小さなカフェテリアでは数人の生徒がそれぞれ話しに花を咲かせていた。


■■■■■


「あぁーん、しあわせぇ」
 そういって何種類ものデセール盛り合わせを前に歓喜の声をあげている。
 皆奈月りゆ(みなづき・りゆ)は目の前の色鮮やかなスイーツを前に喜色満面の笑みを浮かべた。
 向かいの席に座りぱらぱらと雑誌を捲っていた葛弥世都(くずみ・せつ)は冷めた目でりゆを見ている。
 そんな世都のしせんにきづき、りゆが、
「な、何よ」
軽く世都を睨むと、
「……いや、別に」
と、世都は視線を雑誌に戻した。
 軽くあしらわれた感のあるりゆは不服そうな顔をしたが、世都のそんな態度は今更なので気を取り直して再び目の前のお皿に目を向ける。
 とたんに崩れる相好に雑誌に目を落としていた世都はちらりとその様子をみて、ふっ……と鼻で笑った。
 目ざとくそれに気付いたりゆはすかさずにムッとした表情で、
「そんなに気になるなら世都サンもたのんだらどう?格好つけてコーヒーだけにしないで」
と世都を指差す。何かにつけ人差し指を出すのはりゆの昔からの癖だ。
 大体りゆが世都のことをわざわざ“サン”付けで呼ぶ時はご機嫌があまりよろしくない時だと決まっている。
「格好つけてるわけじゃない。甘いものが好きじゃないだけだ」
 きっぱりはっきりと言われてりゆは更に鼻の頭に皺を寄せた。


 男性版の雪女―――この場合雪男というのが正しいかどうかは微妙である―――である世都は自分が人外であるという理由から必要以上の人との接触を避けている。
 例外は幼少時、雪山で遭難していた所を助けた少女だけである。

 今でも世都は時々思い出す。
 世都が作ったかまくらで助けが来るまで一緒にいた女の子。
 世都のことを怖がらないで、ずっと世都の手を握って離さなかった……思い出すと、自然世都の中に暖かい何かが流れる。

 ちなみに、たった今、仏頂面で世都の目の前にいるりゆがその少女であったりするわけだが。
 そんな縁もあって世都はりゆの家に世話になっている。そのため、世都は外面がよくて猫被りのりゆの本当の性格を知っている学園内では数少ない人物なのだ。
 今のりゆの性格を考えるともしかするとあの出会った頃の不安げな表情も全て演技だったのではないかと疑ってしまう―――それくらいりゆの猫かぶりは鉄壁なのだ。
 いつものことながら、りゆはしばらく怒っていたが、クールな世都の反応が変わるはずもなく、結局りゆの方が結局諦める事になるのだから、ある意味割れ鍋に綴じ蓋といった感じである。

「そういえば、学校で話すの久々よね」
 生活に支障がない程度にしか人と関わりを持とうとしない世都のために敢えて単なる顔見知りの同級生程度を装っている為、こうして学園内で2人で話すと言う事はめったにないのだ。
 りゆとしてはそこまで徹底する事もないのではないかと思うのだが、世都はやたら自分が人外の存在である事を気にしている節がある。
―――でも、私も人とは違う能力を持ってるから同じだと思うんだけどな……
 りゆとて人にはない異能力を持っているが気にしていないのだがやはりそこは性格の違いだろう。
 そもそも、りゆはぱっと見、育ちの良いお嬢さんと言った外見をしているのでその能力を多少使ったところでよもやりゆがそんな能力を持っているとは疑われることはない。
 その点を判っているあたりりゆが見た目どおりの性格ではない事が判るだろう。
 実際公式には発表されていないが神聖都学園には異能力者や人外の者が数多く生徒として在籍しているのは暗黙の了解なのだが、人付き合いがない世都はそういうことには疎いのかもしれない。
 でも、敢えてそれを世都に教えないのはりゆなりの理由があった。
 少し俯いた世都のさらりとした髪。思ったより長い睫が目を伏せるとよく判る。
 人と一定の距離を保とうとしている今ですら実は密かに人気があるのだから……まぁ、要は面白くないのだ。

 りゆのその台詞には答えずに世都は怒っているのか考え込んでいるのかむーっとした顔のままのりゆに、
「りゆ……剥がれてるぞ」
とようやく雑誌から顔をあげてそう言った。
「何がよ」
「……猫が」
 世都にそう言われてりゆは慌てて思わず自分の顔を両手で押さえた。
 勿論“猫が剥がれかけている”というのはあくまで外面が剥がれかけているぞと言う比喩で実際に何かが剥がれてきているわけではないのだが思わず条件反射で顔を抑えてしまったりゆはまんまと世都にしてやられてしまったわけで―――それが気に食わなくてりゆの表情はますます強張る。
 すると、ずっとその顔を見ていた世都が不意に小さく吹き出した。
「世都!」
 一瞬りゆはそう小声で批難の声をあげたが、珍しい世都の笑顔を目の当たりにしてそれ以上言えるはずもなく。
「もう―――」
と言って、目の前のデザートを頬張る。
 だが、口調とは裏腹にその顔には面映いような笑顔が浮かんでいた。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
遠野藍子 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年10月20日

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