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『Undead Panic 』
ルイセ・メイフィート3770)&シリューナ・リュクテイア(3785)

「私だけが大きくなったり小さくなったりするのは理不尽だ。相手を子供化させる薬が欲しい!」

 否、それこそ理不尽です。
 ルイセ・メイフィート…月の魔力そのものから生まれた、月狂いの一族と呼ばれた存在。
 細くしなやかな金の髪に金の瞳、一見たおやかで美しい女性ではあるが…中身は刹那主義者で少々…否大分偉そうな女(今は)である。
 月は人を狂わせる…人間の行動は月に支配されていると言う説がある。
 満月の夜には事故や事件が起きやすい、潮の道引きや狼男、夜に舞う物の怪達…その月の落とし子である彼女は桁外れな月の魔力を所持する代わり…非常に月齢に影響されやすい不安定な身体をもっている。
 魔力の容量だけでなく、外見年齢さえも月齢によって変化してしまうのだ。
 今は『女』であるが、月の満ち欠けによっては『女の子』になってしまうというわけである。
 月夜の晩にあちこちを放浪していた彼女は、現在はこの世界で『魔法薬屋』と言う妖しげな店を営むシリューナ・リュクテイアのところに居候している。
 液体に魔力を封じ込めた物…時々呪術を封じ込めた呪薬等も…を薬品として取り扱う店を営むシリューナは普段は人の姿を取ってはいるが…人ではない。
 その本性は別世界から異空間転移してきた紫色の翼を持つ竜族…当然それ故の魔法知識と魔力を有している。
 そんな彼女の趣味は、『呪術で遊ぶこと』。
 ――― 非常に傍迷惑である。

 そんな二人が揃ったのだから、子供化する薬で迷惑を被る人がいるんじゃないかとか、飲まされた方のみにもなってみろとか…そんな台詞が出てこようはずはない。
 止める者がいなければ、後は突っ走るのみ。
 じゃあ材料を取りにいきましょうと言い出したシュリーナに連れられて、二人はここならざる空間へと旅立った。
「…マンドラゴラ一株に、イモリの黒焼き三匹、蚊の目玉十二個、蛇の尻尾五本と蝙蝠の心臓七個…ええと後はこれを夜の洞窟の泉の水と呪術の黒い炎で三日三晩煮込めばいいわ。」
 抜く時に上がる悲鳴で人が死ぬと言うマンドラゴラさえ人ではない二人には敵ではない。
 群生してるところを無造作に引っこ抜いて、その他材料を地道に集め…ルイセは途中で飽きてきた。
 薬作りが仕事、意外とそう言う小さな仕事も好きなシュリーナは着実に材料を集めていくが…やはり他愛ないことには違いないその退屈さが、募っていたせいもあるかもしれない。
「夜の洞窟?」
「そ、アンデッドがうじゃうじゃいてあんまり楽しいとこじゃないんだけどねぇ」
 アンデッド程度、二人の実力なれば危ないということはまずない。
 むしろ気をつけなければならないのは洞窟を壊してしまいかねないというところである。
 水を入れる甕を片手に二人は肩先に浮かび上がらせた光球の光を頼りに洞窟の中へと足を踏み入れた。
 次々に襲いくるアンデッド…のろのろもたもたした動き、鼻を突く腐臭、目やら心臓やら臓物やらずるずると引き摺って歩く姿は到底美しいとはいえない。
「……見苦しい。」
「…同感ね…一応、手加減はしてよ。」
 月の光を使う幻影魔法で目を晦まし、シュリーナの作り上げた炎の壁で火を嫌う案デッドを退け…とはするものの、如何せん数が多い。
 火の壁の前で右往左往するアンデッド、だが後ろから押されれば倒れ込んできて、火にくべられて『ギえぇ』『ぐぇェ』だの耳障りな低い悲鳴を上げてのた打ち回る。
 ついでに姿が見えずともありとあらゆるところにいればぶつかるわけであり…。
「…ぎゃぁっ!」
 べちゃ、と嫌な音がした。
 勿論、恐ろしかったり痛かったり、そんな理由で出た悲鳴ではない。
 後ろから押されたアンデッドが将棋倒しに倒れこんできて…ルイセの背中に覆い被さってきたのである。
『に、肉ぅ゛…』
 圧し掛かってきたゾンビは起き上がろうともたもたと暴れていて…ぼたぼたと千切れた指や目が振ってきて…鼻を突く嫌な匂い、ねちょねちょの腐肉。
「…ル、ルイセ…」
「…………」
 爆発したのは、きっちり十秒後。
 当たりを目も眩まんばかりの光が包み込んだ。

「…汚い、汚れた…。」
 気がつけばあたりは焼け野原…焼け洞窟。
 あちこち壁が崩れて危なそうな雰囲気。
 思いっきり不機嫌顔のルイセにシュリーナは苦笑する。
「…崩れないうちにさっさと水とって帰りましょ、帰ったらシャワー浴びればいいわ」
「………。」
 むすうとした顔ながら頷くルイセ、二人が歩き出した時…がこっと嫌な音が響いた。
 先程の攻撃で地盤が弛んでいたのだろう…天井が抜けたのである。
 地を揺るがす轟音、派手な土煙。
 そうしてその中から姿を現したのは…上にいたであろうアンデッド達。
 ぼろぼろぼとぼと、玩具か何かのように溢れ零れ落ちてくる。
 折り重なり互いの手やら足やら良くわからなくなっているものや、目を回しているもの、とにもかくにも一体一体は雑魚ながらこんなに大量のアンデッドは始めてみたという状態。
 腐った肉の塊がうごうご蠢いている様を想像していただければ間違いないだろう。
「………。」
「………。」
 と、二人の頭の上から、何かが落ちてきた。
 ぺちょ、べちょ。
 小さな音と共にシュリーナの肩にかかった軽い体重。
 何気なくそちらを見やると…乗っかっていた腐ったアンデッドの獣がにやらあと笑った。
「………。」
 ルイセの方も頭の上に乗っかった物体をわしっと掴んで…そのぬめぬめとした感触に眉を顰めつつ…引き剥がした。
「………。」
 目があうとにたらと笑う、アンデッド。
『……貴様らが侵入者か…』
 その時、ごごごご…と地を揺るがすような音が響いた。
 穴の開いた天井から、流れ込んでくる巨大なアンデッド…だが、それは二人の目には入らなかった。
 赤と、金の光が当たりを満たしたからである。
 耳を劈く轟音、爆音、切れた二人が暴走したのだと気付く前に、洞窟の主は消滅した…。

「!」
「ぁ…」
 はっと気がつけば、辺りは焼け野原。
 洞窟はおろか、洞窟のあった山さえもない始末。
「水…」
 …当然、洞窟がなければ泉があるはずもない。
「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
「…帰って、シャワーでも浴びましょうか。」
「…そうだな。」
 汚れた…主に自分達の倒したアンデッドの残骸で…衣服を見下ろして、二人は深く溜息をついた。

 子供になる薬の制作が断念されたのは、回りの人間にとっては行幸…だったかも知れない。
 しばらく不機嫌な二人に中られる哀れな弟子がいたりもしそうではあるが。
 それはまた別の話。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
結城 翔 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年10月12日

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