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『秋空の下でゆびきりを 』
森杜・彩0284
 神様教えてください。
 永遠はあるものですか?


 
 太陽が真上にさしかかった頃、彩は箒でひたすら落葉をかき集めていた。
 秋の風が前髪を揺らす。
 ある程度の山ができると額の汗を手の甲でぬぐい、ふうと息をついた。
「準備万端ですね」
 持ってきた袋の中から今日のメインディッシュを取り出そうとしゃがみこんだ。すると彼女の足に子猫がすりよってきた。
 茶色と白のまだら模様。
 可愛い。
「あなたも食べたいですか?」
 首を傾げる猫に彩はくすくすと笑う。
 今日は特別な日。踊る気持ちを抑えられない。
「一緒にいかがです?焼き芋パーティ」



 一年前のちょうど同じ日。兄が沢山のさつま芋を持って帰ってきた。友人から貰ったという。
「せっかくだから焼き芋でもやるか」
「焼き芋・・・ですか?」
「あーそっか。最近じゃ滅多にやらないしな・・・。やったことは・・・ない?」
 ないと答えると、兄は意気揚々と焼き芋について語ってくれた。
 そして彩を外まで引っ張っていき、実際に落葉を集め、芋を焼き始めたのだ。
「これで焼けるものなのですか?」
「そ。しかもうまいんだ」
 兄が楽しそうに笑うので、彩は嬉しくなった。兄が笑っていれば幸せなのだ。
 穏やかな午後。
 燃える落ち葉を見つめながら、この時が永遠に続けばいいのにと思った。
 焼きあがった芋は本当においしくて・・・・・・
「お兄様。凄いです!魔法のようですね」
 素直に感動すると、兄はクスクスと笑う。
「それは大袈裟だけどな。・・・・・・気に入った?」
「はい。とても」
「そう。それじゃあ―――」
 兄は膝を曲げ彩と目線を合わせると、小指を差し出してきた。
「約束しよう。来年も同じ日に同じ場所で焼き芋食べような」
「・・・はいっ」

 『ゆーびきりげんまん うそついたら はりせんぼんのーます ゆびきった!』

「針千本・・・ですか・・・?飲んだら痛そうですね・・・」
「あれ、彩。約束守れる自信ないのかぁ?」
「そんなことありません!」
 兄との約束は忘れない。
 絶対に。
 何があっても。
 


「お兄様、帰ってきませんね」
 もう日は大分傾いている。昼頃に出かけたっきり帰ってこないのだ。
「・・・忘れてしまったのでしょうか」
 兄はとても彩を可愛がってくれている。
 でもそれはいつまで続いてくれることなのだろう。
 いつまで一緒にいられるだろうか。
 例えば兄に愛する人ができたら。

 それはどう考えても私ではないもの。
 私は・・・・・・妹だから。
 どんなに頑張ってもきっと・・・恋人にはなれないもの。 

 兄はいつか離れていく。永遠なんて存在しないのだ。
 一年前にした約束なんて忘れられてしまうものなのだろう。
「ずっと一緒になんて我が侭でしょうか・・・?」
 首を傾げる猫の頭を撫でる。
 いつかこの日常も終わる。永遠に続くものなんてこの世に存在しない。
 何だか胸が痛くなった。
「・・・針千本ですよ。お兄様・・・」
 呟くと、子猫が彩の手をなめてくる。
「・・・なぐさめてくれるんですか?」
 返事のつもりか子猫は「にゃあ」と鳴いて見せた。
「ありがとうございます」
 少しだけ気持ちが軽くなった。この子と二人きりで焼き芋パーティというのもいいかもしれない。
「始めちゃいましょうか」
 すっかり冷めてしまった落ち葉から、芋を取り出そうと手を伸ばし――― 
「彩!」
「・・・え?」
 声がした。
 立ち上がり、思わずぽかんとしてしまう。
 こちらに走り寄ってくる人影があった。
「・・・お兄様・・・・・・?」
「ごめん。遅くなって。焼き芋だけじゃ寂しいと思って色々買ってきたんだけどさ。お、上手く焼けてるじゃん」
 兄は肩で息をしながら、彩に微笑む。
 永遠なんてない。
 例えば一年前にした約束なんて忘れられてしまうものでしょう?
 だけど・・・
「彩?どーした、ぼーっとして」
「あ・・・えっと・・・」
 覚えていてくれた。
 それでも忘れていなかった。
 小さな約束を覚えていてくれたのだ。
 嬉しい。嬉しい。嬉しい。
「兄様、私は幸せです」
「え?何?」
「いえ・・・」
 彩は零れる笑顔を何とか抑え、腰に手をあてるとわざと怒ったような顔をした。
「大遅刻ですよ、お兄様。針五百本くらいは飲んでいただかないと」
「だからごめんってば」
「謝っても許しません」
「ならどうすればいいんだよ?」
 彩はふふっと笑うと、兄に小指を差し出した。
「ゆびきり・・・してください。来年も同じ日に同じ場所で」

 

 永遠なんてない。
 それでも


 ねぇ神様。
 今、この瞬間の幸せは信じていてもいいですか?
PCシチュエーションノベル(シングル) -
ひろち クリエイターズルームへ
PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2004年10月08日

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