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『八代神社三分苦痛禁愚地獄変 』
綾峰・透華3464)&山崎・健二(3519)


 秋の日差しも気持ちのいい八代神社。その神社の巫女が、母屋から荷物を持って出て行く。
 一見すれば普通の神社、密かにに縁結びのご利益が人気を呼んでいたりする。しかしその裏では、一流の退魔師が住まう霊所であり、幾重もの結界が張り巡らされている。無論それは、『彼ら』を近寄らせないためである。…しかし、そんなことは一向に関係のない今回の話。

「先輩いってらっしゃーい!」
 銀髪の少女が、元気な声で巫女を見送った。そんな少女に巫女は手を振りかえし、長い石段を降りていった。
 それを見送り、少女は母屋へと向かう。その瞳に、炎を燃やし。
「ふふふふ…今日は凄い料理を作って先輩を驚かしてやるんだから!何時もお世話になってるし…よし、頑張るぞー!!」
 彼女、綾峰透華はその霊力のせいで常日頃霊の被害にあっており、その度に先輩である巫女に助けてもらっていた。そんな彼女が、恩返しをしたくなるのも当然というもの。透華は握りこぶしを天に振りかざし、意気も高々に母屋へと入っていった。

 台所。何時の間に用意したのか、そこには様々な食材や器材が置かれていた。その量は、団体さんをお出迎えするのかといわんばかりに膨大だった。
「さて、今日は〜…」
 小さなホワイトボードに、今日のメニューを書いていく。

○ハンバーグ
○スパゲティ・アマトリチャーナ
○オニオンスープ
○シーザーサラダ
○旬の茸のリゾット etcetc

「うん、これだけあれば先輩だって大満足♪」
 大満足以前に、彼女の細身でこれだけの量を食べきれるのだろうか?しかし、透華はそんなことなど勿論気付いちゃいない。透華はただ、巫女に食べてもらいたい一心なのだ。
 しかし。そんな彼女でも、一つ重要なことに気がついた。
「…ってどう考えても時間が足りないし!?」
 透華はあせる、巫女が帰ってくるのは夕方、どうすれば…。
「…いいのがいた!」
 キュピーンと瞳を光らせて、透華は大急ぎで母屋を出て神社の裏へと向かった。

「……」
 男は、そこにいた。ただ只管黙々と草引きを続ける。それが、この神社の居候としての男の日課だった。
「健二さ〜ん!!」
 そこに、透華が長い髪を弾ませながらやってきた。男―山崎健二はその声に、草引きの手を一旦止めて振り返る。
「…透華か…どうした、黒い『やつ』でもでたか?」
 その言葉に、透華は思わずブルッと体を振るわせる。
「あぁあれはもういやぁ…じゃ、なくて!お料理するから手伝って!」
 一瞬『やつ』の姿を思い出し、意識を失いかけるもすぐに復活、健二の返事も待たずに透華はその手を引っ張っていく。
「今日は先輩に一杯美味しいもの食べてもらうんだから。…あ、健二さんも頑張ってくれたら一緒に食べていいよ♪」
「…まぁ…別にかまわないが…」
 返事をして、健二は少し心の中で思う。
『…料理をまともにしたことはないが…なんとかなるか…』
 それが、八代神社における史上最悪の悲劇になろうとは、当の二人はまだ知るはずもなく…。



◇惨劇、聖なる社は赤く染まり

 さて、場面は台所に移る。念入りに手を洗い、頭に三角巾を巻いた二人は、材料たちと向き合った。これより、二人の真剣勝負が始まる。
「さて、頑張りますか♪…と、その前に…健二さん、料理経験は?」
 それは、当然の質問だった。その答え如何によって、この料理における絶対的な戦力差となるのだから。
「ない」
 それはもう、気持ちのいいくらいにドキッパリと健二は応えた。あまりにはっきり言うので、透華は思わずあんぐりと口を開けてしまった。
「…ま、まぁ予想はついてた答えね…それじゃ、私が作り方を教えるから、健二さんは言うとおりに動いて頂戴。私はこっちの方をやらないといけないし」
 彼女は材料を取って見せた。何故ハンバーグという料理を彼に押し付けたのだろうか、と後に彼女は思う。しかし、それはまた別の話。
 何はともあれ、料理が始まった。

「透華ちゃんの、美味しいハンバーグ講座〜♪健二さんちゃんと作ってね!」
 透華、忙しく手を動かしている割には結構ノリがいい。なんだか。


1. 玉葱をみじん切りにします。

「…って、健二さんが出来るはずもないわね」
「当然だ」
 何を自信たっぷりに答えているのか。手早く透華が玉葱をみじん切りにしていく。慣れているのか、玉葱で涙を流すなどということはない。
「……」
 しかしその一方で、健二が涙をぽろぽろと落とす。あんた何もしてないじゃん。


2. バターをフライパンで熱し、先ほどの玉葱を炒めます。

「これくらいなら健二さんにも出来るわよね。それじゃ健二さん、これお願い。玉葱が狐色になって大体半分くらいになったら火をとめてね」
 そういいながら、透華はアマトリチャーナ用のトマトソースを作るためにトマトを切り始める。かなり慣れた手つきで本格的だ。
「分かった。…まずは、バターをフライパンで…」
 言われたとおり、健二はバターをフライパンに落とす、大量に…しかし、落とした瞬間に煙がもうもうと立ち込めた。フライパンを熱しすぎていたため、バターが焦げてしまったのだ。それでも健二は、何事もなかったかのように玉葱をそこに入れ、炒め始めた。
 しかし透華はそれに気付かない。トマトを刻み、その他材料の調理に大忙しなのだ。…既にこの時点で、彼女たちの頭の上を『失敗』の二文字が回り始めていた。
「あ、玉葱炒めたらあら熱とっておいてね」
「分かった…あら熱?」
 健二にそんなことが分かるはずもない。よく分からないので、健二はそのまま放置した。おい。


3. ボウルに挽き肉、卵、パン粉、牛乳、あら熱をとった玉葱を入れ、塩・コショウを加え、指の間から押し出すようにして混ぜこねます。こねた後、柔らかすぎるようならパン粉を加え、かたすぎるようなら卵や牛乳を加えてかたさを調節しましょう。

「それじゃ健二さん、まず卵を溶いてくれる?」
 透華が、サラダ用の野菜を切りながら言った。当然卵くらいなら…と思っての発言である。それが既に間違いなのだが。
「分かった」
 卵を手に取り、そのまま…握りつぶす!それをボウルに入れて、溶き始める。最初の一撃で殻は粉々になっていたのか、特に嫌な音はしなかった。なお、健二の手のひらに卵の殻は刺さっていなかった。
「常人とは鍛え方が違う…」
 何処を鍛えてやがる。
「卵が溶けたら、さっき言った材料をボウルに入れて混ぜてね。よくこねるように、これでハンバーグの良し悪しが決まるんだから!」
 健二は言われたとおりに、ボウルの中に材料を入れていく。挽き肉をいれ、殻の入ったままの卵をいれ、パン粉と牛乳を明らかに多めに入れ、そして先ほどの玉葱をいれ混ぜ始めた。既に、最初から見ているものならきっと食べたくないと思う物体に変化していた。
「あ、忘れずに塩と胡椒も入れてね、一つまみ」
 その言葉に、健二は塩でなく砂糖を取った。…いや、確かに同じ白だけど。そして、一つまみを一握りと勘違いして、盛大にむんずと砂糖を握る。そしてそのままボウルの中に叩きつける!
 さらには胡椒も入れろと言われたので、胡椒引きの中から粒胡椒を取り出してそのまま一緒にボウルの中に入れる。…そもそも健二に胡椒引きなど分かるはずもないのだ。
「……」
 そして、親の敵を見るような目で、ただ只管黙々とこねる、こねる、こねる!明らかにこねすぎだ、しかしそれでも見た目は普通のハンバーグの種に見えてしまうのは何故だろうか?…ところどころに見える黒い粒(無論胡椒)や白い粒(卵の殻)はご愛嬌ということで。


4.適量を手にとり、まるめたら片方の手のひらに投げつけるようにして空気を抜きます。

「さすがにこれは健二さんにはちょっと無理かな?」
 透華は健二にトマトソースの鍋を見てもらい、その間にハンバーグの形を作る。実に正しい判断だ。
 なお、鍋を見るように言われていた健二は、本当にそのまま鍋を凝視し続けた。無論、そこにかき混ぜるという言葉はあるはずもなく。折角のトマトソースは哀れ焦げていくのであった。トマトに謝りやがれ。


5. 形を整えたら、熱したフライパンで焼きます。周囲に火が通ってきたら、返して赤ワインを少々ふりかけ、ふたをしてしばらく蒸し焼きにします。

「健二さん、フライパンに油を落として」
 健二は言われたとおりに熱したフライパンの上に油を落とす…ただし、油は油でもラー油だった。透華はといえば、タイミングよく視線を外していてそれに全く気付かない。というか、健二が何かしでかすときは、常にタイミングよく何かしていたりなんだりで視線を外しているのだ。しかし、それでも見た目だけは美味しそうになる不思議。世の中には不思議が一杯だ。
 さて、そのフライパンの上に種を落とし焼き始めた。ラー油の独特の匂いが少し香るが、立て続けの料理に疲れた透華は一向に気付かない。
「さて、そろそろいいかなぁ…あ、赤ワインをカップに入れてこっちに渡してくれる?」
 周りに火が通ってきたところで、少しフライ返しで様子を見ながら言う彼女に、健二はカップを渡した。ちなみに中身は紹興酒。いや、確かに赤いけど。
しかし、それにすらも気付かない。そのままひっくり返して、紹興酒を振りかけて蓋をする。相当疲れが溜まっているらしい。
『でもそれも、全ては先輩に美味しいものを食べてもらうため!』
…情熱は認めるが、すでに駄目だろ。


6.フライ返しで押してみてかたさが感じられる程度になったら、蓋をとり、余分な水分をとばします。

「ん…こんなものかな」
 焼けてきたのか、適度なかたさがフライ返しの先から伝わってくる。そのまま蓋を取りしばし待つ。ここだけ見ていれば真っ当なハンバーグ作りだ。
「よし、完成!」
 こうして、紆余曲折あったハンバーグが出来上がった。あれだけ滅茶苦茶でも、見た目だけは美味しそうなのだから困ったものだ。その見た目に、透華も満足そうに頷いた。
「うんうん、美味しそう♪…あ、サラダ作らないと!」
 そこでサラダの存在を思い出す。こっちにかかりっきりになったせいで、野菜を用意したまま放置していたのだ。
「健二さんごめん、ハンバーグにケチャップかけておいてね!」
 急いでシーザーサラダ用のドレッシングの作業にとりかかる。シーザーサラダはドレッシングが命だ。
「分かった、ケチャップだな?…赤いやつだったな…」
 健二は期待を裏切らない。さすがに角の生えたやつ(?)を持ってくることはなかったが、その手に取り出したるは、かの偉大なプロレスラーが日本に持ち込んだもの、要するにタバスコだった。
 そしてそれをそのままぶっかける、問答無用で大量に。こうして、ハンバーグは最後までまともに作られることはなかった。



◇食する、という名の地獄

 二つ作られたハンバーグは、一つは透華の手により綺麗に盛り付けられ、もう一つは試食用にと別の皿に取り分けられた。
「それじゃちょっと試食してみるね。今回は健二さんも頑張ったし、美味しくできてるでしょ♪」
 既にその考えが間違いなのだが。健二も無責任に頷くから始末が悪い。
 少し楽しそうに、透華はそのハンバーグに箸を入れた。箸の先からも、いい焼き具合だということが分かる。そのまま箸で切り分ければ、中からは肉汁が溢れ出した。実に美味しそうだ、素晴らしい(見た目だけは)。
「いただきま〜す♪」
 きっと、これを口に入れた途端に天国が広がるだろう。甘い期待に胸をときめかせ、透華はそれを口に入れた。
 瞬間、透華の動きが止まった。一瞬で顔が真っ青になっていく。以下、彼女の中の実況中継。

 うふ、凄く美味しそう♪さすが私、ド素人でどうしようもない健二さんを抱えてもこんなの作っちゃうなんて♪どんな味なのかなぁ…ん?何か変な匂いがするような気がするけど…ま、いいや(口にハンバーグ投下)。
 …か、辛いーーー!!??な、何これ…タバスコじゃないのよー!!なんでこんなものが…まさか健二さんケチャップじゃなくてタバスコかけたのー!?文字一文字もあってないじゃん!!??(少々錯乱中)
 ぶっ…あ、甘い…これ砂糖…って、噛めば噛むほど辛くなったり甘くなったりー!?なんかガリガリ言ってるんですけど!もしかして胡椒粒のまま!?っていうか微妙なガリガリは…あぁこれ子供の頃食べたことある…卵の殻じゃん!?なんでこんなものが、っていうかご丁寧に凄く細かく砕けてるし!!
 うあぁぁぁ全てが、全てが不協和音を…まずいとかそういうのじゃなくて、何これぇぇぇぇ!?
 …あ…あぁぁぁ…せ、先輩…食べちゃ…駄目です…これは…。

 そこで彼女の意識はブラックアウト、泡を吹きながら倒れた。そんな透華を見ながら、健二は呟いた。
「これが…暗殺者としての性なのだろうか…」
 どんな性やねん。



* * *

「ただいま〜」
 夕方、巫女が帰ってきた。しかし、彼女に返事をするものはいない。
「…あれ、透華ちゃん帰っちゃったのかなぁ…今日はずっといるっていってたのに…」
 でも、透華にも事情があったのかもしれないと一人納得して、水を飲みに台所へと向かった。そんな彼女の目に入ってきたのは、美味しそうな匂いをあげ食べる人をいまや遅しとまつ料理の数々だった。
「あら…ふふっ、透華ちゃんってば」
 台所はまだ片付いていなかった、きっと疲れたのでそのまま帰ってしまったのだろう。まぁこれだけの料理を作ってくれてるんだから、それくらいは多めに見ないとね、なんてちょっと微笑みながら考えたりする。
 真相は、ただ単にあまりにヤバ気に倒れたので健二に連れられていっただけなのだが。
 しかし、彼女はそんなことがあったなど知るはずもなく。箸を持って、手を合わせていた。
「透華ちゃんありがとう、それじゃいただきます」
 まずは、アマトリチャーナに箸をつけ、口に運ぶ。トマトソースの塩梅が素晴らしい(トマトソースは作り直した)。その美味しさに、巫女は顔を綻ばせて今度はハンバーグを口に運んだ。
「…!!??」
 以下省略。透華と同じことが起こったと思っていただきたい。ぎゃふん。



<END>

――――――――――


どうも初めまして、ライターのEEEです!
今回はギャグということで、ホントもう勢いだけで書き進めました(ぇ)
なお、タイトルは「やつしろじんじゃクッキングじごくへん」と読みます(読みにくい)。
やっぱりこういうのは楽しいですね(笑)
それでは、今回はどうもありがとうございました!
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2004年09月24日

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