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『家元冠城・お茶会スペシャル 〜第1夜〜 』
冠城・琉人2209)&ベータリア・リオンレーヌ(2598)&新座・クレイボーン(3060)
●企画発表
 2004年3月某日――某地方テレビ局駐車場。まだ肌寒さ残る時期の早朝だというのに、いつもの3人はそこに立っていた。
「おはようございます!」
「おはようございます」
 ディレクターであるベータリア・リオンレーヌが元気よく挨拶したのに対し、冠城琉人は若干眠た気な目で穏やかに挨拶を返す。その琉人の隣に居る新座・クレイボーンは無言でぺこっと頭を下げた後、大きなあくびをしていた。
 ベータリアの手にはデジカムが握られており、すでに撮影も始まっていた。琉人と新座の一挙手一投足と、それにベータリアを加えた3人の声がすでにしっかりと記録されている。
「まさかこうも朝早くから呼び出されるとは思ってませんでした」
 右目を軽く擦り、ベータリアに言う琉人。すかさずベータリアはこう切り返した。
「おや。こっそり部屋に入って、拉致した方がよかった?」
 それを聞いて、ぶんぶんと頭を振る琉人。訳も分からず女子プロレス軍団なんかに拉致されるのは、出来ればもう御免であった。いやまあ、される時にはされるのだろうが……。
「……それで何でおれも呼び出されたんだよ、今回は?」
 再びあくびをし、新座がベータリアに尋ねた。来いと言われたから来たものの、何をするのかまだ全く説明がないのである。
 聞いていないのは琉人も同様。それでも行かなければ拉致されるかもしれない――本能的にそう感じて、ここまで足を運んだという訳だ。
「またサイコロの旅ですか?」
 やや遠い目をして、琉人が質問を投げかけた。正直、この間の旅はきつかった。体力的にも、精神的にも。
 しかし、ベータリアの答えは意外なものであった。
「違います」
「え、違うんですか?」
 予想外の答えに、琉人がきょとんとなった。
「今回は琉人さんにぴったりの企画です」
「ぴったりの企画……?」
 思案する琉人。さて、琉人にぴったりな企画とはいったい何なのか?
「今回の企画はですね」
「はい」
「『家元冠城・お茶会スペシャル』です」
「……はい?」
 まじまじとベータリアの顔を見て、聞き返す琉人。何かの聞き間違いかと思ったのだ。
「非常に高級なお茶の葉を使っての、お茶会を開こうという企画です」
 ベータリアは冗談を言っている顔ではない。ということは、本当にそういう企画なのか?
「高級な……というと、やはり玉露か何か」
「そうなるかな?」
 ちょっと考えてから答えるベータリア。茶の種類を思い出していたのだろう。
「お茶会ってことは、おれは客?」
 自らを指差し、新座が尋ねた。
「1人でお茶会は無理」
 ベータリアが苦笑する。確かに、1人なら勝手に自宅で好きなだけ飲めばいいだけの話である。新座が呼ばれたのも納得はゆく。
「なるほど。それは確かに私にぴったりな企画ですね」
 御満悦の琉人。琉人といえばお茶全般についての知識が深く、緑茶好き。『お茶の使者』なんて呼ばれていたりもする。やはり、こういう企画には欠かせない存在であろう。
「けど、何でお茶を飲むだけで、こんな早朝から呼ばれてんだ?」
 素朴な疑問を口にする新座。言われてみれば、早朝からお茶会というのはちと妙だ。もう少し遅く集合してもよかったのではないだろうか。
「時間がかかるから」
 ベータリアが新座の疑問に対し、しれっと答えた。その答えに琉人が納得した。
「ああ、なるほど。色々と準備もありますしね。こだわったら、それなりに時間も必要ですから」
「そうそう、こだわりです。こだわり」
 琉人の言葉にこくこく頷くベータリア。その表情は『まさに琉人さんの仰る通りです!』といった感じであった。
「そんなもんなのか? おれよく知らないけど……」
「許されるならこだわりますよ」
 琉人がにこっと笑顔を新座に向けた。
「じゃ、行きましょう」
 話が一区切りした所で、ベータリアが2人を促した。いつまでも駐車場に居てられない。移動開始だ。
「他の所に場所を用意してあるんですね。この時期だと、野点も少々早いですからね」
 そう言ってワゴン車の方へ歩き出す琉人。新座もそれに続こうとしたが、ベータリアに呼び止められた。
「あ、新座さん」
「うん?」
「車に乗る前にあれを着てください」
 と言って、反対方向を指差すベータリア。新座はそちらに視線を向け――。
「は……?」
 思わず我が目を疑った……。

●実は……
 一行を乗せたワゴン車が走り出し、少し経った所でベータリアが口を開いた。
「さて、ここでゲストの紹介です」
「はあ、ゲストが居たんですか」
「居たんです。というか、後ろにもう居ます」
 のほほんと言った琉人に、大きく頷くベータリア。ちなみに琉人の後ろの座席には、右目が『m』、左目が『o』の文字になっている丸っこい着ぐるみが鎮座していた。
「紹介します。我がテレビ局のマスコット、『moちゃん』です!!」
 ベータリアに紹介されるや否や、着ぐるみ――『moちゃん』がふるふると可愛らしく手を振った。
「……新座さんじゃないんですか?」
「マスコットの『moちゃん』です」
 苦笑する琉人に対し、きっぱりと言い切るベータリア。新座もとい『moちゃん』は、なおも可愛らしく手を振っていた。さすがはマスコットである。
「何かおとなしいですね」
「マスコットですから」
 そんな会話をする琉人とベータリアだが、実際に新座もとい『moちゃん』はワゴン車の中で、借りてきた猫のようにおとなしかった。
 さて、走り続けるワゴン車はいつの間にやら山手の方へ向かっていた。周囲に緑が多くなってくる。
「結構走るんですね」
 車窓を眺めながら琉人がぼそっとつぶやいた。
「場所探しに苦労したから」
「街中にはなかったんですか? お茶会なら、お茶室なりホテルの宴会場を借りるとか、いっそ公民館でも何とかなると思うんですが」
「そういう所じゃ無理だから」
「無理?」
 はて、何が無理だというのか? 基本的に、お茶を淹れるだけではないのか?
「琉人さん、質問です。お茶会には何が一番必要ですか?」
 逆にベータリアが琉人へ質問した。
「それは……もちろんお茶の葉でしょう。それ抜きでお茶会は出来ないんですから」
「正解です。では、どうやってお茶の葉を入手しますか?」
 なおも質問を続けるベータリア。
「お店で購入を……」
「こだわる人が何言ってるんですか」
 琉人が皆まで言う前に、ベータリアがすっぱりと言葉を切った。
「自分で作るんです」
「…………は?」
 少しの沈黙の後、琉人が『冗談ですよね?』といった眼差しをベータリアに向けた。
「お茶を栽培するんです。今から」
 しかし、ベータリアの言葉に冗談という成分は含まれていなかった。
「な……何馬鹿言ってるんです! 運転手さんっ、Uターン! 戻ってくださいっ!!」
 慌てて運転席に向かって叫ぶ琉人。だが、ワゴン車が来た道を引き返すことはなかった。ただ黙々と、一路目的地へ向けて走り続けたのである。

●お茶畑(予定地)到着
「お疲れさまです」
「……ええ、そうですね」
 無事にワゴン車がお茶畑(予定地)に到着し、降りた所でベータリアが挨拶をした。明らかに琉人は不機嫌であった。
「おや、不機嫌ですね?」
「不機嫌にもなりますよ」
 ふう、と溜息を吐く琉人。
「だいたい今から栽培して、いつ収穫出来るか分かってるんですか?」
「八十八夜には間に合うんじゃ?」
「来年のですよ! 今から苗木を定植したら、早くて翌年の一番茶が手摘みで収穫出来るという所なんです!!」
 さすが琉人、お茶のことには詳しいものだ。
「おや。ちょっとうっかりしてたかな?」
 と、しれっと言うベータリア。絶対分かってる、この人。
「うっかりってレベルじゃ……ああもう、邪魔です!」
 ちょこちょこと周囲をうろついていた新座もとい『moちゃん』に対し、思わず手が出る琉人。
 パンチは見事に新座もとい『moちゃん』に命中した。ただちょこちょこ歩いていただけなのに……哀れなり。
「ささ、早くお茶の樹を植えちゃいましょう。玉露ですよ、玉露」
 琉人と新座もとい『moちゃん』を、今から定植するお茶畑(予定地)へ促すベータリア。
 ちなみにお茶畑となる場所は山の斜面になっている土地である。お茶の樹というのは、昼夜の気温差がはっきりしていると品質が優れる。山間地はその条件に当てはまる場所なので、一般的にお茶畑が多いという訳だ。
 ともあれ来てしまった以上、植えないことには帰られない。仕方なしにお茶畑(予定地)へ向かう琉人と新座もとい『moちゃん』。
「開墾はもう済ませてるから、苗木を植えるだけで大丈夫!」
 ポージングを取り2人に言うベータリア。さすがは筋骨隆々な兼業女子プロレスラー。力仕事はお手の物である。というか、何故にディレクターなどやっているか謎だ。
「植えるだけって言いますけど、大変なんですよ? 定植したらすぐ灌水。それが済んだら土寄せして、さらに敷き草をして乾燥を防がないといけないんです。おまけに玉露ですよね? 直射日光も避けないとダメじゃないですか。ああ……茶園をよしず棚で覆わないと……」
 指折り数え溜息を吐く琉人。というか、本当にお茶に詳しいものだ。
「じゃあ、そうしましょう」
 さらっと言うベータリア。出たとこ勝負という感じが本当に伝わってくる。
「ディレクターなら調べておきましょうよ……ああもう、邪魔です!」
 再び琉人のパンチが、周囲をちょこちょこ歩いていた新座もとい『moちゃん』に命中した。
 ……え? 局のマスコットなのに、そんな手荒な扱いをしていいのかって?
 いいんです、そういうマスコットだから。

●せっせと植えてゆきましょう
 ともあれ、何やかんやと言いたいことはありつつも、苗木の定植を始める琉人。新座もとい『moちゃん』も手伝うが、やはり着ぐるみ。何度もバランスを崩しては、ごろんごろんと斜面を転がっていた。
「しょうがない。ここは簡易『moちゃん』を……」
 打開策としてベータリアが用意していたのは、頭からすぽっと被る簡易『moちゃん』マスクであった。新座の顔がしっかりと見える。
「あー……酷い目に遭った」
 着ぐるみから解放され、やれやれといった様子でつぶやく簡易『moちゃん』マスクの新座。
「早く植えちまおうぜ」
「ええ。植えてしまいましょう」
 大きく頷く琉人。よしず棚で覆いもしなければいけないのだ。てきぱきと進めていかなければならなかった。
 定植と、それに伴う作業を愚痴も混じりつつ進めてゆく2人。ほぼ1日を費やした夕方頃、どうにか全ての作業が完了した。
「……終わりましたね」
「終わったなあ……これで帰れるんだろ?」
 定植の終わったお茶畑を眺める琉人と新座(簡易『moちゃん』マスクはとっくに外していた)。
「いやー、見事だねー」
 そう言いながらベータリアは疲れ切った2人の表情を、デジカムで余す所なく映していた。
「お茶畑映してくださいよ」
 ふう、と溜息を吐く琉人。
「で、収穫が来年だっけか?」
 新座が誰ともなく確認する。琉人が小さく頷いた。
「いやー、来年の収穫が楽しみだねー」
「何とも気の長い話ですね……」
 お気楽そうに言うベータリアに対し、しみじみつぶやく琉人。
 こうして、世界一長いかもしれないお茶会企画は幕を開けたのだった――。

【了】
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
高原恵 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年09月02日

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