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『お礼を、お祝いを――その日に、向けて 』
綾和泉・汐耶1449)&露樹・八重(1009)

 同じようなドアがずらりと並ぶ、マンションの廊下。そこには、慣れた手付きでとあるドアの鍵を開け、そのノブに手をかける、すらりとした女性の姿があった。
 間も無く開かれた重いドアの向うには、彼女にとっては見慣れた、いつもと同じ光景が広がっている。
「ただい……、」
 言いかけて、自分の家の玄関で靴を脱いでいた部屋の主でもある女性は――綾和泉 汐耶(あやいずみ せきや)は、軽く口を噤んでいた。
 ……っと、私とした事が。
 今日は、おかえりなさい、と呼びかけてくれる少女の姿は、ここには無い。
 妹は、仲の良い友人の家へと泊まりに行ってしまっているのだから。
 思い返しながら、汐耶はたった今買い集めてきたばかりの買い物袋を握り直し、日当たりの良い居間へと向う。しかし、居間のソファには腰掛ける事もせずに、そのまま台所へと向って行った。
 ――汐耶が暇を持て余し、居間のソファの上に寝転がったまま、ぼっと考え事をしていたのは、つい先ほどの話であった。
 とりわけて読みたい本も、する事も無く、更に、いつもなればそこにいるはずの妹の姿も無く、その上、休日だと言うのにも関わらず、珍しく書店巡りをする気にもなれずにいたのだが、
「さてっと、」
 何をしようかしら……とソファの上で寝返りをうった瞬間、ふと視界に飛び込んで来たカレンダーの日付が、彼女のするべき事を決定付ける事となった。
 すなわち、
 ……そろそろケーキの、練習をしなくっちゃ、ね。
 もうすぐやって来る妹の誕生日に焼く、ケーキの練習を。
 そこで思い立ち、汐耶は今まで買い物へと出向いていた。
 ――それはもう、今から一時間以上も前の話になる。
「何から始めようかしら、ね」
 とさり、と、買い物袋をテーブルの上に置き、汐耶はまず、その中身を軽く覗き込む。
 小麦粉、砂糖、卵の基本的な物は勿論の事、苺やブルーベリーといった甘い果物まで。その他にも、試行錯誤の末に買い集めて来た選りすぐりの品々が、そこには詰め込まれていた。
「とりあえず、買い忘れは無さそうね」
 チョコレートもバターも、牛乳も……大丈夫ね。
 確認しながら汐耶は、やおら左の腕に右の手をかける。そうして、汚してはならないものね、と、慣れた手付きでブレスレットの止め具を外していた。
 零れ落ちる微笑はそのままに、きららと輝くブレスレットを、軽い音色でテーブルの端に置く。やわらかな春の日に、香ばしい珈琲の香りと、ほんのりと甘やかさを漂わせた微笑みと共に手渡された、妹からの贈り物を。
 思えば。
 あの日妹は――汐耶の誕生日に妹は、すっくと自分を見上げ、お姉さん、と。少しだけ恥ずかしそうに、自分の方へと、呼びかけの言葉を投げかけてくれた。
 汐耶にとっては、忘れようとしても、絶対に忘れる事のできない、あの瞬間。彼女の真っ直ぐな想いが、言い様の無い程に、
 本当に、嬉しかったもの。
 だからその分、
「……それ以上に、」
 キミにはきちんと、お返しをしなくちゃあ、ね。
 その日が来たら、ふんわりと甘いケーキを焼いて、少し豪華な料理を作って。今度は自分が、妹の事を驚かせてあげたい。
 ただだからこそ、汐耶にはやらなくてはならない事が残されていた。
 ――和菓子に関していえば、それなりに上手く作れるのだという自負がある。しかしその分、
 あの子には、私も満足できるようなケーキを食べてもらわないと。
 洋菓子に関しては、自分で作る度に、何かしらの物足りなさを感じてしまって。だからこそその日まで、その部分を補おうと、今日は試作をするべく、こうして台所に立っているのだ。
 だから、と。
 汐耶は椅子の上に掛けておいたエプロンを取り上げて身につけると、背中の方でその紐を結ぶ。きゅっと引っ張るその瞬間を、さあ、やりますか――と言わんばかりの決意に変えて、静かに心を整える。
 それから、暫く。
 汐耶は早速蛇口を捻り、ふわりと優しい香りの石鹸を、その手の上で泡立て始めていた。


 あれから、――そのままケーキ作りを始めてからというもの、どれほどの時間が経っていたのか。正直汐耶には、全くと言って良いほどわかってはいなかった。
 やたらと外に舞っていた鳥の影も音も、声ですら、汐耶の気を引くのにはあまりにも不十分なもので。
 時折料理本に視線を滑らせながら、量りを慎重に確かめて。粉を篩い、材料を混ぜ合わせ、卵や牛乳を加えて更に混ぜ、オーブンを操作して。汐耶はそんな多くの作業を、気が付けばただ、一心不乱にこなしていた。
 そうして、今。いよいよ買ってきた材料も、底をつきかけた頃。
「よしっと、これで終わり」
 生地を流し込んだ型を、とんとんっ、と何度か流し台の上に打ちつけた後、汐耶はようやく我に帰ったかのように、大きく一つ息を整える。
 そうしてくるりと振り返り、テーブルの上に、マーブル用のチョコレートを探し始めた。
 最後に作っていたのは、マーブルチーズケーキ――後は、この上にチョコレートでマーブルを描き、ケーキをオーブンで焼き、冷蔵庫で冷ませば完成、であった。
 ――だが。
「あら?」
 ふ、と感じた違和感に、暫しの間、考え込んでしまう。
 何かが、おかしいような気がしてならなかった。先ほどテーブルの上を見た時とは、何かが違う。
 何かが――、
 何かしら……。
 小麦粉、卵、ボールに泡だて器。砂糖にシナモン、チョコレート。先ほど作っておいた、マロンケーキにバナナケーキ。それから――、テーブルの上に、ぽつん、と白い皿だけが残されている。
 その上にあったはずのミルフィーユだけが、綺麗に姿を消した状態で。
 汐耶は沸き起こる疑問の念に、更に、ざっとテーブルの上を見回した。
 ……そうして、暫く。
 汐耶の視線が、テーブルの上にあったバナナケーキの傍で止まる。
「見つけた」 
 ぽつり、と呟けば、
「はっ」
 ぎくり、という効果音の相応しい様子で振り返る、文字通り小さな影が一つ。
 ――そこにあったのは、汐耶にとっては見覚えのある顔であった。
 露樹 八重(つゆき やえ)。
 丁度携帯電話ほどの背丈しかない、金の懐中時計を首からぶら下げた、黒いローブ姿の小さな少女。
 彼女はクリームの沢山ついた顔で、大きな赤い瞳を汐耶へと向けると、
「おこんにちは、なのでぇす」
「こんにちは、八重ちゃん。……いつの間にここにいたのかしら?」
 汐耶は、笑顔でぺこり、と頭を下げる少女の姿に、テーブルに手をかけて身を屈めた。
 八重はとたとたっ、と汐耶の傍へと駆け寄ると、
「ほんのすこぉしまえから、でぇすよ」
「もしかして……匂いにつられて来た、とかいうわけじゃあないわよね?」
「うっ」
 汐耶の言葉に、どきりっ、と身を引かせて見せる。
 元々大きな瞳を、更に丸く開かせると、
「もしかしてせきやしゃん、じつはえすぱーしゃんだったのでぇすか?」
「私は物を浮かせたりも消したりもできないわよ」
「どっ、どうしてあたしのいおうとしたことがわかったでぇすかっ?!」
「そのくらいの想像はつくわよ。だから、私にそんな事、期待しても無駄よ」
「むううう……、」
 八重はそのまま、暫し考え込むそぶりを見せた後、
「さっきまで、そこのこかげでおひるねをしてたんでぇすけど、とってもおいしそうなにおいがしてたんでぇすよ。そしたらきてみたら、てーぶるのうえに、たくさんけーきがあったんでぇす」
 時折、汐耶の知らないその内に食べ終えたミルフィーユが載っていた皿を、名残惜しそうに見遣りながら、八重は両手を広げて汐耶に説明する。
「おおっ、これはおみせやさんか、けーきのてんごくにちがいないとおもったでぇすよ。それで、まずはこうばしいにおいのみるふぃーゆをたべようと……」
「それで、今からバナナケーキに手をつけようと思っていたのね?」
「えへへ……みつかってしまったのでぇす」
 照れたように頭を掻き、そのままくるりと、バナナケーキに意識を向けた。
 そうしてじっと、意識を向け続ける。
 じっと、じーっと、
「――……ええっと、」
「ほら、せきやしゃんにもきこえましぇんか?」
「何が?」
「あたしをよぶこえがするのでぇす」
 汐耶の方へと瞳を向けると、後ろ手にケーキを指差した。
 八重は今度は、体ごとケーキの方へと振り返り、
「ああ……ひとのおうちであまいものをもらえる、このしあわせ……」
「ああもう、わかったわよ」
「きこえたんでぇすか?」
「聞えないわよ、ケーキの声なんて」
 再び振り返ってきた八重の姿に、知らず汐耶は苦笑してしまう。
 溜息混じりにテーブルに手を付き、すっくと立ち上がると、
「――まあ、良いわ」
 腰に手をあて、まるで観念したかのように更に苦笑を深くした。
 ……どうせこんなに沢山作って、どうしようかとも思っていたし。
 いつものおやつとは違い、今日は妹には内緒にする事を前提に作っていたのだ。妹に食べさせてあげる――という選択肢が無い以上、一人で食べきれるはずもなし、考えてみれば八重の登場は、汐耶にとっても都合の良いものであった。
「そこにあるバナナケーキも食べてくれてかまわないわよ」
「ほんっとうでぇすかっ?! あぁ、せきやしゃんがてんししゃんにみえるのでぇすよぉ……」
「その代わり、」
 きららに瞳を輝かせてと見上げてくる八重に顔だけを近づけ、視線を合わせると、
「感想、お願いね」
 その頭を、ぽむりと撫でた。


 ケーキの表面に溶かしたチョコレートを乗せ、爪楊枝でマーブルを描き。そうして出来上がった生地を、オーブンの中へとするりと滑らせる。
 オーブンのボタンを、一つ二つと操作して、
「これで、最後」
 ぴっ、とスタートボタンに指を押し付ければ、早速オーブンからは甘い香りが溢れかえっていた。
 ……少し、作り過ぎたかしら。
 今更ながらに、ふと思う。酷使され過ぎたオーブンからは、香りと共に熱もじんわりと伝えられてくる。
「さいご、でぇすか?」
 ふと聞えて来た声音に、何と無くオーブンの中を覗き込んでいた汐耶が、後ろを振り返る。
 そこには、不吉な言葉を聞いた、と言わんばかりに汐耶を見つめている、八重の姿があった。
 汐耶は、八重の方まで歩み寄ると、
「そう。――今日は、これで終わり」
「おわり、でぇすか?」
「もう小麦粉も無いものね。また買出しに行かなくちゃ」
 夕食の時に、困ってしまうから。
 料理用の小麦粉も考えて買って来てあったはずなのに、と、ふぅ、と一つ息を吐く。
 どうやら我ながら、
 ……相当、夢中になってしまっていたようね――。
「それじゃあ、……もう、ないのでぇすか……?」
 ただ、無理も無い――とも思う。
 もうすぐ、大切な日がやって来るのだ。血の繋がりは無くとも、大切な事に変わりは無い、汐耶の妹の誕生日が。
 きっと妹は、誕生日に自分が祝われるという事を良く知らない。暖かい場所、大好きな人に囲まれて過ごす、あの瞬間を良く知らない。
「そういえば八重ちゃん……もしかして、」
「もうぜんぶ、たべてしまったでぇすよぉ……」
 いつもより少しだけ豪華な家庭料理や、甘いお菓子に囲まれて、
 ――キミが生まれて来てくれて、本当に良かったと、
 キミがここにいてくれて良かったと祝う、一年に一度のあの日を良く知らない。
「相変わらず、凄い食欲ね」
「まだまだたりないでぇすよぉ……もっとやいてほしいでぇす……」
「あともう一つ焼けるわよ。それにまだ、デコレーションが終っていないケーキと、冷蔵庫に苺ムースケーキに、ブルーベリーヨーグルトケーキもあるしね」
 しかし同時に、だからこそその分、心配なのだ。
 妹に喜んでもらいたいと思えば思うほど、焼いたケーキに感じる物足りなさも増えてゆく。実際に、自分では食べてはいないケーキに対しても、きっと何かが欠けていたのであろうと、そのような気がしてならなくなってくる。
「まだそんなにたくさんあったでぇすか! さっすがせきやしゃんなのでぇす。ついでにそこにあるまろんけーきももらえると、あたし、もっとしあわせになれるのでぇすねえ」
「さすが良く見てるわね……良いわよ、そこにあるマロンケーキも、デコレーションが終ったらチョコレートケーキもご馳走してあげる」
「ほんとうでぇすかっ! ううっ……きょうはとってもよいいちにちなのでぇす……ふだんのおこないのたまものなのでぇすよ」
 笑っていてほしいのだ。
「それで……感想は?」
「かんそう、でぇすか?」
「そう。約束したわよね? 感想、くれるって」
「はっ、そうだったのでぇすよ」
 あの子には――喜んで、ほしいのに……。
 身を屈め、テーブルの上に腕を組み、汐耶はその上に顎を乗せる。
 それからすっと、片手を八重の方へと伸ばすと、
「正直に言ってくれて良いのよ? その方が、かえって助かるもの」
 口元のクリームを、指先でそっと拭い取る。
 八重も汐耶の瞳を覗き込み、じっと問い返した。
「しょうじきに、でぇすか?」
「そう、……率直に」
「そっちょくに、でぇすね……」
 ふむむ……と腕を組み、小首を傾げて考え込む。
 正直に、
 ……すなおにいう、でぇすか……?
「そっちょくに、でぇすかあ……」
 繰り返し、更に考え込む。
 ――そうして、暫く。
「うむむ……あ、」
 真剣な汐耶の目の前で、八重はぽむりっ、と両の手を打った。
 そのままにっこりと、満面の笑顔を浮かべると、
「おいしいでぇすよ」
「八重ちゃん……」
 その笑顔に、汐耶は思い切り脱力してしまう。かくん、と肩を落とし、一つ大袈裟に溜息を吐く。
「こう、もっと――例えば、足りない部分とかは無かった? もうちょっと甘くない方が良いだとか、クリームは多い方が良いだとか、味のバランスが悪いだとか……」
 汐耶とて、決して八重に『立派な感想』、というものを求めているわけではなかった。嫌々書かされた読書感想文のようなものなど、決して求めてはいなかったのだが、
 もっと……何か無いのかしら?
 その分素直な意見を、聞かせてほしいかった。自分ではわからない部分を、だからこそ嘘偽り無く口にしてほしい。
「もっとたべたいでぇす」
「もっと食べたいって……」
「もっとたべたい、ってことは、おいしかったってことでぇすよ」
「それは、……確かにそうだろうけれど、」
「ので、おいしかったのでぇす」
「ええっと……、」
 だが。
 嘘、というものを全く知らないかのような笑顔で明るく言われ、汐耶もそれ以上の事を問う事が出来なくなってしまっていた。
 八重は、言葉を見つけられない汐耶の内心には気付かぬままに、
「むむ……それにしてもあたし、もうがまんできないでぇすよ」
「――何が?」
「まろんけーきしゃんもあたしをよんでいるのでぇす」
 ちまちま……とテーブルの上を小走りすると、淡い黄色のマロンケーキへと飛びついて行った。
 いただきまぁすなのでぇす、と一言、そのまま凄まじい勢いで口の中にケーキを頬張り込んでゆく。
 汐耶はしばし、その光景を眺めたその後、
「……どう?」
「おいしいのでぇすよお」
 にんまりと、心の底から幸せそうに笑いかけられる。
 ついに汐耶も降参したかのように、近場にあった椅子を引き出し、そこにすとん、と腰掛けた。
 ――ケーキの焼ける甘い香りが、ほのやかに風と共に台所の中を擽り過ぎて行く。
 テーブルの上には、減り続けるマロンケーキと、心の底からの幸福感。
 椅子の上には、それを眺める汐耶の姿と、少し複雑なその想い。
 それでも、やがて。
「お茶に、しましょうか」
 唐突に、汐耶がくすり、と微笑を零し落とす。
 まぐまぐ、ごくんっ、と八重がその方を振り返った。
「おちゃまでだしてくれるんでぇすか?」
「丁度この前、良いローズティが安く沢山手に入ったのよ。それで良ければ」
「それはそれは……ぜひともいただきますなのでぇす。あまぁいけーきにおこうちゃまでつくだなんて……」
 会話の合間合間にもマロンケーキを頬張りながら、八重が更に笑顔を深くした。
 小さな少女は、恍惚として瞳を輝かせながらも、けれどもふ――と、
「でもそういえば、なぁんでせきやしゃんは、こんなにたぁくさんけーきをつくっているのでぇすか?」
 唐突に、思いついたかのように、問いかける。
 汐耶はテーブルの上に肘をつきながら、
「――もうすぐ、妹の誕生日なのよ」
「おおっ、それはおめでとうなのでぇす。それでたっくさん、けぇきをつくっていたんでぇすね?」
「折角だもの。美味しい物を作りたいでしょ?」
 初めて一緒に過ごす、誕生日なんだし……ね。
 独り言であるかのように付け加えた汐耶に、八重はまた、口の中に頬張っていたケーキを飲み込んだ。
 そうして、一言。
「だーいじょうぶでぇすよ」
 クリームのぺたりと張り付いた口元に、先ほどとは少し違った甘い笑顔を浮かべる。
「ぜったいに、よろこんでもらえるでぇす」
 だって、こんなにおいしいでぇすよ?
「こぉんなおいしいけーきでおいわいされるだなんて、いもうとしゃんは、とってもしあわせものしゃんなのでぇす♪」
「そうだと……良いのだけれど」
 答えた汐耶の視界に、ふと先ほど置いておいた、あのブレスレットが入り込んできた。
 何気無く持ち上げて、そうして、眺める。低くなり始めた太陽の光にきらりと輝かせて眺めながら、ふと――同時に、香ばしい珈琲の香りを、思い出していた。
 しかし、少なくとも今日一日は、彼女の淹れる珈琲を飲む事もできそうにない。
 だから、
 ……帰ってきたら、淹れてもらっちゃおうかしら。
 きっと自分に向けてくれるであろう、彼女の気遣いに、甘えて。
「わあ……せきやしゃん、それ、きれいなんでぇすよ」
 それに気が付いた八重が、はぅ……と溜息を吐く。
「ええ、本当に――綺麗ね」
「ほうせきみたいなんでぇす」
「あら、」
 見上げる八重の一言に、汐耶はどこか自慢気に、八重へと悪戯っぽい視線を送っていた。
 その重みを確かめるかのようにして、
「もしかしたら、宝石なんかよりもずっと価値のあるものかも知れないわよ?」
 己の手の上に、唯一無二の輝きをしまい込んだ。


Finis


30 agosto 2004
Grazie per la vostra lettura !
Lina Umizuki
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
海月 里奈 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年08月30日

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