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『きみはともだち。 』
鈴森・鎮2320

 世の子供達ってのは、夏休みといえば絵日記とか観察日記とかをつけるものらしい。
 というわけで、俺も日記をつけることにした。
 どうせだからくーちゃんのことを書こう。くーちゃんって言うのは、こないだから飼い始めたイヅナのこと。ロボロフスキーハムスターっくらいの大きさだから、掌イヅナってとこかな?
 日記は、名付けて『くーちゃん観察記』。
 これは、俺、鈴森鎮が、掌イヅナの日常を観察することにより、その習性を研究、解明しようとする記録である。


<8月○日 晴れ>
 今日はくーちゃんに色んなものをあげた。
 チョコとか、お菓子が好きみたいなのはわかってるんだけど、それ以外に何を食べるのか調べるためだ。
 にんじんと、炊き立てのご飯と、クルミ(殻つき)と、トリの唐揚げと、歯磨き粉を並べて出してみた。
 にんじんはあまり好きじゃないらしい。ご飯と唐揚げはまあまあ。
 クルミは割と好きらしい。最初自分で殻を割ろうと頑張ってたけど、無理みたいだったから、俺が割ってあげた。
 歯磨き粉はすごく嫌いみたいだ。匂いを飼いで、キュゥっと嫌そうに鳴いていた。多分、ミントのニオイで鼻を痛くしたんだと思う。しばらくピョンピョン跳び回っていた。ごめん。
 結局、くーちゃんが一番興味を示したのは、その時俺が食べていたアイスだった。
 アイスを少し手に乗せててやってみると、喜んで食べた。暑かったもんな。

 結論:やっぱりお菓子が好きらしい。


                    
<8月×日 晴れ/くもり>
 今日は、出かけた振りをして、こっそり隠れて観察してみた。
 ひとりでいるとき、くーちゃんは俺の部屋で何をしているのかが判明した。

 朝……勉強机の下で丸まって睡眠。そこが部屋の中で一番涼しいらしい。
 昼……餌場のお菓子を食べた後、観葉植物の植木鉢の中で丸まって睡眠。
    土に湿り気があって冷たいので、午後はそこが部屋の中で一番涼しいらしい。
 夕方…どこかに出かけていった。近所を散歩しているようだ。

 結論:俺がいないと、日が出ている間はほとんど寝てるらしい。ハムスターと同じだ。
 
 散歩は1時間ほど。帰ってきたのは日が暮れてからだった。
 散歩コースの詳細を調査する必要性があると思われる。



<8月△日 雨>
 台風だった。
 風と雨がすごかった。くーちゃんは一日中寝ていた。ちょっと寂しい。
 兄ちゃんは「低気圧の影響なんじゃないか」と言っていた。
 真偽の程はわからない。



<8月■日 晴れ>
 夕方、散歩に出たくーちゃんの後をつけた。 
 まずは家の周りをぐるっと回った。縄張りだと思ってるのかもしれない。
 くーちゃんは小さいけど結構足が速いってことがわかった。
 近所の駐車場の前で、くーちゃんは足を止めた。
 夕暮れで薄暗い中に、ピカピカ光る猫の目が何対も見えた。猫集会だ。
 そこは野良猫の溜まり場らしい。珍しいのか、猫たちはくーちゃんをじろじろ見ていた。
 そこに、この辺りで一番大きくて強い雄ネコ(そのまんま、ボスって呼ばれてる)が来た。いきなり険悪なムードになった。
 ナンダオマエ、と言っているような目つきで、ボスはくーちゃんを見下ろした。くーちゃんも負けじとボスを見上げた。
 目と目の間に稲妻が見えたような気がしたくらいだ。ゴングがあったら多分、カーンって高らかに鳴ってたと思う。
 ボスV.S.くーちゃん。
 くーちゃんの尻尾の毛が逆立って、いつもの倍くらいに見えた。でも、しょせんは掌サイズ。ボスの前足の一撃でノックアウトなんじゃないかと思って、俺は慌てて止めに入ろうとした。
 が、フギャアっとものすごい悲鳴が上がる方が早かった。くーちゃんはボスの鼻面に見事な一噛みを決めていた。
 攻防は一瞬だった。ボスは反撃を試みたが、最初の一撃がきれいに決まっているのでヘロヘロだ。それにくーちゃんのほうが素早くて、爪も牙も全然届かない。
 ボス猫は尻尾を巻いて逃げた。
 猫の円の中心で、くーちゃんは「どーだ」って言ってるみたいに尻尾をピンと立てて、鼻先を反らした。ご近所の猫たちは、圧倒されたように遠巻きにしてるばっかりで、くーちゃんに手をだしてこようとする奴はいなかった。
 もしかして、さっきのってボス決定戦? くーちゃん、新ボス?

 結論:くーちゃんの散歩コースはうちから半径10メートルくらいの円周になっていた。地図で調べた。
    あんなちっこいのに、結構縄張りは広いんじゃないかな?
    ちょっと頼もしい。
    後でくーちゃんに歯を見せてもらった。小さいけど牙が鋭かった。
    あのボス猫、きっとすっげえ痛かったんだろうなあ。今度会ったら、傷薬つけてやろう。

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「おまえ、日記なんかつけてたんだな」
 部屋に置いていた日記を兄貴が勝手に読んでいたので、俺は飛びついて取り上げた。
「何だよ、勝手に人のもん読むなよっ」
「三日坊主になってたら叱ってやろうという兄心だ。しかしおまえ、毎日続けてるんだな、感心感心」
「そりゃそうだよ」
 わかったようなわからんようなことを言われて、俺は唇を尖らせた。
 だって、友達と遊ぶのに飽きる奴なんか、きっとどこにも居ないだろ。それと同じだ。
 なあ、と声をかけると、俺の肩の上でくーちゃんはきょとんとしていた。くるくると丸い目をして。

                                           END
PCシチュエーションノベル(シングル) -
階アトリ クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年08月27日

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