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『Tanz der Nacht und der Schwarzung 』
ウラ・フレンツヒェン3427)&デリク・オーロフ(3432)


「今日は保護者と一緒じゃいないのか」
「…で、覚悟はできたの? 教皇庁の鼠」
 ウラ・フレンツヒェンは肩を竦めた。
 シルクの襟にたっぷりとギャザーを寄せた可愛らしいワンピースを着た少女だ。大きな瞳に冷酷な感情を乗せて相手を見遣る。
「もっとマシな呼び方は無いのか、雌豚」
「お互い様ね」
(あぁ――どうしてこう、おまえたちはセンスが無いのかしら?)
 呆れたように軽く瞳を伏せた。
 真珠を連ねた飾りが揺れる。深紅のクラウンに手をやってヴェルヴェットの手触りを楽しむ。もう、殆ど目の前に居る者どものことなど、ウラにはどうでもいい事だった。
 ウラをこの世に呼んだ、デリク・オーロフの元に帰れればいいのだ。
「紛い物のお前如きが、この世に存在できるほどありがたいことは……」
「愚問だわよ、教皇庁。お前たちの神は何をやっているのかしら? 片や、女の王しか信奉しない国の人間は離婚を許されたいがために国教(プロテスタント)など作って争っている。お前達は愛を説くけど、『愛さない』のねぇ?」
「クッ…」
「あら、図星…ククッ。…キヒヒッ!」
 引き攣ったような奇妙な笑い声をウラは上げる。
 腰まである長い髪を指で弾いた。血筋はドイツ系だがどちらとも取れる容貌は愛らしい。母親に似たのか父親に似たのかは誰も口にする事は無い。…というか、そんなものは如何でも良かった。
 黒い聖母になりたがったどっかの女がその為だけに子を孕んだ。デリクたちは赤子の魂を生贄に、肉体の檻にウラを押し込めたのだ。意に染まらぬことを許すウラではなかったが、小さな赤子の体は檻にしか感じられない。この国の子供が幼稚園というところに行くぐらいになるまでは、少々小さい体に難儀したのは事実だった。
 生まれたばかりの血まみれのそれが立ち上がって言葉を発したときは、その呪法を施した奴らは歓喜した。そのことは今でも憶えているが、ウラにとって別段楽しいことでもない。
 時を超越した異次元に存在するウラが歩けない事があろうか? 喋る事は?
 そんなことは質問するほどのものではない。ウラの子供然とした振る舞いにがっかりしていたらしいが、奴らを――魔術師たちを楽しませてやる必要などは無いのだ。
 ただ、デリクの術式は間違ってなかった。
 精密な呪図も空間を固定していた公式も、美しいとさえ感じた。ウラを失敗例だとレッテルを貼ろうとしていた出来そこないどもは、繊細と狂気を彷徨うような危ういほどの造形美を持つ魔法陣を完成させる事は出来なかった。
 デリクは自分の許で育てると言い、ウラはついていった。
 彼は有能だ。やつらは無能だ。ウラは何より低能で無能で無駄な人間が好きではない。

 そして、目の前にいるクズどもも大嫌いだった。

「国籍もある一人の「人間」を葬る事には手間取るらしいわね。くだらないルールに振り回されて、サルのように踊ればいいわ」
「何を!」
「あぁ…お前達みたいなものに美しき死を見せてやるなんて勿体無いと思うの。できれば存在すらして欲しくないわよ」
「お前ッ!」
 男達は懐に隠した物に手をやる。どうせ、聖水を込めた何かだろうが、それがあの忌々しき特務第二局のあの女を思い出させる。
 異端審問局――あぁ、嗚呼! ばかばかしい……
「罪深きこの者を滅したまえ!」
 男はスーツの内に隠したP-04・マリーネ・ピストーレ04に手をやった。よく訓練されている。しかし、ウラにとってそんなことは全く役には立たなかった。
 ウラは撃鉄を上げた男の手を破壊した。
 文字通り、それを完膚なきまでに粉砕せしめた。男が咆哮する。どこか悲しい叫びを耳にすると、ウラはけたたましい笑い声を上げる。
「キヒッ…クヒヒヒ…。あぁ…ああああああ!! なんて面白いのッ♪」
 銃口を向けることも忘れた男の見開かれた目を覗きこんで笑った。
「あはは…面白い、ひどく面白いわ! 見なさい、この赫! この香り!! 何よりも確かで、何よりも活き活きとしているっ……垂れ流してその一滴まで晒してごらんなさい」
 男の近くに寄れば、ウラは吹き飛んだ腕を押さえる男の赫を見つめた。無論、ビルの陰に気配を感じてはいた。そいつはウラの死角に立っているつもりらしいが、ウラにはそれを知覚する必要も無かった。この状況でこいつらが単独で行動することは無いのだ。
 下衆な犬よ。お前達には相応しい。
 ウラは振り返った。
「遊びなさい。踊りなさい! 終わらない円舞曲(ロンド)で楽しませるしかないのだから!」
「う…わ…うわぁあああああああ!!」
 給に振り返ったウラに気圧された男がビルの陰から飛び出す。
 パチンとウラが指を鳴らしてその男の前に稲妻を発生させた。
「くぁッ!」
 上手く男は避けたものの、目をやられたのか目を閉じて蹲る。
「踊りなさいよ」
「貴ッ様ぁああ!!」
 男は目を閉じたまま叫ぶ。ウラは笑っただけで楽しげに見遣るばかりだ。
「前菜には飽きたわ……」
 ウラは男に近付いていく。
「『ワインとニシン』は美味しくないの。『切り分けられたパン』も嫌いだわ。香油なんて臭いものは嫌い…そうね、あんたたちみたいな腐った臭いがするわ」
 可愛らしい鼻を指先でちょんとつまんでウラが笑う。
「おぉ、おぉ…鼻が曲がりそう」
「Cosi e? Vostro sente l'odore di?」(そうですか? 貴女の方が臭いと思いますけれどもね?)
 反対側に隠れていたらしい男が顔を出す。
 長い銀糸の髪を肩まで伸ばした男は僧衣服(カソック)を身に纏っている。夏だと言うのに、黒を着込んだ男のその美貌には汗一つ浮かんでいなかった。
「どなた様…って言っても意味無いわね。その格好…こいつらの仲間でしょう?」
「良くお分かりで、正解したからと言って、善い事は何一つ無いとは思いますけれど」
「お前達が居ないだけで十分だわ」
「そうですね、化け物。わたしもそれには同意します」
 男は礼をすると、後方に飛んだ。無論、逃げたわけではない。ウラも後方に飛ぶと、軽やかに降り立つ。同時に、くるりとターンすれば一瞬にして魔法を形成し、容赦無く電撃を食らわした。
 相手も然る者で、体勢を難なく立て直すと、祝福を施した月銀のナイフを投げる。
 ウラはきらめく軌跡を瑠璃蝶のように軽やかに避けた。
 そのナイフはこの神父の仲間に刺さり、男は苦悶の声を上げる。銀髪の神父は仲間を気遣うどころか、踏み躙ってウラに近付いてくる。
「どうするの、仲間が死んでしまうわよ?」
「えぇ、お気になさらず…能力あるものなら、無事に帰還することでしょう。たとえ、帰還しなかったところで何のデメリットも無いんです。そうでしょう? だって、自分の教会(家)に帰れない役立たずなんですから」
「な、な、な…なん…だと」
 重傷を負った男が震えながら抗議する。銀髪の神父は顔も向けずに言った。
「House!! でなければ死を。力無き者に選択の余地は無い」
「そ…そんな…」
「天の掃討を手伝うがいい、Amen…」
「へぇ、そうなの? 面白いわね、おまえ」
「面白がられても嬉しくないですね」
「また遊んであげるわ…小物相手じゃ疲れてしょうがないのよ。今日は帰るわね」
 クスッと笑うとウラはあの魔術師の居る場所へと歩き出す。
「完膚なきまでに叩きのめすという喜びはまたということで。楽しませていただきますよ…せいぜい、足掻いてくださいね」
 怜悧な美貌に笑みを浮かべて言うと、その神父も踵を返して歩き始めた。
 血臭漂う街角の時は、再び動き出す。圧倒的な暴力に満ちていた二つの力は逢い見えた。この先にある徹底的な破壊のために、街かその存在を削られことであろう。
 そして、呪としか言い様の無い運命が二人を引き合わしたのだった。

 ■END■
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
皆瀬七々海 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年08月26日

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