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『酒と女と幽霊と 』
友峨谷・涼香3014)&風間・悠姫(3243)&水上・操(3461)


 腕や壁に携帯に、それぞれの時計は等しく草木も眠る丑三つ時、つまりは午前の二時程を指している。だが、人の一部は眠ってない。とある居酒屋名前を【涼屋】で。 
 、
「よっしゃでけた!」
 天火から取り出せば、地色豊かな陶器の平皿に乗せて厨房から店内へ、そしてカウンターに座る二人の間へ鎮座させまして。
「本日のスペシャル涼屋特製ピザッ、具は百花繚乱の美味として待機しとったが出撃出来ず、せやけど志半ばで倒らせへん為にうちが選んだもんばかりやで」
「ようは、冷蔵庫にしまってた料理の寄せ集めか」「うわー、クールかつドライな対応やなぁ」
 ちっとは感動覚えんかいと、表にかかってるのれんと同じく店の号を刻んだはっぴを白シャツの上に羽織った《少女》。答えるようにそっと笑うのは、豊かなおうとつがある高身長に沿わせた黒いスーツを身に付ける、銀のポニーテールの女性。その二人のやりとりを横目でみながら、一番乗り、ブレスレットを供えた両手の片方を焼きたてピザへ伸ばす私服の少女が居て。
「それじゃいただきます」「おおどんどんあがり」
 主人の了承を得る頃には、手取られたピザの角は彼女の唇。喋りて開いてる口の中にひょいと一口分含み、ぱくり。
 ………。
「正直申しますと、微妙な味ですけれど」
「やっぱ酢だこは無理やったか」「何を入れてるんだお前は」
 シーフードの蛸はともかく、酢はトマトソースの結婚相手としては性格が違いすぎ、常世の物から二歩ずれてる味覚に変化していた。実家へ帰らせていただきます。
「ほなここらへんのは? 確か貝の酒蒸しほうりこんどるはずやねんけど」
「あの、どうして具を全部ソースの下に隠してるんですか?」
「そらぁこの方がスリルあるやんか」と言いながら今自分が指差していたトライアングルをつまみかぶりつく。するとニンニクの梅肉和えに直撃して、自爆した彼女の顔はとてつもなく微妙であった。その横でもくもくと吃驚箱には我関せず、口の中でのキリリと絞まる地酒に集中する女性。
 前述した通り、本来なら男の着物であるスーツの魅力を見事に発揮させている美貌の彼女は風間悠姫と申して、日本では犬猫探しと浮気調査しか需要が無い私立探偵を生業としている。とは言いながらも何処かの《草》に似ているのか、怪奇な事象の解決にもぼちぼちと関わっている彼女だ。ごく偶には普通の事件も。
 隣で、チャーシューの細切りが具である当たりの三角を引いて、やっとこさピザの味に顔をほこらばせる少女は水上操、神社の巫女、だ。物腰柔らかく穏やかな彼女、であるがこれは表の顔。否、本領があちらにあるならば、今の顔こそ裏の顔か――ちなみに手首に巻きつけているブレスレットの中には、彼女の相棒たるお調子者が二匹というか二本というか単位に迷うがともかく居るけど今は関係無いので語らないさ。
 そして今宵の宴の仕掛け人、「偶にはぱーっと騒ごうや」と、明日は休日だから学生も大丈夫と、店仕舞の店に二人を誘った居酒屋の主人の名は友峨谷涼香と言って、この店の看板娘であると同時、実質的に店を切盛りする、料理は抜群お喋りも多彩な女主人。年齢は二十七と面子の中では一番高いが、視覚する限りでは操と同年代と見受けられる。ここら辺の事情はちと彼女に影を作るのだけど、
 が、今宵は宴である、辛気臭いのはもっての他、主人も客商売でないからこそ、包丁を振るいながら酒を煽るのだ。水に一等こだわった銘酒は、涼香と悠姫、二つ身体で豊かに華やぐ。ちなみに操が喉に通すのはまさに季節の夏みかんをチリチリ心地よく泡立つ炭酸に搾り出したの。本来焼酎と割る物だが、18歳は未成年である。
 三人寄れば知恵が出ると言うが、それよりも何より、彼女達が作り出すのは心地良き楽しみ。気兼ねない関係だからこそ過ごせる時で、話も花博のように満開だ。「花博ってなんでしたか?」「……いや、別に気にせんでええ」「一番気にしてるのはお前だろ」
 遠い目をする涼香、ええい、とにもかくにも年の差越えて職業越えて、紡ぎだしますゆったり時間。夜明けまで語り明かそう、その道はもう敷かれている、
 のだけれど、土砂崩れ。
 始めに気付いたのは操であった、今まで綻んでいた口元が、《仕事の時》にみせる真一文字に変わる。二番目はそれを見た悠姫、座る位置はカウンターの奥だったから、操の顔越しに気配ある入り口をみつめ、三番目は涼香、とは言ってもほぼ同時に徒ならぬ予感を察知して、カウンターに手も足も乗せる事無く、跳躍のみで客側へと移動し、既に椅子から立ち上がり臨戦態勢の二人と同じく構える。
 時刻は丑三つ時である――そしてここに集った三人は、年齢差があり、職業も別。だが、もう一つの仕事と体質は類似。
 闇討つ者、心霊体質。
 退魔師は操と涼香、悠姫は違う。だが彼女に流れる血には、吸血鬼、それも真祖の力だ。だから怪奇関連も扱える。
 だから扉の向こうは既に知っていた、「先手仕掛けるか」「お前の店が荒れるのは忍びないが、中に誘い入れた方が安全だろ」「ドアを通過してくるか、それとも壊してくるか」
 操の二つの予想を裏切り、三番目の答え。
 律儀に横へ滑った戸、瞬間、三人は撃退に乗り出して、
 静止した。「「「……は?」」」
 底には予想通りの、つまり一般的にはいや心霊関係を一般的という言葉に連結させるのはどうかと思うがともかく此の世ならざる者であり此の世に居てはならぬ者である、曰く、幽霊が大中小てかチビハゲデブが三人ほど漂っていたのだが、
 ホワイトフラッグ、つまり全面的な降伏を振っている。そしてこうのたまった、『い、命ばかりはお助けを〜!』いやもう死んでるやないか。
「……何か事情がおありなのでしょうか?」
 沈黙を常態にせぬように、ブレスレットの真実に出番を与える事無く操がそう呟けば、幽霊達は旗を振り乱しながらこう語ったのである。
『いや俺たち陽気な幽霊三人組なんですが』「幽霊に陽気も何も無いだろ」
『人生何一つ良い事無く死んでしまって』「あー確かに未練たらたらやなぁ」
『そこで何か楽しい思い出があれば逝けないかと』「それで、涼香さんのお店に?」
 その通りです! と詰め寄る三人。今までは存在感が薄い所為かオーダーもとってもらえない始末ッ!「いやそりゃおのれら幽霊やから」
 だけど私達は見つけたのです、霊力が溢れる主人が切盛りする居酒屋を。だか通常の営業時間に出向くのは他の客に失礼、一時は諦めていたのですがちょっと通りかかってみれば店の灯りが消えてない! という訳で、
「店に勇んで入ろうとしたが、私達の会話にびびっていた、か?」
 別に探偵でも無くても推理出来る事を言えば、幽霊は首を縦に振った。それを見て、腰に手をつけうつむいて溜息吐きつつの友峨谷涼香、
「まぁ事情はよう解ったわ、そういう事なら任しとき」
 チビハゲデブの幽霊三人は手を取り合って喜ぶ、「悠姫、悪いけど奥にある塩持ってきてくれへん?」え? 何の料理にかけて?「いや自分らにや」ええ?
「んな事せんでもとっとと成仏させたるさかい」『『『ゲゲェーーーーーーッ!?』』』
 幽霊トリオ、超人チックに叫ぶ。「……確かに、中途半端に楽しい事があると地縛霊になって居付く事があるな」
 だから涼香の指示に従って店の奥へ行こうとする悠姫、を、高校生が手で制して。
「あの……ここは素直に願いを聞いてあげた方がいいんじゃないでしょうか?」
 その時の顔は仕事の顔でなく、先刻までの、大いに飲み、食らい、語り合う時に見せていた顔だ。顔を合わせる年上二人。
「……ま、ええやろ」
 その一言を聞いて、幽霊の顔に喜色が浮かんだ。幽霊なんだけど。「無理やりっちゅうのも確かに後味悪いしな」
『ああありがとうございますありがとうございます、これで積年の恨みが果たせます!』
「意味が違うんじゃないでしょうか」
 苦笑する操のささやかなつっこみお構いなく、手を取り合って喜ぶ幽霊、そしてその内の一人が口を開いて、『それじゃ早速、』ん? 早速?
『仲間を呼んできます!』
「ちょっと待て」
 悠姫が仲間とは何、と言葉を継ぐよりも早く、
 扉からこの夏一番の波とばかりに幽霊の大群がズドドドドドドドドドドド、「ええ!?」
『なんだお前達もう来てたのか!』『あたぼうよ、この時を待ち続けて柳の下にいたってもんだッ!』『というわけでねーちゃんたちしくよろー』『おいおいしくよろーってお前何時死んだんだよ、今はやっぱりよろぴくーってな』
 好き勝手騒ぎながら、店内を満たす幽霊の方々。余りの事に暫し呆然とする三人だったが、次には叫んでいた。
「最初三人組って言ってたやないかい!」
「おい操、今からでも駆逐するぞ、私が許すッ!」
「ゆ、悠姫さんそれは流石に――」
 草木も眠る丑三つ時、だというのに店内からは、コップと箸を楽器にした演奏が流れ出した。何故かビバルディの春である。


◇◆◇


 そもそも何故、幽霊が飲み食い出来るのか。おかげで涼香、奴らの舌と胃を満足させる為にてんてこまいのてんて困りがてんこもりだ。カツ丼とうな丼DOTCHと聞かれてDOTCHも選ぶ貪欲さ、大回転の忙しさに、悠姫と操も手伝いに回る。
 そして、酒が入った所で阿鼻叫喚である。例えば、セクハラ幽霊親父、
『あんな事がいいですなぁ出来たらいいですなぁ』
「するなっ、こら、何処を触ってる!」
 触る方が悪いのか、胸元覗くスーツが悪いのか、勿論前者である。だがしかし裁こうにも幽霊は既に法の外、
『いいじゃないですかぁ、あ、そこの君写真撮って。あとでおねーちゃんにも一枚あげます』「そんな悪趣味な心霊写真はいらんッ!」
 例えば泣き上戸幽霊親父、
『いやーおいちゃんも生きてる時な、譲ちゃんくらいの女の子が居たんだよー。でもちょっとだよ、ちょっとだけ親の務めとして日記見たらめちゃくちゃ怒って家出てけぇって、ばっかやろーい誰が家たてたんだ! かかぁの親戚だけどなッ!』
「飲みすぎると身体に……」
 とは言ってもとうに実体は無い事に気付く操。とりあえず気持ち悪がる幽霊の背中を擦る、
『あああったけぇ、あったけぇよ、よし譲ちゃん俺が援助してやろうその引き換えに交際を』「……、怒りますよ?」『すいません』鬼みたいな目に平身低頭、赤くなるまではいってないが。
 例えば常識に凝り固まってる幽霊親父、
「せやから何度も言うとるやろッ! 月にはうさぎ様がおって日本の株の相場を荒らしとるんや!」
『な、なんだってー!』
「ふふーん、そしてやなぁそのうさぎ様が始めてナマコを食べたんや、うさぎ様がおらんかったらうちらはこの鮮烈な味を知らんかった!」『ななな、なんだってー!』
 こちらはなんだか楽しそうである、なんだか。
 とまぁ徹頭徹尾馬鹿騒ぎ、しまいには厨房に悠姫も借り出され、意外な才能家庭的な料理、肉じゃが等を披露する。操は終始お酌をする係、笑い声が蝉のようにうるさい様子に、手首から関西弁が聞こえて来るが、涼香と比べてエセっぽいので構ってられない。看板娘の疲労は年金問題のように山積みとなって、そして、


◇◆◇


 やっとお開きになったのは、明日の仕込みも食い尽くした、丑三つ時等忘却の彼方に去った頃である。
『いやーとても楽しかった! もう思い残す事はありません!』
「……さよか」
 涼香が玄関口に集合している幽霊達を見る姿勢は、カウンターに半身を預けてである。操は壁にもたれ、悠姫だけはなんとか立っているがふらりふらりと揺れている。ちなみに目が赤いのは眠気の所為じゃなく元からだ。
 ともかく、悪夢のような夜は過ぎ去った。本当なら楽しかるべき宴が、なぜこんな狂宴に、ああでももういい、終わったのなら良いじゃないか、終わったなら、
『これでまた生きていく楽しみが出来ましたっ!』「……は?」
 死んでるやないかい、と再び突っ込む元気は涼香には無かった。だから幽霊達はスムースこう続けた。
『本当に楽しかったなぁ、とくにねーちゃんの乳最高だし』
『酒もうまいし料理も絶品だもんなぁ、若い子にも酔っちゃって』
『それじゃ今夜もここに集合な、みんなうっかり坊さんに見つかって、成仏されるなよぉっ!』
 ……、
 ………、
 ―――、

 中途半端に楽しいと、地縛霊として居つく事がある。

 一番目に動いたのは操で、二番目が悠姫、三番目が涼香。だがタイムラグは一秒も無く、そしてそれから何をしたかは、玄関に撒かれた大量の塩から察してもらいたい。


◇◆◇


 こうして彼女達の戦いは終わった――
「……なぁ、飲みなおさへんか」「……そう、だな」「仕切り、直しですね……」
 後悔と憎悪を清算しようと、カウンターに座る三人。涼香、作るのも大好きな料理だが今日はもうこりごりだと、皿の上の余りをつまみにして、乾杯としようとした、その時、
 酒に欠点があるとすれば、特例でも無い限り、朝日の眩しさには合わぬ事。
 塩山盛りの玄関から注ぐ光。
 それでなくても明るい内から飲まぬ主義である悠姫、流れる血の半分に従ったのか、夜活動して、朝に就寝、カウンターで開始した。涼香も朝市に出る事無く就寝、操も折角の休日を潰す就寝。
 その日、涼屋の戸に臨時休業と書かれた札と、魔除けの札がかかったそうな。
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
エイひと クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年08月23日

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