▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『死の待つ明日への希望 』
神宮寺・夕日3586)&深町・加門(3516)


 大怪我をしているのは深町・加門であって、神宮寺・夕日ではない。
 加門がリビングに敷かれた布団に寝転んでいる間、夕日は加門にかかりきりだった。少し目を閉じて眠りに吸い込まれそうになると、必ず夕日の声で目をこじあけられる。無視をすることにしたのだが、夕日のお節介はとまらない。
 キッチンへ入って行った彼女は何かを用意してから加門の隣に座り、優しい声で訊いた。
「起き上がれる?」
 起き上がれないわけではなかったので、加門は激痛の走る肩を床につき、頭の鈍痛を我慢しながらその場に座った。
 夕日は白い濡れたタオルを持っていて、加門の額をまず拭った。
「いってぇ」
「痛いわよ、痛いでしょうよ」
 言いながら彼女は加門の頭の血をあらかた拭き終え、すぐに上着を脱ぐように指示をした。加門はおぼつかぬ手でボタンを外そうとしている。面倒になったのか、すぐに夕日が手を出してシャツを脱がせる。身体のあちこちに切り傷や打撲でできた腫れがあった。湿布や塗り薬を取り出して、額も合わせ全体に塗りたくる。
 加門は傷口に手が触れるたびに、「いてぇな」と文句を言った。
 包帯が足りないようだったので、夕日が家主に聞きに言っている間、加門はぼんやりと煙草に火をつけた。白い煙があがっていく。一瞬それがクッキーに見えて、戦慄する。

 帰って来た夕日は大量の包帯を持っていた。
 深町・加門の身体は思ったより筋肉質でできていた。細くて背だけ高い男なのだろうと思っていたが、違うらしい。事実、喧嘩は滅法強い。あちこちに古い切り傷があった。
「怪我だらけじゃないの」
 夕日が困ってしまって怒った口調で言うと、加門は素っ気無く答えた。
「お前の身体じゃねえんだから、文句言うな」
 ついむっとしてしまったが、相手は半死人なのだ。夕日は感情を押させて、あちこちにガーゼを当て包帯をグルグルと加門の身体に巻いていった。
「こんなことしたって」
 煙草を灰皿に置いた加門が、夕日の方を見ずに独り言のように言った。
「なんにもならねえ」
 どういう意味なのかわからず、まず胴体の包帯をつけ終えた夕日は腕にかかりながら訊いた。
「どういうこと?」
「別に。特に意味なんかねえよ」
「クッキーと会えば死ぬからどうでもいいとか、そういう了見なわけ」
 勝手に解釈をしてむかっとして聞き返すと、加門はぼんやりとした表情をおかしそうに笑わせた。
「お前ってほんとうるせぇ女」
「なによ、それ」
「なにもわかっちゃいねえ」
 加門は大人しく包帯を巻かれながら、煙草をくわえてぼんやりと座っていた。
 頭の包帯が巻き終わり、夕日が台所から出てくる。肉じゃがとおかゆが載っていた。
「げぇ、俺内臓ボロボロなんだぜ、そんなもん食えるかよ」
 ゲンナリした顔で加門がうなだれて言った。夕日は口を尖らせている。
「おかゆだけでも食べなさいよ。生気がないのよ、顔に」
 煙草を灰皿に押し付けて、加門はおかゆを手に取った。夕日が「冷ましてあげるから」と碗を引っ掴んで、彼女はふうふうとおかゆを冷ましている。
 加門は興味なさげにその様子を窺って、小さな声でつぶやいた。
「死ぬときは死ぬもんなのさ」
 夕日が顔を上げる。
「え?」
 夕日はレンゲでタマゴ粥をすくって加門の口許へ差し出しながら訊いた。
「今お前に刺されて死ぬのと、クッキーに殺されるのとなにが違う」
 差し出されたおかゆをパクンと口に入れて、加門は口をもごもごさせた。嚥下してから、少しだけまずそうな顔をする。
「口に染みる」
「私、別にあなたを殺さないわよ」
「俺もお前相手じゃ殺される気はしねえよ」
 加門は微笑する。かすかなそれは、どうしてだか儚い印象を抱かせる。
「泥の中でジタバタしてんのが性分なのさ」
 煙草へ手を伸ばした加門は、夕日を横目に吸うかどうか箱を向けて訊いた。夕日は首を横に振る。
「明日世界が滅びるなら、クッキーと全力でやりあったって死んだ方が楽しいだろ」
「……あんた頭湧いてるんじゃないの。どっちもあり得ないわよ」
 包帯をあちこち触りながら、加門はまた笑った。
「そうか?」
「だって明日で世界は滅びないし、クッキーは返り討ちに合わせるんでしょ」
 加門が苦笑いをする。煙草の煙が腫れた目に染みるのか、垂れた目を細くして加門は言った。
「明日人生が終わると信じなくちゃ、生きていけない奴等もいるんだぜ」
「……そんなの」
「そういうもんだ」

 加門はまた煙草をくわえ「酒が飲みたい」と悪態をついた。
 夕日は包帯姿の加門に「あなたもそうなの」と一言訊きたかった。それなのに、訊いてはいけない気がして、夕日は粥を持ったまま加門の眠たそうな顔をじっと見ていた。

  ――end
 
 
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

【3586/神宮寺・夕日(じんぐうじ・ゆうひ)/女性/24/警視庁所属・警部補(キャリア)】
【3516/深町・加門(ふかまち・かもん)/男性/29/賞金稼ぎ】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

「死を待つ明日への希望」ご依頼ありがとうございます。
文ふやかです。
進展してないじゃん!(汗) という感じですが、まずは深町さんに胸のうちを洩らしていただきました。
お気に召せば幸いです。
ご意見、ご感想等お気軽にお寄せ下さい。
また、お会いできることを願っております。

 文ふやか
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
文ふやか クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年08月23日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.