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『真夏のミステリー合宿 』
榊杜・夏生0017
●我らがここに居る理由
 2004年8月――今年に限って言えばアテネオリンピックの時期ではあるが、高校生にとっては夏休みの真っ直中である。
 一口に高校生の夏休みといっても、過ごし方は様々である。例えば甲子園では高校球児たちが白球を追いかけているし、インターハイで頑張っている者だって居る。
 スポーツだけには限らない。間近に待ち受ける大学受験に備えて予備校やら高校の夏期講習に参加し、必死に勉強している者も居ることだろう。
 そして、東京から少し離れた関東近郊の山中にも、また違った形で頑張っている者たちの姿があった――。
「えーっと、この廊下ってもうぞうきんかけたっけ?」
 手の甲で額の汗を拭いながら誰ともなく尋ねるのは、某公立高校の2年生である榊杜夏生だ。場所はちと長い廊下、それも寺の本堂の廊下である。
「さっき誰かかけてたよ?」
 すると、そう女の子の声が返ってきた。夏生が振り返ると、そこにははたきを手にした少女――瀬名雫が立っていた。
「あ、そうなんだ? じゃあ別の廊下を……」
 と言い、他所へ行きかけようとした夏生だったが、はたと足を止めて再び雫の方へ振り返った。
「でもごめんねー。招待したのはこっちの方なのに、色々手伝わせちゃって」
 苦笑いを浮かべる夏生。だが雫はふるふると頭を振った。
「ううん、こういうのも楽しいよっ☆ いかにも合宿って雰囲気だしっ」
 笑顔を見せる雫。どうやらそれなりに楽しんでいるらしい。
 さて、2人がどうしてこういう所で掃除をしているのかを説明しなければなるまい。さっき雫の口からも少し出たが、3泊4日の日程で合宿へ来ていたのだ。なお、今日は合宿2日目だ。
 何の合宿かは言うまでもない。夏生所属のミステリー同好会のそれだ。毎年恒例となっている合宿が、今年はたまたまこの地となり、今居る寺に泊めてもらっているという訳だ。
 で、夏生は部員たちの了解を得て、友だちである雫を招待したのである。何せ雫は『あの』ゴーストネットの主だ。部員で雫の名を知らない者は居なかったし、その雫に会えるのだ。反対意見など出るはずがなかった。
 ちなみに何故ここになったかというと、同好会の先輩がこの寺の和尚と繋がりがあるということからだった。何でも、先輩の叔父の従妹の旦那の弟が、この寺の和尚と知り合いなのだそうだ。
「それってほとんど他人なんじゃ……」
 夏生は思わずそんな突っ込みを入れてたが、他の部員一同に『固いこと言うな』と強引に却下され、結局そのまま合宿先に決定したのだった。
(……お金ないもんなあ……)
 その時のことを思い出し、つい遠い目になる夏生。現実的な問題として、部員7人の弱小クラブにとっては旅費を安く上げられるという点は大きいのである。
 正直、今回の合宿でかかった旅費は交通費くらいだ。寺の和尚の好意で、米だけ持ってくればおかずは用意してくれることになっていたのだ。
 もちろん、ただで安くなるほど世の中は甘くない。対価として、夏生たち部員一同と雫は掃除などの肉体労働で補うこととなったのである。
「ま、とにかく今は頑張って掃除終わらせないと。夜になっても終わらないんじゃ、予定が狂っちゃうもんね」
「そうだねっ、夜のためにっ☆」
 夏生と雫は言葉を交わし、別々の方向へ歩き出した。はて、夜にいったい何があるというのか――?

●合宿の目的
 夕食を終え、雫を含むミステリー同好会の面々は板張りの本堂で車座になっていた。時刻は午後9時前、中央に立てられたろうそくの明かりがらしい雰囲気を醸し出していた。
「さて、あと2時間で我々は現地へ向かうのだが、その前に……」
 一同をここへ連れてきた先輩が、最初に口を開いた。現地へ向かう前に、改めて情報を整理しておこうという提案だった。
 ミステリー同好会が、何もない場所へ合宿へ来るはずがない。そこに何かが待ち受けているから合宿場所とするのだ。当然、ここの近くには名高い心霊スポットがあった。徒歩20分ほどの場所である。
 そこは戦国時代に、国を滅ぼされ逃げ落ちたとある姫が隠れ住んでいた庵のあった場所だという。その姫は村人たちに匿われていたのだが、追手がやってきたことを知り、村に累が及ばないよう文をしたためた後、自害して果てたのだそうだ。
「それからは年に何度か、庵のあった場所の近隣でお姫さまの幽霊を目撃した話が出るらしいですよ」
 日中に近隣の者から噂を聞き込んできたらしい後輩部員が言った。なお、特に被害があるとかいう話は聞かないらしい。
「確かこの寺の墓地に、そのお姫さまのお墓があるって和尚さん言ってたよな?」
 と言ったのは夏生と同期の部員だ。
「え、言ってたっけ?」
 だが夏生は聞いた覚えがなかったので、思わずそう聞き返していた。途端に皆の視線が夏生に集中した。
「おい、さぁーかきもりー……ちゃんと聞いてろよぉ」
「そうですよ榊杜先輩。和尚さん言ってたじゃないですか」
「……言ってた?」
 夏生は隣の雫に確認をした。
「うん、言ってたよ」
 困ったような笑みを浮かべ、こくんと頷く雫。やっぱり夏生だけが聞き逃していたようだ。
「えーっと、きっとその時はあたし、謎のサイキック攻撃を受けてて」
 聞き逃した理由を口にする夏生。無論120%冗談だ。それに対し、先輩はニヤリと笑みを浮かべてこう言った。
「ほほう、そう言い張るのか、榊杜よ。言い張るんなら、休み明けにレポート30枚提出な。このくらい軽いだろ」
「……すみません、聞いてませんでしたーっ」
 レポート30枚など書かせられてはたまらない。夏生は慌てて謝ったのであった。
「そういえば、お姫さまの名前って分からないの? 合宿前にネットで調べてみたけど、全然情報が出なくって」
 思い出したように雫が言った。言われてみれば、ここまでの話でも名前は一切出ていない。
「そのこと? 聞いてみたけど、名前は伝わってないみたくって」
 別の同期部員が雫の質問に答えた。
「……あえて伝えなかった、とか?」
 夏生は頭に浮かんだ考えを、そのまま口にした。村に累が及ばぬように気遣った姫である、自らの素性が分からぬよう頼んだ可能性だってあるはずだ。
 しかし、今となってはどちらか分からない話である。

●いざ現場へ
 午後11時となり、一同は和尚にお祓いを受けると、庵のあった場所へいよいよ向かうことにした。いわゆる肝試しである。
 だがこのミステリー同好会の場合はちと違う。集音マイクを手にした者やらビデオカメラを手にした者が居る。夏生だってフィルムタイプのカメラを首から下げているし、雫もデジタルカメラを持っていた。
 何しろこれは合宿のメインイベント。実際に真夜中に現場に赴いて、様々な機器で音声録音や画像録画を行うのがメインの前半。そして翌日、それら結果を分析したり、色々討論し合うのがメインの後半なのだ。
 つまり、前半がしっかり出来ないと後半もぐだぐだになる訳で……。この『ちょっとマニアックな肝試しもどき』において、重要な位置付けを占めているということだ。
「ふふふ、幽霊よ……待つがいい」
 なお、1人だけどこで手に入れたのか陰陽師の格好をしていた馬鹿者が居るが、そういうのはさくっと無視である。ええ、無視ですとも。
「雫ちゃん、はいチーズ!」
 雫にカメラを向け、試し撮りする夏生。ファインダーにVサインする雫の姿が収まっていた。
「うん、カメラ異常なーし!」
 夏生がそう報告すると、呼応するように他の者たちの報告の声が聞こえてきた。
「ビデオカメラも異常ないですー」
「マイクもレコーダーもばっちし!」
「デジカメもちゃんと撮れてるよっ☆」
 どうやら機材は全て問題ないらしい。これなら出発しても問題ないだろう。
 そして一同は明かりを手に出発する。現場に着くまでは、雑談に花が咲いた。夏生が聞く限り、雫への質問が多かった。
「雫ちゃん、今度掲示板に書き込んでいい?」
「うんっ! どんどん書き込んでねっ☆」
「瀬名さん。僕ちょっと変わった心霊写真持ってるんですけど、取り込んだ奴メールで送っていいですか?」
「そういうの持ってんなら、先に部室に持ってこいよ!」
「へー、変わってるの? 全然大丈夫だから、送ってくれる? 後でアドレス教えるねっ☆」
「ねえねえ、雫ちゃん。帰ったら俺とデートしない?」
「それはダメだよ〜」
「うわ……きっぱり断られましたね」
「……デートは心霊スポットのはしごでどうだっ!」
「…………」
「あ、瀬名さんの心が揺らいでる」
「いやいや、そーゆーの無視していいから。心霊スポット巡りはあたしと行こ?」
 最後のはもちろん夏生の言葉である。
 こうして雑談しながら歩いていると、思ったより早く着くものである。現場が近くなったことを悟ると、自ずと一同の口数は減っていった。手のひらにも汗が滲んでくる。
 やがて着いた現場には、何もなかった。ただ草が生い茂った広っぱという雰囲気である。
「年1度、草刈りしてるらしいですよ」
 誰ともなくそうつぶやいた。長い年月を経ているとはいえ、この地域の者たちはここを気にかけているようだ。
 一同は30分ほどこの場所に留まって、撮影やら何やらを行った。少し空気がひんやりとするのは、山の中で真夜中だからかもしれない。
「……今、何か聞こえなかった?」
 不意に雫が言った。
「ううん、全然。聞こえた?」
 聞こえなかった夏生は、他の部員に尋ねた。
「ん? いいや、なーんにも」
「言われてみれば……女性の声しませんでしたっけ?」
 何だか反応が真っ二つに別れている。
「おいおい、裾やら袖やら引っ張んなって! これ借りモンなんだぞ!」
 誰の言葉かは言うまでもないが、誰も引っ張ったりなどしていない。
「あれっ? 向こうで、ちらっと明かり見えなかった?」
 カメラのシャッターを押しながら夏生が言った。気のせいかもしれないが、そう見えたのだ。
「そうですかー? 一応そっち撮っておきましょうか?」
 ビデオカメラを手にした部員が、夏生が見ていた方角を撮影した。
 こうして現場の調査を終えた一同は、寺へ戻り再び和尚にお祓いを受けてから眠りについたのだった。

●何が入ってた?
 合宿3日目――もはや日課となった掃除を終え、一同は昨夜の成果の分析を始めていた。ビデオテープやカセットテープを何度も再生したり、夏生の撮ったフィルムも簡易暗室を作って現像したりと、なかなかに手慣れたものである。
 結果、カセットテープには何と言っているかは分からないものの聞いたことない女性の声が入っており、夏生のフィルムにも遠くの方でぼんやり浮かんでいる光などが映っていた。
 また大きな収穫としては、ビデオテープに女性の姿のようにも見える煙が映っていたことだろうか。何もなかったはずなのに、である。
 ただこれは少々不鮮明だったので、帰ってからパソコン部の協力を仰いで画像を分析してもらうこととなった。
「今年も何かしら起こったね」
 ビデオテープを見ながら、ぼそっとつぶやく夏生。程度の差はあれ、合宿参加者は毎年必ず奇妙な出来事に遭遇しているのだ。
 なお、ICレコーダーや雫のデジタルカメラには何も奇妙なことは記録されていなかった。なのでデジタルとは相性よくない霊なのかもしれない、と後の討論では決定付けられたのだった。

●最後にどっきり
 合宿最終日、荷物をまとめた一同は、墓地へ赴き件の姫の墓を参った。墓石は小さく名も記されていない。これがそうであると言われなければ、決して姫の物だとは分からないであろう墓であった。
「やっぱり素性をわざと隠したんだと思うなあ……」
 夏生はハンカチをポケットから取り出すと、顔の汗を拭った。
「そうだよね。だけどここの人は、ちゃんと覚えてるんだから……お姫さまにとっては幸せなんじゃないかな?」
 雫がそう言うと、何人かの部員が同意するように頷いた。
 そして一同は墓の前に、近隣からお裾分けを受けたトマトや雫が持ってきたカステラなど供え物を置くと、揃って黙祷を捧げた。霊に対する協力感謝の礼などを含むものである。
 本堂へ戻ろうと歩き出す一同。後は荷物を持ち、世話になった和尚に礼を言って帰途につくだけだ。
 と、その時、夏生はハンカチを落としたことに気付いた。
「ごめんっ、先行っててっ!」
 夏生はパタパタと姫の墓前に戻った。やはりハンカチはそこに落ちていた。
「あった、あった」
 身を屈めハンカチを拾い上げる夏生。視線が何気なく供え物の方へ向き――はたと夏生は異変に気付いた。
「……え?」
 供え物のカステラが、綺麗に一口かじられていた。どう見ても動物や男性のそれではなく、女性の一口で――。

【了】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
高原恵 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年08月20日

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