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『どちら 』
海原・みなも1252


 ほどけて、つながって。ほどけて、つながって。ほどけて、つながって。ほどけて、つながって。
 、
 どちら。


◇◆◇


 今日の分の宿題を、終えた。掃除も超えて、昼食は素麺だった。
 夏休みは苦行から解き放たれた者達の空間、星よりも望んでいた時間。それなのに、海原みなもは、授かって、行使してるそれで、ごろ寝した。
 とはいえ昼下がりの一幕である、家事により幸いに痛んだ肉は、怠惰の池に沈みたがる。嗚呼夏休みだからそれに少女は従える。自室は、畳だ。
 肌を壊さない程に冷房の気で満たした部屋、けれど、窓からは熱の線が広がっている。カーテンで遮ろうかと考えたが、手がめんどくさがったので、止めた。嗚呼夏休みだから海原みなもは従える。横向けの身体を、仰向けに転がした。
 天井が視界の彼女が発生した。
 すると熱の線が、作り出していた。
 窓からの光はどうやらやってきて、そして。そして、かつては住人の居た、今は土に腐ったのか猫の舌に乗ったのかなんて関係無い事でしょうけど、今は住人が去った、つまり、これは、水しか無い水槽を通って、天井を水底のように揺らめかしているのだ。潮風は聞こえないけれど、海の身体を錯覚として感じる。目に映る、浸る、此処に居る。
 ゆうくりと泳ぎだす。赤い背びれを色めかせながら。
 金魚は水しか無い水槽を金魚の居る水槽に変化させて進行して。
 擦れ合わされば奏でがありそうな、五色の玉砂利が敷き詰められていた。架け橋を渡るみたいに、私はその上を通過した。緑をくるりと揺らしている、水草が、尾に、触れ、る。底の方から気泡が漂い、生まれては、消え、て、ゆく。
 光が斑の網が如く、周囲の蒼にかかっていた。なんだか音が聞こえてくる、楽器じゃない水中の音に、けれど身体を委ねたくなり。
 とても優美に舞うように、風に舞う絹の衣が如く。無重力の不思議など、とうの昔に飲み干してしまって、気泡が一つ腹にあたる。どうやら次は水草を潜るようだ。ここは、世界だ。小柄な水槽、でも意識は伸びていく。それからしたら私の部屋なんて、どれだけ縛られているのだろう。水槽を挟んでいるから不安定に歪む部屋の部屋。放り出されたシャープペンシル、グラスの氷が溶けていき、机、本、数日前の写真、嗚呼、
 私が、寝ていますね。
 目が、閉じかけの。
 泳いでます。
 金魚が。


◇◆◇

 どちら。

◇◆◇


 そして天井をみつめている。
 そして水を泳いでる。
 外は未だ夏であろうか。
 知らないけれど短距離の放浪。
 今日は何処に行くのだろう。
 水槽の中は水槽だ。
 ああ、
 ああ、
 ―――。

 海原みなもはまどろんでいる、夢よりも遠くまどろんでいる。見下ろせば少女の肢体は、空気の無い風船のよう、弛緩して、今にも浮遊、水の中へ来てしまいそうで。
 泳ぎますかと尋ねてみたら、泳いでいると答えます。
 海原みなもは指動かしている、爪が羽根のように震えてる。見上げれば金魚の肢体は、空気の無い風船のよう、弛緩して、今にも堕落、屋の内に来てしまいそうで。
 倒れますかと尋ねてみたら、倒れていると答えます。
 人は魚。
 魚は人。
 ならば、

 どちらでも無い私は何処に居るのだろう、と。
 どちらでも無い私は何処に居るのだろう、と。

 ねぇ、うん、ああ、あの、もう、もし、けど、いえ、こう、どう、
 そう、
 、
 して。


◇◆◇


 人と魚にある間に、名を付けるとしたらどうしよう。海原みなも、
 それは多分、ある夏に、
 存在しない彼女である。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
エイひと クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年08月20日

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